【月間総括】事業説明会で明らかになったソニーグループの日本市場軽視
まず,今回からは東洋証券として見解を述べていくことになる。内容についてはこれまでと変わらないので安心してほしい。
最初に「ELDEN RING」の話を進めていきたい。
バンダイナムコエンターテインメントとフロム・ソフトウェアが発売したこのタイトルは,バンダイナムコエンターテインメントが海外で400万本以上の販売目標としていたが,同社の決算時に発表された資料によると,全世界で1340万本以上の販売を達成したという。
以前もお話ししたが,日本のゲーム開発能力は,海外に対して遅れているとの報道が散見される。
しかし,ELDEN RINGは,2000万本以上の販売を達成した「モンスターハンター:ワールド」も含め,日本のゲーム開発者にとって大変良い結果を出したと言えるだろう。
実際,5月11日に開催されたバンダイナムコエンターテインメントの決算説明会でも,宮河取締役が,バンダイナムコスタジオでも,勇気づけられる結果だったとコメントしていた。
前回も指摘したように,日本のゲーム会社は十分に競争力があるということである。ここで提案したいのが,ソニー・インタラクティブエンタテインメントが縮小してしまった日本スタジオの再強化だ。
世間では「悪い円安」との指摘がでてるほど,急激な円安になっている。これは,相対的に日本のゲーム開発コストが安くなっていることを示している。1000万本クラスのゲームを作ることができる開発力,企画力,そして何よりも文化浸透力がある日本での開発を再度強化してほしいものである。
SIEジャパンスタジオの縮小がゲーム愛好家に与えた心理的な影響は大きいものがあったと東洋証券では考えているので,日本開発拠点の整備を図るのはいいタイミングだと思う。
次に2021年度の決算である。まずソニーグループのゲーム事業の2022年3月期は,増収増益だったが為替の影響を除くと減益であった。
注目のPS5の販売(着荷)台数は第4四半期が200万台,通期で1150万台だった。下図を見ていただくとわかると思うが、このペースは3月発売で年末年始商戦機を一度スキップした格好のSwitchを下回る状況なのである。
ソニーグループの説明では特定の半導体が入手困難な状況が続いており,生産できないことが響いているとしている。世界的な物流の混乱で物流費を含むPS5一台当たりの販管費が嵩んでいることもあって,販売減は増益要因になっているが,素直に喜べないだろう。
ソニーグループは,PS5の部品調達はめどがついており,1800万台の生産は達成可能な水準だが,上海のロックダウンの影響で,物流が混乱しており,運べるかどうかについては不透明な点があるとしていた。
東洋証券では,この点も考慮し,1500万台と保守的な台数を想定している。
しかし,11月には3年目に入り,通常であれば勢いが増してくるタイミングだが,半導体不足は想定外であろう。東洋証券では,ゲームソフトはハード販売に連動していると考えており,ゲーム機販売が伸びないと長期的な収益を損ないかねないと捉えている。ぜひ,一台でも多く生産できるようにしてもらいたいものである。
また、PS5の販売本数の開示がないため,詳細は分からないが,ソフトの販売本数はELDEN RINGの大ヒットもあり上向いた。ただ,ハードの普及期という状況を考えても,アクティブユーザーは依然として横這い圏での推移となっており,勢いを感じない。
東洋証券としては,PS5世代はゲームソフトの必要容量が増えるペースよりもストレージの拡大ペースが小さかったことがこの背景にある(ストレージコスト問題)と考えているのだが,ソニーグループがこの問題をどのように捉えているかは分からない。
ただ,ゲームハードの立ち上げがうまくいかなかったケースでその後盛り返した事例がないので,東洋証券ではPS5の動向を憂慮している。杞憂に過ぎなければそれでいいが,もし,うまく挽回できないと,今世代は最後までソニーグループは対応に追われることになるだろう。
もう一つ,5月26日にソニーグループの事業説明会が開催された。詳細は次回にもう一度触れる予定だが,以下の資料をご覧いただきたい。
これはジム・ライアン氏のプレゼン資料だが,PS4では2位だった日本の順位が下がりPS5は,日本よりもイギリスのアクティブ台数が多いことが書かれていて,個人的に大変驚いた。
2020年12月に,この連載で(記事の見出しは筆者が設定したものではないが),ソニーグループが日本のコンシューマゲーム市場を軽視しているのではないかと指摘した。
その際,ソニーグループからは日本市場を大事にしているとご連絡をいただいたが,実際にはイギリスのほうが優先されていたのである。日本で売れていないからではないかと思われるかもしれないが,ご存じの通り日本では転売がたびたび問題視されるほどの品薄である。しかし,この表は,転売以前にソニーグループが,単純にイギリスを優先していたということではないだろうか?
これを見た日本ユーザーはどう思うだろうか? ソニー・インタラクティブエンタテインメントの方々には,私がソニーグループを思ってこそ指摘していることを考えていただきたいのである。それにしても,私の意見は果たして的外れだったのだろうかと,この順位を見て思う次第である。
次に,任天堂だ。2022年3月期全体では減収減益だが,第4四半期(3カ月)で見たときは過去最高だった。報道では累計でしか見られないので,ほとんど取り上げられていないが,第4四半期は好調だったのである。円安効果に加え,1月に発売した「Pokémon LEGENDS アルセウス」の販売が好調だったことが大きい。
同タイトルは,これまでのポケットモンスターからゲームシステムに手が加えられており,初めて遊んだユーザーも多かったようだ。
すでにポケットモンスターは登場から25年以上が経過しており,このタイミングで年齢層の高い新規ユーザーが入ってきたのは驚きである。ゲームシステムを含む根本に手を入れたがことで見た目が大きく変わったことが影響していると考えているが,今後の調査課題であろう。
Switchのハードに関しては,第4四半期411万台,通期2306万台の販売(着荷)台数となった。前年の水準はそれぞれ下回ったが,依然として高水準を保っている。以前も指摘したが,OLEDモデルが相当貢献しており,第4四半期はOLEDモデルのほうが液晶モデルを上回る推移となった。
OLEDモデルへの移行が急速に進むと以前もコメントしていたのでほぼ予想通りの推移だった。
問題は今期だろう。Switchは2100万台(前期比▲9%)とさらに減る予想である。これは半導体の調達難が響いている。電子部品企業とディスカッションすると,第1四半期はゲーム機に限らず上海のロックダウンの影響を受けているようである。PS5同様に,Switchも台数はどうなるかということであろう。
ソフトも,2.1億本(同▲11%)と減少する見通し。ただ,任天堂の決算説明会における質疑応答や,同社に対するヒアリングの感触では,サードパーティタイトルをすべて見通せないことがあり,すべてを織り込んでいないとしていたので,保守的なものと見ている。
また,質疑応答の「Q5」は東洋証券が行ったものであるが,今期の任天堂の事業計画で不思議なのは,売上高の減収幅よりも,台数の減少幅が大きい点である。OLEDモデルがほとんどにならないと筆者の収益モデルとは一致しないのであるが,古川社長の回答からすると比率は上昇するとの回答しかない。なんらかの価格や製品のアップデートが入っているのかもしれないが,現時点では分からない。
最後に,説明会の質疑でも次世代機の話題が上るようになってきた。時期的にはそれほど先ではないと思う。そして,以前も述べたように,互換性は必要ないと思う。
ユーザーは不満を述べるだろうが,Switchでマリオカート8デラックスは任天堂の想定を越えて売れた。互換性があれば過去ソフトの移植タイトル販売はできないし,次世代では技術的な制約からストレージコストがより意識されるようになると東洋証券では見ている。次世代機のビジネスで,PS5の教訓を任天堂が生かすことを期待したい。
最初に「ELDEN RING」の話を進めていきたい。
バンダイナムコエンターテインメントとフロム・ソフトウェアが発売したこのタイトルは,バンダイナムコエンターテインメントが海外で400万本以上の販売目標としていたが,同社の決算時に発表された資料によると,全世界で1340万本以上の販売を達成したという。
以前もお話ししたが,日本のゲーム開発能力は,海外に対して遅れているとの報道が散見される。
しかし,ELDEN RINGは,2000万本以上の販売を達成した「モンスターハンター:ワールド」も含め,日本のゲーム開発者にとって大変良い結果を出したと言えるだろう。
実際,5月11日に開催されたバンダイナムコエンターテインメントの決算説明会でも,宮河取締役が,バンダイナムコスタジオでも,勇気づけられる結果だったとコメントしていた。
前回も指摘したように,日本のゲーム会社は十分に競争力があるということである。ここで提案したいのが,ソニー・インタラクティブエンタテインメントが縮小してしまった日本スタジオの再強化だ。
世間では「悪い円安」との指摘がでてるほど,急激な円安になっている。これは,相対的に日本のゲーム開発コストが安くなっていることを示している。1000万本クラスのゲームを作ることができる開発力,企画力,そして何よりも文化浸透力がある日本での開発を再度強化してほしいものである。
SIEジャパンスタジオの縮小がゲーム愛好家に与えた心理的な影響は大きいものがあったと東洋証券では考えているので,日本開発拠点の整備を図るのはいいタイミングだと思う。
次に2021年度の決算である。まずソニーグループのゲーム事業の2022年3月期は,増収増益だったが為替の影響を除くと減益であった。
注目のPS5の販売(着荷)台数は第4四半期が200万台,通期で1150万台だった。下図を見ていただくとわかると思うが、このペースは3月発売で年末年始商戦機を一度スキップした格好のSwitchを下回る状況なのである。
ソニーグループの説明では特定の半導体が入手困難な状況が続いており,生産できないことが響いているとしている。世界的な物流の混乱で物流費を含むPS5一台当たりの販管費が嵩んでいることもあって,販売減は増益要因になっているが,素直に喜べないだろう。
ソニーグループは,PS5の部品調達はめどがついており,1800万台の生産は達成可能な水準だが,上海のロックダウンの影響で,物流が混乱しており,運べるかどうかについては不透明な点があるとしていた。
東洋証券では,この点も考慮し,1500万台と保守的な台数を想定している。
しかし,11月には3年目に入り,通常であれば勢いが増してくるタイミングだが,半導体不足は想定外であろう。東洋証券では,ゲームソフトはハード販売に連動していると考えており,ゲーム機販売が伸びないと長期的な収益を損ないかねないと捉えている。ぜひ,一台でも多く生産できるようにしてもらいたいものである。
また、PS5の販売本数の開示がないため,詳細は分からないが,ソフトの販売本数はELDEN RINGの大ヒットもあり上向いた。ただ,ハードの普及期という状況を考えても,アクティブユーザーは依然として横這い圏での推移となっており,勢いを感じない。
東洋証券としては,PS5世代はゲームソフトの必要容量が増えるペースよりもストレージの拡大ペースが小さかったことがこの背景にある(ストレージコスト問題)と考えているのだが,ソニーグループがこの問題をどのように捉えているかは分からない。
ただ,ゲームハードの立ち上げがうまくいかなかったケースでその後盛り返した事例がないので,東洋証券ではPS5の動向を憂慮している。杞憂に過ぎなければそれでいいが,もし,うまく挽回できないと,今世代は最後までソニーグループは対応に追われることになるだろう。
もう一つ,5月26日にソニーグループの事業説明会が開催された。詳細は次回にもう一度触れる予定だが,以下の資料をご覧いただきたい。
これはジム・ライアン氏のプレゼン資料だが,PS4では2位だった日本の順位が下がりPS5は,日本よりもイギリスのアクティブ台数が多いことが書かれていて,個人的に大変驚いた。
2020年12月に,この連載で(記事の見出しは筆者が設定したものではないが),ソニーグループが日本のコンシューマゲーム市場を軽視しているのではないかと指摘した。
その際,ソニーグループからは日本市場を大事にしているとご連絡をいただいたが,実際にはイギリスのほうが優先されていたのである。日本で売れていないからではないかと思われるかもしれないが,ご存じの通り日本では転売がたびたび問題視されるほどの品薄である。しかし,この表は,転売以前にソニーグループが,単純にイギリスを優先していたということではないだろうか?
これを見た日本ユーザーはどう思うだろうか? ソニー・インタラクティブエンタテインメントの方々には,私がソニーグループを思ってこそ指摘していることを考えていただきたいのである。それにしても,私の意見は果たして的外れだったのだろうかと,この順位を見て思う次第である。
次に,任天堂だ。2022年3月期全体では減収減益だが,第4四半期(3カ月)で見たときは過去最高だった。報道では累計でしか見られないので,ほとんど取り上げられていないが,第4四半期は好調だったのである。円安効果に加え,1月に発売した「Pokémon LEGENDS アルセウス」の販売が好調だったことが大きい。
同タイトルは,これまでのポケットモンスターからゲームシステムに手が加えられており,初めて遊んだユーザーも多かったようだ。
すでにポケットモンスターは登場から25年以上が経過しており,このタイミングで年齢層の高い新規ユーザーが入ってきたのは驚きである。ゲームシステムを含む根本に手を入れたがことで見た目が大きく変わったことが影響していると考えているが,今後の調査課題であろう。
Switchのハードに関しては,第4四半期411万台,通期2306万台の販売(着荷)台数となった。前年の水準はそれぞれ下回ったが,依然として高水準を保っている。以前も指摘したが,OLEDモデルが相当貢献しており,第4四半期はOLEDモデルのほうが液晶モデルを上回る推移となった。
OLEDモデルへの移行が急速に進むと以前もコメントしていたのでほぼ予想通りの推移だった。
問題は今期だろう。Switchは2100万台(前期比▲9%)とさらに減る予想である。これは半導体の調達難が響いている。電子部品企業とディスカッションすると,第1四半期はゲーム機に限らず上海のロックダウンの影響を受けているようである。PS5同様に,Switchも台数はどうなるかということであろう。
ソフトも,2.1億本(同▲11%)と減少する見通し。ただ,任天堂の決算説明会における質疑応答や,同社に対するヒアリングの感触では,サードパーティタイトルをすべて見通せないことがあり,すべてを織り込んでいないとしていたので,保守的なものと見ている。
また,質疑応答の「Q5」は東洋証券が行ったものであるが,今期の任天堂の事業計画で不思議なのは,売上高の減収幅よりも,台数の減少幅が大きい点である。OLEDモデルがほとんどにならないと筆者の収益モデルとは一致しないのであるが,古川社長の回答からすると比率は上昇するとの回答しかない。なんらかの価格や製品のアップデートが入っているのかもしれないが,現時点では分からない。
最後に,説明会の質疑でも次世代機の話題が上るようになってきた。時期的にはそれほど先ではないと思う。そして,以前も述べたように,互換性は必要ないと思う。
ユーザーは不満を述べるだろうが,Switchでマリオカート8デラックスは任天堂の想定を越えて売れた。互換性があれば過去ソフトの移植タイトル販売はできないし,次世代では技術的な制約からストレージコストがより意識されるようになると東洋証券では見ている。次世代機のビジネスで,PS5の教訓を任天堂が生かすことを期待したい。
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