Opinion:E3と衝撃的な発表の終焉

パブリッシャはサプライズを提供するためには,より深く踏み込む必要がある。

 7年前,私はPlayStationのE3前プレスカンファレンスで,ブロガーのテーブルに座っていた。

(私はブロガーではなかったが,ブロガーと名乗ることでテーブルと良い無線LANが手に入ったのだ)

 このカンファレンスは,ソニーがThe Last Guardianを再発表し,シェンムー3のキックスターターが発表され,スクウェア・エニックスがファイナルファンタジー7 リメイクのティーザーで聴衆を驚かせた,記憶に新しいイベントだ。

 PlayStationの人気は絶頂期にあった。18か月前にPS4で大成功を収めたPlayStationだが,このショーケースでその勢いはさらに加速していた。発表のたびに湧き起こる歓声は,耳をつんざくようなものだった。ファイナルファンタジーが発表されたとき,私の隣に座っていた男性は椅子を蹴って膝をつき,「オーマイガー,オーマイガー」と叫んでいた。その日,PlayStationの聖堂は揺れていた。

 個人的なレベルでは,これらの発表のどれともあまり関係がなかったのだが,興奮は伝染するものだった。その後,株価は上昇し,PlayStationはロサンゼルスで話題となった。

 しかし,よくよく考えてみると,それはすべてたわいのないことだった。シェンムー3もファイナルファンタジーVIIのリメイク版も,まだ本格的な制作には入っていなかったのだ。前者は資金調達もできておらず,後者はアニメチームが作った予告編にすぎなかった。両作品とも,発売までに5年近くかかることになった。

E3 2015でシェンムーとファイナルファンタジーに熱狂するファンたち
Opinion:E3と衝撃的な発表の終焉

 その日以来,私は本物のE3サプライズを体験することが少なくなった。もちろん,サプライズは起こるが,より稀で,より巧妙に隠蔽されるようになった。AAAゲームの制作には時間がかかり,より多くの人が必要となって,その結果として秘密を守ることが難しくなっている。

 また,ゲーム会社が人材を確保するために,プロジェクトを早めに発表することも増えている。WolverineやFable,Splinter Cellのようなゲームは,(その時点では)まだ発表できる段階ではなかったが,制作中であり,会社は制作を手伝ってくれる人材を探すためにリクルーターを送っていたのだから,なぜ発表しないのか? ショーケースで華々しく発表されるものもあれば,プレスリリースやソーシャルメディアへの投稿に留まるものもある。テスト中でありリリースが何年も先だと分かっているゲームでは,プレイヤーの興奮を呼び起こすのは難しいだろう。

 このような初期のお披露目以外では,ゲームパブリッシャは,早すぎるお披露目に対して,より慎重になっている。Cyberpunk 2077のような期待値が高すぎたゲームから,業界全体が教訓を学んだのだ。発表から発売までの期間を短くすることは,顧客をミスリードしていると非難されることを避けるための1つの方法だ。前週のPlayStation State of Playでは,今後12か月以内に発売されるゲームソフトが紹介されていた(関連英文記事)。しかし,その結果,我々はそれらすべてについてほとんど知っていた。

E3をクリスマスに例えることがあるが,クリスマスと同じように,ボクシングデーにはほとんどのプレゼントがしまわれている

 ソニーのイベント前に事前発表されていなかったが,リークされていたゲームの1つが,バイオハザード4のリメイク版だった。オリジナルは私の大好きなゲームの1つなので,このような発表があれば興奮するはずだった。椅子を倒して神仏を呼び起こすことはなかったかもしれないが,納得のいくようにうなずいたことだろう(これは英国流の表現だ)。しかし,私はそれが来ることを知っていたので,それはそれが可能であった瞬間ではなかった。

 しかし,「あります」ということを発表することだけが,注目を集める方法ではない。カプコンには,ゲーム自体で私を驚かせるチャンスがまだあったのだ。

 実際,E3などのイベントが一段落すると,予告されていたことは頭の片隅に追いやられ,現実的で目に見えるものが話題を独占することがよくある。E3をクリスマスに例えることがあるが,クリスマスと同じように,ボクシングデー(※12月26日)にはほとんどのプレゼントがしまわれているのだ。

 私にとってのもう1つの印象的なE3の瞬間を思い起こすと,それは翌年の2016年,任天堂が1本のゲームを持ってショーに現れたときのことだった。ファンとしては,がっかりした。今年の私は,任天堂からいつもの数のクリスマスプレゼントをもらっていなかったのだ。E3前のミキサーでGameSpotのジャーナリストとおしゃべりしたのを覚えているが,彼も同様に批判的で,任天堂はまったく気にする必要はなかったと感じていた。

任天堂は発表済みのゲーム1本でE3を成功させてのけた
Opinion:E3と衝撃的な発表の終焉

 しかし,それはなんというプレゼントだったのだろう。ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルドはショーストッパーだった。任天堂は我々をゲームの奥深くへと誘い(参考URL),ジャーナリストはその世界を自由に探索して(参考URL),ブース周辺の行列の記事さえも見出しを飾ったのだ(参考URL)。ゲームの存在も,大まかな内容も知っていたのに,任天堂は驚きを与えてくれたのだ。

 それもリアルに。これは,クリエイティブエージェンシーが5年先のことを発表するために作ったティーザートレイラーではない。

 映画やテレビ業界がどのように観客を興奮させるかを考えてみると,最も盛り上がる瞬間は,制作開始のニュースではなく,Comic-Conのスニークピーク,予告編の公開,キャストニュース,ストーリーの予告編なのだ。

 業界が進化するにつれて,E3のようなショーケースはよりこのようなものになると予想される。発表されるものは少なくなり,おそらくすでに知っているようなものをより深く見るイベントになる。ロゴよりも,その下にあるゲームに注目するイベントだ。そうすれば,より良いショーになると思うのだが。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら