【月間総括】ソニーの「日本市場を大事にしています」を検証する

 まず,前回の記事は大変な反響をいただいた。それを見る限り,日本のゲームユーザーはソニー(SIE)に対して静かな怒りを抱いている方が一定数いることが分かる。ここ数年,ソニー(SIE)は明らかに米国市場偏重にあったので,国内ユーザーの心は着実にPlayStationから離れて始めていたと見ている。前回の記事の目的はセンセーショナルなタイトルで煽ることではなく,国内ユーザーの深い絶望感をソニー本社とSIEに伝えることだったので,おそらく理解していただいたと思う。
 ただ,ソニー本社からは,日本市場を大事にしているというありがたいご意見を直接いただいた。おそらく,本当に大事に思っているのであろう。ただ気持ちは大事だが,行動が伴っていないのである。そのために,ユーザーにソニーやJim Ryan CEOは「日本市場を軽視している」と思われている。こう指摘すると,エース経済研究所の憶測だと思われるかもしれないのだが。

 もう少し具体的に言うと,

  1. 2013年のPS4のローンチを日本後発とした
  2. 2018年秋以降,独自の表現規制を導入し,日本ユーザー向けタイトルの発売を抑制
  3. PS5の紹介動画配信は日本語のナレーションがなく,フォントや翻訳に不備が見られた
  4. グローバルスタンダードという理由で決定ボタンを〇から×ボタンに変更した
  5. PS5の日本の初回実売台数は,製造トラブルに見舞われたPS3を若干上回る水準に過ぎず,アーリーアダプタに届かなかった

などが挙げられる。これに対する反証は,E3,年末商戦期のPS関連のセール(値下げ)を世界同時にしたこと,PS5の発売を世界同時にしたことぐらいしかない。おそらく,PS5が世界同時になったのは,Microsoftが日本で攻勢に出たことに対応しただけで,Tier2(2番手)の位置付け自体は変わっていないと見られ,定性分析からは大事にしているとは思えない。

 とくに問題は,(2)だと考えており,ソニー傘下のアニプレックスがFGOの水着キャラクターのガチャで大きな収益をあげているのに,PSでは水着表現が販売できない,あるいは修正を強要するのはダブルスタンダードでしかない。こんなことをしていては,ユーザーの不信感が増すだけである。即刻,こんなことは辞めるべきだろう。
 しかし,残念ながら,ソニー上層部では表現規制に触れるのはタブーのようなので,今回のエース経済研究所の意見も完全な黙殺になると予想する。きっと,ソニーは後悔することになるだろう。

 次は,発売から25週間のデータである。

●発売から25週間のゲーム機の推移
(出所)ファミ通
【月間総括】ソニーの「日本市場を大事にしています」を検証する

 前回も述べたように,予想どおり,PS5はPS3以下になってしまった。このグラフから,ソニー(SIE)が日本市場で成功を図ろうという意思を感じられるだろうか? エース経済研究所としてはとても見えない。
 それにしても,4週め,5週めの1.1万台,6週めの1.7万台の実売台数は少なすぎる。推計で累計24万台の水準は,ソニーの据え置きゲーム機としては歴代でも最低水準である。このままでは,ライフサイクル全体でPS4の半分以下になってしまうだろう。そして,少ない普及台数は,国内コンシューマゲーム業界に危機を引き起こしかねない。

 定量分析においてもやはり,とても大事にしているように見えない。これでは,ユーザーが「ソニーは日本市場を軽視している」と捉え,深い絶望感を持つのも無理はない。

 もう1つ,国内ユーザーの動向にこれほど冷淡な動きになったのは,米国に本社を移したことで,SIEが日本人の行動原理を見失ったことも要因だと考えている。前回も触れたが,日本のゲームユーザーはSNSで不満を表明することはあまりないので,米国のSIE本社スタッフからすれば,日本のユーザーはどんなに冷たくしても,受け入れてくれる優良顧客に見えているのだろう。しかし,実際はそうではなく,ゆっくりとそして静かに消えていくだけだ。

 以上の点を考えると,ソニー(SIE)は,ハイエンドゲーム体験というものは,萌えが主流の日本市場には不要と考えたようで,プラットフォーマーが,日本市場で責任を果たす意思を喪失したと言わざるを得ない。そして,このPS5の初動は,日本市場におけるPlayStationブランドの没落が決定的になったことを意味しており,エース経済研究所としては非常に深い失望を禁じ得ない。繰り返すが,ソニーはきっと後悔することになるだろう。

 それでも,前回も話したが,世界のゲーム市場の半分を米国が占めており,そこで勝てばすべて丸く収まると主張される人もいると思う。確かに世界全体では日本はここ30年も経済が停滞したこともあり,家電製品などのシェアで見ると10%程度しかないものも多く,存在感が薄れている。
 日本の経済が長期間低迷した理由はよく分かっていないとされている。エース経済研究所では,単身世帯の増加と単身世帯の居住面積の狭さが大きな要因と考えているが,ここは,そのような意見を述べる場ではないので,次に話を進めよう。

 シェアが10%しかないのであれば,確かにもうどうでもいいという戦術もありそうだが,本当に日本はゲーム機が売れない市場なのだろうか?ユーザーが悲嘆にくれないといけない市場なのだろうか?

●暦年ベースでの国内の実売推移
(出所)ファミ通

 このグラフは,発売からの暦年ベースで3DS,PS4,Switchを見たものである。3DSもswitchも500万台以上の実売を達成している年がある。なお,Switchの4年めは数字がすべて出ていない現時点のものでさえ,3DSのピークを超えて,ピークアウト懸念が嘘のようである。累計実売も1700万台を上回った。おそらく最終的な販売は2500万台を超えるだろう。
 なお,Switchでのライフサイクル全体の販売(着荷)台数は1.5億台を超えるだろうと,コメントしたことがある。ほぼ予想どおりの進展になっていると言っていいだろう。
 一方,PS4は年間200万台を超えたことがない。日本での最終的な販売台数は950万程度と,PS3を下回るだろう。PS4の最終的な販売台数は,Switchの半分以下になる可能性が高く,携帯モード専用のSwitch Liteがあることを考慮しても,販売低迷は明らかである。

 いかがだろうか? 日本はゲーム機が売れない市場に見えるだろうか? 工夫次第で2000万台以上は売れる市場である。フォトリアルゲームが主流でない,あるいは据え置き専用機が売れないからと切り捨てるのは,ビジネス的にも大いに問題があるように思うが,ソニー(SIE)からは強い意志を感じない。
 また,資本市場の反応も,PS5が売れているというニュースさえあればよいようで,日本市場が衰退することになんの問題も感じていないようだ。

 かつて任天堂の故岩田氏も,悪影響があるといって失敗の明言を避けたことがあるが,エース経済研究所では認めたほうが結局,次世代の成功に繋がると思う。
 今回のこれらの指摘も,ソニー(SIE)からは黙殺されるだろう。しかし,年末商戦期にPS5が出荷できないソニー(SIE)の現状を見て,日本のPlayStation市場の行く末に深い懸念を持たざるを得ないのである。