【ACADEMY】Chella Ramanan氏によるゲーム制作で最大限の成果を得るためのガイド

Before I Forgetのライターが,インディーズとAAAタイトルの両方を成功させ,楽しんで作る方法を紹介し,ライティングとナラティブデザインの重要な違いについて説明する。

【ACADEMY】Chella Ramanan氏によるゲーム制作で最大限の成果を得るためのガイド

 先日開催されたGI ACADEMY Liveの基調講演の1人,Chella Ramanan氏は,これまでライター兼シナリオデザイナーとして,さまざまなプロジェクトでキャリアを積んできている。

 氏がゲームライターとして脚光を浴びるきっかけとなったのは,Before I Forgetだった。ゲームジャムから生まれたこの作品は(関連英文記事),発症早期の認知症を患うインド人女性に焦点を当てたナラティブな探検タイトルだ。

 現在は,UbisoftのMassiveスタジオでナラティブデザイナーとして,近日発売予定のAvatar: Frontiers of Pandoraに携わっている。これは,カリブ海から英国に移住した人々の物語を詳細に描いた(関連英文記事),より個人的なプロジェクトであるWishrush Talesという近日発売予定のナラティブゲームでのナラティブデザイナーとしての仕事の上に成り立っているものだ。

 学生やゲームデベロッパを対象としたGI ACADEMYでの講演で,Ramanan氏は,ナラティブの仕事の繊細さを探求し,キャリアをスタートさせる前に知っておくべき4つの重要な要素を共有した。



ライターとナラティブデザイナーの違いとは?


 Ramanan氏はキャリアを通じて,ライターナラティブデザイナーの両方として働いていた。この2つの言葉は同じように聞こえるかもしれないが,実際にはまったく異なるものだ。

 「ライターとして,あなたはキャラクターと,ゲームや物語の設定を通じた彼らの旅に焦点を当てます」とRamanan氏は語る。

 「キャラクターが話す台詞を書くだけではありません。―それだけでなく,その前にたくさんの文章を書かなければなりません。キャラクターの経歴から,クエストの設計書まで,あらゆるものを書きます。そしてAvatarのような伝承の多い世界や,規範のあるIPの場合は,その周辺の文章をたくさん書くことになります。基本的には,キャラクターと,ゲームの世界や舞台を巡る彼らの旅に焦点を当てます」

 一方,ナラティブデザイナーは,ストーリーをより「全体的」に捉えるものだ。

 「プレイヤーの体験,つまりプレイヤーの旅とプレイヤーが何を感じているかに焦点を当てていきます」

 「それは,プレイヤーキャラクターが感じていることとは異なる場合があります。これは私がBefore I Forgetで学んだことであり,検証したことでもあります。また,物語がどのように語られるかということも重要です。ゲームの中で手に入るおもちゃのうち,どれを使うのか。最も説得力のあるストーリービートをデザインするために,どれを使うのか? どのゲームプレイとストーリーテリングの要素を採用すれば,確実にプレイヤーに最も魅力的な体験を常に提供できるようになるのでしょうか?」

 「主な目標は,ゲームプレイとストーリーが互いに支え合うようにすることです。ゲームデザインとペーシング,あらゆる要素が連携してゲームプレイが設定やテーマ,キャラクターのモチベーションを支えます。また,逆にキャラクターやストーリーも,プレイヤーにとってゲームの目標を支え,最高のプレイヤー体験となるようにすることでもあります」

3-Fold GamesのBefore I Forget(2020年リリース)
【ACADEMY】Chella Ramanan氏によるゲーム制作で最大限の成果を得るためのガイド


Chella Ramanan氏によるゲーム開発で働くための重要なスキル


 Ramanan氏の講演のメインは,ゲームにおけるライターとナラティブデザイナーとして働いていた頃の教訓から,業界に入る人が意識すべき主な点を突き詰めて説明された。

●1. コラボレーションは重要である
 ゲーム開発では,それがインディーズであれAAAプロジェクトであれ,さまざまな分野の多くの人と仕事をすることになる。そのため,他者と協力する方法を知っていることは,必要不可欠なスキルだ。

 「ゲーム作りは難しいです」とRamanan氏は語る。「よく言われることですが,本当にそうなのです。多くの人が必要になります。Before I Forgetのような小さなゲームでも,作曲家,オーディオデザイナー,声優監督,2Dアーティストなど,さまざまな専門知識を持つ人を集めたチームを編成する必要がありました。それはまるで,納屋を上げるようなもので,この全員が1つの目標に向かって,1つの本当に大きな困難なことを行うために働いていくのです」

 「誰もが自分の役割を理解しなくてはなりません。そして,この作品が自重で倒れないように,すべてが適切なタイミングで配置されるようにする必要があります」

毒のある天才というのは消え去るべきものであり,非常に才能があり,かつ一緒に仕事をするのにちょうどいい人たちを称賛できるのです

 このことは,Ramanan氏のもう1つのアドバイスである「一緒に仕事をするのにいい人であれ」ということにも結びついている。

 「ゲーム業界では,問題のある人物を台座に乗せる傾向があります」と氏は説明する。「毒のある天才というのは,もう必要ないものです。そしていまや我々は,一緒に仕事をするには,非常に才能があり,かつ良い人であり,チームを困難に陥れることなくサポートし,素晴らしい作品を生み出す人を称えることができるのです」

 「もし人々があなたと一緒に働くことを気に入れば,他の人にもあなたを勧め,また一緒に働こうとするでしょう。なぜなら,あなたはチームや環境を豊かにし,過度なストレスや困難を引き起こさないからです。いい人であるためには,ただニコニコしているだけではなく,自分の仕事が他のチームにどのような影響を与えるかを理解することが大切です」

 また,ナラティブチームで働くライターは,「ナラティブはプロジェクトの他の多くのチームと関わって」いるため,他の多くの分野と関わることになると付け加えた。

 「たとえば,我々が仕上げたクールなシーンを,アニメーションチームがムービーとして制作する場合,その予算はありますか? また,オーディオチームに,このシネマティックシーンに関する依存関係を伝えましたか? それを作ることができるのですか? 他のチームのプレッシャーやニーズを理解し,妥協を受け入れることです」と氏は続ける。

 「ときには,異なるチームの全員が目標を達成できるよう,ある種の中間点を見つけなければならないこともあります。ときにはその決断に納得がいかず,自分が本当に大切にしていたものが失われるのを嘆くこともあるでしょう。しかし,最終的には誰もがこの本当に難しいことを成し遂げ,最高のものを作ろうとしているのですから,ある時点で受け入れ,前進し続けなければならないのです」

●2.自分の仕事に専念する
 Ramanan氏が伝えなくてはならない2つめのアドバイスは,仕事への向き合い方そのものについてだ。それは,開発においては,自分自身の感情,興味,情熱を自分の作品に反映させてもかまわないということだった。これは,彼女がウィンドラッシュ世代を題材にしたゲームを制作している理由の1つでもある。

 「もしあなたが自分のプロジェクトを作りたいのでしたら,これは群衆から際立つことができる方法となります。なぜなら,あなたはユニークだからです」と氏は語る。「皆さんはそれぞれユニークな経歴や興味を持っています。その情熱が何なのか,プロジェクトに何をもたらすことができるのか,ゲームへの情熱だけでなく,当たり前のことを考えましょう」

 たとえば,Windrush Talesの場合,私はWindrush(※第2次大戦後に西インド諸島から英国に移住した人々)の子供ですが,自分自身やその背景,遺産が,ゲームの中だけでなく,ほとんどどこにも表現されていないことに気づきました。その時代を扱った初めてのゲームであり,個人的な空間から生まれたものでしたので,チーム全体が個人的なつながりを持っています。ですから,このゲームはユニークなのです」

チームは,それぞれが何かをもたらす個性的な人々でいっぱいです。他の情熱を捨てないようにすることが大切なのです

 「個人的なことでなくてもいいんです。たとえば,機織りや中世のベルギーに興味があるとか,そういうことでもかまいません。そのシステムをゲームの他の要素に取り入れることもできます。他の分野ではおそらく想像もつかないようなことが,あなたの考え方や仕事の進め方に影響を与えることがあるのです」

 もちろん,これはプロジェクトによって異なる。AAAクラスの大きなプロジェクトでは,小規模なインディーズゲームと同じように,自分自身の個人的な経験を物語に反映させる自由はないかもしれない。しかし,超大作に自分の趣味を入れられないというわけではない。

 「インディーズとAAA,両方の仕事をすることで分かったことがあります。AvatarのゲームにWindrush世代についてのストーリーを入れる自由はないんです」とRamanan氏は語る。

 「しかし,自分の情熱をクリエイティブな意思決定に反映させる方法はあります。それが,ライターである私の場合だと,自分が書いたキャラクターであろうと,自分が興味を持っている事柄やテーマを持ち込むことであろうとです。それが,プロジェクトに関わり,情熱を持ち続けるための重要な方法だと思います。そうすることで,個人的なタッチが生まれるのです。ですから,あなたはチームにいるのですね。チームは,それぞれが何かをもたらすユニークな人々でいっぱいです。他の情熱を置き去りにしないように気をつけてください」

Chella Ramanan氏は,近日発売予定のタイトルWindrush Talesでナラティブデザイナーとして働いている
【ACADEMY】Chella Ramanan氏によるゲーム制作で最大限の成果を得るためのガイド

●作っているものを人に見せる
 どんなクリエイティブな仕事でもフィードバックは重要だが,ビデオゲームでも同じことが言える。Ramanan氏は,新しい視点やフィードバックを得るためには,自分が作っているものを人に見せることが重要だと語る。

 「これは,Before I Forgetで早くから学んだことです」とRamanan氏は認める。

 ゲームジャムで,People's Choice Awardを受賞したのだが,もし受賞していなかったら,Claire(Morwood氏,本作のプログラマ,デザイナー,アーティスト)と私は,「会えて本当によかった,楽しかった,クールだった,じゃあね,またいつか」となっていたでしょう。そして36時間で作ったこのプロトタイプに人々が本当に興味を持ってくれていたのだと気づいたのです」

プロジェクト内では,他の分野のチームメンバーとの交流も可能です。アイデアを出すことを恐れてはいけません

 「我々は,このまま続けて,この先を見ることができるかもしれないと思いました。ゲームジャムで審査された作品ですから,人に見せずにはいられなかったのです。デモを展示会に持っていってフィードバックを受けたり,Games Hubに持ち込んだり,友人に見せたりしました。自分の作品を人に見せるだけで,活力が湧いてきて,エネルギーや方向性が見えてくることが,このゲームの全行程で分かったのです。ときには,自分が思っていたような反応がないことに気づき,それを修正することもありました」

 自分の個人的な経験や情熱を物語に注入するのと同じように,他の人とどこまで共有できるかは,どんなプロジェクトに取り組んでいるかによって変わってくるだろう。

 「自分のプロジェクトではない会社のプロジェクトでは,NDAが存在することを忘れないでください」とRamanan氏は語る。「秘密保持契約を結んでいるのであれば,それを破ってはいけません。これは,NDAに違反する白紙委任状ではないのです。しかし,プロジェクト内では,他の分野のチームメンバーと関わることができます。自分の考えを示すことを恐れないでください。『相手が嫌がったらどうしよう』と弱気になるのは分かります。しかし,もし気に入ってもらえたらどうでしょう? もし嫌われたとしても,そこから何かを学べばいいのです」

●4. コミュニティの構築

 Ramanan氏が最後に挙げたのは,ゲーム業界におけるコミュニティの重要性だ。これは,自分が取り組んでいるプロジェクトに対するフィードバックを得るために重要な手段であり,最終的にはプロジェクトをより良いものにするものだ。

 「ゲーム業界は,本当に徒党を組んでいるように感じることがあります。我々が台座に乗せるようなクールな人たちがいて,彼らがイベントなどで話しているのを見ることができるのです」とRamanan氏は語る。

 「全体として,おそらく彼らに話しかければあなたを受け入れてくれるでしょう。しかし,威圧的であることは確かです。彼らはサンフランシスコに住んでいて,あなたはウォルバーハンプトンに住んでいるかもしれません。イベント会場で誰かと気軽に話せる可能性は,「一緒に電話をかけてくれませんか」以外にはないでしょう。というのは,威圧的で頼みにくいことだからです」

 「しかし,私の教訓は,この業界は近寄りがたく,徒党を組んでいるように感じられますが,ゲーム業界の人々,他のゲームデベロッパ,インディーズ,大企業で働く人々からの多大な支援なしには,Before I Forgetは今の地位を得ることはできなかったということです。人々は時間や知識を惜しみなく提供してくれ,我々をサポートしてくれました。Before I Forgetでは,多くの人が我々を支え,励まし,資金調達やさまざまなことを手助けしてくれたのです」

 また,既存のコミュニティに頼ったり,参加しようとしたりする必要はない。自分たちで簡単に作ることができるのだ。

あなた方は,この新鮮な空気をもたらしてくれる存在なのです。コミュニティを作り,互いに親切にし,支え合い,そして幸運を祈ります

 「同じ志を持つ仲間を見つけさえすれば,それはとても簡単なことなのです」とRamanan氏は語る。「Before I Forgetを作っていた頃は,ロールプレインググループを運営していたことがあります。ブリストルのGames Hubまで行く気はなかったのですが,何らかのフィードバックがほしかったのです。ロールプレインググループには,ゲームに親しんでいる人たちがいて,彼らがときどき何かやっているのを知っていましたので,『私の食卓でゲーム開発的なものを作ったら,誰か興味を持ってくれるかな』と言ったら,5人が『それはとてもクールだね』と言ってくれたのです」

 「必要なのは,お菓子とテーブルと電源だけです。カードゲームやテキストアドベンチャーを作っている人もいれば,Unityで物理演算をいじくりまわしている人もいました。自分のゲームを共有することもできます。一緒にゲームジャムに参加して,アイデアを出し合い,他の人がやっていることを見ることで,自分の糧となり,モチベーションが上がります。また,食卓には,お菓子だけでなく,自分が作った,あるいは開発したゲームを少し持っていかなければなりませんので,責任感も生まれます」

 Ramanan氏は,現在ゲーム市場に参入している人たちは「瞬間的な時代」を生きてきたとし,次の世代が何をするのか楽しみだと語り,講演を締めくくった。

 「あなたがたは次に新しい息吹をもたらす人になります」と氏は語った。「パンデミックを乗り越えてきたのですから。あなた方は新鮮なアイデアと新鮮な視点を持っているのです」

 そして,こう締めくくった。「我々は,あなた方が何をしようとしているのか,とても楽しみにしています。我々は,あなた方と一緒にいたいのです。コミュニティを作り,お互いに親切にし,支え合って,頑張ってください」

 Chella Ramanan氏のGI ACADEMY Liveの講演は,以下から再視聴可能だ。



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