【ACADEMY】ライブゲームオペレーションを通じて,モバイルゲームをカルチャライズするためのガイド
モバイルゲームは今や,世界中のオーディエンスにサービスを提供している。基本プレイ無料のモバイルゲームのオーディエンスが,西洋と極東のTier1ゲーム市場に集中していた時代は終わった。
以前のモバイルタイトルは,これらの市場のプレイヤー向けにゲームプレイやライブイベントを最適化するだけでよかった。しかし,Tier2およびTier3市場では5Gとモバイル技術の普及が加速しており,ラテンアメリカ,東南アジア,南アジア,中東,アフリカでは現在,モバイルゲームのかなりの数のダウンロードとアクティブユーザーが生まれている。
ローカライズだけでは十分ではない
このような市場動向を踏まえると,ローカライズだけでは十分ではない。モバイルゲームのデベロッパやパブリッシャは,この機会を最大限に活用し,文化的なニュアンスに沿ったゲーム体験を作ることで,世界中のプレイヤーにサービスを提供できる。インドで生まれ育ったモバイルファーストゲーマーの私は,モバイルゲームを楽しむうえで文化が果たす重要な役割について独自の視点を持っている。EA Mobileのシニアプロダクトマネージャーとしてモバイルゲームを注視し,カルチャライズ(文化に合わせる)戦略を成功させ,ベストプラクティスをここにまとめた。
その前に,なぜモバイルゲームがカルチャライズされるべきなのかを理解しよう。
モバイルゲームをカルチャライズする最大の理由
- 世界中のプレイヤーは多様で,好みもさまざまだ。モバイルでは,画一的なアプローチはもはや通用しない。民族文化に関連したゲームコンテンツは,多様なプレイヤー層にアピールできる
- 基本プレイ無料のモバイルゲームのオーディエンスは,トレッドミルのような継続的なコンテンツを求めている。ライブゲームオペレーションによるカルチャライズは,新しいコンテンツを導入する機会を生む。
- 消費者の行動パターンには周期性があり,その土地の文化的行事に従うことが多い。消費財業界,eコマース業界,エンターテイメント業界は,地域の文化的なお祭りにあわせて新商品を投入したり,セールを実施したりすることで,常にこうしたサイクルを利用している。ゲーム業界もそれに倣う時期だ。
- 実質的な国際的存在感:モバイルゲームのデイリーアクティブユーザーの50%以上がTier1以外の市場である場合。
- 国際的な収益化の弱さ:グローバルプレイヤーが多いにもかかわらず,Tier2,Tier3市場でユーザー1人あたりの平均収益が非常に低い場合。例えば,グローバル市場におけるARPDAU(デイリーアクティブユーザー1人あたりの平均収益)がTier1市場におけるARPDAUの30%以下のとき。あるいは,その地域で最も近い競合タイトルのARPDAUの50%以下のとき。これは,あなたのゲームが儲け話を逃していることを示しているかもしれない。
- プレイヤーの集中:プレイヤーが世界の特定の民族文化地域に集中している場合。例えば,スポーツのモバイルゲームは,そのスポーツが盛んな地域にプレイヤーが集まっているかもしれない。
- 市場拡大:モバイルゲームが新しい領域に進出しようとしている場合。
ひとたびゲームがカルチャライズから恩恵を受けられるとスタジオが判断したら,それが入念な検討と計画によって実施される必要があることを念頭に置かなければならない。
モバイルゲームのカルチャライズで避けるべき一般的な落とし穴
- ギリギリの計画とリソース:カルチャライズの試みは事前に計画されなければならない。開発チームは,カルチャライズ施策を正しく実行するために,十分な時間とリソースを割り当てるべきだ。
- 不十分な調査:多くの現実的な理由から,開発チームはゲームを適応させようとしている特定の文化について深く理解していない場合がある。よくある落とし穴は,文化的なニュアンスについて事前に十分なリサーチを行わずに,デザイン段階に真っ先に飛び込んでしまうことだ。
- リサイクルとリユース:漠然とした文化的テーマを付け加え,既存のイベントやコンテンツを再利用するだけでは不十分だ。プレイヤーは通常,そのような表面的なカルチャライズの試みを見抜く。
- ステレオタイプ化:意図的であろうとなかろうと,無知なカルチャライズの試みは有害な文化的ステレオタイプを植え付け,プレイヤーの反発を招く危険性がある。
文化は私たちのアイデンティティの一部であるため,モバイルゲームのカルチャライズ施策はニュアンスに沿い,思慮深くなければならない
文化は私たちのアイデンティティの一部であるため,モバイルゲームのカルチャライズ施策はニュアンスに沿い,思慮深くなければならない。では,カルチャライズを正しく行うにはどうすればいいのだろうか。モバイルゲームの場合,ライブオペレーションは文化的側面を統合するためのローリスク・ハイリターンのアプローチだ。いくつかのベストプラクティスを見てみよう。
ライブオペレーションでモバイルゲームをカルチャライズするベストプラクティス
1. 目標を明確に定義する
モバイルゲームのライブオペレーション製品ロードマップにカルチャライズを加える前に,まず目標を定義しよう。より多くのダウンロードを獲得することなのか,プレイヤーのエンゲージメントやリテンションを向上させることなのか,これを最初に明確に示すことで,カルチャライズプロジェクトが進むにつれて重要な意思決定を支援できる。例えば,TapBlazeの「Good Pizza, Great Pizza」の場合,カルチャライズはプレイヤー層をグローバルに拡大するためだった。
2. ゲームに適したオーディエンスを狙う
次のステップは,カルチャライズのライブオペレーションのロードマップを定義することであり,そのためにはターゲット市場とオーディエンスを特定することが不可欠だ。これは,プレイヤーの既存の地域分布,ゲームのジャンル,そしてカルチャライズの目標によって導かれる。ラテンアメリカにおける「eFootball」のカルチャライズが好例だ。
ラテンアメリカは世界でも有数のサッカーファン層を持つ。「eFootball」はラテンアメリカのサッカーファンをターゲットとして,多くのイベントを始めた。メキシコのLIGA BBVA MXとの提携,COPA America eFootball Tournamentの設立,カスタムブランドのジャージによる「死者の日」イベントの実施など,これらのカルチャライズ施策は多岐にわたる。
3. リサーチを行う
カルチャライズを実施する前に,ゲームチームは文化史のニュアンスや現在の社会・政治的感情を入念に調査しなければならない。ゲームチームのデザイナーやプロダクトマネージャーが,ターゲットとなる文化について生きた経験や直接的な知識を持っていない場合,スタジオは外部のコンサルタントやマーケットリサーチャー,パートナーを雇い,現地の文化についてネイティブな理解を深める必要がある。
4. ゲーム内の配置する文化財を特定する
正しい知識を得たゲームチームは,どの文化的テーマや要素をゲームに加えるかを決めなければならない。この段階では,表現する文化に対する配慮と敬意が必要となる。文化的なモチーフを理解することは1つの側面だが,それをモバイルゲームのライブオペレーションイベントにうまく翻訳できるかどうかはまったく別の問題である。
モバイルシューターで2023年の収益がトップの「PUBG MOBILE」は,2023年のラマダン関連のイベントにおいて,これを見事に達成した。1か月間にわたるカルチャライズ施策では,Golden Moon Bazaarイベントで広大な砂漠の風景をフィーチャーし,Eid Al Fitr Feastイベントではラマダン期間中のコミュニティを結びつける食の重要性を祝い,Golden Moon Blessingsイベントでは祝福の分かち合いなどの文化的慣習を尊重しながら統合した。
5. 具体的であり,本物であること
カルチャライズにおいて重要なのは具体性である。文化的なステレオタイプや偏見が不用意にカルチャライズの試みに影響を与えないようにするため,アーティストやデザイナーは人口統計全体を漠然と暗示するのではなく,文化の具体的な例を表現するコンテンツを作るべきだ。
例えば,TapBlazeは中東・北アフリカ地域で「Good Pizza, Great Pizza」をカルチャライズする際,まずはエジプトでサービスを開始することにした。同社は現地の市場調査員をエジプトのピザパーラーに派遣し,彼らが目にした実際の顧客をもとにキャラクターをデザインするよう依頼した。このような民族誌研究は,文化を忠実かつ具体的に表現する素晴らしい方法だ。
6. プレイヤーに価値を提供する
結局のところ,モバイルゲームに組み込まれるライブオペレーションコンテンツは,プレイヤーにも価値を提供しなければならない。それは何らかの形でゲームプレイやプレイヤー体験を向上させるものでなければならない。
先の「PUBG MOBILE」の例では,ラマダン関連のイベントが革新的で,プレイヤーを惹きつけ,やりがいを感じさせていた。「eFootball」の例では,ラテンアメリカのカルチャライズによって,ファンに人気のあるサッカーリーグやアスリートがゲームに登場し,経済性が向上し,ゲームプレイの競争力が高まった。「Call of Duty Mobile」の旧正月イベントも,バトルパスシステムを通じて同じことを行っており,新コンテンツ,キャラクタースキン,アイテム,武器,マイルストーンなどが登場する。
7. テスト,テスト,テスト
すべてのカルチャライズの試みが成功するわけではない。機敏に行動し,コンテンツを市場テストする場を設けることが重要だ。基本プレイ無料のライブオペレーションのモバイルゲームの場合,ライブオペレーションイベントは一時的なものであり,うまくいかなければいつでも変更を戻せるので,これは比較的簡単だ。
カルチャライズ施策の可能性に確信が持てないゲームチームは,セールやボーナス,特定の興味のある地域に限定したミニイベントなど,小規模なものから始めるという選択肢もある。最初のテストがうまくいったら,シーズン,バトルパス,定期的なイベントなど,より多くの地域でより大規模なイベントを試せる。
これらが成功すれば,カルチャライズ施策をグローバルに展開することや,新しいキャラクターやマップ,ゲームモードとしてゲームに恒久的に定着させることができる。
このアプローチの好例が,2023年にトップの売上を記録した4Xストラテジー「エボニー」だ。「エボニー」は定期的に,文化的に重要なキャラクター,マップ,アーティファクトをゲームにそれぞれ導入し,それらを大規模なイベントに統合したり,人気に基づいて再登場させたりしている。
8. 成功を測る
最後に,最も重要な点は成功を測定することだ。第1段階で定義した目標に立ち返ろう。その目標が達成されたかどうかをデータで測定するのだ。ゲームは新規ダウンロードを獲得したか,ユーザーを増やしたか,収益を上げたか。あるいは,ユーザー1人あたりの平均収益やソーシャルメディア上のバズなど,ほかの興味深い結果はあっただろうか。ゲームのオンラインコミュニティ全体におけるユーザーフィードバックについてセンチメント分析を行おう。学んだことをまとめ,次のカルチャライズプロジェクトに活かしていこう。
まとめると,カルチャライズはモバイルゲームが世界的に多様なユーザーとより深いつながりを生み出すのに役立つ。さまざまな文化的要素を尊重し,取り入れることで,ゲーム開発者やパブリッシャは,世界中のプレイヤーの心に響く,より豊かで没入感のある体験を生み出せるのだ。
モバイルゲームのカルチャライズには,よく研究し,思慮深く,ニュアンスに沿ったアプローチが必要だ。それを正しく行っているタイトルは,どのように文化を真に表現するのかを理解しようとし,ライブオペレーションロードマップの意図的な部分としてカルチャライズを追加し,カルチャライズのビジョンを成功させるために十分なリソースを割り当て,テストと継続的なフィードバックのためのパイプラインを構築し,製品の改善に反映させている。
これらのベストプラクティスを念頭に置くことで,どのようなモバイルゲームでも,どのようなターゲット市場に対してもゲームのカルチャライズを成功させられるはずだ。
Oindrila Mandal氏はElectronic Artsのシニアゲームプロダクトマネージャーで,基本プレイ無料のモバイルゲームにおけるプレイヤーフレンドリーな機能の戦略的プロダクトロードマップを定めている。マッチ3やMOBAを熱心にプレイする非伝統的なモバイルファーストゲーマーでもある。
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