【月間総括】事業戦略から見えてきたPS5が抱える3つの難題
今月は,再度ソニーグループのゲーム事業説明会について取り上げたい。
今回のジム・ライアン氏のプレゼンは,意図が良く分からないものが多いように感じた。
資料の5ページ目には,米国におけるPS5の需要が強いと書かれているが,米調査機関のNPDの発表だと2021年の11月のハード市場は2016年以来の低水準となっており,供給が少なすぎて需要が類を見ないほどあるとは見えないタイミングでの数字を取り上げているのである。
これほど供給に制約があると,転売に伴う仮需も発生してしまうので,8万台という少ない台数が短時間で売れたことをもって類を見ないというのは,今ひとつ理解に苦しむ内容である。
上の写真は,先月も取り上げた6ページ目だが,日本のアクティブ台数が少ないのである。前回の記事を書いた後もこうなった理由を考えたが,日本の市場規模に対して割り当てシェアが少なすぎ他国よりも仮需が強くなり,結果,アクティブ数がイギリスを下回ったのではないかと,筆者は考えている。
割り当てが少なくなったのは
(1)日本市場は2010年代に入り,据え置きゲーム機の販売が低調になった
(2)スマートフォンゲームの隆盛が継続するように見えた
(3)将来性を見ても,少子高齢化,賃金の伸び悩みと,問題を抱えており,投資する価値がある市場ではもはやなくなったと考えたこと
(4)萌え系のキャラクターに人気がある日本市場を米国の本社が理解しがたいと捉えている
と,あくまでも推測ではあるが,いろいろと考えられる。
東洋証券では2030年にかけて日本の萌え系文化が世界に広がると予想しているので,米国SIE本社が萌え系を理解できていないとしたら,その姿勢がどのような結果を生むが,興味深く見ているところである。
話を戻そう。どちらにしても本社は,日本市場をいろいろな要因でもはや重要視していないのは明らかである。ユーザー側にはソニーグループの日本市場に対する姿勢は十分伝わったと思うので,日本以外の成長市場を存分に拡大すればよいと思う。
経営戦略としては,とても良いものとしてソニーグループは評価しているのだろう。
次は11ページ目である。フルゲームが売れていないのである。代わりにアドオンゲームが伸びているのでソニーグループの収益は拡大しているというグラフである。
これを見て,一部のサードパーティからは,ゲームの主要セグメントがオンラインのFree-to-playに移っている。今後はアドオンゲームに注力したいとコメントした会社もあるのだが,Switchではこのようなことが起こっておらず,大変奇妙である。Switchは確かにF2Pに馴染まない10代が多いのであるが,アドオンゲームは多く発売されており,20代以上も十分にいる。これは任天堂の資料からも明らかである。
にもかかわらず,PS5だけ起こっているのはストレージコスト問題だと考えるほうが妥当に思える。ゲームの空き容量がゲームソフト販売の減少を招いており,ビジネスモデルを揺るがしかねない問題になるのではないか? と書いた当初は,コメント欄や,ネットでは簡単に削除できるので,そんなことはないのでは? という意見が多かったが,このデータは秋葉原で増設用SSDが人気になっている報道などを見る限り,筆者の主張は適切だったと考えている。また,このPS5だけフルゲームが売れなくなっている点も説明できると思う。ぜひ,次回のモデルチェンジではストレージのサイズを大幅に拡大してもらいたいものである(ついでデザインもゲーム機らしくするとよりよくなるのだが)。
そうすれば,この問題は比較的容易に解消されるし,買い替え需要を誘発できるだろう。
12ページでは,増産する計画が述べられている。この発表も直後には,増産がすでに進んでいるのではないかということで大量供給の期待がネット上では高まっていたが,日本の4-6月の実売は前年同期比26%減だったと日経新聞が報道していた。
少なくとも日本にはまだその恩恵はないことが明らかだ。原稿執筆時点ではソニーグループの4-6月の全世界販売台数は分からない(7月28日に240万台と発表された)が,とても大きく増えているように思えない。実際に増えるのはこれからであろう。
あと,右下に注目すべき事柄に触れられている。報道ではまったく取り上げられていないが,物流ルートの確保の交渉と書かれているが,5月時点では輸送手段が確保できていないと書かれているのである。
増産ができても,11月に米国に輸送できなければ,大きなチャンスロスを生んでしまう。この対応が今期の計画達成には非常に大きなポイントになるだろう。
これも,よく分からない資料である。PS3よりもPS4のほうがライフサイクル終盤で高い接触率があるということなのであるが,PS5の供給が遅れているので至極当然の話でしかなく,ジム・ライアン氏がこれを取り上げた理由が今一つ分からない。どのような意図だったのであろうか?
最後に,メディアから複数の問い合わせをいただいたのがこのページである。メディア的には結構インパクトがあったようで,ソニーがコンソールゲームに対する意欲が落ちているのではないと受け止めたようである。
東洋証券の見解は,アドオン売り上げが増えていて,ソニーグループ本社及びSIEは,結果だけを見て,シングルプレイゲームが衰退して,マルチプレイが隆盛,よって多数のデバイスにマルチプレイゲームを出す必要があると考えており,マルチプレイゲームは,接触人数が収益の規模に直結するので,こういう方針になったのではないかと考えている。
東洋証券としては,本当にシングルプレイゲームが縮小しているのか? という疑義がある。ソニーグループは日本でスマートフォンゲームが隆盛になった結果,日本では据え置きゲーム機市場が大幅に縮小すると考えたからこそ米国に本社機能を移したのではないだろうか? かつて吉田CEOはよく議論し将来を考えれば米国に移すのが最善とコメントしていた。
しかし,2022年現在,スマートフォンゲームはコンシューマゲーム機を駆逐していない。Switchは隆盛で,Xbox Series もXbox ONEを上回る状況にある。減っているのは割り当てを減らされたPS5だけなのである。
ソニーグループは将来予想を過信しているのではないだろうか? 筆者も予想はすべて当てることはできない。任天堂もOLEDモデルを出す前は,OLEDモデルが主流になるとはまったく思っていなかったようである。予想はあくまでも予想であって外れたことも考えないといけない。ソニーグループは,外れたことを水に流す日本的発想が散見されていて,東洋証券としては,完全に当てられない予想を過信した行動は危険に思える。ぜひ組織的に見直してもらいたいものである。これは,ソニーグループにとって良い変革になるはずだからだ。
今回のジム・ライアン氏のプレゼンは,意図が良く分からないものが多いように感じた。
資料の5ページ目には,米国におけるPS5の需要が強いと書かれているが,米調査機関のNPDの発表だと2021年の11月のハード市場は2016年以来の低水準となっており,供給が少なすぎて需要が類を見ないほどあるとは見えないタイミングでの数字を取り上げているのである。
これほど供給に制約があると,転売に伴う仮需も発生してしまうので,8万台という少ない台数が短時間で売れたことをもって類を見ないというのは,今ひとつ理解に苦しむ内容である。
上の写真は,先月も取り上げた6ページ目だが,日本のアクティブ台数が少ないのである。前回の記事を書いた後もこうなった理由を考えたが,日本の市場規模に対して割り当てシェアが少なすぎ他国よりも仮需が強くなり,結果,アクティブ数がイギリスを下回ったのではないかと,筆者は考えている。
割り当てが少なくなったのは
(1)日本市場は2010年代に入り,据え置きゲーム機の販売が低調になった
(2)スマートフォンゲームの隆盛が継続するように見えた
(3)将来性を見ても,少子高齢化,賃金の伸び悩みと,問題を抱えており,投資する価値がある市場ではもはやなくなったと考えたこと
(4)萌え系のキャラクターに人気がある日本市場を米国の本社が理解しがたいと捉えている
と,あくまでも推測ではあるが,いろいろと考えられる。
東洋証券では2030年にかけて日本の萌え系文化が世界に広がると予想しているので,米国SIE本社が萌え系を理解できていないとしたら,その姿勢がどのような結果を生むが,興味深く見ているところである。
話を戻そう。どちらにしても本社は,日本市場をいろいろな要因でもはや重要視していないのは明らかである。ユーザー側にはソニーグループの日本市場に対する姿勢は十分伝わったと思うので,日本以外の成長市場を存分に拡大すればよいと思う。
経営戦略としては,とても良いものとしてソニーグループは評価しているのだろう。
次は11ページ目である。フルゲームが売れていないのである。代わりにアドオンゲームが伸びているのでソニーグループの収益は拡大しているというグラフである。
これを見て,一部のサードパーティからは,ゲームの主要セグメントがオンラインのFree-to-playに移っている。今後はアドオンゲームに注力したいとコメントした会社もあるのだが,Switchではこのようなことが起こっておらず,大変奇妙である。Switchは確かにF2Pに馴染まない10代が多いのであるが,アドオンゲームは多く発売されており,20代以上も十分にいる。これは任天堂の資料からも明らかである。
にもかかわらず,PS5だけ起こっているのはストレージコスト問題だと考えるほうが妥当に思える。ゲームの空き容量がゲームソフト販売の減少を招いており,ビジネスモデルを揺るがしかねない問題になるのではないか? と書いた当初は,コメント欄や,ネットでは簡単に削除できるので,そんなことはないのでは? という意見が多かったが,このデータは秋葉原で増設用SSDが人気になっている報道などを見る限り,筆者の主張は適切だったと考えている。また,このPS5だけフルゲームが売れなくなっている点も説明できると思う。ぜひ,次回のモデルチェンジではストレージのサイズを大幅に拡大してもらいたいものである(ついでデザインもゲーム機らしくするとよりよくなるのだが)。
そうすれば,この問題は比較的容易に解消されるし,買い替え需要を誘発できるだろう。
12ページでは,増産する計画が述べられている。この発表も直後には,増産がすでに進んでいるのではないかということで大量供給の期待がネット上では高まっていたが,日本の4-6月の実売は前年同期比26%減だったと日経新聞が報道していた。
少なくとも日本にはまだその恩恵はないことが明らかだ。原稿執筆時点ではソニーグループの4-6月の全世界販売台数は分からない(7月28日に240万台と発表された)が,とても大きく増えているように思えない。実際に増えるのはこれからであろう。
あと,右下に注目すべき事柄に触れられている。報道ではまったく取り上げられていないが,物流ルートの確保の交渉と書かれているが,5月時点では輸送手段が確保できていないと書かれているのである。
増産ができても,11月に米国に輸送できなければ,大きなチャンスロスを生んでしまう。この対応が今期の計画達成には非常に大きなポイントになるだろう。
これも,よく分からない資料である。PS3よりもPS4のほうがライフサイクル終盤で高い接触率があるということなのであるが,PS5の供給が遅れているので至極当然の話でしかなく,ジム・ライアン氏がこれを取り上げた理由が今一つ分からない。どのような意図だったのであろうか?
最後に,メディアから複数の問い合わせをいただいたのがこのページである。メディア的には結構インパクトがあったようで,ソニーがコンソールゲームに対する意欲が落ちているのではないと受け止めたようである。
東洋証券の見解は,アドオン売り上げが増えていて,ソニーグループ本社及びSIEは,結果だけを見て,シングルプレイゲームが衰退して,マルチプレイが隆盛,よって多数のデバイスにマルチプレイゲームを出す必要があると考えており,マルチプレイゲームは,接触人数が収益の規模に直結するので,こういう方針になったのではないかと考えている。
東洋証券としては,本当にシングルプレイゲームが縮小しているのか? という疑義がある。ソニーグループは日本でスマートフォンゲームが隆盛になった結果,日本では据え置きゲーム機市場が大幅に縮小すると考えたからこそ米国に本社機能を移したのではないだろうか? かつて吉田CEOはよく議論し将来を考えれば米国に移すのが最善とコメントしていた。
しかし,2022年現在,スマートフォンゲームはコンシューマゲーム機を駆逐していない。Switchは隆盛で,Xbox Series もXbox ONEを上回る状況にある。減っているのは割り当てを減らされたPS5だけなのである。
ソニーグループは将来予想を過信しているのではないだろうか? 筆者も予想はすべて当てることはできない。任天堂もOLEDモデルを出す前は,OLEDモデルが主流になるとはまったく思っていなかったようである。予想はあくまでも予想であって外れたことも考えないといけない。ソニーグループは,外れたことを水に流す日本的発想が散見されていて,東洋証券としては,完全に当てられない予想を過信した行動は危険に思える。ぜひ組織的に見直してもらいたいものである。これは,ソニーグループにとって良い変革になるはずだからだ。
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