Opinion:ゲーム業界はLoot Box問題を解決する最後のチャンスを与えられた

大手ゲーム会社は政府の勧告を支持し,新しいVideo Game Research Frameworkをサポートする必要がある。

 インタビューや調査,研究,委員会の公聴会,「サプライズメカニック」ミーム,誤った等価性に満ちた大げさなツイート(「サッカーのステッカーと同じです」「基本的にカジノです」)……結局のところ,英国政府は,喧嘩している2人の子供を前にした親がするようなことをした。「ちょっとちゃんとしてもらえませんか」と叫んでドアを閉めたのだ。

 もともと英国政府がLoot Boxを禁止する法律を制定する可能性は低かった。というのも,ビデオゲーム産業は英国経済に30億ポンド近く貢献しており,これは漁業の2倍以上に相当する(Brexitが教えてくれたように,漁業は世界で最も重要な産業の1つに違いない)。英国で最も急成長している分野の1つに口出ししたくないのは当然だろう。

 また,Loot Boxを禁止するための法整備には費用がかかる。もし政府がLoot Boxを賭博の一形態と判断した場合,賭博委員会の大幅な拡大が必要となる。NERA Economic Consultingの2021年版レポートでは,委員会の年間コストがほぼ2倍になると試算している。一方,通信規制当局のOfcomは,この問題を解決できるはずだが,オンライン安全法案という茶番劇が続いているため,手が回らない。

 つまり,人々は忙しすぎて,コストもかかりすぎ……なあ,もう忘れてしまおうじゃないか? 

 というのは,冗談だ。しかし,Loot Boxを法制化しない悪い理由の中に,本当の理由もあるのだ。

引用され続けているLoot Boxの研究は,十分に深くも時間をかけられてもない

 1つは,引用され続けているLoot Boxの研究は,十分に深くもなく時間をかけられてもいないということだ。すべてのLoot Boxは同じように悪いのか? Loot Boxの顧客は「賭博,精神衛生,金銭,問題ゲーム関連の害を経験」しやすいという証拠があるが,Loot Boxはそれらの問題を引き起こしているのだろうか? また,どのようなオーディエンスが最も影響を受けやすいのだろうか? 

 また,法規制は必ずしも最善の方法とは限らない。間違えれば,法律が意図していない分野や製品を巻き込んでしまうかもしれない。そして,いつもうまくいくとは限らない。オランダのLoot Box規制を例に挙げよう。この規制では,プレイヤーが他のプレイヤーとアイテムを交換できない限り,Loot Boxは賭博規制を避けることができるとされている。しかし,これでは,他の方法ではアイテムを入手できないため,プレイヤーは通常より多くのLoot Boxを購入しなければならないという結果になりかねない。

 また,ベルギーもLoot Boxに対する法律を導入したが,批評家は,この法律はあまりにも広範囲で,ランダムな要素を持つあらゆるゲームを包含する可能性があると語っている。

 また,この分野はゲームの中でも移り変わりが激しい分野だ。新しいコンセプトが導入され,試されることで,常に変化しているのだ。そのすべてに目を配り,人々を確実に保護するために最も適した組織は,ゲーム産業そのものだ。

FIFAのUltimate Teamモードは,最大のLoot Boxゲームの1つだ
Opinion:ゲーム業界はLoot Box問題を解決する最後のチャンスを与えられた

 批評家たちがそれに絶望するのは理解できるだろう。ゲーム業界のLoot Box対策は,これまで曖昧な内容のコンテンツ「ラベル」(ゲーマーの34%が知らない)の導入と,プレイヤーがレアアイテムを受け取る確率を確認できる確率統計の導入だった。しかし,これらの統計値でさえ,あまりにも広範囲で,事実上役に立たないのだ……。1%未満の確率でアイテムを入手できる場合,その確率は0.9%なのだろうか? それとも0.00001%だろうか? 

 しかし今,ゲーム業界は英国政府からさらに前進するよう命じられ(関連英文記事),従わなければならない。 ―とくに権力者たち(Microsoft,Sony,Nintendo,Apple,Google,Valve,EA,Activision,その他……)は。そして,政府が発表した提言のリストは,決して不合理なものではない。実際,いくつかの勧告は,パブリッシャがいずれにせよ行うべきことだと思われる。

 まず,子どもたちを守るために,Loot Boxの購入を親が承認せざるを得ないような特別なレイヤーを設けることだ。この仕組みの用途,プレイに不可欠なものではないこと,成功を保証するものではないことを,できる限り透明にすること。購入した戦利品の払い戻しには,寛大であること。

 そして,私にとってはこれが一番重要なのだが,過剰な消費をするプレイヤーに目を光らせ,自動メッセージを送り,問題状況に対処できるよう訓練された人を配置することだ。もしゲーム業界が,人々が毎日何時間も過ごすような仮想世界を本気で作ろうとしているのなら,こうしたプレイヤーをケアするグループは,コミュニティチームにとって不可欠な要素になるに違いない。

 今週末の英国政府の報告書は,ゲームビジネスの大企業にとって安心材料となることだろう。リリースの口調から,業界が高く評価されていることが分かる(プレスリリースにある3つの引用のうち,2つはビデオゲームの業界団体によるもの)。要望は現実的で合理的なものであると思われる。また,過去最悪の熱波で国中が溶けている最中の日曜日にリリースすることで,(英国の次期首相を決めるレースも盛り上がっていることもあり)一部の主要メディアはこのリリースを見過ごすことになるだろう。

ゲーム業界がその責任を真剣に受け止めるチャンスであり,おそらく最後のチャンスである

 しかし,これで終わりではない。今回の発表の中には,「Video Games Research Framework」という,ゲームがもたらす善悪の影響を特定するための新たな取り組みについてのニュースも含まれていた。

 これは潜在的に重要なことだ。これは政府,そして我々全員が,ゲームをすることのプラス面とマイナス面をより広く理解するためのものだ。産業界と学識経験者を集め,マネタイズの手法を調べ,問題があれば特定し,デベロッパがプレイヤーに害を与えることを回避または削減できるようにするのだ。

 そして,ビジネスモデルだけでなく,人々がなぜゲームをするのか,ゲームがどのように,そしてなぜそのようにデザインされているのか,我々が設けているルールの有効性,そしてゲームが持つポジティブな影響力についても議論される予定だ。

 COVIDによってデジタルワールドの普及と受容が加速する中,これはまさに,オーディエンスを保護する形で未来へ進むために業界が必要としている取り組みだろう。

 結局のところ,政府が(まだ)Loot Boxを法制化しないというニュースは,このマネタイズ方法が搾取的で危険だと感じている人々にとっては打撃であり,EAのような企業にとっては勝利のように思えるかもしれない。しかし,これはそういうことではない。これは,ゲーム業界が自らを律し,その責任を真剣に受け止めるためのチャンスであり,おそらく最後のチャンスなのだ。

 なぜなら,来年の初めまでに事態が前進していなければ,次に起こることは自分たちの手に負えなくなるのだろうから。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら