【ACADEMY】ゲームの映像制作で妥協してはいけない5つの領域

AlconostのNatalia Shuhman氏が,ビデオ制作で手を抜いてはいけない部分を紹介する。

 リソースが限られている中で,映像制作の各段階でコストを削減したいという気持ちは十分に理解できる。しかし,ある段階では重要性が低いと思われるかもしれないが,この部分のコストを削減しようとすると,明らかに品質の低いビデオができあがったり,プロジェクトが複雑化して遅れたりするものだ。

 さらに,これらの段階を省略しても,結局は時間もコストも大幅に削減できないのだ。具体的には以下のようなものがある。


節約しても無駄にならない5つのポイント


●1. 脚本
 脚本を省いて,直感的に映像を作り上げる? 確かに大胆なアプローチだが,あまり合理的ではない。脚本のない映像は,基準のないプロジェクトのようなものだ。途中で何度も手直しをして,結果的におかしなことにならないためにも,脚本には最大限の注意を払ってほしい。

2.脚本を捨てて,直感的に映像を作る? 大胆な方法だが,あまり合理的ではない

 まず,視聴者に何を伝えたいのかを決める。そして,そのアイデアを実現するために,どのような映像メディアを使うかを考え,ゲーム実況やゲームのソースグラフィックスなど,手元にあるリソースを使って,それぞれのアイデアをコーディネートしていく。テーマを一貫させ,1つのアイデアから次のアイデアへと論理的に進めていく。ナレーションを予定している場合は,その文章を練り上げる。

●2. 3.翻訳
 母国語が英語で,外国語(ドイツ語など)のビデオが必要な場合は,ドイツ語を母国語とする英語の翻訳者を雇おう。テキストボックスの文字やCTA(コールトゥアクション),ナレーションなどを翻訳してもらいよう。機械翻訳や,ドイツ語を母国語としない人の能力はあてにならない。機械翻訳やドイツ語を母国語としない人の能力はあてにならない。ネイティブスピーカーは(※原文どおり。「ネイティブスピーカーでないと」の誤りか),あなたが気づかないようなエラーや変な文体を生み出すが,ターゲットとなる人々はすぐにそれに気づくだろう。

●3. ネイティブスピーカーによるナレーション
 お金を節約したいのであれば,ネイティブではない人にナレーションをしてもらうくらいなら,ナレーションを入れないほうがよいだろう。どうしてもナレーションが必要な場合(ナレーターの声がビデオの「荷重要素」になることもある)は,ターゲット言語のネイティブスピーカーのナレーターを選ぼう。可能であれば,選んだ声優を他のネイティブスピーカー(たとえば,翻訳者)に確認してもらうといい。

ネイティブではない人がナレーションを担当するくらいなら,ナレーションがないほうがいい

 我々の経験では,この審査は必ず必要だ。ネイティブスピーカーが,ナレーター候補の訛りや言葉遣いの問題,読み方の不自然さに気付いても,ネイティブスピーカーではない我々にはそれが分からないことがある。どんなに声に魅力を感じても,理想の声に出会えるまで探し続けるのだ。

 なお,ゲームの映像でナレーションが必要な場合と不要な場合については,こちらの記事で紹介している。

●4. ストーリーボードの作成
 これはお金の問題ではなく,時間の節約の問題だ。絵コンテの段階を省くことで,制作サイクルを短縮できるのだろうか? ゲーム性のある映像であれば,それは可能だ。ただし,その場合でも,テキストボックスのデザインや書体を考えたり,エンディング画面では,ゲームのロゴや店舗のバッジ,CTAなどで構成を考えたりと,ビジュアルスタイルを確立する必要がある。これらの要素のよいところは,静止した状態で作成・認証しておくと,アニメーション時の繰り返し回数が少なくて済むので便利になるというところだ。

 ストーリーボードは,後述するアニメーショングラフィックスを使った映像ではとくに重要で,単体のアセットを組み合わせてシーンを構成する段階だ。素材の準備中に,ソースアーカイブに入れ忘れた絵があったとしても,ストーリーボードの段階であれば,その間違いを簡単に修正できる。また,素材のアーカイブに間違ったキャラクターやロケ地のバージョンが含まれていたとしても,アニメーターが間違ったキャラクターやロケ地のバージョンを何十時間もかけてアニメ化するよりも,ストーリーボードの段階で気付いて修正するほうが早くて簡単だ。

●5. サウンドデザイン

ユーザーがサウンド付きの動画を見るかどうかは,ユーザーの問題だ。どちらの場合も理想的な動画であるべき

 Facebookユーザーの85%が音のない動画を見ているという事実は(参考URL),動画に音楽や効果音を入れないことを支持する重大な論拠となる。一方,YouTubeでは,ほとんどの人が音声付きの動画を見ている。YouTubeで広告動画の音声をオフにする人の数は,国によって異なるが,35%から40%だ(参考URL)。

 Alconostの考えでは,ユーザーが音声付きの映像を見ようが見まいが,それはユーザーの自由である。作り手の仕事は,どちらの場合でも理想的な映像を作ることだ。音なしで見る人には,絵コンテの段階でデザインしたテキストボックスが役に立つ。― 一方,音を出して見る人のためには,サウンドデザインが必要だ。

 ストックトラックの標準的なライセンスのコストは,一般的に50ドルを超えないが,魅力的な曲は15〜20ドルで見つけることもできる。繰り返すが,これらはケチケチすることに意味があるほど高価なものではない。ただし,購入した曲はアニメーションの時間に合わせて編集する必要があり,画面上の重要なアクションは効果音で強調する必要がある。

 1人で制作する場合は,この段階でサウンドエンジニアの助けが必要になるかもしれない。ゲームのサウンドトラックを作った作曲家に声をかけてみるのも1つの方法だろう。このようにして,ビデオに音楽トラックとサウンドエフェクトを追加する作業は,彼らにとってそれほど時間のかかるものではない。


3.ビデオシーケンスを節約する方法


 以上の5つの段階を経て,あとは何が残るのか? 不思議に思うかもしれないが,アニメーション自体なのだ。1つのアイデアを伝えるには,さまざまな映像表現があるが,アニメーションの作成は映像制作の中でも最も手間のかかる作業なので,節約するにはこの段階を考慮する必要がある。

 もちろん,3DやCGIを使った映像も見ごたえがあるが,予算が限られている場合は,他の選択肢を検討してみるのもよいだろう。

●選択肢1:2Dのアニメーションを使った映像
 たとえば,Wild West: Steampunk Alliancesのゲームトレイラーの例を見てみよう。


 このオプションを検討する意味があるのは,次のような場合だ。

  • 1. 近い将来に関連性を失うことのないビデオが必要で,たとえば,ビデオの公開時やその直後に,実際の機能がビデオの制作時とは異なるものになる場合
  • さまざまな国の視聴者に向けてビデオを公開する予定で,海外市場向けにビデオを適合させるプロセスを簡素化したい場合
  • お店の予告編ではなく,面白いテーマのティーザー映像や広告映像が必要で,そのためにはゲームプレイ映像だけでは足りない場合

 このオプションを選びやすくするために,ビデオで使用する予定のグラフィックスファイルのセレクションを前もって考えておいてほしい。脚本に沿って,シーンごとにアセットを編集していく。アーカイブには,シーンごとに高解像度の背景画像,適切なアングルのキャラクター,ロケーション要素,その他のゲームプレイ用オブジェクトなどを忘れずに入れておこう。

 ソースファイルがPSD形式の場合は,ファイルがレイヤー化されていることを確認してほしい。キャラクターのアニメーションを含む映像の場合は,とくに注意が必要だ。キャラクターがシングルレイヤーの場合,その動きをアニメーション化するのは困難だ。しかし,指,前腕,首,唇,目,眉などがすべて独立した要素である場合,アニメーターはキャラクターに笑顔や不機嫌な表情を与えたり,手を握って拳を握ったりすることが容易になる。

 ここで,アニメーションを使った映像の一例を紹介しよう。ゲームHeroes of War Magicのティザー映像だ。


 このように,アニメーションを意識して作られたグラフィックスは,広告プラットフォームやソーシャルネットワーク上でゲームを宣伝するための効果的なティザーのベースとなる。また,この手のビデオはゲームの特徴に左右されないので,海外市場にも対応しやすい。

 ただし,App Storeのゲームページでこの種の動画を使用する場合,アニメーショングラフィックスを使用した動画がApp Storeの審査を通過する保証はない。

●選択肢2:ゲームプレイとアニメーションシーンの組み合わせ
 2Dであっても,キャラクターのアニメーションや高精細な環境など,グラフィックスのアニメーションはかなり手間のかかる作業だ。しかし,映像の内容によっては,すべてのシーンをソースグラフィックスからコンパイルする必要がない場合もある。

 ゲームプレイのシーンでアイデアを伝えることができるかもしれず,アニメーションのシーケンスを分割して使うこともできる。この方法を適切に使えば,映像のまとまりを損なうことはない。たとえば,Bubble Illusionというゲームの予告編を見てみると,一部のシーンはグラフィックスのアニメーションで,一部のシーンは実際のゲームプレイだ。


 また,ゲームプレイとグラフィックスを1つのシーンで表現することもできる。たとえば,Mahjong Villageの映像では,牌が置かれた競技場でのゲームプレイが収録されているが,遠くに見えるアニメーションの背景や,光が差し込む要塞,日の当たる村などはアニメーショングラフィックスだ。


 予算が限られている場合は,できるだけ多くのゲームプレイを使用し,どうしても必要な場合にのみアニメーショングラフィックスを使用する。たとえば,クエストなどは,ゲーム性を表現するには時間がかかりすぎたり,ディテールが多すぎたりする。このようなゲームの特徴は,図式的または象徴的に表現して,比喩的に伝えるのがベストであり,アニメーショングラフィックスはそのための味方だ。

●選択肢3:ゲームプレイ動画
 最も経済的な方法は,ゲームプレイを録画し,最適な断片を選び,音楽のリズムに合わせて撮影することだ。ただし,脚本のイメージどおりになっているかどうかをよく確認してほしい。最小限の費用で済ませたいのであれば,ユニットの配置やUIの変更などの装飾を加えず,すでにゲーム内にあるものを映像化する必要がある。

 たとえば,スペースシューティングゲームで,空中艦隊の上を宇宙船が飛んでいく壮大なシーンを映像で表現したい場合,ゲームにはすでにこのアニメーションが含まれている必要がある。未収録の場合は,ゲームのソースグラフィックスを使って,映像専用のアニメーションを作ることももちろん可能だ。しかし,ゲームプレイのモンタージュよりもコストがかかるので,コスト削減を優先するならば,ゲームに収録されているアニメーションのみを使用するようにしよう。

 ビデオにナレーションが含まれている場合,ゲームプレイのモンタージュはそれに同期していなければならない。つまり,ビデオのシークエンスとナレーターを一致させる必要があり,その逆はできない。これにより,ナレーションを自然なペースに保ち,ナレーターが前のシーンのテキストを読んでいる間にビデオシーケンスが次のシーンに移ってしまうような事態を避けることができる。

 一般に,ビデオにスピーチが含まれている場合,各シーンの長さを決めるのはスピーチである。このアプローチの例として,One Life Storyというゲームの映像を挙げておく。


 単調な映像にならないように,収録されている断片のスピードを少し速めたり,次の断片に切り替えたり,一度に複数の断片を表示したりすることも必要だ。ゲームTaonga: Tropical Farmの映像では,この方法を採用している。


 しかし,ゲーム性を最大限に活かしたこれらの映像でも,アニメーションは避けて通れない。たとえば,2つの動画のエンディング画面は,ゲームではなく,静止画のアニメーションだった。あなたの映像にも必ず1つはこのようなシーンがあるはずなので,映像制作の人件費を検討する際には注意してほしい。


まとめ


 インハウスビデオの制作にどれだけの時間と労力がかかるのかという疑問には,こちらの記事で答えている。一般的には,ゲームデベロッパが映像を制作することは,一般的ではないと考えている。魅力的なプロセスではあるが,期待していた結果が得られないまま,かなりの時間がかかってしまうこともあるからだ。とはいえ,もしあなたが自分で映像を作るつもりなら,この記事が制作過程での優先順位を決めるのに役立つことを願っている。


この記事はAlconostのNatalia Shuhmanが執筆した。我々は過去8年間,ゲーム,アプリ,製品,企業向けに,広告やチュートリアルなどの動画を制作していた。また,ゲームやアプリ,サービスの70以上の言語へのローカライズも手がけている。

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