「株式会社24Frameの内情暴露日誌」 第1回: 銀行員がやってきた! YAH YAH YAH!


友野祐介氏
2009年に株式会社24Frameを設立後,メタルマックスシリーズ,デジモンワールドシリーズなど家庭用ゲームのディレクションを歴任。現在は,メタルマックスシリーズに登場した戦闘犬が主人公として活躍するPC向けローグライクアクション「METAL DOGS」を開発している
 皆様はじめまして,友野祐介と申します。僕はゲーム業界の片隅で24Frameという小さなゲーム制作会社を営んでいます。その前は映画業界にいて,これまた小さな商業映画の監督などをやっていました。

 その頃から(と言うかそれこそが業界を乗り換える大きなきっかけだったのですが)お金で苦労した事例は枚挙に暇がありません。しかし,24Frameという会社も気がつけば12期目。お金のいい目には殆どお目見えしたことはないですが,苦労に関しては「一家言あるぜ」という状態でございます。

 そしてそこに襲いかかるコロナ禍,ステイホームの号令で,「世界中のおウチ時間が増え,ゲーム業界には追い風だ」なんて噂も聞きますが,「そりゃ一体どこの話だ?」というくらい,弊社は平常運転です。
 気がつけば社員も20名を超え,この会社の経済状況も新たな局面を迎えており,僕の長きにわたる「お金にまつわる苦労」も新次元に突入しました

貧しくも楽しい,若き日の自主映画製作
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 とはいえ,意外と潰れることなくやってきた12年でもありました。「大儲けはしない,でも潰れてしまうこともない」という僕の処世術が,この新時代に如何に適合するか? または適応不良で倒産を迎えるのか? その結果は神のみぞ知る,といったところです。

 ですが,「潰れたらそれっきりなんだし,その様子を文字にして皆さんに見てもらうのはどうだろう?」とロクでもないことを思いついたところ,「え,おもしろそうじゃないですか」とまさかの乗り気を見せる担当編集さん。こんなスピード感で連載が決まってしまうというのも,リモートワークの功罪かもしれません。

 さてそこで張り切ってお金の話,と一言に申しましてもその位相は実に多面的です。どこにフォーカスするかによって,内容がまったく変わってしまうものです。なのでここは一つ,具体的なシーンを用意してみました。




一人たたずむ友野の後ろ姿写真(中年の悲哀を感じる)
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 東京は新宿区の早稲田,とある雑居ビルの最上階で,一人の中年男性が夕暮れの中,机に頬杖をついているところをご想像ください。しかし,男性が思慮深く憂えたシーンだなどとは思うなかれ,頬杖の先の顔はその口を半開きで,涎が「マジで流れる5秒前」。もちろんこれは,哀愁漂う彼が人生の選択に迷っている悩ましげな光景などではなく,リモートワークのせいで社屋に誰もいないのをいいことに,だらしなくしているだけの僕です。

 しかも,初めてGamesIndustry.bizに取りあげられる内容が,「クリエイティブ」に関するものでなく「お金」であるところが,「その世界でいまいちメジャーになれない僕,ひいては24Frameの宿命っぽい」などと,全人類にとっては非常にどうでもいいことを考えつつ,ある人を待っているという状況です。

 しかし,話はここから大きくトーンを変えてまいります。この中年男性(つまり僕です,念のため)が待っている待ち人,それは福音をもたらす天使か,はたまた地獄の使者か?といった感じに心を揺さぶる存在。今まで当社に一切の縁がなかったタイプの人間,カタギ中のカタギ「銀行員」様その人なのでございました。

 「なぜ銀行員が場末のゲーム会社にわざわざ出向くのか」と,疑問に思われるのはごもっとも。なにせ僕自身も疑問なのですから。銀行員さんが会社にやって来るときはおそらく二つ。「金を貸すときか,返せと迫るとき」。うちの雰囲気からすれば,借金がかさんで取り立てが来るのか,といったことを想像することでしょう。

 しかし,意外にも僕はこの会社を始めてから借金というものをしたことがありません。借金らしい借金といえば,学生時代の奨学金ぐらいで(全部自主制作映画に突っ込みました),それは結構な苦労をして,最近ようやく返済を終えたので,現在借金はゼロの無借金男です。そして会社も「無借金経営」です。

社内を一人見渡す友野(何故この会社に銀行さんが……)
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 無借金経営というのも企業の価値判断としては最良の選択肢ではないという話を聞いて,「世界ってなんだかすごい」と震えていた僕の会社に銀行員が来るというのです。この零細企業に。

 そもそもカタギの人が来るなんて,社歴始まって以来なのではないでしょうか(いや,担当の税理士さんはちょくちょくきますね。すみません税理士さん,付き合いが長すぎてあなた方がカタギだということを忘れておりました)。

 今でこそだいぶ様変わりしてきましたが,基本的にゲーム業界人は,ある程度道を踏み外した輩の類でして(筆者のイメージです),カタギのみなさまを見るとそれだけで申し訳ないような,居心地が悪いような気がしてくるわけです。

コーヒーメーカーを見つめる友野(コーヒーの味も,どうしていいのかも分からない)
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 なんにせよ,来るというのだからお迎えしなくてはいけません。どうしていいか分からずに,お出しするコーヒーの味を確かめていたら,思わず何杯も飲んじゃってトイレと応接間を言ったり来たり。そんなこんなで気がつけば約束の時刻。さすがはカタギ様,定刻通り,一分も違うことなく15時丁度に,弊社の呼び鈴は鳴ったのです。

 「ジャッジメント・デイ」。そんな単語が頭をよぎりつつ,社長自らお迎えにあがったのでした。(ほかに誰もいないので)。そしてドアを開けたとき,そこに立っていたのは,カタギの名に恥じぬ,極めて真面目そうな女性の姿が。しっかりと握られたかばんは重そうで,分厚い。さすがカタギ,と再度思うより早く,この分厚さは「僕のような素性怪しき人間に鉄槌を下すためのトールハンマー,もしくは閻魔帳か」という考えがイの一番に頭をよぎったことを,ここで正直に告白しておきます。

 あらゆるデータはリモートの中で書面化される機会を失い,ディスプレイの中の仮想現実と成り下がり,それをディールすることで飯を食っているのが人の常である現在に,この実在感,「フィジカル」な書面の圧倒的存在感。なれない事態に僕が思わず失禁に近いインパクトを受けてしまったとしても,誰がそれを責められるでしょう。

社内に貼られたスローガンを見上げる友野(いつかあそこに到達したいものだ)
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 そしてこの光景が指し示す未来とは「何が起こるかはともかく,これからこのかばんの中にぎっしりと詰まった長大な文章を読まなければならない」ということに他なりません。「またまたあ,びっくりさせてくれちゃって。どうせ全部ななめ読みで適当なところにサインすればいいんでしょ?」という僕の儚い一縷の望みは,この後すぐに雲散霧消することになります。

 そんなこととはつゆ知らず,目の前に現れた真面目な銀行員の姿に「あぁ,女性を肉眼で確認するのは実に久方ぶりだなあ」などと間抜けな感想を抱く業界の辺境の経営者,そんな僕の数奇で場違いな運命のドキュメントを今後も是非見守っていただけると幸いです。どうぞよろしくお願いします。それでは,現場からは以上です。友野でした。

【次回予告】
久しぶりに見た生の女性に興奮を覚える業界の辺境経営者・友野祐介は,突きつけられた書類の内容に徹底的に打ちのめされてしまう。果たして彼女が持ってきた書類とはなんだったのか。友野祐介が人生で初めて体験する地獄の反復作業とは……。次回「煉獄の書類審査。ああっ女神さまっ,私をお許しください」,お楽しみに!

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※次回の掲載は4月27日を予定しています

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今回の補足動画は「こちら」(友野Dチャンネル)

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