「株式会社24Frameの内情暴露日誌」 第1回: 銀行員がやってきた! YAH YAH YAH!
その頃から(と言うかそれこそが業界を乗り換える大きなきっかけだったのですが)お金で苦労した事例は枚挙に暇がありません。しかし,24Frameという会社も気がつけば12期目。お金のいい目には殆どお目見えしたことはないですが,苦労に関しては「一家言あるぜ」という状態でございます。
そしてそこに襲いかかるコロナ禍,ステイホームの号令で,「世界中のおウチ時間が増え,ゲーム業界には追い風だ」なんて噂も聞きますが,「そりゃ一体どこの話だ?」というくらい,弊社は平常運転です。
気がつけば社員も20名を超え,この会社の経済状況も新たな局面を迎えており,僕の長きにわたる「お金にまつわる苦労」も新次元に突入しました。
ですが,「潰れたらそれっきりなんだし,その様子を文字にして皆さんに見てもらうのはどうだろう?」とロクでもないことを思いついたところ,「え,おもしろそうじゃないですか」とまさかの乗り気を見せる担当編集さん。こんなスピード感で連載が決まってしまうというのも,リモートワークの功罪かもしれません。
さてそこで張り切ってお金の話,と一言に申しましてもその位相は実に多面的です。どこにフォーカスするかによって,内容がまったく変わってしまうものです。なのでここは一つ,具体的なシーンを用意してみました。
しかも,初めてGamesIndustry.bizに取りあげられる内容が,「クリエイティブ」に関するものでなく「お金」であるところが,「その世界でいまいちメジャーになれない僕,ひいては24Frameの宿命っぽい」などと,全人類にとっては非常にどうでもいいことを考えつつ,ある人を待っているという状況です。
しかし,話はここから大きくトーンを変えてまいります。この中年男性(つまり僕です,念のため)が待っている待ち人,それは福音をもたらす天使か,はたまた地獄の使者か?といった感じに心を揺さぶる存在。今まで当社に一切の縁がなかったタイプの人間,カタギ中のカタギ「銀行員」様その人なのでございました。
「なぜ銀行員が場末のゲーム会社にわざわざ出向くのか」と,疑問に思われるのはごもっとも。なにせ僕自身も疑問なのですから。銀行員さんが会社にやって来るときはおそらく二つ。「金を貸すときか,返せと迫るとき」。うちの雰囲気からすれば,借金がかさんで取り立てが来るのか,といったことを想像することでしょう。
しかし,意外にも僕はこの会社を始めてから借金というものをしたことがありません。借金らしい借金といえば,学生時代の奨学金ぐらいで(全部自主制作映画に突っ込みました),それは結構な苦労をして,最近ようやく返済を終えたので,現在借金はゼロの無借金男です。そして会社も「無借金経営」です。
そもそもカタギの人が来るなんて,社歴始まって以来なのではないでしょうか(いや,担当の税理士さんはちょくちょくきますね。すみません税理士さん,付き合いが長すぎてあなた方がカタギだということを忘れておりました)。
今でこそだいぶ様変わりしてきましたが,基本的にゲーム業界人は,ある程度道を踏み外した輩の類でして(筆者のイメージです),カタギのみなさまを見るとそれだけで申し訳ないような,居心地が悪いような気がしてくるわけです。
「ジャッジメント・デイ」。そんな単語が頭をよぎりつつ,社長自らお迎えにあがったのでした。(ほかに誰もいないので)。そしてドアを開けたとき,そこに立っていたのは,カタギの名に恥じぬ,極めて真面目そうな女性の姿が。しっかりと握られたかばんは重そうで,分厚い。さすがカタギ,と再度思うより早く,この分厚さは「僕のような素性怪しき人間に鉄槌を下すためのトールハンマー,もしくは閻魔帳か」という考えがイの一番に頭をよぎったことを,ここで正直に告白しておきます。
あらゆるデータはリモートの中で書面化される機会を失い,ディスプレイの中の仮想現実と成り下がり,それをディールすることで飯を食っているのが人の常である現在に,この実在感,「フィジカル」な書面の圧倒的存在感。なれない事態に僕が思わず失禁に近いインパクトを受けてしまったとしても,誰がそれを責められるでしょう。
そんなこととはつゆ知らず,目の前に現れた真面目な銀行員の姿に「あぁ,女性を肉眼で確認するのは実に久方ぶりだなあ」などと間抜けな感想を抱く業界の辺境の経営者,そんな僕の数奇で場違いな運命のドキュメントを今後も是非見守っていただけると幸いです。どうぞよろしくお願いします。それでは,現場からは以上です。友野でした。
【次回予告】
久しぶりに見た生の女性に興奮を覚える業界の辺境経営者・友野祐介は,突きつけられた書類の内容に徹底的に打ちのめされてしまう。果たして彼女が持ってきた書類とはなんだったのか。友野祐介が人生で初めて体験する地獄の反復作業とは……。次回「煉獄の書類審査。ああっ女神さまっ,私をお許しください」,お楽しみに!
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「株式会社24Frameの内情暴露日誌」連載一覧
※次回の掲載は4月27日を予定しています