【月間総括】COVID下の第1四半期,コンシューマゲーム業界はどうだったのか?

 今月は,コンシューマーゲーム会社の第1四半期(4-6月)決算について触れたい。
 第1四半期決算としては,バンダイナムコホールディングスを除き,素晴らしい内容であった。
 通常,4-6月期のゲーム市場は基本的に低調で,決算も弱いことが多いが,売上高はともかく,利益水準はクリスマスや期末に匹敵する規模になった。ゲーム業界を見るようになって15年以上が経つが,第1四半期にこれほどの業績を上げたことを見たことがない。
新型コロナウイルスに伴って外出制限が課された状況下で,家庭内娯楽に対する需要が著しく増しており,コンシューマーゲーム市場を拡大させているのである。

 それでは,エース経済研究所でカバーしている5社について,順に触れていこう。

(出所)決算短信よりエース経済研究所
【月間総括】COVID下の第1四半期,コンシューマゲーム業界はどうだったのか?
 最初に,ソニーのゲーム事業が大幅増収増益となった。
 HDDの生産がロックダウンの影響で難しくなったため,PS4の出荷は190万台に留まった。しかし,驚くべきはゲームソフトの販売で,昨年のクリスマスシーズンを超えた。ロックダウンが厳しかった4月に,スリープユーザーを中心にPS4が再稼働したことが好影響を与えたとしている。この収益水準は,エース経済研究所の予想を大幅に上回るビッグサプライズだった。
 新型コロナウイルスで巣ごもり需要が大いに盛り上がったと言っていいだろう。

 ここで,前回の話を修正しておきたい。前回,この場で空輸は現実的なコストで行うことが難しいとした。しかし,会社側にヒアリングしたところ,PS5の空輸を実施する可能性があるとのことであった。実際に行う場合,チャーター機による輸送となろうが,当初は費用の問題からかなり難しいと考えていた。それだけに先月の話は早計だったと反省している。
 この可能性が出てきたのは,第1四半期のゲーム事業の営業利益が1240億円と非常に好調だったことに尽きるだろう。第2四半期も落ちる要素はそれほど見られないので,仮に第1四半期と同水準だとすると,通期計画の2500億円を達成してしまいそうな状況である。数百万台を空輸すると数百億円単位の費用が発生するのだが,それでもPS5の普及に尽くしたいということであろう。
 これ自体は非常に素晴らしいことだと思っている。ほしいユーザーに1台でも多く届けられるようになるからだ。

 エース経済研究所ではPS5の販売を決して楽観視していないと述べているが,会社側からは現時点でそのような見方する投資家は皆無との言葉をいただいている。
 おそらく,読者におかれても,新型コロナウイルスはゲーム業界にプラスに寄与しており,PS4は品薄で,ダウンロード販売も伸びている現況下で,PS5の販売はゆるぎないものではないかと思われているのではないだろうか。しかし,ここで繰り返し提示しているグラフは,性能も,追い風も,価格も,新規ハードの販売の趨勢に影響がないことを示している。今回それが初めて覆されるかが注目だろう。

 そして,8月27日に米国でPS5の販売予約権というべきものの招待受付が始まった(関連記事)。PSNユーザーが申し込み,SIEから招待されると予約できるようになるようだ。過去のいくつかの履歴で招待対象者が決まるようなので,そもそも忠誠心(ロイヤリティ)の高いユーザー向けのサービスのようだ。
 エース経済研究所では,ゲーム機はあまねく広い人に普及を目指すべきだと考えているので,このような販売手法が好ましいとは思えないが,AIスピーカーの販売初期にも見られた手法なので,一定の意味合いがあるのだろう。

(出所)決算短信よりエース経済研究所
【月間総括】COVID下の第1四半期,コンシューマゲーム業界はどうだったのか?
 次いで任天堂である。第1四半期は凄いとしか言いようがない大幅増収増益だった。
 Nintendo Switchの販売が伸びたほか,「あつまれ どうぶつの森」が4-6月期だけで1063万本と,これも閑散期とは思えないほどの販売となった。同タイトルのダウンロード販売比率も50%近いとしているので,多くの人が外出制限下で家庭用ゲームを楽しんだということだろう。

 とくに,Switchの販売(着荷)台数は568万台と,ロックダウンで部品調達が難しいなか,大幅に伸ばすことができた。手持ち在庫が一部あったことと,空輸を実施したことによるもののようだ。7月以降も,すべてを空輸とはいかないだろうが,実施する可能性があるとしている。米国や日本では品薄な状況にあるとしているので,いかに素早く運ぶかということも重要だろう。

 この点も踏まえて,エース経済研究所では,今期のSwitch販売台数予想を2300万台に上方修正した。第1四半期の販売は,前年の第1四半期比較で大幅に増えており,足元の品薄を考えると,前年度より減るとは考えにくいためだ。4年めで,ここまでの品薄になる状況は記憶になく,予想が非常に難しい面がある。ただ,おそらく年末商戦はSwitchが優位になるだろう。

 ここからは,サードパーティの決算となるが,各社とも,外出制限下でデジタルゲームのダウンロード販売が好調だった。

(出所)決算短信よりエース経済研究所
【月間総括】COVID下の第1四半期,コンシューマゲーム業界はどうだったのか?
 まず,最初に第1四半期決算が発表されたコーエーテクモホールディングスは大幅増収増益だった。「仁王」をはじめとした過去作のダウンロード販売が巣ごもりで好調だったほか,中国でアリババが展開しているスマートフォンゲーム「三國志 戦略版」が中国市場で順調に推移したことも寄与している。
 この「戦略版」はロイヤリティを受け取る形になるので利益率も高く,業績を大幅に押し上げている。会社側は,新型コロナウイルスの影響による押し上げ効果があるとしているので,第2四半期以降もこの状況が続くのであろう。

(出所)決算短信よりエース経済研究所
【月間総括】COVID下の第1四半期,コンシューマゲーム業界はどうだったのか?
 続いて,スクウェア・エニックス・ホールディングスだが,こちらも大幅増収増益だった。前年9月にリリースされ,大ヒットした「ドラゴンクエストウォーク」は前期の第1四半期に含まれず,さらに今第1四半期は「FF7R」が発売されたため,大幅増収増益になるとは想定していたが,それ以上の結果であった。
 これも,パッケージコストが不要なダウンロード販売の伸びていることが大きい。スマートフォンゲームも市場全体はコンシューマーほど好調ではないが,同社はIPの活用で大きな成果を上げていると言ってよいだろう。

 最後に,バンダイナムコホールディングスである。
【月間総括】COVID下の第1四半期,コンシューマゲーム業界はどうだったのか?
 エース経済研究所でカバーしている5社で唯一,減収減益に終わった。ゲームビジネス中心のネットワークエンターテインメント事業は大幅増益だったものの,同社は幅広い年齢層向けの玩具や,アミューズメント施設運営を手掛けており,緊急事態宣言下での店舗閉鎖の影響が出たためである。
 同社の強みはIPをリアルとデジタル両方で活かせるIP軸戦略にあるが,今回はリアルビジネスが大きく落ち込んで裏目に出てしまった。それでも同社は強力なIPを擁しているため,いずれ回復すると考えている。
 新型コロナウイルスの影響は,ほとんどの業界でマイナスに働いているが,コンシューマゲームセクターは例外的な動きとなっていることが,お分かりいただけるだろう。

 第2四半期は,任天堂がさらに盛り上がると予想している。Switchの生産トラブルはすでに解消しており,Switchの出荷は増える見通しだからだ。
 ソニーのゲーム事業は横ばい圏であろう。自社の「ゴーストオブツシマ」が大ヒットしているため,ヒット次第では一段と拡大するかもしれない。
 SIEは近年,自社スタジオに力を入れており,フォトリアルタイトルでは成功するケースが増えている。おそらく何らかの施策が成功したからだと思うのだが,現時点では明確な回答は得られていない。今後も,コンテンツの育成に注力してもらいたいものである。