【ACADEMY】早期アクセスの指針:法的および実務的な考慮点
近年,多くのスタジオが従来の発売方法を避けて,早期アクセスに移行している。Baldur's Gate 3とValheimは昨年最も強力なタイトルだったが,どちらもまだフルローンチには至っていない。
もちろん,早期アクセスによる反復的なリリースは目新しいものではないが(2009年のMinecraftを思い出してほしい),その利点は間違いなく魅力的だ。デベロッパはゲームをソフトローンチして,ターゲットとするユーザーに直接その実現性をテストし,同時にコミュニティを構築して,進行中の開発のために収益を上げることができる。
しかし,早期アクセスの開始にあたって,法的および実際的な考慮事項とは何だろうか? また,β版のタイトルに関するデベロッパ/パブリッシャの義務は,バージョン1.0と比較してどの程度異なるのだろうか?
目次
- 1. 消費者の権利入門編
- 2. 「早期アクセス」であることをを声高かつ明確に説明する
- 3. 満足度,合目的性:プレイ可能な状態を維持する
- 4. コミュニケーションとコミュニティ
- 5. 期待の管理と教訓について
1. 消費者の権利 入門編
重要なのは,あなたのゲームがα版やβ版の状態であっても,消費者法を満たす義務が免除されるわけではないということだ:ひどいバグだらけで,何でもかんでも出していいわけではない。
「消費者法」とは,商品,サービス,デジタルコンテンツの購入者を,詐欺や不当販売など,購入によって発生しうるあらゆる問題から保護するための法律(とくに「消費者権利法2015」※2015年に制定されたイギリスの消費者保護法)のことを指す。
重要な原則として,商品およびデジタルコンテンツは以下のものでなければならない。
(i) 説明どおりであること
(ii) 満足のいく品質であること
(iii) 目的に適合していること
2. 「早期アクセス」であることをを声高かつ明確に説明する
要旨:
このゲームは早期アクセスであり,バグを含む可能性があることを潜在的なプレイヤーに十分警告する。その際に,プラットフォームのブランディングガイドラインを遵守すること。
ゲームに関しては,まず,プレイヤーは,支払いを行う前に,そのタイトルに何を期待するかを知る必要があることを意味する。また,デジタルであろうとなかろうと,購入した商品に欠陥があった場合,プレイヤーは全額返金する権利を有する。
これはプレイヤーに与えられる最低限の権利であり,プラットフォームは返品に関してさらに寛容であることが多い。たとえば,Steamの返品ポリシー(参考URL)にはこう書かれている。「Steamでは,ほぼすべての購入品について,理由の如何を問わず返金を請求できます。お使いのPCがハードウェアの要件を満たしていない,間違ってゲームを買ってしまった,1時間だけプレイして気に入らなかった,などです」
このゲームは早期アクセスであり,バグが含まれる可能性があることを潜在的なプレイヤーに十分警告すること
最も重要なことは,積極的なマーケティングを行うかどうかにかかわらず,ゲームはあなたが言うとおりのものでなければならないということだ。購入者に対しては,たとえばオープンβ版であることや,ゲームの現状について明確な情報を提供する必要がある。プレイヤーは,ゲームにバグが含まれることを予見し,フィードバックを提供するよう奨励する必要がある。さらに,ゲームを早期アクセスとしてマークする際に,特定のブランディングガイドラインを遵守する必要がある場合もある。Steamを例にとると,ブランディングガイドラインでは(参考URL),早期アクセスタイトルのSteamキーを販売する際に含めなければならないロゴとテキストが規定されている。
また,消費者法に関する上記のメッセージをより強く印象づけるために,Steamは次のようにも書いている。「我々は,お客様が Steam でEarly Accessタイトルを購入する際に,何を購入するのかを理解していただけるよう努力しています。他の場所でSteamのEarly Accessタイトルを購入するお客様にも,その内容を理解していただくことが同様に重要であると考えています」
3. 満足度と合目的性:プレイ可能な状態を維持すること
要旨:
ゲームを購入する契約には,満足のいく品質であること。それにはゲームの主要な目的に適合していることを約束することも含まれる。早期アクセスであっても,ゲームは十分にプレイ可能な開発段階のものでなければならない。
上で挙げた重要な原則の項目(製品は「説明のとおり」でなければならない)を処理したら,項目(ii)と(iii)にはまだ注意が必要だ:タイトルは依然として「満足のいく品質」と「特定の目的に適合」していなければならない。
早期アクセスであろうとなかろうと,ゲームの購入はすべて契約の条件に従うことになる。この契約は,多くの場合,ゲームのEnd-User Licence Agreement(EULA)および/または消費者が購入時に同意するプラットフォームの規約という形式を取る。この契約には,タイトルが満足のいく品質であり,目的に適合しているという明示的な条項が含まれていることが多い。
そのような明示的な条項がない場合でも,これらの条項は,消費者の権利法2015によって契約に暗示される。
あなたのゲームを購入する契約には,そのゲームをプレイする中核的な目的に適合しているという約束が含まれる。早期アクセスであっても,ゲームは十分にプレイ可能な開発段階でなければならない
この法律そのものを言い換えると,以下のようになる。
- 「商品(またはデジタルコンテンツ)を供給するすべての契約は,商品(またはデジタルコンテンツ)の品質が満足のいくものであるという条項を含むものとして扱われる」
- 「契約は,商品(またはデジタルコンテンツ)がその目的(すなわち,ゲームをプレイするという目的)に合理的に適合しているという条件を含むものとして扱われる」
消費者は,ゲームをプレイするためにお金を払っているわけだから,購入時の注意事項や警告にかかわらず,何らかの形でゲームをプレイできる状態である必要がある。これはSteamの早期アクセス条件にも明記されているとおりだ(参考URL)。
もちろん,ゲームの購入者が,本来の機能を果たさない製品を販売したとして,あなたが明示または黙示の契約条件に違反していると主張するような事態は避けたいと思うだろう。
早期アクセス開始までに開発が最終段階に達している必要はない。バグや不具合は予想されることだ。しかし,ゲームが開発の初期段階にあり,顧客に実行可能なゲームを提供する際に十分なゲームプレイができないような状態であってはならない。
簡単に言えば,何らかのプレイアブルなゲームが必要であり,それがプレイヤーが期待する最低限のものであることは言うまでもない。
4. コミュニケーションとコミュニティ
要旨:コミュニティの関与とフィードバックは良いことであり,奨励されるべきだが,スタジオは過剰な約束を避けるように注意する必要がある。とくに,完全なローンチが確実になるまで,それに関する約束は避ける。
コミュニティの関与とフィードバックは,早期アクセスプロセスにおいて不可欠な要素だ。Redbeet InteractiveのRaftと,2016年のItch.ioのプロトタイプから2018年の早期アクセスリリースまで,コミュニティが後押しした過程を見れば,6月に非常に好評なバージョン1.0のローンチに至ったことが分かるだろう。
コミュニケーション,とくにローンチに関する計画について言えば,スタジオは過剰な約束をしないように注意すべきだ。
早期アクセス以前から,コミュニティとの連携はゲームの開発プロセスに不可欠な要素であり,この熱心なコミュニティからのフィードバックは,間違いなくRaftの進化に重要な推進力となっていたことだろう。
コミュニティとのコミュニケーションに関しては,とくに最終的なローンチに関する計画については,スタジオは過剰な期待をしないように注意する必要がある。一般的なアドバイスとして,タイトルの完成時期や,完成するかどうかについて確約するような発言は避けたほうがよいだろう。
Raftを見習って,開発状況や新チャプターの情報を提供するのは構わないが,最終的なバージョン1.0のローンチについては,それが確実なものになるまで一切明言しないようにしてほしい。
最終的にフルローンチに至らないという可能性は常にあるので,購入希望者にはそのリスクを認識したうえで購入してもらう必要がある。早期アクセスリリースの興奮で過剰な期待をし,あとでそのツケを払わされないようにすることが重要なのだ。
5. 期待値の管理と教訓について
昨年末,CD Projekt RedがCyberpunk 2077の発売後に株主と揉めたこと(集団訴訟の結果,CD Projektは185万ドルで和解)は,消費者の期待を管理するうえで適切な訓話を提供するものだった。
明確なメッセージングと消費者の期待の管理が最優先されるべきだ
もしCD ProjektがCyberpunk 2077の発売を遅らせて,代わりに早期アクセス版として,期待されるすべての注意事項や健康に関する警告を表示したうえでリリースしていたならば,不具合やエラーは当然のこととして受け止められ,同社が過去1年の大半を,不満を持つ消費者や公的訴訟との戦いに費やすこともなかっただろう。対照的に,1047 Gamesは,2017年に早期アクセスでリリースしたSplitgateの本格的なローンチを延期し,明らかに成功したオープンβを延長することを優先することを決定した。この決断は,投資家から同社に1億ドルの資金を注入することで速やかに報われた。
当然ながら,早期アクセス対従来のリリースを巡る議論は,この2つの例から想像されるよりも微妙なものだ。しかし,スタジオがどちらのルートを選ぶにせよ,消費者法に抵触するリスクを軽減するためには,明確なメッセージと消費者の期待を管理することが最優先されるべきだ。
たとえ早期アクセス版であっても,むしろとくに早期アクセス版である場合は,コミュニケーションが重要なのだ。
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Anna Poulter-Jones氏は,ロンドンを拠点とするメディアおよびテクノロジー関連の法律事務所Sheridansのゲーム弁護士だ。ゲーム業界のクライアントに対し,商業および知的財産に関するさまざまなアドバイスを行っている。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)