【ACADEMY】英国のオンライン安全法案は,世界のゲームを変えるのか?

FieldfisherのFrankie Everitt氏とJohn Brunning氏が,この重要な政策がもたらす影響と,その遵守のために何をすべきかを探る。

 ゲームコミュニティにとって安全で包括的,かつ魅力的な空間を作ることは,長期にわたるゲーム業界の目標であり,業界では,違法行為や好ましくない行為に対処し,プレイヤーの安全を確保するためのツール,機能,プロセスを作成し,実装してきた。

 今日まで,このアプローチは主に自主的なもので,規制は電子商取引規制の下での違法コンテンツの削除要件など,限られたものだけだった。

 しかしながら,英国のオンラインセーフティ法案(Online Safety Bill)の導入により,この状況は一変する。これは,英国政府の主要政策であり,オンラインプラットフォームとサービスの規制を画期的に変化させ,オンラインにおける説明責任の新時代を切り開くものだ。ソーシャルメディア大手に注目が集まっているが,現在下院の特別委員会段階にあるこの法案は(参考URL),ゲーム業界全体にも大きな影響を与えるだろう。

 昨年5月に法案の草案が公開され,UKIE(参考URL)とTIGA(参考URL)の両者がゲーム業界を代表してそのプロセスに関与している。彼らによる精査とフィードバックの結果,法案は大幅に強化され,洗練された。しかし,その中核には,ユーザー,とくに子供たちのオンライン上の安全を確保することを目的とした,法的な注意義務が残されている。


自社のゲームやプラットフォームは適用範囲に入るのか?


 現在の草案では,法案は,オンラインのユーザー間サービスと,それらのサービスが英国にリンクしている場合の検索サービスに適用されることになっている。

 詳細については多少複雑だが,大まかに言えば,以下のようなオンラインゲームやプラットフォームは適用範囲に含まれると思われる。

  • プレイヤーまたはユーザーがコンテンツを生成,アップロード,他者と共有できる,または検索を通じてコンテンツを見つけることができる
  • 英国のユーザーが相当数いるか,英国がターゲット市場である
  • 英国で使用可能であり,英国の個人に重大な損害を与える危険性があると信じるに足る合理的な根拠がある

 これにはいくつかの例外がある。たとえば,1対1のライブ口頭コミュニケーション(ライブチャット機能など)は免除される。ただし,ゲームにチャット機能が含まれていたり,グループチャットのオプションがある場合は,法案の範囲に戻ることになる。

ゲーム業界にとってとくに難しい(そしておそらくユニークな)問題は,ユーザー間サービスのプロバイダの定義の周りにある

 ゲーム業界にとってとくに困難な(そしておそらくユニークな)問題は,ユーザー間サービスの提供者の定義にある。法案は,ゲームのユーザー間機能を使用できるユーザーを管理するプロバイダを対象としている。政府は,「ユーザーがユーザー生成コンテンツと対話したり共有したりできる機能へのユーザーのアクセスを直接管理する事業者であって,そのサービスを組み込んだり他の側面を管理したりできる他の事業者ではない」ことに焦点を当てることを意図している。

 オンラインゲームの文脈では,ゲームの開発,パブリッシング,配信に関わる各企業は,この機能を制御しているかどうかを評価する必要がある。これは言うは易く行うは難しで,導入された契約モデル,ゲームの提供,アクセス,運営における各当事者の役割,エンドプレイヤーとの関係などの多くの要因に依存することになるだろう。

 デベロッパ,パブリッシャ,ディストリビュータの間でどのように責任を分担するのかは,まだ分からない。今後,これらのオンライン安全要件を考慮し,契約上の責任を分担するための詳細な要件,免責,責任条項が盛り込まれた契約が登場することを期待している。


何をしなければならないのか?


 法案は,(1)違法コンテンツと(2)有害コンテンツの2種類のコンテンツからユーザーを保護する注意義務を確立することを目的に,規制対象サービスに広範な義務を課している。

 違法コンテンツとは,テロ犯罪,児童性的虐待犯罪,その他の優先的違法コンテンツ(政府が規則で特定する)に相当するコンテンツと定義されている。有害コンテンツは,児童に有害なコンテンツと成人に有害なコンテンツに分けられ,違法コンテンツよりも幅広く,より主観的なものとなっている。

オンラインゲームの多くは子供がアクセスする可能性が高いため,子供の安全に関する追加義務はこの分野に大きく関連することになる

 オンラインゲームを含むすべての規制対象サービスには,多くの一般的な義務が課される。これには以下が含まれる。

  • 違法コンテンツに対するリスクアセスメントを実施する義務
  • 個々のユーザーに対する危害のリスクを低減し,管理するための適切な措置を講じる安全義務
  • 表現の自由とプライバシーの権利を保護する義務
  • 適切な報告システムおよび苦情処理プロセスの整備を含む,報告および救済の義務

 子供がアクセスする可能性の高い規制対象サービスや,カテゴリー1サービス(高リスク・高リーチサービスの少人数を対象とした設計)に該当するサービスには,追加の義務がある。多くのオンラインゲームはカテゴリー1の対象外となることが予想されるが,オンラインゲームのほとんどは子供がアクセスする可能性が高いため,年齢認証対策にかかわらず,子供の安全に関する追加義務はこの分野に大きく関係することになる。


遵守しないとどうなるか?


 コンプライアンスに違反した場合,経済的に大きな影響を受ける可能性がある。規制対象のゲーム会社は,Ofcomから最大1800万ポンド(※約30億円),または全世界の年間売上高の10%の罰金を科される可能性がある。

 さらに,ゲーム会社は,継続的なコンプライアンスの負担とコストに直面することが避けられず,これはとくに小規模のゲーム会社にとって課題となる可能性がある。多くの企業は,自社のコンプライアンスに比例したリスクベースのアプローチを取りたいと考えているが,ゲームの性質上,またバイラルな成功によってプレイヤー数が突然急増する可能性があるため,そういった企業はリスク評価を常に見直す必要がある。

コンプライアンス違反に対する金銭的影響は大きく,最大1800万ポンドの罰金,または全世界の年間売上高の10%が課される

 法案はまた,Ofcomの情報通知に従わないことを含む,いくつかの刑事犯罪を創設している。また,コンプライアンスを推進するために,Ofcomが法案に従わない企業の上級管理職に対して刑事処分を行う権限を留保している。

 新たな規制に関する過去の経験から,Ofcomは当初,現実主義を貫くと思われるが,主要な分野でコンプライアンス違反に対処するようになるのは,そう遠くないだろう。ゲームやインタラクティブエンターテインメントの急成長に伴い,この分野もOfcomのターゲットになることが予想される。


今すべきことは?


 法案の最終的な条文は議会で確定されるため,多少の変更はあり得るが,大幅な改正は考えにくいため,今のうちに準備を始めることをお勧めする。法案が成立するまでに,コンプライアンスを確保するために,今できる5つのことを紹介する。

●自社のゲームやプラットフォームが適用範囲に入るかどうかの判断
 自社のゲームやプラットフォームが法案の適用範囲に入る可能性があるかどうかを評価する。たとえば,次のように自問してほしい。

  • 自社のゲームまたはプラットフォームは,ユーザーがユーザーコンテンツを作成および共有することを可能にするかの確認
  • チャット機能(音声チャット,文字チャットを問わず),またはプレイヤー間のその他のコミュニケーションを可能にする機能を含んでいるかの確認
  • 英国にプレイヤーがいるか,またはゲームやプラットフォームが英国市場をターゲットにしているかの確認

●オンライン安全性リスクアセスメントの実施
Fieldfisherの公共・規制担当弁護士Frankie Everitt氏
【ACADEMY】英国のオンライン安全法案は,世界のゲームを変えるのか?
 すべてのゲーム事業者は,ゲーム上の違法・有害コンテンツに取り組むために積極的なアプローチをとる必要がある。

 多くの企業にとって最初のステップは,自社のユーザーベースと,サービス上でそれらのユーザーに害を及ぼすリスクを評価することだろう。法案では,リスク評価でカバーすべき事項のリストを定めている。これらの要素に精通し,ビジネス全体から関連する専門家を集め,リスクアセスメントの開発を始める必要がある。

 この評価の一部には,そのゲームが子供によってアクセスされる可能性があるかどうかを検討することも含まれる(これは比較的低いハードルだろう)。もしそうであれば,たとえそのコンテンツが犯罪でなくても,有害コンテンツから18歳未満を保護する必要がある。有害なコンテンツの分類は,いずれ二次的な法律で定められるだろう。


Fieldfisherのゲーム&テクノロジーパートナーJohn Brunning氏
【ACADEMY】英国のオンライン安全法案は,世界のゲームを変えるのか?
●苦情処理手続きの見直し
 法案は,ゲーム事業者に対して,特定の種類の苦情に対応できる,透明で使い勝手のよい苦情処理手続きを設けることを求めている。苦情処理手続きに求められるものは以下のとおりだ。

  • コンテンツの種類とゲームに関連する義務に関連して苦情を申し立てることができるようにすること

  • 苦情が認められた場合,適切な措置が取られること(適切な措置の例としては,違法とされたコンテンツの削除や不当に削除されたコンテンツの復帰などが考えられる)

  • 子供を含むすべての利用者がアクセスしやすく,使いやすいこと

  • 透明性があること(たとえば,苦情の種類や,ユーザーが苦情を申し立てた時点から期待できることなど,苦情処理手続きの各ステップが明確に示されていること)。また,利用規約には,苦情処理を規定するポリシーと手順を明記する必要がある

 現在の苦情処理手順がこれらの要件を満たしているかどうか,また,それらを更新するために必要な手順(利用規約やその他のポリシー,手順の両方)について検討を始める必要がある。


●ユーザーレポートの設定
 ゲーム会社は,ユーザーや影響を受ける人が,特定の種類のコンテンツや活動を報告できるようなシステムやプロセスを導入する必要がある。影響を受ける人とは,コンテンツの影響を受ける可能性のある人,あるいは他のユーザーからの苦情に対応する必要がある人を指す。

 今こそ,現在の報告プロセスや手順を検証する良い機会だろう。ユーザーは,規則に違反するコンテンツや行動を報告するための仕組みを簡単に見つけ,利用できるだろうか? 


●Ofcomの暫定的な実践規範を確認する
 サービスプロバイダは,児童の性的搾取や虐待のコンテンツが検出されても報告されない場合,国家犯罪局(NCA)に報告されるようなシステムとプロセスを導入する必要がある。NCAへの報告は,今後規定される方法に沿って期間内に行わなければならない。

 一方,Ofcomは違法コンテンツに関する有用な暫定規範を発表している(参考URL)。これは有用なツールであり,新体制のもとでOfcomが今後,規制対象のゲームに何を期待するかを示している。テロリストのコンテンツであれ,児童の性的虐待の素材であれ,違法なコンテンツを検出するために現在備えているシステム,プロセス,ツール,および利用可能な報告メカニズムについて検討する必要がある。

 本稿執筆時点で,オンライン安全法案は議会の特別委員会段階に入っている。発効の時期は未定だが,立法前の精査の程度を考慮すると,法案が法律として成立し,施行が開始されるまでの期間は比較的短いと予想されている。


John Brunning氏は,Fieldfisherのゲーム&テクノロジー分野のパートナーだ。ゲーム業界全般を担当し,パブリッシャやディストリビューター,デベロッパ,ソーシャルメディアプラットフォーム,広告技術,バックエンド技術プロバイダーなどを代理している。Frankie Everitt氏はFieldfisher の公共・規制担当弁護士。テクノロジー企業の著名な訴訟や非訟案件でアドバイスを行っている。過去2年間,オンライン安全法案の策定をフォローし,その影響についてクライアントに助言してきた。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら