【月間総括】次世代機前夜,PS5は2週間で45万台売り上げを達成できるか

 今月は,いよいよPS5とXbox Series Xが発売される。発売日前後は大いに盛り上がると予想しているので,多くの方が楽しまれることを祈っている。

 業界的な目線で日本市場を考えると,ポイントは最初の2週間でどれくらい売れるかであろう。エース経済研究所では,過去のデータから見て,成功ラインを45万台前後と見ている。ファミ通のデータでは,Switchの最初2週間の実売は39万台と,この水準より下であった。しかし,任天堂が自社で行った国内1000万台突破のリリースタイミングとファミ通の1000万台超のデータに約20日の差があることから,(メーカーしか数を把握できない直販分などで)初期の台数推計の誤差が大きくなっており,実際の実売は39万台より多かったものと考えている。

 今回は,次世代機の発売に当たるので,発売から25週間のデータを使いたい。これを見ると,最初の2週間の角度が悪いとその後も不振のようである。

●発売から25週間のゲーム機実売推移
(出所)ファミ通
【月間総括】次世代機前夜,PS5は2週間で45万台売り上げを達成できるか

 以前も取り上げたが,次世代機の発売においては

  1. 最初に十分な量を供給する必要がある
  2. 2週間で45万台前後の販売を達成したハードで失敗した事例はない
  3. 初期に販売不振に陥ったハードはどのようなソフトでも挽回できない

ということは確かである。

 ぜひ,ソニーには,日本での供給量を最初から多くしてもらいたいものである。最初に45万台程度売れれば,エース経済研究所が指摘する「大きい」「丸い」「白い」,そして「ゲーム機に見えない」という不安材料を吹き飛ばす素晴らしい結果になりそうだ。ソニー側は,こうした見た目と販売に関係がないとコメントしているだけに,非常に期待している。
 PS4は,初回台数という点では適切であったが,SIEが日本市場に冷淡な施策をとっていたのは問題だと考えている。PS4は主要国では日本が最後の発売であった。Vitaの販売(売上)台数はSIEのサイトで非開示と明言されていて「なかったこと」同然の扱いである。

 PS5も,公開されるプロモーションは英語での紹介しかなく,しかも,一部しか日本語に翻訳されていないものとなっている。日本は,たいして売れない市場で,どうでもいいということなのだろうが,先月も書いたように日本は2000万台以上売れる有望な市場である。しかも,ゲームの歴史を見ても,ヒットは日本から始まっているケースが多い。日本市場を無視し続けていると,SIEひいてはソニーに禍根を残すことになるだろうと,エース経済研究所では予想している。

 私の予想は,ソニー経営陣にはきっと耳の痛い話であろう。しかし,ここ25年間のデータは信頼がおけるものだと思っている。その結果は,もうすぐ出るだろう。

【月間総括】次世代機前夜,PS5は2週間で45万台売り上げを達成できるか
 そして,ここからは先月触れられなかった任天堂の経営方針説明会について話したい。
 なんといっても,最大のポイントは,任天堂のDNAを「誰もが直観的に楽しめる任天堂独自の遊びを提供し続けること」と定義している点である。
 とくに直観的という表現が目につく。故岩田氏が社長だったころには「直感的な操作」という表現が見られた程度で,製品全体にはなかった表現である。岩田氏は没入感という表現を好んで使っていた。そして,それは今,PS5で盛んに使われている。

 しかし,古川社長は,一目で分かるということを製品戦略の基本としているようである。
 これは,故岩田社長の頃からの任天堂から見ると実は大きな変化なのだが,ユーザーはともかくとして,投資家やメディアに伝わっているとはとても思えない。

 投資家やメディアはイノベーションを好む。テクノロジーが一夜にして地球全体を変えるような劇的な変化を望んでいることが多い。しかも,世間一般では,見た目よりも,中身のほうが大事と思われているので,見た目を重視する表現は理解されにくいだろう。

 そして,この直観的という表現は,エース経済研究所において「ゲーム機の販売はデザインとスタイルで決まる」と指摘しているものとほぼ同じである。また,この直観的という表現は,エース経済研究所が"形仮説"を提唱し,任天堂側と議論するようになって以降に登場したものである。現時点では,任天堂にしか"形仮説"は理解されていないようであるが,それでもソニーにはこのような考え方をしている人はいないと無視されているので,よく理解してもらったものだと思う。普通は世界で一人しか言ってないことは笑いものになるのが常である。
 この理解の差は今後,ゲーム機の販売数の差となって現れると考えている。まずは,2020年の10-12月期のPS5,Xbox Series XとSwitchの販売台数の差になるだろう。おそらく,倍以上は差が付くはずである。PS5は小型化しないかぎり,PS4のトレンドを上回ることは難しいと予想しているが,この理解の差が何を生み出すかは,今後の推移でさらに明らかになるだろう。

 また,経営方針説明会で,個人的に非常に面白いと思ったのが研究開発方針である。

 「最新の技術トレンドも常に研究しているが,ユニークな娯楽の提案ができるタイミングを見極めたうえで取り入れていく」

としている。任天堂は最新の技術に興味がないと思われている点を強く意識した表現だ。質疑応答でも,エース経済研究所が指摘したが,最新の技術は量産性に問題があることが多く,ゲーム機のように広く普及を狙う製品との相性が必ずしも良くないのである。

 PS5やXbox Seriesでも(iPhone 12で使われた)最新のプロセスである5nmは採用されていない。当然コストが高く,300平方ミリ(PS5は開示されていないが,分解動画から見てかなり大きいのは確かである)を超えるような大型チップの量産は容易ではないからだ。
 任天堂は,Switchのローンチ時に20nmのプロセスを採用した。当時の最新は14/16nmだったので最新より1世代古いものだった。ただ,PS4が小型版ですでに16nmFEPを採用済みだったので相当慎重な選択であるが,その分,ヒットしたときに増産しやすいメリットがある。Switchが発売直後に生産量を大幅に引き上げることができた一要因として,最新の技術を採用していなかったことも大きい。

 さらに,任天堂はクラウドゲームも,VR も研究しているのである。そして,ソニーやGoogle,Facebookと違って「すぐには普及しない」と考えただけのことなのである。

 これまでにゲームのデベロッパと話をする機会が何度かあったが,デベロッパの方は最新のテクノロジーを常に追い続けないと,それが生涯賃金や雇用そのものに大きな影響があると考えているようである。
 しかし,日本のゲーム専用機のシェアはSwitchが圧倒的で,利益の大部分は任天堂が稼ぎ出しているという現実がある。欧米でもSwitchの販売が好調である。本当に最新のテクノロジーでなければ成功しないのか? 
 任天堂の経営方針説明会の古川社長のプレゼンは,そう問いかけているようである。

 最後にIP(知的財産)戦略である。これは言ってしまうと身も蓋もない話だが,ゲーム機の販売には,IPはほとんど寄与していない。
 しかし,利益の大部分をIPから稼ぎ出しているのも事実である。任天堂はテーマパークや映画での露出強化を図っている。そして,その最初の一歩ともいえるのは,スマートフォン対応戦略である。いろいろなゲームを出した結果,任天堂はスマートフォンゲームで大きな収益を出すというのは難しいという結論に至ったようである。
 であれば,経営方針説明会でも古川社長が話したように,スマートフォンゲームでは収益を追わず,テーマパークや映画も含め,ゲーム専用機に送客することに徹するのが妥当ということであろう。

【月間総括】次世代機前夜,PS5は2週間で45万台売り上げを達成できるか

 今回の経営方針説明会で目新しい話はなかったが,任天堂の真意は依然として伝わりにくい形でしか話していないように思う。
 もっとも,ライバルであるソニーやMicrosoftが,直観的で分かりやすい製品開発をするような事態になっても困るわけで,こういう表現になるのは致し方ないのであろう。
 多くの人には任天堂は,「変わったことをやっている会社」に見えるのはやむをえないというところだろう。