【月間総括】ドラクエ11の販売が意味するものと第1四半期決算に見るプラットフォームの状況
とくにPS4版は「ファイナルファンタジーXIV:以下FF15」を上回るペースとなっており,国内でPS4の販売が不振であることを考えると非常に健闘したと言っていい。
エース経済研究所では,スクウェア・エニックスの現在のコンシューマゲーム事業における戦略目標を「FFおよびドラクエブランドの維持ないし向上」にあると見ているため,十分成功だったと言えるだろう。
問題はソニー・インタラクティブエンターテインメント(SIE)だ。SIEは「ドラクエ11」の発売で,PS4の国内販売および週販で3万程度にすぎない状況を大きく変えたかったはずである。つまり,国内でコンシューマゲーム機として「PlayStation」がメディアで大きく取り上げられ,注目が高まり,結果として販売の低迷トレンドから脱却を図るシナリオである。
しかし,確かに週販は一時的に上昇したものの,話題に関しては8月に入り7万台前後の販売を続ける「Nintendo Switch」に大きく後れを取っていると言わざるを得ない。以前からSIEはサードパーティの大型タイトルに積極的な支援を行っている。
「ドラクエ11」に比類する大型タイトルといえば,ほかに「モンスターハンター:以下モンハン」しか見当たらない状況下で,「ドラクエ11」がトレンドを変えられなかったことは大きな痛手であろう。
エース経済研究所が現在,検証を進めている"形仮説"ではソフトではゲーム機販売のトレンドを変えることは困難であるとしていた。これが可能であるなら,Wii Uは,任天堂の強力なIPでトレンドを変えることができたはずである。任天堂の第1四半期は久しぶりの大幅増収となったが,これは「Nintendo Switch」によるものであった。
任天堂の業績トレンド変化はハード発売をもってして初めて達成できたことを考えても,やはりソフトウェアでトレンドを変えるのは難しいということであろう。
そういう観点から,サードパーティを囲い込むことが販売を制することを考えているSIEは問題だと言わざるを得ない。これは,資本の無駄遣いになっている可能性が高い。しかし,現在の競合環境を考えるともはや,支援を止めることは困難であろう。
任天堂とソニーおよびSIEのマーケティング戦略における一番の違いは,批判への許容度であるとエース経済研究所では考えている。任天堂は,批判とは無関心を回避する方法の一つであると認識しているのに対して,ソニーおよびSIEは批判は許されないものと認識し,批判されない広報を目指している節がある。しかし,人間は本質的に悪いニュースに強い関心を持つ傾向がある。批判されない広報を実践すると,長期的にプレイヤーの関心自体が低下してしまう。「PlayStation」に対する関心を増やしたいのであれば,良いことも悪いことも許容できるような寛容さを持つべきであろう。
次に,第1四半期決算についてコメントしたい。SIEを中核とするゲーム&ネットワークサービス事業は売上高3481億円(前年同期比+5%),営業利益177億円(同-60%)と大幅減益。増収となったのは,PS4の普及が進んだことで,PS4上で展開するPSストア経由のゲーム販売が伸長したためである。
近年,同事業の売上高成長率が高いのは,サードパーティからのロイヤリティ主体(純額表示)から,PSNのフルプライスダウンロードタイトルが増加したことで見かけ上の売上高が大きく増えた(総額表示)からである。
一方,PS4は昨秋の値下げに加え,この6月も米国で期間限定の値下げを実施しており,原価率が悪化したこと,前年第1四半期に自社タイトルの「アンチャーテッド」がヒットした反動が出た。
PS4の売上台数(着荷台数)は,330万台(前年同期比-6%)であった。通期計画が前期比10%減の1800万台であるため,とくに問題がある進捗ではないが,前述の通り,米国で期間限定の値下げを実施しているため,今後の進捗が気になるところではある。
国内では来年,カプコンから「モンハンワールド」が登場する。PS4では,「FF」「ドラクエ」「モンハン」すべてが出そろう。ソフトがハード販売を決めるという従来の考えであれば,ライフサイクルで少なくとも1000万台後半,状況次第では,普及限界である2000万台強の水準にならなければおかしい。
しかし,発売から4年めに入ったPS4は500万台を超えたところである。このペースでは10年で1000万台程度の販売となろう。ソフトウェアでハードを売ることは難しいと言わざるを得ないのではないだろうか?
状況を変えるには,次世代機の投入しかないだろう。
ここからは,任天堂の決算についてである。同社の第1四半期決算は大幅増収増益となった。「Nintendo Switch」は197万台の出荷だった。予想の下限だったが,会社側によると,空輸を実施しなかったとしており,利益水準を考えると妥当な判断であろう。前回も触れたように「Nintendo Switch」の増産は容易ではない。
7月末から大幅に国内の出荷数量が増えたが,6月以降「Nintendo Switch」が極端な品薄となり,危機感を持った任天堂が増産分を日本に集中して振り向けたからである。会社側へのヒアリングから9月10月はこの水準よりも下回る可能性が高い。9月10月の増産分は需要のピークである12月に回す必要があるためだ。クリスマス期は大きな需要が世界的に発生するため,空輸の実施は不可避であろう。
今年はiPhoneの新型も発売される。OLEDを採用し,大幅なモデルチェンジを想定しているが,デザインが変更されたときは,iPhoneはヒットする傾向があり,大きな部品需要を来年後半まで喚起する可能性が高い。
「Nintendo Switch」の部材コストは270ドル程度とエース経済研究所では推測している。この水準は,iPhone7の部材コストには劣るものの,ミドルエンドスマートフォンを大きく上回る水準であり,来期仮に2500万台程度の生産を実施するとなると,ミドルエンドスマートフォン換算で5000万台クラスの需要が発生することになる。
iPhoneが仮に大きなヒットになると部品の競合は一段と激しくなるだろう。来期の生産水準については早めの手当が必要になるとエース経済研究所では考えている。
また,ソフトウェアの第1四半期販売は814万本であった。同社タイトルは,どれも過去に記憶がないほどの装着率となったが,特筆すべきはカプコンの「ウルトラストリートファイターII」であろう。登場から20年を経過したタイトルをリファインしたものだが,45万本の出荷となり,カプコンの計画を上回った。カプコンに対する利益的な寄与も大きかったようだ。
サードパーティだけでなく,アナリストやマスメディアの多くも,「Nintendo Switch」がこのような大ヒットになるとはまったく考えていなかった。このため,国内外の大半のサードパーティは出遅れてしまった。現状,国内では「Nintendo Switch」ソフトの販売の大半が任天堂製になっていると認識しているが,そもそも売れると思われていなかったので仕方ないだろう。
しかし,サードパーティも対応を進めている。開発スピードが速いコーエーテクモはすでに多数のタイトルの「Nintendo Switch」対応を進めているほか,いち早く主力タイトル「ディスガイア5」を移植し,PS4版を超える出荷が視野に入った日本一ソフトウェアも今後は,PS4との同発で主力タイトルを出す方針である。
「形仮説」から見ても,「Nintendo Switch」はゲームマニアに毛嫌いされているとは思えない,来年には,任天堂タイトルしか売れないというイメージが一気に払拭されているだろう。
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