[CJ2017]結局,中国ゲーム市場はどうなのか? ChinaJoy 2017総括

[CJ2017]結局,中国ゲーム市場はどうなのか? ChinaJoy 2017総括
 2017年7月27日から30日まで開催された中国最大のゲームショウ「ChinaJoy 2017」。すでに,併催されていたスマートデバイス関連のイベントeSmartを中心とした取材記事はいくつか掲載しているが,ここでは上海市内に滞在しての印象とイベント全体と中国の状況,そして小ネタについて順不同でまとめてみたい。中国のゲーム市場とゲーム業界,そしてそれをめぐる環境はどのようになっているのだろうか。


凄い中国と残念な中国


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 以前は行くたびにどんよりとして「晴天なのに遠くが見えない?」と濁りが増していた上海の空は,少し綺麗になっていたような気がする。街を走る自動車も,以前とは違ってちゃんと洗ってあるものが増えている。バブルと言われ続けた景気が弾けないように,国を挙げて株式の売買制限などそれこそなんでもやっている成果ではあろう。
 世界の工場と言われる中国は,製品の製造に関しては世界トップレベルだ。いろんなものをすぐに作るというのは会場を見ても感じられた。昨年少しだけ話題になっていた中国独自のコンシューマゲーム機は,今年は影も形もなかった。作るのも速いが撤退も速い。

 技術的な成熟度と文化的な未熟さ。VRヘッドセットを取ってみても,カタログスペックは非常に高いが,実際に使ってみると残像がひどかったり,フレームレートが出ていなかったり,目指しているものを理解せずに作られたとしか思えない端末が非常に多い。海外のVR事業者が細心の注意を払っている部分は一顧だにされない。また,海外製品はあっという間にパクられる。製品自体の開発競争では他国は絶対に勝てないだろう。いろんな意味で規制が少ないというのもあるのだろうが,中国国内だけでも十分な市場があるので,権利関係や安全性などで海外では通用しないだろうというようなものでも成り立っているように思われる。

 さて,ChinaJoyというのは,規模的には世界でもトップクラスのゲームイベントであり,政府も絡んだ一大イベントであって,監督部署には中華人民共和国国家新聞出版広電総局,中華人民共和国科学技術部,上海市人民政府といったお役所が12組織ずらりと並んでいる。割とお堅いイベントでもある。
 下は,ChinaJoy公式サイトトップページのキャプチャから切り出した会場図だ。開催直前までは,トップページの一番目立つ場所にデカデカと掲載されていた図である。

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 ChinaJoy会場となる上海新国際博覧中心は,北側にN1〜N5まで,西側にはW1〜W5,東側にはE1〜E7までの棟が並ぶ。しかしこの地図を見ると,E4が二つあって東棟はE6までになっている。
 さらにダウンロードできる出展リストとWeb上で掲載されている出展リストとマップ上の小間番号が全部違ったりもした。そもそも出展リスト公開初期に提供されていたものはよく見ると「2015年展商名単」というファイル名で中身は2016年の出展リストだった。これはその後訂正されたが,トップページの図は直らないままだった。
 なにぶん目立つ場所でもあり,これって昔ガンホーが初めて東京ゲームショウに出展したときだったかに,結構大きめのスポンサー枠だったのにずっと社名を間違われたままだったのと同じくらいダメな感じだ。ミスが起きるのはともかく,なぜ放置されていたのだろうか。絶対に気づかれない場所ではないはずなのだが。公式サイトにはついにつながらなかったリンクも結構ある。
 そのほか,会場は人が多すぎてQRコードリーダーが半分ハングアップして大混雑になってたり,X線の手荷物検査なども行われていたが,トラブルとかで面倒になったのか午後になるとチケットなしでも入れてくれたりとか,なあなあなところは相変わらずという感じだった。


中国文化の壁


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 上海で電車に乗って驚いたのが,車内で使われているiPhone率の高さだった。以前,iPhoneを使っていた通訳さんに中国でもiPhoneは広く使われているのかと聞いたときに,全力で否定されたのを思い出す。当時はかなりのステータスシンボルであったらしい。現在でも高価らしく,話を聞くと「たぶんそれiPhoneじゃない」とのことだった。見た目もUIもほとんど同じAndroid端末があるらしい。

 そんな端末で多くの人が見ていたのが,チャットツールか動画だった。見た目に古代中国ぽい男女が映っているのをあちこちでみかけた。日本で言うと時代劇のような感じだが,武侠モノなどは広く親しまれているようだ。あまり関係ないが,スパイダーマンを中国語にすると「蜘蛛侠」となることを知った。アイアンマンは「鋼鉄侠」だった。武侠だとマーシャルマンみたいな感じなのだろうか(武侠という単語自体は日本生まれらしいのだが)。
 中国では政府の指導もあって,ゲームには自国文化を取り入れるのが普通だ。会場で展示されるゲームも武侠や三国志ほか,よく分からない中国産のアニメなどであふれている。日頃からそういったものになじんている中国人には違和感はないようだが,非中国文化圏ではちょっとなじめないことが多い。ある意味,文化的な部分で歯止めがかかっているともいえるのだが。


すべてはWeChatで?


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 中国取材に出かける前にあちこちで,中国ではみんなAliPay(Alibabaが提供する決済サービス)を使っていて現金なんか誰も使ってないというような話題を見かけていたのだが,中国滞在中,AliPayについてはまったく話を聞かなかった。代わりに会話の端々に出てきたのはWeChat(微信)だ。これは分かりやすく言えばTencentによる「中国版のLINE」である。LINEが禁止されて,一気に広まったアプリだ。
 ゲームの資料などを全部これで送るといわれて困ったのは昨年のことなのだが(中国国内から外国人がアカウントを取るのが面倒だった),現在はGoogle PlayでもAppStoreでも普通に提供されているようだ。今年はさらに活用が進んでおり,求人から会社の給与振込みまでがWeChatで行われるという。中国国内のあらゆるものがWeChatを軸に動いている感じだった。


どこを見ても王者栄耀?


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 中国で一番人気のゲームは間違いなく「王者栄耀」だ。このゲームはWeChatから起動できるとのことで,そこが決め手でもあったらしい。通訳さんに見せてもらったアプリストアの画面ではプレイヤー数(DL数)が軽く2億人を超えていた。
 で,実際,会場内の多くのブースでこのゲームのイベントが行われていた。あちこちでチャネリングされているのだろうか。全然関係なさそうなところでもやっていたのだが。
 ゲーム自体はTencentが作成したMOBAであり,LoLライクな作品だ。いまや世界で一番稼ぐゲームになっている。ヒーローとして中国古代の英雄や世界の歴史・伝説上のキャラクターが使われているのが特徴だ(日本のゲームキャラなども登場する)。まあ,日本のゲームでも歴史的なヒーローを寄せ集めるのは定番中の定番ではあるが。
 会場内のあちこちのブースで似たコスプレを見かけたのだが,調べてみるとピンク髪のお団子はこのゲームの小喬だった。まさか黄色い猫キャラだと思っていたものが妲己だったとは……狐だったのかあれ。
 中国ゲームのキャラクターというと各種コーエー作品をテンプレとしたものが大半だったのだが,独自キャラ化の動きが見える。日本だったら全部女体化してたのだろうなあ。
 国策もあってゲームは中華な香りが漂ってくるのはしかたないが,逆に言えば,中国の歴史的キャラクターは誰でも知っているものは凄いIP資産になりうることが分かる。

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 あまり写真を撮ってきていないのだが,会場のあちこちのスクリーンでこのゲームの画面が表示されていた。王者栄耀での有名プレイヤーらしき人が登壇してイベントをしており,多くの人が取り囲むという盛り上がり具合だ。
 とにかく,それなりにコアなMOBAを老若男女がプレイしているのだ。PCとモバイルの両方があるようだが,小学生くらいの子供がキーボードとマウスを駆使してプレイしているところも目撃した。以前からキーボードベースでFPSなどを遊ぶ子供たちは多く見かけたが,中国ではそんなに特殊なことではないらしい。カジュアルでないレベルのゲームで2億人の市場規模,それが現在の中国である。


Tencentが強すぎる


 すでにあちこちで書いたように,WeChatや王者栄耀といった中国でのキラープラットフォーム,キラーアプリを所有しているのはTencentである。League of LegendのRiot GamesやSupercellをはじめ多くの欧米ゲーム会社の親会社でもあり,Unreal EngineのEpic Gamesや映画業界などにも出資している。昔から中国では最大のゲーム企業ではあったのだが,近年の手の広げ方は恐るべき勢いだ。今回のChinaJoyでも,大きな区画2つを使ってイベントを行っていた。
 そして,いまや世界最大のゲーム企業となったTencentにSega Europeを仕切っていたJurgen Post氏が入社するなど衝撃的なニュースも出てきている。中国企業による海外向けゲーム制作が本格化した場合,ゲーム業界の勢力図は一気に書き換えられる可能性もあるかもしれない。


ゲーマー向けチェア?


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 少し別記事で触れたが,会場内にはゲーマー向けチェアの出展も非常に多かった。どれも5本足キャスター付きのバケットシートタイプであり,さらに言えば腰の辺りに上下可動型の小クッションを付けたものが多かった。自動車タイプのバケットシートは横Gがかかることを前提にホールド性を高めたシートだが,一般的なPCゲームではほぼ役に立たない。もしがっちり支える形がデスク作業で快適なのならアーロンチェアなどがそうなっているはずである。実際のところ,名高いアーロンチェアや編集部でも使っているコンテッサなどのオフィス作業に最適化された椅子では,どう身体が動いても的確に支えるようなメッシュ素材が使われている。固めるのではなく,動くことが前提だ。
 ゲームプレイを中心に考えると手すりが付いている必要性も疑わしい(個人的にはあったほうがいいが)。肩の辺りをとくに張り出させたデザインが多いが,深めに座って正面のPC以外のものに手を伸ばそうとすると,かえって邪魔になるだけの気がする。日本でもこういう「ゲーマー向け」を謳った椅子が多く売られているのだが,合理性がまったく感じられない。
 あちこちにあるチェアのコーナーは会場内のよい休憩所になっていた。


Morphus X300


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 どこかで見たような形状というか,着脱式のコントローラを持つAndroidタブレットだ。ゲームの連続使用で5時間のバッテリーライフとのことなので,持ち歩いて遊ぶには適している。ただ,GPUコアはPowerVRだがRogue世代の一つ前のものとなるので,Tegraを搭載したSwitchよりも3D性能は劣る可能性が高い。
 明らかにNintendo Switchを意識した製品ではあるのだが,面白いのは裸眼による3D立体視に対応していることだ。3DSの要素も含めた携帯型ゲーム端末というところであろう。


派手さ加減を競うPCケース


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 派手なケースがたくさん展示されていたChinaJoy会場だが,その規模は一言でいえば「馬鹿馬鹿しい」くらいになってきている。
 冷却液を無意味に回して,無意味にLEDを点灯させるなどが主流だ。形状的にはだんだんPCケースぽくなくなってきている。ほぼバラック状態のものから,無理やりほかのものに詰め込んだ系までいろいろだ。
 Kingstonブースで見たヘルメット型の筐体はイベント用のワンオフだろうと思っていたのだが,ほかのブースにもあったので普通に売られているらしい。
 アベンジャーズに出てきた空中空母型の筐体になると,もうMODとかいうレベルではないだろう。

4基の大型ファンが目立つ空中空母型PCケース。大型ファンがなにかの冷却に貢献しているのかは不明
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Alienwareは中国でも人気のうようで,Area-51風の小型筐体なども見られた。ってよく見たらGIGABYTEさんまで
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HP OMENシリーズのバックパックPCによるVRデモ


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 右の写真はHPブースで行われていたバックパックPCによるVR体験デモの模様なのだが,VRヘッドセットから出たケーブルはバックパックのさらに下まで伸びている。あれ? さらに床を這うケーブルは前方に置かれたPCに接続されていた。HPのゲーマー向けブランドOMENシリーズのパックパックPCだ。この製品は,バックパックの背負う部分と本体を分離でき,普段は本体をドックに差して使い,持ち運ぶときはリュックに接続して背負えるという画期的な構成になっている。つまりこれは確かに「バックパックPCによるVR体験デモ」ではあるのだが……。

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ゲーム開発の場としての中国


 ゲーム業界にとっての中国というと,市場として考える人も多いと思うが,日本のコンテンツの参入は簡単ではない。コンシューマゲーム機が普及しておらず,市場はほぼPCとモバイルが独占している。
 一方で,中国国内でもゲーム開発は盛んに行われており,国内でサービスされているブラウザゲームやモバイルゲームが思い浮かぶ人も多いだろう。開発力はかなり上がってきている。
 コンシューマゲーム機が存在しない国だったので,機種ごとの特殊なスキルなどはないだろうが,ゲームエンジンの普及によって,状況は変わっている。VR系ではUE4での開発も少しあったが,モバイルだとほぼUnity一色の状況であり,その技術レベルは相当高いと言っていい。
 実際のところ,アセットの外注やオフショア開発などですでに中国の会社を使っているところも多いだろう。しかし,繁栄の代償として人件費は上がってきているほか,政府の首脳や担当者が代わっただけでなにが起こるか分からないチャイナリスクも抱えており,さらによい環境を求めてUbisoftのように「これからはシンガポールだ」といったような選択もアリだろう(関連記事)。
 今後の中国は「外注先」に留まらず開発の中心となる可能性もある。ゲーム関係に力を入れる中国を見ているとそんな思いを抱いてしまう。

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