Against Gravity「VRでの身体的ハラスメントは非常に強烈なものになることがある」

Against Gravity CCO(チーフ・コンテント・オフィサー)のCameron Brown氏が促進するRec Roomの賑わうコミュニティと,バーチャルワールドにおけるフィジカルな脅威の「極めてリアルな」感覚とは?

 ゲームにまつわる歓迎的かつ開放的なコミュニティを構築することの重要性は年々高まっているが,バーチャルリアリティの出現により,ソーシャル・エクスペリエンスを生み出すデベロッパにはさまざまな新しい問題が提起されている。先週開催された世界最大級のカジュアルゲームカンファレンス,Casual Connect USAで登壇したワシントン州シアトルに本拠を置くAgainst Gravityの共同創立者でCCOのCameron Brown氏は,同社がソーシャルVR空間であるRec Roomでどのようにこれらの問題にアプローチしたかを詳述した。

 現在のようなマーケットの初期段階では,VRで正真正銘のヒットを見つけるのは難しいかもしれない。だが,Rec Roomは無料でダウンロードでき,各種データはすべて成功の方向を指し示している。Steam Spyは,Oculus Storeを通じたダウンロードを含めず,ゲームのオーナー数を約26万5000人まで引き上げた。Against Gravityが2月に500万ドル(約5.5億円)の資金調達を行った際は(関連英文記事),2016年の下半期だけで10万人以上のユニークプレイヤーがRec Roomに来訪したと発表した。この数字は今年上半期にほぼ確実に増加していると思われる。

「プレイヤーをただ部屋に入れて,勝手にソーシャライズしてくれるのを期待するのではなく,アクティビティを提供します」

 Brown氏にとっては,Steam上でのRec Roomのカスタマー評価が誇りだ。2016年6月にローンチして以来レビューの評価は高く,「Overwhelmingly Positive(極めて素晴らしい)」というレアなレーティングを獲得している。氏にとっては「これはソーシャルVRを熱烈にやりたいというオーディエンスがいるということにほかならないわけで,人々が大いに好んでコネクトしたいと思う何かがあるということだ」と語る。

 さらに重要なことに,これらのレビューは,Against Gravityが最初にRec Roomに設定した幅広い目標を達成したことを示している。Brown氏は,「Rec Roomはあらゆる立場の人々にとって楽しく,ウェルカムな雰囲気があるのです」と,Against Gravityのチームが開発に際して忠実に守ってきたモットーを詳しく語った。「定期的にこのことを言うようにしています。毎週かもしれません。そして私たちがフォーラムに参加しているときは,これをコミュニティにも伝えています」

 Brown氏はプレイヤー同志が結束を築くようなアクティビティを提供し,どのオンラインコミュニティにも存在する「bad actors(悪役)」たちに対して立ち向かうことの重要性が徹底された「構造化された社会」としてRec RoomをデザインするAgainst Gravityのアプローチを説明した。

 「プレイヤーをただ部屋に入れて,勝手にソーシャライズしてくれるのを期待するのではなく,アクティビティを提供します」と彼は語った。「例えば,あなたは夜が明ける前に魔法の探検に行ったとします。お互いにペイントボールを撃って,楽しい体験をした。あなたは自分で気づかないうちに,友達を作っていたのです」


 QuestはRec Room内で協力して遊ぶアドベンチャーゲームであり,ペイントボールやスカッシュのようにラケットを使うPowerballというスポーツのアクティビティがある。Brown氏によれば最も熱狂的なプレイヤーはこの活動に数百時間費やしており,人々を集めてコミュニティを強化しているという。

 「私たちは何度も見てきましたが,新しいプレイヤーがRec Roomでできる最高の経験は,やり方を教えてくれて付き添いになってくれる人を見つけることです。これがうまくできるようになると,また,それが起きるチャンスをマックスにできると,あなたのコミュニティはより健康的なものになるでしょう」

 Brown氏はCasual Connectの参加者に対し,この種のコミュニティが盛り上がるようにするには「最初から基調を定める」ことが大事であるとアドバイスした。Against Gravityのコミュニティ誘導モットーはそのプロセスの一部だが,開放的かつ歓迎的な価値観を長い間培ってきたリアルな世界での施設からもインスピレーションを得たという。

 「実世界でこれをうまくやっているのはいったい誰かと考えていました。日々の中で,あらゆる立場の人々を歓迎するのは誰でしょうか?YMCAは一つの良い出発点であり,独自の行動規範を持っていると思いました。内容は私たちのものとは違いますが,言うなれば,プレイヤーが『やあ,これがここでのルールだよ』と指差せるものにするというアイデアです。それは非常に強力なソーシャルツールです」

ルール1:互いに優秀であれ!
露骨に性的な言動をロッカールームや公共の場でしてはならない
13歳未満は入場禁止
あなたの個人的な行動であっても,みんなが気にしないかを確認しなさい
性差別,人種差別,差別的あるいはいじめの言動はRec Roomでは歓迎されない
ほかのプレイヤーのゲームを見逃すな! 我々はゲームであなたの振る舞いを制御するための100万ものルールを作りたいとは思わない。我々にそうさせるな

 上記の写真にあるルールは,Rec Roomのバーチャルワールドやオンライン・フォーラムの初期から絶えず存在するものだ。その行動規範は,例えば小さな子供が入り込んでしまう可能性(親御さんがRec Roomを非常に面白いベビーシッターの選択肢の一つと見なしている)から,オンラインでのありとあらゆる下品で反社会的な行動の膨大な例まで,さまざまな潜在的な問題を網羅するように設計されている。「皆さん驚かないと思いますが,ソーシャルVRではTime To Penis(参考URL 編注:プレイヤーがゲームをしながらペニスに関するジョークを言い始めるまでの時間の意)はかなり小さいのです」とBrown氏は淡々と説明する。しかし,それでも男性の生殖器について述べる傾向が強いプレイヤーがいたら,Rec Roomの行動規範の第二条を指し示される必要があるだけだ。

「皆さん驚かないと思いますが,ソーシャルVRではTime To Penisはかなり小さいのです」

 「プレイヤーたちがお互いをうまく取り締まれることが分かっています」とBrown氏は付け加えた。「これはコミュニティのDNAの一部となっており,私たちがどうしても誰かを退場処分にしたり,出禁にしたり,または単にRec Roomでの言動について注意をしなければならない場合に,罰則の対象となるプレイヤーたちもそういう規範や雰囲気があることを承知のうえで指摘できるのは大変助かります」

 「これはゲームの前面かつ中心になることです。ソーシャルVRにこのような要素を持たせることを絶対にお勧めします」

 Brown氏によれば,非VRゲームでのコミュニティ管理のベストなやり方はVRにも転用可能だが,さまざまな形でのハラスメントについては,没入型というVRの特性が新たな問題を引き起こすという。「ソーシャルVRはハラスメントに極めて身体的な要素を加えてしまいます」つまり,Call of DutyやLeague of Legendsといったフラットパネル上のゲームをするプレイヤーには馴染みがないであろう「モンキーブレイン(猿の脳)」にあるような単純で原始的な感情を引き起こす可能性があるのだ。

 ソーシャルVRには,オンライン上のほかの場所に比べて「バッドアクター(悪役)」が存在しないが,Brown氏によれば,少数のバッドアクターの行動が極めて大きな影響を与える可能性があるそうだ。そこでAgainst Gravityは,ある特定の瞬間に誰が話をしているか,プレイヤーが明確に把握できるシステムを実装しなければならなかった。これは空間サウンドをもってしても「驚くほど困難」で,ミュートにするためのツールとほかのプレイヤーを無視するためのツールを反復開発することになった。

「これは,決して終わることがない,私たちが維持し続けなければならないシステムだと考えています」

 これに対する最初のソリューションは,メニューに埋め込むものだった。あるプレイヤーがもし言葉による嫌がらせを受けていると感じた場合に呼び出し,ほかのプレイヤーを沈黙させる選択ができるようにするものだ。しかし,この「機能的だがぎこちない」システムは,(他者からの介入を受けることで)没入型VRが主観的な経験を拡大できるものであるという要素を実現不可能にしてしまった。

 「Rec Roomで嫌がらせを受けたという女性のプレイヤーがいました。そして,そこには彼女をサポートしようとした友達がいました」とBrown氏は語る。その友達は彼女を守り,彼女に嫌がらせをする人物の報告をしていた。しかし彼女の視点から見ると,友達がその状況から離脱し,UIとやりとりを始めたように見えたのだ。

 彼女は,頭では友達は助けに来てくれ,彼女の代わりに仲裁に入ってくれていることが分かっていたにもかかわらず,まるで彼女たちの注意が離れていき,メニューを掘り進んでいる(助けてもらえていない)という失意を感じでしまったのです」


 最終的にAgainst Gravityは,より一層直接的で強力なソリューションに着手することとなった。今,Rec Roomで言葉による攻撃に遭遇したとき,プレイヤーは「手とでも話してろ(※黙れの意)」というようなジェスチャーを使用することができる。別のアバターの前で手の平を向けたジェスチャーをキープすることによって,タイマーが発動し,カウントが終わると,攻撃しているプレイヤーはミュートされ,さらなるアクションを取れるオプションのメニューが開く。

 「このジェスチャーはさらに効果的でした」とBrown氏は語った。「離脱するのではなく,意図することを示す何かしらの行動を取っています。そして,緊迫感のある状況でもこのジェスチャーなら容易に思い出せます」

「人はそれを実際に経験するまで信じていないようですが,本当なのです……。VRにおける身体的なハラスメントは極端なものになることがあります」

 緊迫した状況下であるプロセスを思い出すことの難しさは,別のより重大な問題,すなわちBrown氏がいうところのフィジカルなハラスメント(ソーシャルVRでは見過ごされることが多い)でも明らかになった。彼は,VRでの急激な落下の例を挙げた。これは,プレイヤーに強い恐怖とめまいがする感覚を引き起こす可能性がある。

 「(VRなのだから)安全だと頭では分かっているにもかかわらず,この急降下の感覚は本当に,もっと脳の奥になにか原始的なものを突きつけます。ソーシャルVRにも非常に似たものがあります。誰かがあなたのパーソナルスペースに侵入してきたとき,誰かがあなたのプライベートエリアで痴漢をしてきたとき,誰かがあなたに猥褻なジェスチャーをしたとき,それはものすごくあなたを怖がらせることになります」

 「感覚で分かることではないのです。ほとんどの人はそれを実際に経験するまで信じていないようですが,本当なのです……。VRにおける身体的なハラスメントは極端なものになることがあります。そんなことがあったら,1日中嫌な気分で過ごすことになってしまいます」

 Against Gravityはこの影響を観察し,ベストなソリューションは「プレイヤーが極めて容易に自治性を取り戻せる」ものであると結論づけた。いろいろ試したうちのある実装ではプレイヤーが周囲のすべての人を幽霊,すなわち半透明にしたり,腕をなくしたり,黙らせたり,白いシーツを頭からかぶった幽霊に変えてしまう「エネルギーのパルス」を発することができるようにした。

 Brown氏によればそれは効果的ではなく,抽象的な画像の組み合わせは,Rec Roomのプレイヤーを最終的に混乱させることになった。さらに重要なことは,嫌がらせを受けたプレイヤーはまさにその嫌がらせを受け動揺している瞬間に,そんな対応法があったことを覚えていないということだ。


 繰り返すが,最良のアイデアは,より繊細で,このようなケースではより受動的なものだったのだ。誰かが嫌がらせを受けるまで起動しないシステムを実装する代わりに,Against Gravityは各アバターの周囲に「ignore bubble(無視するバブル)」を作った。これはデフォルトではオンになっているが,各プレイヤーは手元でパラメータを調整することができる。別のアバターがバブルの範囲の中に入ってくると,フィジカルにも音声的にもその存在が消えるのだ。

 「気にしないプレイヤーもいれば気にするプレイヤーもいます」Brown氏はこう述べて,盛り上がりを見せるRec Roomのコミュニティの成長と安全対策のためにAgainst Gravityが投下する作業の量についてのメッセージで講演を締めくくった。

 「ソーシャルVRを構築しようとするなら,開発の少なくとも10%はコミュニティの節度を管理するための機能に費やすことを期待します。これは,決して終わることがない,私たちが維持し続けなければならないシステムだと考えています」

GamesIndustry.bizは,Casual Connect USAのメディアパートナーであり,主催者からの招待で参加した。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら