600万ドルあればCall of Dutyに対抗できる?

Devcomにおける小規模スタジオのAAA市場での機会に関するパネルディスカッション。

 市場で最大の大作と競争することは,多くのスタジオが考えているほどお金が掛かったり困難だったりするものではないのかもしれない。もし危険を冒すことも辞さないのであればだが。

 これはケルンのDevcomカンファレンスで行われたAAA市場の今後と小規模な会社に提供された可能性に関する開発者によるパネルディスカッションから導かれたものだ。

 議論は主にWarhouse Studiosの共同設立者でありかつてのMafiaゲームのデザイナーでもあるDaniel Varna氏に支配されていた。氏は,なぜ自身の手でスマッシュヒットを作り上げた多くのスタジオが市場で最大のフランチャイズに挑まないのかと困惑を示していた。

 「(多くのスタジオは)Steamで大きな成功を収めてきました。何千万ドルも稼いでいるのです ― 何社かは数百万ドルかもしれませんが ―。ですので,彼らは次のパブリッシャになるべきです。もしくは,お金を稼いだら10人でガレージゲームをやろうとはしません。おそらく彼らにふさわしいスタジオにアップグレードして,ちゃんとしたAAAタイトルを作ろうとするに決まってます」と氏は語った。「しかし,彼らはやりません。私が知る限り誰もそうしないのです」

「モバイルゲームではあなたは何十万というゲームと戦わなければなりません。AAAマーケットでは,あなたは年間20本のゲームと戦えばいいだけなのです」
-Daniel Vavra, Warhorse Studios

 彼はArk: Survival Evolvedの開発チームを想定して「おそらく非常に大金を手にしたことでしょう。しかし彼らは私が好むようなタイプのゲームを作りません」と氏は独立系スタジオがAssassin's CreedやCall of Duty,あるいはSkyrimといった作品の血脈に連なるシングルプレイヤーの大作に着手しているのを見たことがないと説明した。

 「お金を手にしたインディーズはそのようなゲームを作りません。 ― 私には理由は分かりません」と氏は語った。

 「それはリスクを伴うかもしれません」とMicrosoftのクリエイティブディレクターAdam Isgreen氏は示唆した。「スタジオが大きくなったりプロジェクトの抱える人数が多くなったりすると常にリスクとなりえます。あなたは稼いだ利益を簡単に使い果たしてしまうでしょう。それは大作ゲームに挑む礎が消え去るだけかもしれません」

 Vavra氏は,スタジオが大ヒットで1億ドルを稼いだら,AAAスタイルの製品のために2000万ドルを投資することはたやすいと続けた。それでも8000万ドル残るのだ。
(※日本の会社だと,年間の営業利益ベースでコーエーテクモが1億ドルくらい,コナミが2.5億ドルくらい,スクエニで3億ドルくらいの規模だ)

 Isgreen氏がこれに答えた。「しかしあなたはゲーム業界にいます。であればゲームを作るときに,我々が得ることができるものからどれくらいが奪われるかを知っているはずです。ゲームが大きくなればなるほど多くのスタッフを追加し,― そのときあなたは『お金はどこに消えたんだ?』という状況になっているでしょう。時間も同様になくなります」

 Vavra氏は現世代のコンシューマゲーム機での強力な売り上げを指摘した。加えて今週のGamescomのようなイベントへのユーザー参加者の増加を挙げ,AAA体験への欲求がある証だとした。

 「Gamescomはインディーズゲームのショーケースではありません。 ― ほとんどが大作のAAAゲームです」と氏は語った。「人々の関心はあるのです。しかし生産は減っています。これはおかしなことです」

 「誰もがモバイルゲームを作っています。そして毎年,真のAAA大作と呼べるものはほとんどありませんが,それらは非常によく売れています。ですので,私の意見ではそこには大きなビジネスチャンスがあります。なぜだれもその機会を生かしていないのか分かりません。これは奇妙です」

 「成功するチャンスは拡大しています。モバイルゲームではあなたは何十万というゲームと競争しなければなりません。AAA市場ではあなたが競争しなければならないのは年間20タイトルです。ですので失敗の可能性ありますが,(※成功率は)10万:1というわけではありません。5:1とか10:1といったところです」

 「リスクはあります。ゲームのコストが増えてお金を無駄にしてしまうでしょう。しかし資金を回収するチャンスも非常に大きいのです」

 Isgreen氏は,それらのタイトルと肩を並べるには「非常に大きな歩み」が要求されると述べた。

 「そうですね。ええ,あなたはたった5本のタイトルと競争しています。(しかし)その域までたどり着くのにあなたが費やす金額は莫大なものになります」と氏は語った。「あなたはなぜ彼らがリスクを回避するために少数のタイトルしか作らないのか理解できるでしょう。なぜなら,費用がかかるからです。マーケティングだけを取ってもそうですよね? AAAタイトルではタイトルの開発よりも,むしろどれほどマーケティングにお金を使っているかでいかなくてはなりません」

 Bohemia InteractiveのリードプロデューサーであるEugen Harton氏は,危険を冒してAAAに踏み込む代わりに,多くの新興かつ小規模スタジオはサービスベースのタイトル ― より安全でより収益性が上がる可能性のあるビジネスモデル ― を選んでいることに言及した。

「古典的なAAAゲームでデータ駆動型開発を行うためのツールが足りないのです。基本的にあなたは最初の週からほとんどの部分にわたってそれを当てにしているようです」
-Eugen Harton, Bohemia Interactive

 「現在起こっていることを見れば,あなたはロングテールを選びたいと思うでしょう」と氏は語った。「誰も一時的な売り上げの急上昇を得たいとは思いません。データ駆動されるような着実な収益を得たいと思うでしょう。古典的なAAAゲームでデータ駆動型開発を行うためのツールが足りないのです。基本的にあなたは最初の週からほとんどの部分にわたってそれを当てにしているようです」

 議論は,いずれにせよAAA開発では,このUnreal EngineやUnityが利用可能な状態で用意されている時代に,独自エンジンが要求されるという問題に差し掛かった。Techlandのヘッドオブテクノロジーを務めるPawel Rohleder氏は,独自エンジン制作の忠実な信奉者だった。Isgreen氏は同意し,デベロッパには彼らの時間と才能を投資して得られる独自技術に対して大きな自由度があると付け加えた。

 しかしながら,Isgreen氏はMicrosoftのポートフォリオやそのゲーム機にあるようなサードパーティのエンジンを使ったAAAタイトルでたくさんの成功例があるとの認識も示していた。氏が例として引用したのはUnreal EngineによるGears of Warだった ― 明らかにそのシリーズはもともと実際にUnreal Engineを作ったEpic Gamesによって作られたものではあったが。

 Isgreen氏の,業界をリードするプラットフォームにさえ「インストールベースが達するまでは」AAAゲームが出てきそうもないという言及によってVRについても議論に上がった。Rohleder氏は多くのAAA体験はバーチャルリアリティにはさほど適していないことを指摘した。

 「短時間ならば素晴らしい体験です。しかし私はVRの中で10時間ゲームをプレイすることを想像できませんでした ― それは正気の沙汰ではないでしょう」と氏は語った。

 「それはどんな製品に取り組むかによると思います。たとえばDying Lightの場合,これはビルの間で非常に速いペースでたくさんの移動やジャンプを行います。VRは向いていませんので我々は現時点では検討しません。我々はいくつかの実験と評価を行っています。しかし我々はVRを主要なプラットフォームだとはまったく考えていません」

 Vavra氏は,いくつかのスタジオはAAAゲームを作るのはお金がかかりすぎると考えているかもしれないと認識したあと,しかし正しいツールと正しいフォーカスがあればそのコストは大幅に削減できることを強調した。

 氏は,自社のクラウドファンディングされた中世アドベンチャーゲームKingdom Come: Deliveranceが1000万ドル以下のコストで作られていることをほのめかす前に,Witcher IIIでの制作とマーケティングの合計予算が8100万ドルだったというCD Projekt Redを例に挙げた。しかし,これらは同じユーザー層を満足させることを狙ったものだ。

 「いまどきなら(かなり安く)AAAゲームを作れるでしょう。もし私がFPSを作るなら……,500万ドルか600万ドルでCall of Dutyに対抗できます」と氏は語った。「もちろん,マーケティングに5000万ドル追加できればの話ですが」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら