【ACADEMY】アーリーアクセスを成功させるためのマーケティングのヒント

Michal Napora氏が,EAタイトルの経験と,一緒に時間を過ごすのが好きなコミュニティを育成する方法(その逆も然り)について語ってくれた。

James BendonのDinkum
【ACADEMY】アーリーアクセスを成功させるためのマーケティングのヒント

 私が初めてアーリーアクセスタイトルに取り組んだときは,このモデル全体に対して非常に懐疑的だった。マーケッターとして,アーリーアクセスのゲームは,フルリリースとは異なり,プロモーションが少し難しいと感じている。報道関係者は,アーリーアクセスゲームにあまり興味を示さず,アーリーアクセスタイトルを支える消費者も,異なるメンタリティを持っている。

※以下,原文ではEarly Access titleとEA titleが混在して使用されている。常識的にはEA titleはElectoronic Artsのタイトルを意味するが全体的に意味不明になるのでアーリーアクセスタイトルに統一して翻訳している

 通常,消費者はアーリーアクセスタイトルにそれほど興奮さず(これは変わりつつあるが),こういったものに食いついてくる消費者は,製品や開発プロセスそのものを密接に所有することに大きな期待を寄せている。そして,その過程で少しでもよい動きをすれば,ゲームはあと回しにできる。もちろん,1.0を達成した時点で,プレスのレビュー取材を受けることがいかに難しいかは言うまでもない。だから,アーリーアクセスのタイトルは,それとは別物なのだ。

アーリーアクセスは,正しいコミュニケーションを計画しなければ,ゲームの発売前から破滅につながる可能性がある

 いくつかのアーリーアクセスタイトル(Dinkum,Inkulinati,Medieval Dynastyなど)に携わった経験からすると,アーリーアクセスは,強力なコミュニティと優れたゲームを完成させるのに役立つ,素晴らしいモデルであると感じている。もちろん,すべてのゲームタイプに対応できるわけではなく,まだいくつかの欠点もある。しかし,ゲームが適切であれば,有効な選択肢の1つとなるのだ。

 1つだけ確かなことは,コミュニケーションの計画を正しく立てないと,ゲームが出る前から破滅につながる可能性があるということだ。適切なコミュニケーションプランがなければ,ネガティブなレビューに悩まされるかもしれないし,金目当てのゲームという印象を与えてしまうかもしれず,ゲームが死んでいないにもかかわらず,死んでいると思わせてしまうかもしれないのだ。

 今日は,アーリーアクセスを成功させ,一緒に時間を過ごすのが好きなコミュニティを作るのに役立つ,マーケティングとコミュニケーションのヒントをいくつか紹介したいと思う(その逆も然り)。これらのヒントのほとんどは,「アーリーアクセスでリリースされ,1.0のローンチ前」の段階で適用されるものだ。それ以前の段階では,伝統的なリリース前の宣伝戦術が効果的だ。1.0になったあとは,伝統的なリリース後の戦術も効果的だが,それについてはまた別の機会にお話ししたい。


頻度は少なく大きなコンテンツの投下を優先する


 プレイヤーにとってあまりプラスにならないかもしれない頻繁で小さな努力よりも,大きくて意味のあるコンテンツの更新を優先すべきだ。これは,アーリーアクセスキャンペーンを行う際に取っている私の個人的な方法だ。大きなコンテンツドロップは,たとえそれがそれほど頻繁に行われなくても,あちこちにある小さなドロップよりも,この数か月の間に多くの作業が行われたという印象を与える。

 2〜4か月ごとに大きなコンテンツアップデートを行うことで,コミュニティは今後の展開に興奮して,ゲームの進捗をより実感できるようになる。より大規模で優れたマーケティング資産を作成できるようになり,YouTuberやストリーマーがあなたのゲームに戻ってきて,もう一度遊んでくれるようになるのだ。また,コンテンツマシンの整備にも役立つが,これについては後述する。


たまにする自発的な贈り物はかけがえのないもの


 突然ちょっとしたプレゼントをもらったときのことを思い出してほしい。あなたはどう感じただろうか? この記事のために言っておくと,最高の気分,恍惚とした気分であったことを望みたい。小さなプレゼントがあなたの顔を笑顔にしたのなら,あなたのコミュニティのための小さなゲーム内コンテンツのドロップもまた,あなたの世界を良く(善意に)できる。

 大きなアップデートでなくても,衣装や装飾品,新しい銃やスキンなど,ちょっとしたコスメティックがあればいいのだ。ちょっとした親切心やサプライズで,コミュニティは本当に盛り上がり,あなたのすることに感謝してくれる ― とくに,次のメジャーアップデートが少し遅れるかもしれないと分かっている場合は……。


最初の数週間が最重要:グリーンであること


 アーリーアクセスタイトルのSteamユーザー評価が黄色,つまりポジティブレビューが70%以下であることほど,嫌なことはない。その評価はタイトルへの自信につながる。そのため,多少「未完成」の製品をリリースするのはいいととしても,それが「あとで仕上げる」バグでいっぱいであるべきだという意味ではない。

不満や疑問がある場合は,コミュニティとコミュニケーションをとること

 人々は,その時点である程度の内容を持ったプレイアブルな製品を期待している。もし,不満や疑問があるのなら,コミュニティとコミュニケーションをとろう。ネガティブなレビューには,(場合によっては)助けや思いやりをもって対応し,Steamのアップデートを書いて,取り組んでいることを伝えて,できることならすぐにバグパッチ出してほしい。

 アーリーアクセスリリース後の最初の数週間,制作とコミュニケーションの両方の観点から少し時間を投資すれば,プレイヤーベースとの間に多くの信頼を築くことができる。そうすれば,Steamのレビューで評価されるようになる。結局のところ,評価がすべてなのだ。また,最初の大きなコンテンツアップデートは,リリースから5〜7週間後に計画するようにしよう。これは,より多くのプレイヤーを惹きつけるために,セールと同時期にすることもできる。

James BendonのDinkumは,現在アーリーアクセス中だ
【ACADEMY】アーリーアクセスを成功させるためのマーケティングのヒント


優れたコンテンツマシンを作る


 大きなアップデートのためのハイプを構築する必要がある。アーリーアクセスの段階では,3つのタイプのコミュニケーションメッセージがある。

  • ゲーム内コンテンツのリリースに基づくコミュニケーション(ゲームのアップデート,バグ修正,ゲームへのコンテンツ追加,最終リリース)
  • コミュニティの参加と情報提供を目的としたコミュニケーション,物事を予告し,プレイヤーベースを満足させる(ティーザーポスト,Q&A,See what coming)
  • イベント,新プラットフォーム,パートナーシップ,息子など,マーケティング活動

 各大型アップデートは,アーリーアクセスフェーズにおける足がかりとなることを忘れないでほしい。それについてお祭りをして,人々を興奮させて,ゲームが生きて成長していることを示そう。メジャーリリースの前後には,本当に素晴らしいコンテンツプランを構築できる。


質問をする ― 知覚がすべて


 アーリーアクセスモデルの背後にある考え方は,コミュニティのフィードバックを利用して,より良いゲームを作るということだ。では,良いフィードバックを得るには,どうすればよいのだろうか。プレイヤーに質問することは,良い出発点となる。

 ゲームとその後のメジャーアップデートが終了したら,アンケートを作成し,プレイヤーに態度や感情を尋ねてほしい。ゲームのどこが一番好きか,何が一番嫌いか,どのようにゲームをプレイしたいのか,どの機能が好きか,他にどんなコンテンツがほしいのか。

 そこにはたくさんの金塊があり(泥もあるが,金塊を探すには少し泥まみれにならないといけない),もしかしたら彼らのフィードバックが新しい方向性につながるかもしれない……。


(少しだけ)方向転換の準備をする


 どのようなコンテンツや機能がプレイヤーに喜ばれるかを考えていたとしても,プレイヤーはしばしば予想外の方法でプレイすることになるものだ。

Michal Napora氏
【ACADEMY】アーリーアクセスを成功させるためのマーケティングのヒント
 私は以前,街づくりの要素があるサバイバルゲームに携わったことがある。発売前には,プレイヤーが欲しがるのはサバイバルに関連したコンテンツだと確信していた。しかし,ゲームが発売されて,アンケートを送ったりコメントを読んだりしてみると,街づくりの仕組みが好きな人たちがいて,自分の創造性を表現するための新しい建物や装飾品を求めていることが明らかになったのだ。

 そこで,次の大型アップデートで予定していたコンテンツの種類を少し見直すことにした。そこで,街をより個性的にするためのさまざまな建物やアイテムを計画し始めたのだ。そして,そのコンテンツを予告してリリースしたところ,コミュニティから多くのポジティブなフィードバックと賞賛を得ることができた。だから,少しは方向転換する覚悟が必要だ。結局のところ,あなたはコミュニティのためにすべてをやっているのだから。


ゲームの奴隷にならない


 この記事から得るものがあるとすれば,これだけだ。自分のゲームの奴隷にならないこと。自分自身とコミュニティの両方に境界線を設定しよう。もしあなたが週末に働いて,リリース後に何週間も経ってから新しいマイナーなバグフィックスやアップデートをリリースし始めたら,どうなるだろう? 人々はそれが普通だと思うようになるだろう。自分自身を疲れさせるだけでなく,アップデートの回数が減れば,プレイヤーはあなたがゲームを放棄したと思い,そこからすべてが悪くなる可能性がある。

 同じことが,プレイヤーとの一般的なコミュニケーションにも当てはまる。境界線を設定しないと,あなたのコミュニケーション不足が常態化する。

 デベロッパが土曜日と日曜日に休暇を取り,月曜日にクエリーに戻ってくることをコミュニティに分かるように,境界線を設定する。あなたが日曜日にバグを修正することを知らせる必要はない。彼らは待つことができるのだ。


自分自身とコミュニティの両方に境界線を設定しよう

 我々はゲームを作っているだけだということを忘れてしまうことがある。我々は絶滅の危機に瀕した種を救うわけでも,待機する必要のある外科医でもなければ,占領地で祖国を守る兵士でもないのだ。我々がやっているのは,あくまでビデオゲームなのだ。リラックスしてほしい。精神的にも肉体的にも墜落・炎上しないように,境界線と期待値を設定しよう。

 これらのいくつかのヒントが,あなたのお役に立つことを願っている。コミュニティに情報を提供し,透明性を保ち,誠実であれば(良いコミュニケーションの三要素),きっとうまくいくだろう。

 一番よくないのは,プレイヤーが自分のストーリーや説明で空白を埋めてしまうのに,黙ったままにしておくことだ。そうすると,プレイヤーが何を言い出すか分からない(コントロールできない)ことになる。あなたのコミュニケーションは,正直なところから来るようにしてほしい。そうすれば,みんなもそう感じてくれるだろうし,これから何か月もかけて,大好きなゲームのための素晴らしいコミュニティを作っていくことができると保証する。幸運を祈る。


Michal Napora氏はビデオゲームマーケッターであり,マーケティングエージェンシー32-33のオーナーだ。氏の手がけたゲーム作品には,Dying Light,The Sinking City,Aragami,Sherlock Holmes: The Devil's Daughterなどがある。マーケティングに関するヘルプやアドバイスが必要な場合は,LinkedInで氏に連絡を取ることができる。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら