【ACADEMY】ゲームにおけるユーモア:グローバルな展開でも面白さを失わないために

AlconostのLizaveta Dziahel氏が,ダジャレやジョーク,一般的なコメディを他の市場向けに翻訳する際の複雑さについて説明する。


 ユーモアは,ゲームの基本的な要素だ。プレイヤーの注意を引いて夢中にさせる際に,ユーモアはとても有効である。

 ゲームのシナリオが全体的にユーモラスなものであっても,ときおりダイアログでダジャレを披露するだけであっても,文化的背景や母国語に関係なく,すべてのプレイヤーに笑いに参加してもらい,笑いに伴うエンドルフィンを楽しんでもらいたいとあなたは思っていることだろう。

 ゲームデベロッパやローカライズチームにとって,ある言語のショートジョークを別の言語で表現することは,とくに(たとえば英語と韓国語といった)異なる言語間の翻訳においては困難な課題となっている。

 しかし,ユーモアの異文化適応のメカニズムを理解して,クリエイティブなネイティブ言語スペシャリストのチームを結成すれば,すべてのゲームの他言語版で,ウィットに富んだ,楽しい,忠実なジョークの翻訳を実現して,世界中のプレイヤーを楽しませることができるようになることが分かるだろう。



ゲームにおけるユーモラスな効果の解剖学


 ゲームでユーモアを活用する方法を理解するには,そのさまざまなタイプを区別することが有効だ。ここでは,ゲームにおけるユーモアの最も一般的な形態である,アイロニー(皮肉),パロディ,ジョークについて説明する。

●アイロニー
 アイロニーとは,「予想と違う展開になることで,面白くなってしまうこと」だ。たとえば,あつまれ どうぶつの森には ウィスプというキャラクターがいるのだが,彼は幽霊を怖がっているのに,実は自分も幽霊だったという設定だ。

あつまれ どうぶつの森
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●パロディ
 ほとんどのメディアでは,コミカルな効果を狙って人物や状況を模倣するためにパロディが使われている。
ゲーム業界では,デベロッパが既存のビデオゲームや他のメディアをからかうためにパロディゲームを作成することがある。たとえば,ターン制RPGゲームSouth Park: The Stick of Truthのクリエイターは,有名なファンタジーロールプレイングゲームDungeons & Dragonsの要素を模倣している。

South Park: The Stick of Truth
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 また,パロディゲームは,元ネタを超えて,それ自体で有名になるような独立した現象に発展することがよくある。たとえば,ポイント・アンド・クリック方式のアドベンチャーゲームThe Room Tributeは,主人公のジョニーの視点からThe Roomの筋書きを追っている。このゲームでは,プレイヤーは正確に再現された世界を探索するだけでなく,映画のプロットの穴を修正することもでき,今では最も象徴的なパロディFlashゲームの1つとして認識されている。

The Room Tribute
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 しかし,パロディゲームをローカライズする際には,落とし穴がある。パロディゲームの元ネタが,対象地域であまり知られていない場合があるのだ。そうならないためにも,元ネタ自体がローカライズされているか,ターゲットとなっている市場に元ネタのファンがいるかなどをしっかりリサーチしておこう。

●ジョーク
 ジョークとは通常,笑いを誘うようなオチのある短い話,観察,思考を意味する。ジョークには,観察的なもの("Have you ever noticed……"),逸話的なもの(たとえば,語り手が個人的に経験した出来事),状況に応じたもの,自虐的なもの,などがある。以下は,短いハロウィンジョークの例だ。

Q: What is a ghost's favorite ride?(幽霊の好きな乗り物は何か?)
A: A roller ghoster.(ローラーゴースター)


 アイロニーやパロディは主に状況的なコメディに焦点を当てており,それについては程度の差はあれ普遍的に理解されるのだが,これらのジョークは翻訳するのが非常に困難な特定の言語や文化的なものである。ここでは,ジョークの種類と,それを他言語で伝えるためのアプローチについて詳しく見ていこう。


言語的なユーモアと文化的なユーモア


●言語的ユーモア
 言語的ユーモア,または言語ベースのユーモアは,巧みに操作された曖昧さ,シャレ,韻を踏む音,および文脈に依存する。言語学的ユーモアには,音韻論的,形態論的,意味論的の3つのタイプがある。

 音韻論的ジョークでは,言語の音,ストレス,イントネーション,発音を利用して曖昧さを作り出す。

Why does Santa Claus go down the chimney on Christmas Eve? (サンタクロースはなぜクリスマスイブに煙突を下りるのか?)
Because it soots him.(煤まみれになるからだよ)

※説明にあるように,直訳ではジョークの意味が分からないのは仕様です

 これは「soot」(黒い炭素の粉)と「suit」(喜ばせる)が似ていることで,ユーモラスな効果を生み出している。このジョークでは,西洋のキャラクター,つまりクリスマスイブに西洋の家にプレゼントを持ってくる赤いスーツを着た白ひげの老人を想像して,文化的な言及も行っているのである。

 次に,形態素のユーモアの例だ。

Q: Where do you find a birthday present for a cat? (猫用の誕生日プレゼントはどこにある?)
A: In a cat-alog! (カタログに!)


 このように,形態素を利用することで,聴衆の笑いを誘うことができるのだ。もっと例がほしい? 英文法の達人になるために夜中まで勉強した人なら,このようなジョークが気に入るだろう。

文法サボテン(grammer cactus)のゲイリーは愛を見つけられない。「ゲイリー,自己中になるのはやめなさい。サボテン(CACT-US)なんだから」「実際のところ,スイーティ,複数形だとCACT-Iだよ」(※サボテン:cactusの複数形はcacti)
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 これらのジョークは,形態素を利用して別の単語を提案し,それが思いがけず文に新たな意味を与え,ユーモラスな効果を生み出している。

 最後に,意味的なユーモアの例を挙げる。

The Past, Present, and Future walked into a bar. It was tense. (過去,現在,未来がとあるバーに入った。緊張が走った)

 この言語の一発芸のユーモアは,「tense」という英単語の曖昧さに大きく依存している。この言葉は,動詞の時制と緊張状態の両方を意味できるのだ。一語一句の翻訳で他の言語に自動的に移し替えることはできない例だ。

●文化的ユーモア
 ユーモアには,話し手のライフスタイルや世界観が反映されるが,それはその文化によって大きく規定される。そのため,翻訳が最も難しいジョークは文化的なジョークだ。その国のステレオタイプを使い,地元のニュース,スポーツ,音楽,祝日,娯楽,政治などに精通していることが前提となる。たとえば,このシナリオのジョークを理解するためには,イギリス人の話し方の癖を知る必要がある。

An American asks an Englishman what he does for work. The Englishman, in his R-less vowel dialect, responds: "I’m a clerk." Based on this answer the American assumes that the Englishman sits around all day going, "Tick, tock, tick, tock."

 あるアメリカ人があるイギリス人に「仕事は何してる?」と聞いた。そのイギリス人は,R-less vowelの方言(※Rが付いても母音を伸ばさない方言だと思われる)で「I'm a clerk.」と答えた(※クラーク → クラック)。この答えから,アメリカ人はそのイギリス人が1日中,「Tick,tock,tick,tock」と言いながら座っていると思い込んだのだ。

 このジョークをアラビア語に直訳しても,ほとんどユーモアはないだろう。第一に,アラビア語では音韻的にその音をコピーすることができない。また,すべてのアラブ人がアメリカとイギリスの訛りの違いを知っているわけではなく,また,必ずしもそれを面白いと思っているわけでもない。

 当然,疑問が生じるだろう。どうやって世界中の人を笑わせればいいのだろうか? 翻訳者は,移し替えのきかない意味や文脈,ニッチな言語的・文化的特徴をどう扱えばいいのだろうか。詳しく見ていこう。


ユーモア翻訳に必要なスキル


 翻訳者が,深い文化的理解に基づく自然で完璧なテキストを提供するためには,ターゲット言語のネイティブスピーカーである必要があることは,一般的に知られていることだ。しかし,そもそも翻訳すべきユーモアを見出すためには,翻訳者は原文文化にも精通している必要がある。イディオムやスラングなどといった話し言葉への幅広い知識,鮮やかな想像力,言語的創造力に加えて,翻訳者に必要なスキルは次のとおりだ。

  • 明確で簡潔な言葉で文章を書く能力。長くて不器用な表現は,ユーモアのある文章から読みやすさとテンポを奪ってしまうだろう。意図的に言葉を選び,文章を丁寧に構成し,文法を正しく使うことが,良いライティングスタイルには欠かせない。
  • コメディを理解していること。世の中には,スタンダップコメディ,バーレスク,スラップスティックなどを教える教室がある。翻訳者にとっては,このような趣味はバッテリーを充電するだけでなく,プロとしてのレベルを受動的に向上させるものだ。ユーモアのセンスは,映画,シットコム,テレビ番組を見たり,コミック,本,漫画などを読んだりして,家にいながら養うこともできる。
  • あくなき好奇心と優れたリサーチ能力。ユーモアのセンスは,原文にあるジョークを素早く理解するのに役立つが,ユーモアの翻訳は,十分なリサーチと練習で身につけることができるものだ。諺にもあるように,練習すれば完璧になるのだ。

 では,翻訳そのものをどのように扱うかについて説明しよう。


ゲームのユーモアを翻訳するための実行可能な解決策


 意外なことに,ある種のユーモアについては,逐語訳がまだ有効なことがある。ユーモアの効果は,使われた特定の語彙ではなく,状況そのものにある場合もあるのだ。そういうジョークを成立させるには,その設定をターゲット言語に移し替えるだけでいいのだ。たとえば,子供が大人びた発言をする,被害者が無害だが恥ずかしい復讐をする,など特定の状況を笑いとする文化はかなりある。

AlconostのLizaveta Dziahel氏
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 しかし,ユーモアの効果は状況そのものよりも深いところにある場合もあり,文化的言及など,表現に含まれる文脈を明らかにする必要があるかもしれない。文化的な言及を維持し,翻訳の損失を最小限に抑えることがゲームのストーリーに不可欠である場合,脚注やコメントを使って文脈を追加できる。この方法ではユーモアが損なわれ,プレイヤーの没入感も低下するが,とくに文化的な理解がゲーム体験にとって重要な場合は,良い選択肢になる。

 笑いを絶やさないことが重要な場合は,翻訳からトランスクリエーションに切り替えることを検討してほしい(※広告用語だが,単に意訳のような理解でよいだろう)。翻訳よりもコストがかかるが,トランスクリエーションは柔軟性が高く,翻訳者がターゲット言語用にジョークを創造的に調整する自由が得られる。また,ジョークのトランスクリエーションに関しては,コメディ理論の基本が確実に身に付いていることが望まれる。たとえば,ジョークやダジャレを作るには,文脈を作り,それを不意に壊すか,あるいは誇張された対立を生み出す必要がある。この2つが,笑いを生み出す基本的なメカニズムだ。これらは,陽気なジョークを思いつくのに役立つ。

 もう1つの方法は,そのジョークを対象国の文化で同じ目的を果たすものに置き換えることだ。これはいわゆる「国産化」と呼ばれるもので,同じようなユーモアの効果が得られる別のシナリオや枠組みを考え出す必要がある。

 最後に,そのユーモアが物語の本筋に欠かせないものでなければ,無理にユーモアを入れても逆効果になることを受け入れるという選択肢もある。冗談も方便と言うように,ユーモアを排することは必ずしも間違った判断とは言えないのだ。


ユーモアを守る:デベロッパのためのヒント


 デベロッパとして,翻訳者の仕事を手助けする方法がある。まず,ユーモアに関する柔軟性を確認する。それはゲームに不可欠な要素なのか? ユーモアはゲームに不可欠な要素なのか,それとも省略できる場合もあるのか。特定の大きなシーンや状況の一部なのか? 文化特有の要素はあるか?

 第2に,文脈を提供すること。これは,原語ではなく訳語を母国語とする翻訳者にとって大きな助けになる。翻訳者は,原文がジョークや慣用句を意図したものであり,一字一句訳すべきでないことに気づかないことがある。

ある人にとっては面白くて無害なジョークでも,他の人にとっては恥ずかしくて不快であり,違法でさえあるかもしれないことを常に念頭に置いてほしい

 最後に,キャラクターの画像,性別,年齢,他のキャラクターとの関係などの情報を含むキャラクタープロファイルを提供する。最も良いシナリオは,翻訳者に包括的なローカライズキットを提供し,可能な限り多くの文脈を提供して,特定のフレーズに対する要求を明確にすることだ。翻訳者が登場人物の立場に立って考えれば,キャッチーなセリフや気の利いた台詞を思いつくのも容易になるだろう。

 同時に,ある人にとっては面白くて無害なジョークでも,他の人にとっては恥ずかしく,不快で,違法でさえあるかもしれないことを常に念頭に置いてほしい。ユーモアのようなデリケートなトピックでは,翻訳がゲームにどのようにフィットし,その全体的な印象に影響を与えるかを再確認することは決して悪いアイデアではない。ローカライズされたゲームが発売されたとき,一度の誤訳もなく,純粋な興奮を呼び起こすことを確実にするために,最終段階としてローカライズテストを行うことをお勧めする。

 我々人間は,日常生活の喜劇で笑うことが大好きだ。そして,ゲームはその笑いを生み出すのに最適な環境を提供してくれる。困難であると同時に,ユーモアの翻訳は,ターゲット言語を話すプレイヤーを大切にする,エキサイティングでクリエイティブなプロセスだ。世界中のユーザーに同じように楽しい体験を提供するための投資は,忠誠心,そして最終的にはより高い生涯価値という形で必ず報われることを忘れないでほしい。


Lizaveta Dziahel氏は,翻訳およびローカライズサービスプロバイダーであるAlconostのマーケティングスペシャリストだ。業界に特化した記事を執筆し,同社のデジタルコミュニケーションチャネルを管理している。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら