「24Frameの邪道経営哲学」第3回:Unreal Engine 5を使う時の哲学
「UE5を使ってみよう」
始まりは突然に。
社内で開発していた「メタルマックス・ワイルドウエスト」が中止となり,これからどうしようかと思いながら直近のプロジェクト「METAL DOGS」を振り返っておりました僕(前回,前々回の連載参照)のところに,ある時一本の電話がかかってきます。
「友野さん,一緒にゲーム一本作ってみねえ?」
電話の主は同じくゲーム会社の某社長さん。僕と同じく比較的小規模の人数構成で色々なプロジェクトを渡り歩いている猛者の方です。そんな彼は続けます。「Unreal Engine 5っていうすげえツールがあってよ。知ってるかい?」
「Unreal Engineの恐怖体験」
現場的にもちょっとしたバグの修正の方法が分からない,最適化の方法がそもそもよく分からない,などそれまでのゲーム開発の常識からすると「あり得ない!」の連発。
大手の巨大案件ならともかく,少人数でこれを何とかしようってのは無理がありますぜ社長さん,とはさすがに僕も思いました。
「しかし時代はUnreal Engine」
しかし「メタルマックス・ワイルドウエスト」の中止に伴い,多少外のお仕事にも目配せはせんとなあ,という思いもあって情報収集してみたところ「御社ではUnreal Engineの経験はいかほど?」とマジで半端ない頻度で聞かれます。当時とは違ってUE4は導入の事例もめっちゃ増えてましたし「4とちがって5になって圧倒的に使いやすくなったのかな?」(後にこれは大いなる誤解であると判明しますが)という好奇心もあって,一度会って話をしてみようということになりました。
「すぐにすんごい絵が出せる」
そして実際話してみると彼はすでにUE5での試作を始めており,これなら今までのアートの夢が全部適うぞ,くらいの勢いがあったのです。彼は元々アートディレクターで,今は主にキャラクターアニメーション(モーションとも言いますね)のリーダーなどを務めることが多い人物。携わるタイトルもほぼ有名なものがばかりなのですが(アニメーションというのは特殊技能で,安定したクオリティを出せる人間というのは超貴重なのです)何を思ったのかうちで開発していた「メタルマックスゼノ・リボーン」を手伝ってくれて,そこで意気投合したのが事の始まりです。
そんな彼が持ってきた試作は確かに,夢の塊でした。
「すんごい絵,とは具体的に何か」
アートディレクターが言うだけのことはあって,確かに短期間でこの絵が出るのはヤバい。なんでそんなことが可能なのか? というと主にそれはUE5の新機能である「Lumen」と「Nanaite」によるものである。と,まあここまではUEのドキュメントにまんま書いてあるわけですが,彼は特にキャラクターアニメーションの専門家。そんな彼が特にしびれていたのが「Advanced Locomotion System V4」(名前長すぎなので以下「ALSV4」)と呼ばれるキャラクターアニメーションの制御システム。端的に言えばAAAタイトルみたいな細かいモーションが1セットになって無料で使えるようになっており,適用すればそれはもう確かに簡単なソウルライクとか割と簡単にイケんじゃね? みたいな(もちろんこれも誤解であると後に判明します。というかこの手の誤解がUE関連で一番重要かつよくある誤謬なのですが,それは後述)感じがしてもうノリノリです。「すごいと思ったら早速やってみるのが大事」
ということで僕もさっそく試作をしてみることに(動画も上げておきますね)。
ALSV4適用済みのUEプロジェクトを譲り受け,おそらくやるなら僕が担当するであろうレベルデザイン,マップの試作など試みてみました。ALSV4の恩恵もあって,モデルとオブジェクトは仮ながら「あれ? これってそこそこストーリー性を感じられるマップになりそうじゃない? これで後はバトルが面白ければ最高のゲームになりそうじゃない?」という予感(誤謬)が半端ない。これは……ちょっとマジでやってみるか! という流れを止める人間は誰もいません。だって二人とも経営者ですからね。この時代に経営などする人間は基本的に危機管理などとは無縁なブレーキの壊れた人間ばかりなのです。なのでここまでは僕も彼も業務外の時間を使って夜なべして試作をしていた訳ですが,まあ僕らの日常業務はなくならないとして,ちょっとスタッフ立ててこいつをゲームにしていくか,という流れが生まれ始めてしまったのです。
「あとはバトルシステムだけ!?」
さて,実現性はともかくこの時点で僕の精神は「あとはバトルシステムだけ」という状態になってしまっております。より広くユーザーを獲得するための「METAL DOGS」においてはアクションゲームを標榜しておりましたが,基本的に僕はコマンドRPGの崇拝者です。そんな僕がその時点での理想を形に使用としたのが「メタルマックスゼノ・リボーン」でした。「このシステムをUE5で復活させたらどうなるのだろう?」という着想に至るのに時間はかかりませんでした。かくしてスタッフを立て「メタルマックスゼノ・リボーン」のコマンドRPGを再現する試みが走り始めます。そしてできたのが上記の写真のものです(静止画だけだと分からないと思うので動画も載せておきます)。
この時点で僕が理想としていたコマンドバトルRPGとは「止められるアクションゲーム」とほぼ同義です。Fallout3のV.A.T.Sを信奉している僕は少しでもあそこに近づきたくて生きているといっても過言ではありません。わずか数か月でここまできて,テストプレイしてくれているスタッフも結構楽しんでいる様子。実現はもう目前に……?という僕の先走った野望とは裏腹に,このモックを以て皮肉にも「このプロジェクトは継続不可能だ」ということが証明されてしまうのでした。
僕が夢見たコマンドRPG,それはまたもプロトタイプ時点でプロジェクト中止という呪われた運命をたどってしまいます(まあそれを検出するのもプロトタイピングの重要な意味だったりするのですが)。それがいかなる理由によるものなのか。それは次回,じっくりとお話ししましょう。なぜならそれを踏まえることこそが,我々の未来の創出に他ならないからです。鎮痛な話ばかりで僕も辛いものがありますが,ぜひとも乞うご期待!