【ACADEMY】ライブ運営ゲームにおけるローカライズの手引き
おめでとう。あなたはゲームのローンチに成功し,安定したライブオプススケジュールが組まれている。
ゲームのリテンションレートは良好で,適切な収益を得ているなら,あなたは今,ゲームのスケーリングについて考えるべきかもしれない。その際のオプションの1つは,さまざまな地域のより広い聴衆にゲームを提供することだ。
マーケティング活動を拡大する以外に,新しいオーディエンスにゲームをよりアクセスしやすくするためのもう1つの選択肢,それがローカライズだ。
ここでは,最初のローカライズの準備をする際に考慮すべき点をいくつか紹介する。以下のポイントは,ライブオペレーションゲームに関する一般的なガイドラインであり,他のタイプのゲームには追加の手順があるかもしれないが,ガイドラインはそのまま適用できる。
ローカライズの準備
●どの市場をターゲットとして,どの言語が必要かを計画し,予算を設定する
プロジェクトの他の部分と同様に,どの市場がローカライズのターゲットとして適しているかを判断することが重要だ。ゲームのジャンルによっては,特定の市場でより良い結果を得ることができる。また,ゲームの初期段階で行ったテストから収集したパフォーマンス結果と組み合わせることで,最高の結果を得るためにターゲットとする市場を特定することが可能になる。
どの市場がローカライズのターゲットとしてふさわしいかを判断することが重要だ
ローカライズの費用は膨らむので,予算を決めて支出を管理する。●ローカライズが必要なすべてのアセットを整理する
市場と予算が決まったら,ローカライズするものをすべて準備する。これにはテキスト,画像,UI,ビデオ,オーディオなど,あらゆる種類のものが含まれる。また,これらのファイルを翻訳ツールで使用するのに適した形式にコードから抽出する方法(詳細は後述)と,これらのファイルをゲームに簡単に戻すことができるような方法を調べる必要があるかもしれない。
予算や技術的な制約にもよるが,この時点でローカライズの量を決めたり,代替案を探すこともある(例:ビデオカットシーンをビデオ全体を他言語に吹き替えるのではなく,字幕にするなど)。
●ローカライズキットの作成
ローカライズのためのファイルが準備できたら,今度は翻訳者のために役立つものをすべて集めた保管庫を作ろう。背景情報(ゲームの歴史,ブランドバイブル,ガイドライン,ターゲット層),その他の有用な情報(UIフロー,一般的な用語集,翻訳者が受け取るソフトウェアとハードウェア要件を含むファイルの説明,翻訳者が実際のゲーム設定で出力をプレビューするためのテスト環境,ローカライズの使用と成果物に対する期待)を含むものである。
ローカライズキットが充実していればいるほど,翻訳者は実際のローカライズ作業の準備をしながら,プロセスの初期段階でリスクを確認し,指摘できるようになる。良いローカライズキットは,エンジニアからの支援を最小限に抑えつつ,翻訳者が独自に作業できるようにする必要がある。
●ゲームローカライズの経験があるマネージャーを雇う
ローカライズプロジェクトマネージャーは,ローカライズの成功の鍵を握る存在だ。この役職は,ローカライズプロセスの設定と管理,さまざまなメディアタイプや言語の複数のファイルの管理,翻訳,リソースの調達,成果物の品質管理の確保を担当することになる。
※スモークテスト:動作内容の正誤はともかく動くかどうかを確認するテスト。配管工事では煙を流してみて煙が漏れないかどうか確認する。電気工事では電気を流してみて煙が出ないかどうか確認する
ローカライズは,非常にニッチで驚くほど技術的な専門分野だ。チームの規模が小さく,専門のプロジェクトマネージャーを雇う予算がない場合でも,別の几帳面なチームメンバーにこのタスクを引き受けてもらうことは可能だ。
この担当者はローカライゼーションの学習にかなりの時間を割く必要がある。一度に複数の言語を扱う能力がなくても,このような人的配置でゲームを徐々に新しい言語にアップデートできるはずだ。
また,プロジェクトマネージャーを契約社員として雇用したとしても,契約が終了する頃には,そのプロジェクトマネージャーがゲーム制作の貴重な経験を積み,コアチームの一員としてフルタイムで雇用できるような予算が確保されることを期待することもできる。
●ローカライズされた言語でのコミュニティ参加への準備
予算に応じて,社内で翻訳者を雇うか,外部のローカライズ会社に委託するかを検討することになるだろう。
ゲームの進化に伴い,ローカライゼーションに使用する用語集やトーンを整えておくことも重要になる
ローカライズを外部に委託するのは,作業量が膨大になる可能性があるため理にかなっているが,長期的に持続するためには,ゲームのローカライズを行う主要なターゲット市場ごとに,少なくとも1人の社内翻訳者を置くことが重要だ。こういった社内の翻訳者は,フルタイムでゲームに携わることになるため,ゲームのマーケティング活動やコミュニティの感情によりよく通じている。また,彼らはマーケティングおよびコミュニティ フロントでのローカライズの取り組みを支援し,一貫した高品質で適切なゲームのローカライズを確保するために,外部のローカライズ会社からきた成果物の校正者としての役割も果たしてくれる。
ゲームの利用者がより多くの市場に広がるにつれ,コミュニティマネージャーチームをローカライズされた言語を理解するメンバーに拡大し,コミュニティのフィードバックに注力することで,コミュニティ管理を社内翻訳者の役割から切り離すことが重要だ。
ライブオペレーションプロセスの一環としてのローカライゼーション
●ライブオペレーションにおけるローカライズの一貫性
ゲームの進化に伴い,ローカライゼーションに使用される用語集やトーンを維持することが重要だ。新しいイベントや機能によって,新しい翻訳が導入されることがあるが,将来の参考のためにローカライズライブラリに追加しておく必要がある。
そうすることで,新メンバーの受け入れが容易になり,プレイヤーはゲームが何を指しているのかを常に明確に把握できる。一貫性のない用語は,混乱や紛争を引き起こす可能性があるため,避けるべきだ。
●アプリ内課金のローカライズ
ローカライゼーションが提供される新しい市場でマネタイズも提供していく場合は,コストと通貨を見直して,それらに応じて更新する必要がある。税金や規制の関係で,特定のアプリ内課金は地域によって価格が異なる場合があるが,その内容はまったく同じであるべきだ。
特定の地域向けに特別なプロモーションを提供している場合を除き,異なる地域間で異なる広告やIAPを避けるよう,とくに注意してほしい。
●ローカライズによる追加負荷に対応するための制作パイプラインの更新
ゲームの既存コンテンツすべてのローカライズのバックログに追いつくために,ローカライズプロセスを制作ロードマップの一部にする方法を検討する必要がある。
ローカライズの対象となるすべての素材を早めに入手し,社内の翻訳者チームや外部企業が作業を完了するのに十分な時間を確保できるようにする。
ローカライズがすぐにできるものと思い込まないこと
万が一,ローカライズがリリースに間に合わない場合は,英語(またはデフォルト言語)を使用し,ローカライズの準備ができたあとでアップデートを行うという選択肢も常にある。この記事では,ローカライズは後付けであり,ゲームが発売されてから一定期間後に計画・実施されるものであることを説明した。リリース時に同時にローカライズを行うという選択肢もあるが,これは上記のプロセスと同様,開発段階でローカライズプロセスを開始し,ゲームリリース前のライブオペレーションプロセスの一部として組み込む必要があることを除いては,上記のプロセスと同様だ。
ゲームの開発の大部分さえ終えれば,ローカライズは何の問題もなく迅速かつ効率的に行えると勘違いしないようにしよう。早い段階からローカライゼーションの準備をすることで,新しいプレイヤーに質の高い翻訳を提供できるのだ。
Heather Pan氏は,2011年からローカライズのプロジェクトマネジメントに携わり,現在はFundamentally Gamesでゲームプロデューサーを務めている。以前はGumi Asiaに勤務し,アソシエイトプロデューサーとしてFinal Fantasy Brave ExviusのLiveOpsに3年間携わった。
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)