知的財産権コーディネーターのMo Ali氏が，業界団体が海賊版だけでなく，コンテンツを悪用するあらゆる手法とどのように戦っているかについて詳しく説明する。


　海賊行為は，これまでも，そしてこれからも，イタチごっこだ。

　企業は，デジタル著作権管理（DRM），正規品であることを確認するために常にオンラインでなければならないゲーム，Denuvoのような改ざん防止ソフトウェアなど，理論的にはより安全で新しい知的財産保護の方法を考え出している。これらは一時的には有効かもしれないが，悪質な業者がこれらの対策を回避する方法を見つければ，ゲーム会社は新しいセキュリティの形を考え出さなければならず，新たな攻防が始まっていく。

　英国のビデオゲーム業界団体UKIEは，会員（無料）および非会員（有料）の両方に対して，海賊行為と戦おうとしている勢力の1つである。この組織は，「通常の」海賊行為だけでなく，非伝統的な形態の海賊行為にも対応している。

　2017年以降，UKIEは前者を提供して500のゲームを追跡しており，この間，200万の個別リンクと50の違法Webサイトを削除し，かなりの成功を収めている。では，具体的にどのような仕組みになっているのだろうか。

UKIEのMo Ali氏

　まず，UKIEは，自分たちが何者であるか，メンバーの1人を代表して行動していること，特定のWebサイトに侵害コンテンツがあることを指摘する書簡や電子メールを送る。最良のシナリオは，Webサイトがそのまま閉鎖されることだが，業界団体がそれを達成できない場合でも，いくつかの選択肢がある。

　「業界団体として動くことの良さは，大きな影響力を持つことです」とAli氏は説明する。「我々は，定期的にWebサイトと連絡を取り合っています。通常，滅多に行動しませんので，そのWebサイトはおそらく『こいつらは誰だ』と思うことでしょう。我々は，これらのサイトに何百，何千もの取り下げ通知を送っています」

　「彼らは，我々がいなくなることはなく，しつこいことも知っています。我々は，Webサイトを閉鎖するために最善を尽くすが，それができない場合，我々がしようとすることは，混乱を招くことです。リンクの削除はその最たるものです。たとえば，洋服屋さんに行っても，欲しいものがなかったら，もう二度と行きませんよね。ある意味，それが我々の目指すところです。誰かがゲームをダウンロードするためにWebサイトに行っても，見つからないようにするのです。何もなければ，Webサイトを訪れる意味がありませんから」

　これらのリンクを削除するプロセスは，ある程度似ている。一般的に，これらのリンクは業界で「サイバーロッカー」と呼ばれるものを指している。これらのサイトは，事実上，ユーザーがファイルをアップロードしたりダウンロードしたりできるストレージユニットだが，リンクはGoogleなどで見つかるわけではない。アクセスは制限されており，多くの場合パスワードで保護されているため，利用者はある程度の匿名性を確保できる。

　現在では消滅してしまったが，こうしたサイバーロッカーの中で最も有名なのが，Kim Dotcom氏が運営していたMegauploadである。2012年，FBIはドットコムのWebサイトを押収し，著作権侵害，マネーロンダリング，不正取引などの罪で起訴した。その後，米国の要請を受けたニュージーランドの警察が，Dotcom氏の自宅を華麗に襲撃した。それ以来，彼は米国への身柄引き渡しと戦っているのだ。

海賊版は，インディーズや中堅のチームにより大きな影響を与える。とくにインディーズの場合，1作しか持っていない，まさに1作めということもあり，売り上げに大きな影響を与える可能性があります

　以上のことから，Ali氏によれば，最近のサイバーロッカーを運営する人々は，以前よりも法律との絡みを若干警戒しているようだ。

　デジタルミレニアム著作権法などの法律にある「セーフハーバー」条項（米国にのみ適用されるが，この種のコンテンツ削除の代名詞となっている）は，サイバーロッカーの運営者がコンテンツの削除要請に応じることで責任を回避できることも意味している。しかし，そう簡単にいくとは限らない。

　「サイバーロッカーの運営者がリンクを削除してくれるのは，ある意味で幸運なことです。しかし，中にはリンクを削除しないサイバーロッカーもあり，その場合は最初のWebサイトを閉鎖することになります」とAli氏は語る。「つまり，2つの側面から攻撃するのです。もちろん，理想はWebサイト全体を閉鎖することですが，そのサイトにアクセスしても何も見つかりませんから」

　さて，これは非常に大変な作業のように聞こえる。しかし，UKIEがこの戦略に固執するのには理由がある。実際，この業界団体は他の業界よりも成功率が若干高いのだ。

　「取り下げ率は約80％です」とAliは語る。「これは非常に高い数字です。音楽，オーディオ，ビジュアル，書籍など，他の種類のデジタルコンテンツの平均テイクダウン率は約65％から70％です。ですから，我々はより高いテイクダウン率を誇っています。これはとても良いことです」

　「また，発見したリンクの約70％は24時間以内に削除されると推測しています。ゲームソフトのファイルは本当に大きいので，通常は数十GBにもなります。そのため，1つのファイルやボリューム，ZIP/RARファイルをダウンロードするのに時間がかかるのです。24時間以内にこれらのリンクをすべて削除できれば，誰かがゲームファイルを完全にダウンロードするのを阻止できる可能性があります」

違法コピーのルーツ

　ゲームをクラックする理由はさまざまだ。一部のリリースグループ（発売後できるだけ早く新タイトルのセキュリティを破ろうとするハッカーの集団）にとっては，技術的な挑戦が目的だ。また，クラックされたタイトルを，人々がダウンロードするWebサイトに販売することで，利益を得るという動機もある。

　そのようなサイトにとっては，金銭的な動機がある。インターネットの大部分では，広告で利益を得ているため，新たな攻撃経路となり得るのだ。

　「我々はロンドン市警と協力して，この問題に取り組んでいます」とAli氏は語る。「警察には，PIPCU（Police Intellectual Property Crime Unit）と呼ばれる組織があります。UKIEをはじめとする英国の業界団体は，広告を掲載しているWebサイトを報告するのが基本です。PIPCUが行うのは，ブランドや広告代理店にアプローチして，侵害サイトに広告が掲載されていることを認識しているかどうかを尋ねることです。PIPCUは，ブランドや広告代理店に対して，自社の広告が侵害サイトに掲載されていることを認識しているかどうかを尋ねます。『質の高い』広告を排除する効果的な方法です」

海賊は，商品，チート，ボットなどの販売など，ゲームタイトルを収益化するための革新的な方法を見つけます

　「このようなWebサイトでは，賭博の広告が多く見受けられるようになったことがありました。英国では，賭博委員会が，英国に拠点を置く賭博企業は，この種のサイトに広告を掲載しないことを基本的に要求しています。これは，業界団体として，PIPCUとともに，少なくとも賭博広告が表示されないようにするために行ってきたことです」

　「今，残念ながら，低品質な広告を目にすることがあると思います。あなたの地域のこの人はあなたの '友人'になりたかったり，ビデオゲームに少しエッチになってほしいと願っていますが，おそらく決してUKIEのメンバーになることはありません」

　海賊版対策に対する議論の1つは，あなたのゲームを海賊版にする人は，決して実際にお金を払うつもりはなかったということだ。2017年当時，欧州委員会はまさにこのことを結論づけた研究を発表し，「海賊版がビデオゲームの売り上げに影響を与えるという証拠はない 」と述べている（関連英文記事）。そして，Ali氏は，すべての違法コピーの事例が売れなくなったわけではないことを認めながらも，消耗の割合はあると考えている。

　「私が音楽業界で働いていた頃，違法ダウンロード20件につき，1件の売上損失があるという統計についていつも話していました」と彼は説明する。「つまり，ゲームをダウンロードしている人は，そのゲームを購入することはないかもしれないのです。それはよく分かります。しかし，購入する可能性のある人たちとも共有しているのです。ゲームへのアクセスを提供しているかもしれませんし，そこから利益を得ているかもしれません。彼らが何をするにしても，他のさまざまな分野に影響を与えるのです」

　Ali氏によると，最近目にする違法コピーの大半はPC向けで，エコシステムのオープンな性質を考えれば，それほど大きなショックはないのかもしれない。しかし，2位はどうやらSwitchのようだ。任天堂のプラットフォームに対する厳しさを考えると，これは驚くべきことだ。

　「Switchのタイトルでもサイトは見つかりますが，PCの問題に比べればはるかに小規模です」とAli氏は語る。「明らかに，PCタイトルの大半は，クラックされたバージョンをプレイすれば，フルアクセスが可能です。Switchのタイトルでは，できることが制限されており，それが人々を躊躇させることは明らかだと思います。以前ほど簡単ではありません」

PCが違法コピーの影響を最も受けているプラットフォームであるのは当然だが，Nintendo Switchもまた影響を受けている

　ゲーム業界における海賊行為にまつわる多くの記事は，AAAタイトルに関するものだが，その背後にある企業は，小規模なデベロッパやパブリッシャと同じ程度には，その熱を感じていないことが多いのだ。

　「海賊版は，インディーズや中堅のチームにより大きな影響を与えると言えるでしょう」と氏は語る。「とくにインディーズでは，1作めのゲームしか持っていない可能性があり，売上に大きな影響を与える可能性があります。もちろん，AAA級のチームにとっても，海賊行為によって，マーケティング計画が台無しになる可能性もあります。誰かが禁輸措置を飛び越えて，YouTubeやTwitchでそのゲームの完全なプレイスルーをしたらどうだでしょうか？　それは，単にゲームをプレイできるという事実だけではないかもしれません。そのゲームのマーケティングや，人々へのアクセスを提供する方法かもしれません」

　「経済的には，ピラミッドの底辺にいる人たちに影響があるかもしれません。しかし，我々は，すべての会員とすべてのゲーム産業が可能な限り保護されていることを確認したいのです」

海賊版の防止

　違法コピーの対策には，さまざまな方法がある。これまでAli氏と議論してきたのは，大まかに言えば「棒」によるアプローチで，力や脅しを使って相手を思いどおりに動かすというものだ。しかし，「ニンジン」のアプローチもあるのだ。

　これは，ゲームにDRMを使わないCD Projektのような会社で使われている。多くの人は，このようなやり方は馬鹿げていると言う人もいるだろうが，ポーランドの大手企業は，良い製品を作ることで，より多くの人が苦労して稼いだお金を手放す気になると考えているのである。

　Ali氏は，ゲーム業界は多種多様な企業が存在するため，海賊版対策も多種多様になると考えている。

我々は，法執行機関としてドアを叩き壊すようなことはしません。

ファンの方々と協力し，IP権の侵害であることを認識させるなどしていくつもりです
　「各ゲーム会社は独自の方針で活動しています」と氏は語る。「ゲームの素晴らしいところは，単一の製品ではないため，人々はさまざまな理由でゲームを選ぶということです。それがCD Projektのタイトルであり，消費者が得をしたと感じるたからあれば，それは素晴らしいことです。うまくいけば他の企業も同様のことを試みるかもしれませんから」

　「無料プレイは革新的なもので，他の業界もそれに追随しています。音楽ストリーミングサービスでは，広告付きの無料版があります。おそらくゲーム業界は，ユーザーに異なる体験を提供するために，最初にそのようなフリーミアムモデルを行ったのでしょう」

　UKIEの知的財産チームは，「伝統的な」海賊行為を取り締まることが大きな役割だが，それがすべてではない。この業界団体では，IPを侵害しようとする他の方法にも取り組もうとしている。

　「ゲームの種類やプラットフォームはさまざまで，たとえば，純粋にオンラインで，ダウンロードするための物理的なゲームファイルがない場合もあります」と，Ali氏は語る。

　「海賊は，商品，チート，ボットなどの販売を通じて，そのゲームタイトルを収益化しようとする革新的な方法を見つけることができます。我々が心がけているのは，技術が変化していく中で発見された現在の脅威に，我々のサービスを適応させることです。

The Witcher の開発元であるCD Projekt Redは，DRM保護なしでゲームをリリースしている数多くのスタジオのうちの1つだ

　氏は続ける。「我々は，古いバージョンのゲームからゲームコードが取得されたプライベートサーバーを調査していますが，明らかに，そのコミュニティの熱心なファンたちは，基本的に自分たちのバージョンを作成しています。これは，我々のメンバーの誰かが所有しているコードです。そこで我々は，プライベートサーバーの運営者に連絡を取り，我々がメンバーの1人に代わって行動していること，彼らが彼らのIPを使用していることを認識してもらうようにしています」

　「また，サービスやゲーム内アイテムを提供する人もいます。特定のゲームタイトルで，植物を改造して，あなたの島で特定のことをするとか，そういうことを持ちかける人がいるのです。これもまた，ゲーム環境におけるポリシーに対する違反です」

　このようなリスティングは，サービスやアイテムを宣伝するために画像などを使用するので，IP侵害になる。しかし，彼らはゲームをプレイするために登録しており，そして誰も読まないような利用規約があます。そこには，IP所有者の許可なしにサービスを提供して収益化することはできないと明確に書かれています。これもまた我々が取り組んでいることのひとつです」

もしあなたが1か月以内にアプリを削除させることができれば，潜在的に，あなたはそれらの人々が収入を集めるのを止めることになります

　これには非公式グッズも含まれる。UKIEは，しばしば他人のIPに基づいてTシャツ，ステッカーなどを売っているEbay，Amazon，Redbubbleのようなマーケットプレイスにコンタクトを取っている。

　「これらのプラットフォームでは，明らかにチェックが行われていません」とAli氏は説明する。「どうすればこの人たちが，このゲームのキャラクターが特定のタイトルに由来していることが分かるのでしょうか？　我々は，そのようなサイトにアクセスし，販売されている商品を特定するのです。また，Etsyも，もう1つの好例です。そこで人々は単に商品を販売するだけでなく，剣でもポーションといったアイテムも販売できるのです」

　もちろん，新品のビデオゲームのプロテクトを破ろうと長い時間をかけている人たちとは違って，こうしたマーケットプレイスでお気に入りのゲームのステッカーを売っている人たちは，自分がやっていることが許されないということを必ずしも自覚しているわけではない。

　「我々は，法執行機関としてドアを叩き壊すようなことはしたくないのです」とAli氏は語る。「我々は，会員と一緒になって，一定のルールを設けています。たとえば，ある企業が公式のTシャツのデザインを持っていて，誰かがその模倣品を作ろうとしている場合，それは明らかにメンバーが売ろうとしているものと直接競合しているため，取り下げさせます。あからさまな侵害ですので」

　「しかし，ファンが少しばかり無自覚であったり，何をすべきか分からない場合，我々は売り手と協力し，彼らがIP権の侵害などをしていることを認識させるように努めます。そして，必要な措置を講じない場合は，それらのプラットフォームから出品を削除するように要請します。我々は，海賊版や販売者のすべてが，お金のためにやっている人たちだと主張しているわけではありません。ネットが普及して，誰もが利用できる世の中になったからこそ，やっている人もいるのです」

知的財産の保護は海賊版のゲームだけに留まらない。Etsyなどのマーケットプレイスで販売される非公式商品も含まれる

クローンの攻撃

　知的財産といえば，ゲーム業界では「クローン」という問題が常につきまとう。今年に入ってから，インディーズゲームで大ヒットしたWordleが執拗にコピーされ，話題となった問題だ（関連英文記事）。

　ゲームをダウンロードしている人は，自分ではそのゲームを購入することはないかもしれない。しかし，購入する可能性のある人たちと共有しているのだ。

　Ali氏は，ゲームをパクリから守るには，まず名前を商標登録することだと言い，こう付け加えた。「これは大きな抑止力です。もし私があるゲームのクローンを探そうと思ったら，まずそのゲームタイトルの名前を検索します。Mo's Gameという名前で私が商標登録をしていれば，他の人が似たようなものを出そうとしても，まずUKIEの知財チームがそれを見つけて商標権侵害ということで取り下げやすくなるのです。また，あからさまなパクリを阻止することもできます」

　「そして，似たような名前のゲームをチェックするよう，企業に依頼します。たとえば，Moe’s Gameという似たような内容のゲームを作って，場所やアートワーク，キャラクターなどを丸パクリしている人がいるかもしれません。そうすると，ゲーム内のコンテンツをコピーしたことになりますので，著作権侵害であることを証明できるのです。必ずしもゲームの完全なクローンである必要はありませんが，ゲームの要素がコピーされていれば，アプリストアの運営会社に連絡して，ゲームを削除してもらうことが容易になります」

　Ali氏は，デベロッパはできるだけ多くのスクリーンショットを公開すべきであるとしている。そうすることでクローンの疑いがあるゲームが「確実にパクリ」であることを示すことができ，ひいてはアプリストアが削除しやすくなるからだと付け加えた。

　「このようなアプリが収益化されている場合，時間が非常に重要になります」と氏は付け加える。また，「公にはなっていませんが，アプリストアは一定の日数経過後に報酬を支払います。このため，1か月以内にアプリを削除することができれば，アプリによる収益回収を阻止できる可能性があるのです」

　「アプリストアを監視することは重要です。ゲームをリリースするのであれば，自社でチェックするか，UKIEと連絡を取って，我々がアプリストアをチェックしていることを確認し，それらのアプリを迅速に削除すれば，IPのマネタイズを止めることができる可能性があります。彼らはよそに行きます。1つのゲームからできる限り多くの利益を得て，別のゲームを立ち上げるでしょう。もちろん，できるだけ早く削除できれば，それはデベロッパにとって有益なことです」