【ACADEMY】パブリッシャへの売り込みを考える前に必要なすべてのもの

GYLDの共同設立者が,パブリッシャがあなたのゲームを評価する際に要求されるすべての情報と資料を紹介する。

 Twitterに素敵なGIFを投稿したら,エキサイティングなことに,スカウトやパブリッシャが大勢あなたのDMに滑り込んできた。いいね!

 そのとき,あなたは彼らに予算の内訳を送るのか? ゲーム機用のロットチェックのためにどれくらいの時間を確保したか? 今後の採用計画はどうするのか? クロスプラットフォームのマルチプレイヤーサポートはどうするのか? 

 だいたいうまくいっている……そうだろうか? あなたは自問しているかもしれない。「なぜ誰もこれらすべてを準備する必要があると教えてくれなかったのか!」と。大丈夫だ。我々は,パブリッシャがあなたのゲームを評価する際に通過するプロセスを解説して,プロセスをできるだけ苦痛なく進めるために準備できることをお手伝いしたい。まずは,パブリッシャの立場になって考えてみよう。



パブリッシャのリスク


 2021年にSteamでリリースされたゲームだけでも1万本以上あり,その大半は,売上が5000ドル未満であるため(参考URL),パブリッシャはゲームとの契約に関して,以前ほどリスクを取りたがらなくなっている。10枚のスライドにクールなコンセプトアートを添えたピッチデッキがあれば,パブリッシング契約が成立するような時代は過ぎ去ったのだ。

 パブリッシャは,露出を抑え,確実に売れるとは言えないタイトルをリリースするリスクを減らそうと考えている。世界的な証券取引所への上場,複数の投資シリーズ,買収,ベンチャーキャピタル投資による軍資金集めなどなど,パブリッシャが法外な資金を調達しているというニュース記事を何度も目にしたことがあるのではないだろうか。


確実なのは,パブリッシャがあなたのゲームの細部に至るまで,歯ブラシで徹底的に調べることだ

 我々としては,伝統的なお金の世界がゲーム業界に真剣に取り組んでいるのを見るのは素晴らしいことだが,そのコインの裏側はどうだろうか? パブリッシャは,利害関係者のリスクプロファイルを満たすために,あなたのゲームの細部に至るまで,きめ細かくチェックするのは間違いないだろう。

 要するに,パブリッシャはかつてないほどリスクを避けているため,ゲームへの出資や提携を納得させるのは至難の業となっているのだ。プロジェクトの資料を準備すればするほど,適切なパブリッシャがあなたと一緒に冒険したいと思う可能性が高くなる。さらに,ゲームのための適切な契約を交渉する際に,交渉力を高めることができるようになるだろう。

 このように,ゲームデベロッパは,パブリッシャに資金提供を依頼する前に,自ら(と利害関係者)のリスクプロファイルを満たしてからゲーム制作に着手する義務があることを認識しておくことが重要だ。それでパブリッシャから資金提供を受ける可能性を高めるだけでなく,交渉力を高めることができるのだ。

Fabian Malabello氏とLex Suurland氏は,GYLDの共同設立者だ
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グリーンライトのプロセス


 パブリッシャに提供すべき資料を理解するためには,まずパブリッシャの評価プロセス(しばしば「グリーンライト」プロセスと呼ばれる)を理解することが必要だ。

 パブリッシャによってグリーンライトプロセスの進め方が異なることを念頭に置きつつ,ここでは最初の評価からゲームとの契約まで,最も一般的な段階の基本事項と,これらの段階でどれくらいの時間がかかるかを説明したい。

●1. ピッチ資料の査定

 時間の目安 < 1週間以内

 パブリッシャはこの段階で,まずあなたのピッチデッキ,主要なゲーム情報,チームの経歴,実績などを評価し,相性が良いかどうかを判断する。この段階は,パブリッシャが「イエスかノーを判断」する瞬間だと考えてほしい。状況が良ければ,あなたのチームとのイントロダクションコールに飛びついてくる可能性がある。

●2. 制作物の評価

 時間の目安:1〜4週間

 イントロダクションコールですべてがうまくいった場合,パブリッシャはあなたの制作資料を要求してくる。ゲームデザイン,開発,リリーススケジュール,チーム情報,能力,負債,必要な資金や制作サポートのレベルなどを理解するために,これらの資料を深く掘り下げることになる。また,パブリッシャの制作部門に紹介されて,資料の修正を依頼されることもある。

パブリッシャに提出する資料を理解するためには,まずパブリッシャの評価プロセスを理解する必要がある

●3. プレイテスト

時間の目安:1〜2週間

 パブリッシャのチーム(プロダクション,マーケティング,QA,その他の部門)があなたのゲームビルドをプレイして評価し,その経験を文書化する。契約前にパブリッシャのクオリティ基準を満たせるように彼らからフィードバックがもらえることもあり,ゲームのどこを改善すればいいのかを把握するのに役立つ。

●4. マーケティングアセスメント

時間の目安 < 1週間

 パブリッシャは,あなたが行ったマーケティング活動から,あなたのゲームがどのようにユーザー(Steamウィッシュリスト,ソーシャルメディアのフォロワー,Discordメンバーなど)に浸透しているかを確認して,リリース後のアップデートやDLC,続編の計画,将来のマーケティングの可能性についても検討する。

 この段階でパブリッシャのマーケティング部門を紹介され,あなたのゲームに対する洞察やマーケティングプランの可能性を教えてもらえるかもしれない。パブリッシャがどのようにあなたのゲームを新しいオーディエンスに販売し,既存のオーディエンスを活用するかを,この機会に尋ねてみてほしい。

●5. 市場調査・財務予測

時間の目安 < 1週間

 パブリッシャは,あなたのゲームのコスト,スコープ,プラットフォーム,類似タイトル,オーディエンス,マネタイズモデルを調査し,財務予測と小売価格モデルを作成する。

 パブリッシャが損益計算書(P&L)を作成するうえで,予測は非常に重要だ。この計算では,利益を出すために必要な販売本数や平均価格を算出し,損益分岐点を特定する。これらの内部計算は,オファーにおける財務条件の基礎を形成するものとなる。パブリッシャは通常,予測を計算する際に過去の販売データとゲーマープロファイルデータベースを参照する。

リジェクトは,ゲームの品質や商業的な可能性を反映するものではない場合がある

●6. グリーンライトミーティング

時間の目安 < 1週間以内

 これはパブリッシャの意思決定部門が集まって,取引を進めるか,提携を断るかを決定することを目的とするものだ。パブリッシャのチームが,あなたのゲームに対する賛否を表明する瞬間でもある。

 パブリッシャがあなたのゲームを気に入っていても,パブリッシャの意思決定プロセスはそれぞれ異なっており,ゲームの品質や商業的な可能性を反映したものではない場合もあることを認識していくことが重要だ。

●7. ヘッドライン条件

時間の目安:1〜2週間

 グリーンライトミーティングの結果が良好であれば,パブリッシャはオファーに進む。ヘッドライン条件は,電子メールや短いハイレベルな文書で簡単に提示される傾向があり,パブリッシング契約の条件の基本的な構成要素を確立するものだ。このとき,ニーズ,要望,提供物を交渉できる。

●8. 契約

時間の目安:2〜16週間

 ヘッドライン条件が合意すると,パブリッシャはその取引条件を長文の契約書に反映させる。これらの契約は,通常,権利,ライセンス,保証,義務,資金,期間,終了,地域などに関する条項を網羅している。

 これは,プロセスの中で細部まで気を配るべき最も重要な段階であり,ときに最も長い時間を要する段階でもある。

 通常,この段階のために法的な予算を確保することが望ましいと言える。

 まとめると,グリーンライトプロセスは,企業の規模や機敏性にもよるが,数週間から数か月かかることもある,一連の重要な評価ステップだ。ゲームデベロッパとその製品に圧力をかけることを目的とした,残酷な試行錯誤のシステムであるとも言える。

2021年だけで10000以上のゲームがSteamでリリースされたが,その大半は売上が5000ドル未満だった
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制作資料


 グリーンライトの典型的な段階をご理解いただけたと思うが,評価を支援し進行させるために必要な情報をちゃんと提供しなければ,いかに簡単に事態が遅延するかもお分かりいただけたと思う。

 評価をスムーズに進めたいのであれば,以下のような資料や書類を準備しておくとよいだろう。

●1. ピッチデッキ
 良いピッチデッキと同じように,このセクションも手短に済ませよう。Gamesindustry.biz ACADEMYに,ピッチデッキのまとめ方に関する素晴らしい記事がいくつかある(関連記事)。良いピッチデッキの鍵は,子どもの本のように考えることだ。視覚的に美しく,読みやすく,そして短い(通常,最大10〜12枚のスライドにこだわる)ことだ。

 効果的なピッチデッキの作り方について,さらに詳しい情報が必要なゲームデベロッパのために,GYLDでは,分かりやすいピッチデッキガイドを用意している(参考URL)。

●2. 制作プラン
 制作スケジュールと制作素材は,ゲームを作るための設計図だ。これがないと,間取り図なしに家を建てようとするようなものだ。また,予算のベースにもなるため,これらの資料を充実させることは必須といえる。

 以下は,パブリッシャから最もよく要求される制作ドキュメントの例である。

・制作スケジュール
  • プロジェクトのタイムライン(月単位):プリプロダクション,バーティカルスライス,プレα,α,β,リリース候補,PCゴールド,家庭用ゲーム機ゴールド(該当する場合),リリース後のマイルストーンなど,マイルストーンに分割されたもの
  • プロジェクトタスクリスト:各タスクの関連部署(個人またはグループ),および各タスクの期間(日単位)を記載したもの

 パブリッシャは,あなたのプランを彼らのリリーススケジュールに合わせるよう要求することがある。これは,制作時間を削減することもあれば,追加することもある。そのため,どこで譲歩できるのか,どこで時間や内容を増やせば制作に有利になるのかを考えよう。

・その他の制作資料

  • 人員配置計画および概要。人員の詳細と役割,および将来的なスタッフの雇用計画を詳述したもの
  • アウトソーシングプラン。フリーランサーの管理,要件,選択,および利用する外注資産作成/サービスの詳細を説明する
  • アセットリスト。リギングされたアニメーション,ダイナミックオーディオ,ライティングなど,関連する詳細のサブセットを含む,さまざまなアートタイプのアセットが明確に定義されたもの。これはまとめるのに非常に時間がかかるが,優れたプロダクションプランには欠かせない
  • テクニカルデザインドキュメント。GDDを「なぜ,何を」の答えとなる文書と考えるなら,TDDは「どのように」の答えとなる文書で,ツール,プロセス,コーディング,AI,ネットワークソリューションなどのリストだ。これはパブリッシャが見る必要は必ずしもないが,チームが結束して働いていることを確認するためには,持っておく価値がある
  • 市場調査報告書。オーディエンスや市場全体の可能性を理解していることを示すもの

 制作はマスターするのが難しく,芸術でもあり,学問的なスキルでもある。GYLDでは,プロダクションの知識を深めたいデベロッパのために,「チートシート」を用意している(参考URL)。

制作計画が包括的であればあるほど,予算は正確になる

●3. 予算
 予算とスケジュールが計画どおりに進むことが稀なことは誰もが知っている。パブリッシャは通常,日々の制作を管理していないため,予算の「吹き飛び」はパブリッシャが直面する最も一般的なリスクとなる。彼らはデベロッパが組織化されており,円滑な制作パイプラインを持っていることを頼りにしているのだ。

 前のセクションで説明したように,予算は制作プランに大きく依存する。制作計画が包括的であればあるほど,予算はより正確なものになる。

 だから,予算計画を立てる際には,以下の項目を含めてほしい。

  • スタッフの給料(その他のスタッフのインセンティブ,ボーナス,手当などを含む)
  • 光熱費と諸経費(ソフトウェア,ハードウェア,銀行手数料,ソース管理,家賃,Webサイトのホスティングなど)
  • 外注費(外注サービスプロバイダー,コンテンツクリエイターなど)
  • 事業経費(会計,法務,税金,保険,従業員福利厚生など)
  • テストと認証(ローカライズ,ポーティング,レーティング,ユーザーテスト,QAなど)
  • 旅行,マーケティング,PR費(航空券,会議,販促用資産,代理店,その他)
  • 先行投資と直接貢献(デベロッパや関係者から)
  • 流動資産と流動費(銀行にあるお金)
  • リベート,助成金,タックスオフセット(政府,プラットフォーム,組織のインセンティブなど)
  • 非常用資金(予算に対するバッファの許容範囲)

 追加の資料(該当する場合)としては,過去の販売実績と予想がある。これはフランチャイズでの前作,移植,他のプラットフォームでの前作の売上げを含むものだ。

 これにより,総キャッシュフローの内訳を作成し,マイルストーンの支払いがいつ必要になるかを予測できるようにする。

 これらの支払いは通常,マイルストーンのスケジュールと連動しているので,制作スケジュールと,パブリッシング契約のマイルストーン支払い予定日を必ず照合してほしい。そうすることで,計画的な支出を抑え,従業員や請負業者への支払いに遅れが出ないようにできる。

良いピッチデッキの鍵は,子供の本のように考えることだ:視覚的に見やすく,読みやすく,短く
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●4. プレイアビリティの高いビルド
 パブリッシャはビジュアルを重視しており,スクリーンショットやゲームプレイのビデオを見るのが好きだが,最終的には,プロトタイプであれ,バーチカルスライスであれ,もっと本格的なものであれ,あなたのゲームをプレイして評価を決めていく。

 もしゲームが「楽しく」なかったり,「秘密のソース」が欠けていたりすると,彼らのグリーンライトを通過することはできない。パブリッシャには時間がなく,評価するゲームのリストが尽きることがないので,魅力的なビルドでパブリッシャを感動させるチャンスは,通常1回か,2回しかない。

 GYLDがプレイアブルビルドに求める主なものは,以下のとおりだ。

  • 面白さ。面白いかどうか,また遊びたいかどうか。ゲームは,意図的に時間をかけて作ることができる。もしあなたのゲームがそうであるなら,事前にこのことを伝え,期待を持たせてほしい
  • 考え抜かれたゲームデザイン。デベロッパは3C(カメラ,キャラクター,コントロール)をうまく活用しているか? ジャンルと観客のニーズを明確に理解しているか? 
  • 卓越したビジュアル。視覚的な没入感があるか?高忠実度は必ずしも必要ではないが,プレイヤーの感情的な反応を呼び起こすようなアートでなければならない
  • ゲームループが明確に定義されていること。ゲームの核となる柱が明確になっているか? 

 グリーンライト中のプレイテスト段階をスムーズに進めたいのであれば,強く,楽しく,安定したプレイアブルビルドに投資することが最善策だ。あなたのビルドがゲームの可能性を納得させるものであれば,評価プロセスを加速させるだけでなく,交渉力を高めることも可能になるだろう。

 追加資料(該当する場合)。パブリッシャがあなたの実績を明確に理解し,制作品質への期待を抱けるように,過去のゲームのキーも必要だ。

 パブリッシャによっては,会社の方針で.exeファイルをプレイできない場合がある(セキュリティ上のリスクがあるため)。一般的に,パブリッシャはSteamキーであなたのゲームのデモにアクセスすることを好む。

●5. GDD
 近年,ゲームデベロッパコミュニティでは,ゲームデザインドキュメント(GDD)を作成する価値があるのか,それとも労力と時間の無駄なのかについて議論が行われている。主な論点は,GDDは小規模なチームには「無関係」であるか,完成するまでに「時代遅れ」になってしまうというものだ。

 GDDはすぐに時代遅れになるという意見は事実かもしれないが,GDDはチームと主要な利害関係者にとっての真実の源であり,生きている文書だと考えたほうがよいだろう。

GDDは,あなたのチームと主要な利害関係者にとっての真実の源であり,生きている文書であると考えたほうがよいだろう

 このような理由から,GDDのコンテンツをホストするためにWikiを使用する傾向が高まっている。 ― GDDをよりすっきりと簡単に更新できる。MediaWikiやdokuwikiなどといった無料のオープンソースWikiが数多くあり,簡単に手に入れ,使用できる。

 リスクを避けたいチーム(そしてパブリッシャ)にとって,GDDの関連性は過小評価できない。ゲームデザインの明確なアウトラインがあることを示すのに重要なだけでなく,通常,パブリッシング契約にも含まれ,参照されるのだから。

●6. 共有可能なフォルダ
 パブリッシャにすべての資料を提供する際,意識しなければならないことがある。パブリッシャがあなたの資料に簡単にアクセスできるようにすることだ。重要な資料が複数のメールチェーンにまたがって紛失したり,誰かが誤ってCcから漏れてしまったりすることは,最も避けたいことだ。

 クラウドベースの共有可能なフォルダにすべての資料を保存しておくことは,この問題を解決する簡単な方法だ。

 また,セキュリティの度合いにもよるが,クラウドベースの共有フォルダを使用することで,誰が資料にアクセスできるかの権限管理(および分析の可能性)を行うことができる。

 同様に,Steamキーをパブリッシャと共有する場合に,パブリッシャがあなたのゲームへのアクセスを必要としなくなったら,いつでもアクセスを取り消すことができる。

 RAR/Zipファイルは,パブリッシャのセキュリティポリシーによって,使用できない場合があることは知っておいて損はない。

 現実問題として,ゲームの制作資料を準備することは,スタジオの将来にとって非常に重要だ。制作リスクを軽減すれば,パブリッシャとの交渉の際にも有利になり,交渉開始時には最高の条件で契約するための土台ができるのだ。

 だから,たとえオファーが殺到していても,準備を怠らなければ,悪い取引にサインしたり,機会を失ったり,最適とはいえない予算で過剰な約束をしたりすることを防ぐことができ,良い結果が得られると認識することが重要だ。


Fabian Malabello氏とLex Suurland氏は,ビデオゲームデベロッパがより良いパブリッシングや投資取引を得られるように,「ダメなら無料」で支援するために設立されたGYLDの共同設立者だ。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら