【ACADEMY】ソーシャルインスタントゲーム用の進化をたどる

Gismart の Alexey Avdey氏が,デベロッパとパブリッシャがソーシャルインスタントゲームの機会を最大限に活用する方法を探る。

 世界中で毎日ゲームをする30億人のうち,3分の2は「カジュアル」だと言われている。映画を見たり,夕食を食べたり,オンラインで友人とチャットしたりしながらゲームをするため,簡単に共有できるバイラルコンテンツを優先する傾向が強い。

 ソーシャルメディアプラットフォームの中で直接ゲームをプレイするソーシャル「インスタントゲーム」が人気を博しているのも不思議なことではない。

 Facebook(Meta),Snap,TikTokなどのソーシャルメディア大手は,ユーザーの行動や要求に促され,ユーザーが自社の集客エコシステムから離れる必要がないように,ワンストップのソーシャルエンターテイメントハブを作成している。

 インスタントゲームは今後も続くと思われるが,どのように進化しているのだろうか。また,ゲームデベロッパ,パブリッシャ,そしてエンターテインメント市場全体にとってどのような意味を持つのだろうか。


インスタントゲーム ― Flash in the pan ではない


 ソーシャルインスタントゲーム用のトレンドは,WebグラフィックスとアニメーションのツールであるFlash Playerが,ゲーム作成に使用できるプログラミング言語を確立した2000年にまで遡ることができる。Flashは,パブリッシャの力を借りずに,基本的にどこにでも配置することができた。

 2007年,Facebookゲームプラットフォームがサードパーティデベロッパ向けに開放され,最初のソーシャルFlashゲームの1つであるZynga Pokerがデスクトップで発売された。2009年,同社は農業シムFarmvilleをリリースし,友人を招待する代わりにゲーム内の特典を与えるという興味深いバイラル要素によって,すぐに大ヒットとなった(関連英文記事)。この非常に効果的な仕組みが確立されたことで,多くのスタジオがソーシャルゲームに取り組むようになっていった。

 やがて,絶え間ない招待がユーザーを悩ませるようになり,Facebookは徐々に機能を制限していったが,ソーシャルインスタントゲームの可能性は広がった。

ZyngaのFarmville
【ACADEMY】ソーシャルインスタントゲーム用の進化をたどる

 先見の明があったSteve Jobs氏は,2010年にFlashがAppleのデバイスに適していないと記している。Flashにはセキュリティ上の問題があり,スマートフォンのバッテリーを消耗し,タッチスクリーンには適さないからだ。しかし,Flashをサポートしない多くの新しいモバイル技術に促されて,AdobeがFlashを終了することを発表したのは,それから10年後のことだった。

 一方,HTML5 はインスタントゲームの制作に適したテクノロジーとなり,中国のプラットフォーム WeChat は HTML5 ゲームをインスタントメッセージングサービスに統合した最初の企業となり,この動きは Facebook Messenger に引き継がれ大きな成功を収めた。

 現在,FacebookとWeChatは,SnapchatとTikTokと競合している。各プラットフォームは,それぞれの社会的特徴やユーザーベースから情報を得て,インスタントゲームに独自の進化を遂げている。しかし,各プラットフォームにとって,インスタントゲームは,視聴者の維持とロイヤルティの獲得,ユーザー体験の向上と新しいインタラクションの提供,新しい収益源の確保を目指すうえで,論理的な進化を遂げるものとなっている。


インスタントゲームとソーシャル機能


 すべてのソーシャルインスタントゲームプラットフォームは,バイラリティという究極の目標を共有しており,ゲームへの参加と共有のしやすさが重要であることを意味する。ゲームがソーシャル・プラットフォームに完全に統合されているため,ゲームの進行状況を即座に友人と共有できる。それでは,有名なプラットフォームのその他の主な機能をいくつか見てみよう。

●Facebookゲーム
 シンプルなメカニズムと低い参入障壁は,ミレニアル世代,ジェネレーションX,ベビーブーマーからなるFacebookのオーディエンスにとって特徴的だ。女性プレイヤーにアピールするゲームが最も効果的だった。プレイヤーは,進捗状況やリーダーボードをニュースフィードで共有し,簡単に友人を招待できる。

※区切りに諸説はあるがだいたい以下のような年代区分
ベビーブーマー 1945〜1964年生まれ(58〜62歳)
ジェネレーションX 1965〜1980年生まれ(42〜57歳)
ジェネレーションY 1981〜1995年生まれ(27〜41歳)
ミレニアル世代 1980〜1999年生まれ(23〜42歳)
ジェネレーションZ 1995年以降生まれ(26歳以下)


 スマートフォンのホーム画面にゲームへのショートカットを追加してシームレスにアクセスできるため,Facebookはユーザー定着率で上位にランクインしている。

●Snapchat
 Bitmojiのアバターでプレイできる高品質なマルチプレイヤーゲームは,SnapchatのジェネレーションZとミレニアル世代のオーディエンスにとって必須のものとなっている。ここでも,女性向けのゲームが非常に効果的だ。

 メッセージ機能にゲームが組み込まれているため,ユーザーは音声やテキストでゲームについて話し合いながら友人と遊ぶことができ,まったく新しいゲーム体験をできる。SnapのDynamic Lenses機能は,ゲームのバイラリティを高めることが証明されており,プッシュ通知と「Happening Now」セクションは定着率とプレイタイムを高める。

●TikTok
 ジェネレーションZに人気のあるTikTokでは,軽快で楽しいコンテンツが主流だ。このプラットフォームは,ゲームプレイコンテンツの共有やゲームへの参加を容易にすることで,ゲームを共有可能にし,大きなバイラルの可能性を与えるさまざまな方法を備えている。

 TikTokでインスタントゲームを提供していないモバイルデベロッパでも,そのユニークな魅力的なメカニズムを反映し,ユーザー獲得のためにこのプラットフォームの可能性を探る傾向が強まっている。

 各プラットフォームのインスタントゲームの成功の主な要因は共通しているが,それぞれのユーザーに適した,差別化された特徴的な内蔵機能がある。


インスタントゲームの制作と公開


 では,デベロッパやパブリッシャは,ソーシャルインスタントゲームでの機会を最大限に活用するにはどうすればよいのだろうか? アプリストアだけでなく,あるいはアプリストアの代わりに,ソーシャルゲームプラットフォームに自社のIPを投入することを急ぐべきだろうか?

 実は,まだそう簡単ではない。10年以上にわたって発展してきたにもかかわらず,ソーシャルゲームはビデオゲーム市場の中で急速に発展している分野である。開発技術,マネタイズツール,エコシステムもいまだ未完成だ。

 Gismartは,デスクトップでのソーシャルゲームの成功を見て,モバイルはさらに良くなると予想し,2018年に実験的にFacebook向けのインスタントゲームの制作を開始した。当時,Facebook Gamingプラットフォームはオープンなエコシステムで,どんなインディーズデベロッパでもパブリッシュできたため,低品質のゲームや不適切なコンテンツが発生していた。現在では,ゲームは公式パートナーからしか提供されておらず,各ゲームは品質チェックされている。

FacebookのWord Search Tournament
【ACADEMY】ソーシャルインスタントゲーム用の進化をたどる

 また,Snapは,確立されたチームと高品質のポートフォリオを持つ優先的なパートナーとの独占的なネットワークと連携している。ゲームには,bitmojiアバターを使用したユニークなものや,Snapが作成したかのようなSnapのプラットフォームと調和しているものが必要だ。

 Snap Gamesのプラットフォームマネージャーは,パートナーと協力してゲームのコンセプトやアウトラインを開発し,開発プロセスにも関与する。公式パートナーは,ゲームの機能をβテストしたり,プラットフォームの開発にアイデアを提供できる。

 こうした障壁はさておき,新しいインスタントゲームを作るには,モバイルゲームとは異なる専門知識が必要だ。Webとモバイルの技術は急速に発展しており,モバイルゲームと同じ品質のインスタントゲームを構築する機会が生まれている。また,PlayCanvas,ThreeJS,Cocos 2D,Pixi JSなど,有料およびオープンソースのエンジンオプションも多数存在する。

新しいインスタントゲームを作るには,モバイルゲームとは異なる専門知識が必要だ

 しかし,Unityのようなお馴染みのフラッグシップエンジンがないため,デベロッパはWebGLの原理と制限を知り,UnityのC#とは異なるJavaScriptを学ぶ必要がある。Unity Tinyのような新しいツールは,このプロセスをより身近なものにするかもしれないが,ユーザー側で読み込まなければならないゲームサイズが大きくなる可能性があり,モバイルインターネットでは大きな障害となる。

 パブリッシャがソーシャルインスタントゲームプラットフォーム向けに新しいゲームを開発する一方で,デベロッパにとっては,既存のポートフォリオを最大限に活用する機会もある。この場合も,ゲームはマルチプレイヤーである必要があり,バイラリティを生み出すソーシャルメカニズムに適していなければならない。大衆にアピールするハイパーカジュアルゲームは,初日から高いユーザー保持率を示し,成功する可能性がある。その一方で,アプリストアの人気ゲームでも,マッチ3のようなニッチなユーザーとバイラリティの低いゲームは,うまくいかない可能性がある。

 したがって,インスタントゲームのポートフォリオを充実させることは,決して容易なことではない。技術が向上し,この分野の知識が増え,ソーシャルインスタントゲームプラットフォームの数と多様性が増え続けるにつれ,あらゆる規模のスタジオにとってインスタントゲームの成功への明確な道筋が見えてくることを期待している。


インスタントゲームのマーケティングとマネタイズ


 我々の多くにとって,ゲーム制作は,どんなに好きなことであっても,ビジネスだ。現在,ソーシャルインスタントゲームの主な収益化方法はビデオ広告とインタースティシャル広告だが,Facebookは最近バナープレイスメントを導入した。アプリ内課金のオプションは,iOSのインスタントゲームでは許可されていないため,Androidに限定されている。

 ユーザー獲得は,Snapで構築されつつあり,Facebookは高度なUAツールを備えているが,モバイルゲームに比べると確立されていない分野だ。このため,UAのコストはモバイルゲームより低い。この分野は今後さらに発展し,ソーシャルインスタントゲームのオーディエンスが増加し,プラットフォームはエコシステム内のLTVを高めることに積極的に取り組んでいる。

Gismart の Alexey Avdey 氏
【ACADEMY】ソーシャルインスタントゲーム用の進化をたどる
 ソーシャルインスタントゲームのマネタイズの大きなプラスポイントは,Appleの広告主向け識別子(IDFA)の非推奨など,プライバシー対策の影響を受けないことだ。このため,昨年はモバイルゲームやアプリのマーケティングやマネタイズが非常に難しくなったが,インスタントゲームは,すべてのユーザーがすでに1つのエコシステム内にいるため,同じ制約を受けることはない。デベロッパは,ユーザーデータを分析することで,ゲーム内のユーザー行動をよりよく理解し,バイラリティを高めることができる。

 新しいマーケティング手法の例としては,Facebook Gamingのクロスプレイ機能がある。この機能により,デベロッパはインスタントゲームとモバイル版の間で,ユーザーがゲーム内の進行状況を失うことなく,ユーザーのトラフィックをリダイレクトすることが可能になる。一方,Snapは,ゲーム内にデベロッパのページを購読するためのQRコードを備えており,コミュニティ構築機能は,さまざまなプラットフォームで開発中だ。

 インスタントゲームのソーシャルエコシステムの隆盛は,アプリストアにどのような影響を与えるのだろうか。真の競争相手となる可能性は低いだが,インスタントゲームの成功により,AppleとGoogleは独自のサービスを提供することで対応するかもしれない。実際,GoogleはすでにInstant Playと呼ばれるものをストアに組み込んでおり,デベロッパはインストールなしで小さなゲームをユーザーに提供できるようになっている。今後数年のうちに,より高度なインスタントゲームとマネタイズオプションが,2つの主要アプリストアに登場することになりそうだ。


インスタントゲームの未来


 ゲームは,地球上で最も人気のあるエンターテインメントの形態だ。楽しさと利便性という2つのニーズを満たすゲームが求められており,ユーザーは,ゲーム,チャット,ブラウジングの間で注意を切り替えることができる。これは,コンテンツのゲーミフィケーションという大きな流れの一部であり,インスタントゲームやゲーミフィケーションされた体験は,すでにさまざまなアプリジャンルで見受けられる。

 パンデミックバスター「Zoom」がインスタントパーティゲームを通じてコミュニケーションを多様化させるのもそう遠い先のことではないだろう。同様に,Tinderのような出会い系サイトでは,ゲーム体験を共有することで有意義なつながりを生み出す可能性を探っている。

 プラットフォームは,インスタントゲームの提供をより豊かで多様なものにしていくだろう。FacebookとTikTokは,日本のゲーム会社Playcoと契約を結んだが,Netflixのように,より多くのコンテンツ制作を自社で行う企業も出てくるかもしれない。

 たとえば,Snapは,すでに複数のスタジオを所有しており,プラットフォーム向けにインスタントゲームを制作している。大手企業との協力関係が深まれば,あらゆるタイプのプラットフォームで,より優れた独占的なインスタントゲームタイトルを提供することが可能になる。

 また,大手パブリッシャ以外のゲームメーカーにとっても,インスタントゲームの進化は,制限の少ない基準,優れた技術,より包括的なマネタイズおよびマーケティングツールによって,最終的に機会を民主化することになるだろう。インスタントゲームは,今後何年にもわたってゲーム産業の重要な部分を占め,決して「Flash in the pan(※一時的な成功)」ではない,と私は確信している。


Alexey Avdey氏は,Gismartのインスタントゲームの責任者で,世界最大のソーシャルメディアプラットフォーム向けにインスタントゲームやハイパーカジュアルHTML5ゲームを制作している。

GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら