【月間総括】「ELDEN RING」が変える日本の市場と開発力への悲観的な見方
今回は,「ELDEN RING」の話を進めていきたい。
バンダイナムコエンターテインメントとKADOKAWA傘下のフロムソフトウェアが発売したELDEN RINGは,海外でバンダイナムコが400万本以上の販売目標としていたが,両社から出されたプレスリリースによると,全世界で1200万本以上,国内で100万本の出荷を達成したとしている。
本連載では基本的に日本市場だけを取り上げているので,今回も日本市場として受け止めを話すと
(1)日本市場は本当に衰退しているのか
(2)PCゲーム市場が隆盛しているように見えること(実際にはSIEの戦略ミス)
(3)AAAと呼ばれる大型タイトルを日本でも開発できる能力があること
といったトピックが挙げられる。
まず,日本市場は衰退しているのかである。Switchが大ヒットする前,日本でスマートフォンゲームが隆盛だったこともあり,コンシューマゲーム機市場は少なくとも縮小するとの論調が大半であった。
筆者は,各種メディアに対して
(1)コンシューマゲーム機市場とスマートフォン市場は別のものである
(2)国内のゲーム機市場が衰退しているように見えるのは,任天堂の戦略ミスとソニーグループ(SIE)のゲーム機市場の普及要因について理解が不足していることがある
とコメントしたが,(2)についてはほとんどコメントとして採用されなかった。
AV機器や,デジタルカメラがスマートフォンに吸収される状況下ではゲーム機も同じになると思われるのは無理からぬところだが,実際にはそうならなかった。
エース経済研究所の見解としては,データを見てもコンシューマゲーム市場の隆盛は,任天堂,あるいはソニーグループのゲーム機の成否でほぼ成り立っており,外部要因には見えないということである。
下のグラフのSwitchの販売を見ている限り,日本のゲーム機市場が衰退しているようにはまったく見えない。
そして,今回,ELDEN RINGは国内でも100万本の販売を達成した。バンダイナムコやフロムソフトウェアから正式な開示はないものの,パッケージの販売本数から見るに,ELDEN RINGのコンシューマゲーム機での販売比率は多めに見積もっても80%ではないかと思われる。過去はほとんどがコンシューマだったことを考えると,日本でもPCでゲームを楽しむ人が増えたことを意味している。
PS5も,PS4も在庫が店頭にまったくないほど供給は乏しい。そのなかでELDEN RINGを楽しむには手元にあるPCになっているユーザーが少なくないことを示している。
特にPS5やXbox Series Xは大きすぎる。PCとのサイズ差が小さくなっていて,プレイスタイルもかつてのテレビ接続からディスプレイ接続が増えているので,ゲーム専用機のメリットが薄れてきている。このことが日本のコンシューマゲーム市場が衰退しているように見える原因だと考えているが,ソニーグループはおそらくそうは捉えていないであろう。
今回のELDEN RINGの結果は,サードパーティのAAAタイトルがコンシューマゲーム機の勝敗を決める要因にはならないことを示したと考えている。決める要因であるならばPC版ELDEN RINGの販売が日本で増えるはずがないからだ。
こうなるとELDEN RINGのためにPCが買われたという主張もあるだろう。もちろんミクロ的にはそういう人もいるだろうが,手に入りにくいハードよりもPCで十分と思われるようになった時点で,コンシューマゲーム機の魅力は薄れてしまう。ソニーとMicrosoftの戦略ミスと言っていいだろう。
ソニーグループは,ゲーム機が売れる本質的要因について考え直す時期に来ているように思う。繰り返すが,エース経済研究所ではソニーグループに対して建設的な意見を述べているだけである。ソニーグループ全体の経営戦略はとても優れていると思うし,2030年ごろには日本のアニメ文化が世界を席巻していると予想しているので,アニプレックスを傘下に持っているのはとてもいいことだと思う。だがゲーム市場だけは,PS5発売の少し前からどうもバイアスがかかった戦略になっていると思う。ぜひ,再考をお願いしたい。
話を戻そう。今回,ELDEN RINGのヒットで分かったことは,日本のゲーム会社は十分に競争力があるということである。2010年代,巨額の開発費を掛けたAAAタイトルが評価されるなかで,相対的に日本のゲーム会社は力を失ったのではないかという指摘がなされるようになった。
しかし,カプコンのモンスターハンターワールドに続き1000万本級のAAAタイトルが日本から誕生したことは,非常に勇気づけられる結果になったのではないだろうか?
任天堂以外のソフトウェアメーカーは,結果が出せていなかっただけに,ELDEN RINGのヒットは,非常に良かったと考えている。
スマートフォンゲーム市場が頭打ちになったこともあり,コンシューマゲーム開発に再び力を入れるサードパーティが増えてきている。PS5は心もとない普及台数であるが,ゲームソフトは,動くハードがあれば売れることがELDEN RINGのヒットではっきりしてきたので,ハードについてはPS5独占でもなければ気にしなくていいだろう。
そのうえで,開発者にお話ししておきたいのは,品質の高いゲーム作りに固執しないで欲しいということである。データを見ていると,昨年大ヒットした「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」のリメイクは,バグも多く,初期の出来は決して良くなかった。しかし,ユーザーは喜んで買っていたし,過去作でストーリーなども熟知していたにも関わらず,販売は高い水準だった。品質こそがゲーム販売に直結していると思われがちだが,実際には関係なさそうなのである。
ゲーム業界を資本市場から見て20年以上になるが,どうも一般的に常識だと思われていたことは間違いだらけだったように思う。ELDEN RINGの大成功は,常識を見直すいい機会ではないだろうか。
バンダイナムコエンターテインメントとKADOKAWA傘下のフロムソフトウェアが発売したELDEN RINGは,海外でバンダイナムコが400万本以上の販売目標としていたが,両社から出されたプレスリリースによると,全世界で1200万本以上,国内で100万本の出荷を達成したとしている。
本連載では基本的に日本市場だけを取り上げているので,今回も日本市場として受け止めを話すと
(1)日本市場は本当に衰退しているのか
(2)PCゲーム市場が隆盛しているように見えること(実際にはSIEの戦略ミス)
(3)AAAと呼ばれる大型タイトルを日本でも開発できる能力があること
といったトピックが挙げられる。
まず,日本市場は衰退しているのかである。Switchが大ヒットする前,日本でスマートフォンゲームが隆盛だったこともあり,コンシューマゲーム機市場は少なくとも縮小するとの論調が大半であった。
筆者は,各種メディアに対して
(1)コンシューマゲーム機市場とスマートフォン市場は別のものである
(2)国内のゲーム機市場が衰退しているように見えるのは,任天堂の戦略ミスとソニーグループ(SIE)のゲーム機市場の普及要因について理解が不足していることがある
とコメントしたが,(2)についてはほとんどコメントとして採用されなかった。
AV機器や,デジタルカメラがスマートフォンに吸収される状況下ではゲーム機も同じになると思われるのは無理からぬところだが,実際にはそうならなかった。
エース経済研究所の見解としては,データを見てもコンシューマゲーム市場の隆盛は,任天堂,あるいはソニーグループのゲーム機の成否でほぼ成り立っており,外部要因には見えないということである。
下のグラフのSwitchの販売を見ている限り,日本のゲーム機市場が衰退しているようにはまったく見えない。
そして,今回,ELDEN RINGは国内でも100万本の販売を達成した。バンダイナムコやフロムソフトウェアから正式な開示はないものの,パッケージの販売本数から見るに,ELDEN RINGのコンシューマゲーム機での販売比率は多めに見積もっても80%ではないかと思われる。過去はほとんどがコンシューマだったことを考えると,日本でもPCでゲームを楽しむ人が増えたことを意味している。
PS5も,PS4も在庫が店頭にまったくないほど供給は乏しい。そのなかでELDEN RINGを楽しむには手元にあるPCになっているユーザーが少なくないことを示している。
特にPS5やXbox Series Xは大きすぎる。PCとのサイズ差が小さくなっていて,プレイスタイルもかつてのテレビ接続からディスプレイ接続が増えているので,ゲーム専用機のメリットが薄れてきている。このことが日本のコンシューマゲーム市場が衰退しているように見える原因だと考えているが,ソニーグループはおそらくそうは捉えていないであろう。
今回のELDEN RINGの結果は,サードパーティのAAAタイトルがコンシューマゲーム機の勝敗を決める要因にはならないことを示したと考えている。決める要因であるならばPC版ELDEN RINGの販売が日本で増えるはずがないからだ。
こうなるとELDEN RINGのためにPCが買われたという主張もあるだろう。もちろんミクロ的にはそういう人もいるだろうが,手に入りにくいハードよりもPCで十分と思われるようになった時点で,コンシューマゲーム機の魅力は薄れてしまう。ソニーとMicrosoftの戦略ミスと言っていいだろう。
ソニーグループは,ゲーム機が売れる本質的要因について考え直す時期に来ているように思う。繰り返すが,エース経済研究所ではソニーグループに対して建設的な意見を述べているだけである。ソニーグループ全体の経営戦略はとても優れていると思うし,2030年ごろには日本のアニメ文化が世界を席巻していると予想しているので,アニプレックスを傘下に持っているのはとてもいいことだと思う。だがゲーム市場だけは,PS5発売の少し前からどうもバイアスがかかった戦略になっていると思う。ぜひ,再考をお願いしたい。
話を戻そう。今回,ELDEN RINGのヒットで分かったことは,日本のゲーム会社は十分に競争力があるということである。2010年代,巨額の開発費を掛けたAAAタイトルが評価されるなかで,相対的に日本のゲーム会社は力を失ったのではないかという指摘がなされるようになった。
しかし,カプコンのモンスターハンターワールドに続き1000万本級のAAAタイトルが日本から誕生したことは,非常に勇気づけられる結果になったのではないだろうか?
任天堂以外のソフトウェアメーカーは,結果が出せていなかっただけに,ELDEN RINGのヒットは,非常に良かったと考えている。
スマートフォンゲーム市場が頭打ちになったこともあり,コンシューマゲーム開発に再び力を入れるサードパーティが増えてきている。PS5は心もとない普及台数であるが,ゲームソフトは,動くハードがあれば売れることがELDEN RINGのヒットではっきりしてきたので,ハードについてはPS5独占でもなければ気にしなくていいだろう。
そのうえで,開発者にお話ししておきたいのは,品質の高いゲーム作りに固執しないで欲しいということである。データを見ていると,昨年大ヒットした「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」のリメイクは,バグも多く,初期の出来は決して良くなかった。しかし,ユーザーは喜んで買っていたし,過去作でストーリーなども熟知していたにも関わらず,販売は高い水準だった。品質こそがゲーム販売に直結していると思われがちだが,実際には関係なさそうなのである。
ゲーム業界を資本市場から見て20年以上になるが,どうも一般的に常識だと思われていたことは間違いだらけだったように思う。ELDEN RINGの大成功は,常識を見直すいい機会ではないだろうか。
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