【ACADEMY】メニューにおけるアダプティブオーディオ:ゲーム開発における未開拓の機会

Unlock AudioのElliot Callighan氏は,メニューやロビーの音楽をより魅力的にする方法について考察している。

 ゲーム開発では,壮大なスコアや充実したサウンドエフェクトなど,分かりやすいサウンド要素に目が行きがちだが,ゲームプレイの前や合間に最も影響力のある瞬間が訪れることもある。

 今日は,メニュー,チュートリアル,ロビーなど,プレイヤー体験の縁の下の力持ちであるオーディオとミュージックにスポットライトを当てて,より魅力的なオーディオを提供するために,通常見落とされている機会に注意を喚起したい。

 ゲーム内のサウンドは素晴らしいのに,メニューやロビーのオーディオが退屈なゲームも少なくない。しかし,プレイヤーが必ず関わるこれらのインタフェースに気を配ったゲームは,それ自体が不思議な体験となるものだ。とくにアダプティブミュージックは,メニューやロビーを壮大なレルムの間にある雰囲気のある空間以上のものにする具体的な方法をデベロッパ に提供してくれる。


まずはじめに:アダプティブミュージックとは何か?


 アダプティブミュージックとは,変化する環境や雰囲気,進化するゲームプレイに合わせて,ゲーム内の音楽を積極的に変化させることを意味する。この変化は微妙に,あるいはスムーズに行われることが多く,曲と曲の間を激しく切り離すというよりは,自然な進行のように感じさせるものだ。

ゲーム音楽のダイナミックなアプローチは,プレイヤーの決断を後押しし,全体的な体験の一貫性を高める

 このダイナミックなゲーム音楽のアプローチは,プレイヤーの意思決定と進歩の実感を高め,ゲームから離れるような瞬間を最小限に抑え,全体的な体験のまとまりを高めていく。

 アダプティブミュージックがとくに優れているのは,プレイヤー主導で動いているように感じられる点だ。操作している人は,自分の判断や動作が,聴こえる音の微妙な変化だけで,本当に変わっていくように感じられる。音色の変化というシンプルなものが,隠れた変化の発見を暗示しているかもしれない。あるいは,「ここはまだカンザスだよ,ドロシー」というモチーフを聞きながら,あるエリアから別のエリアへの境界線を越えたことを,目で確認することもできるだろう。


最初から没入感を出す


 新しいゲームを初めて起動するときのことを想像してみてほしい。あなたは何を期待するだろうか?

 グラフィックスのスプラッシュや映画のような映像が流れたあと,おそらくはどこにでもあるようなスタート画面に遭遇することを期待するだろう。何もおかしなことはなく,ゲームプレイを開始するための,よく知られた足がかりにすぎない。ここでは通常,3つほどの標準的なオプションが表示される。「新規ゲーム/スタート」,「コントロール」,「設定」だ。

 とくにチュートリアルや導入が必要な場合は,「新規ゲーム/スタート」を選択した瞬間に,世界が広がっていく。このとき,音楽がゲーマーの体験に真のプラスアルファをもたらし,最初から深く引き込まれ,どんなスタイル,トーン,複雑なゲームプレイが待ち受けているのか,期待を膨らませることができる。

適応性のある音楽とサウンドは,ゲーマーが重要な情報を得るための大小さまざまな手がかりを提供するのに役立つ

 そして,ゲームプレイとは,視覚,聴覚,触覚を通して共有される,ゲーマーとその想像力,そしてストーリーの関係でなくて何だろうか? 人間関係と同じように,理解するには,(明白なものであれそうでないものであれ)サインを認識することから始まる。アダプティブミュージックとサウンドは,ゲームユーザーが重要な情報を得るための大小の手がかりを提供し,ゲームとの関係を深めるのに役立つのだ。

 プレイヤーの第一印象となるメニューやゲームプレイのイントロは,プレイヤーの気持ちを真に 引きつける重要な機会だ。スタジオがこのような最前線のインタフェースをUIデザイナーの鋭い視線に委ねているように,サウンドデザイナーやオーディオパートナーの鋭い耳と意見によって,ゲーマー体験を増幅させる音楽とサウンドの役割が前進する(前進するはずだ!)。


プロがやっているようにする


 この原則の代表的な例として,任天堂のゲームを紹介しよう。任天堂は,自社のフランチャイズの音楽性に驚くほどこだわり,ダイナミックなゲームサウンドの名作を次々と生み出している。

 今回は,Project Longplayのイントロを使ったマリオカートWiiで検証してみよう(参考URL)。


 Aボタンを押した瞬間から,メニューマジックが始まる(1分54秒)。プレイヤーの人数を選択すると,ジャンボトロンに4つのプレイスタイルが表示される。バックトラックは,高速でリズミカルなベースラインと軽快なピアノのトリルで始まり,すぐにエネルギーを与え,前進を促す。レースモードを選択すると,メニューがもう1つ細かいことを聞いてくる。50cc,100cc,150ccのうち,どのスピード(または難易度)で走りたいのか? などだ。

 スピードを選ぶと(2分32秒),音楽は一気に複雑になる。すでに流れているバックトラックの途中のどこからでも,新しい要素を取り入れてくる。今度は,リズミカルなトラックと,アップビートなピアノの和音だ。ワクワクしてきた? 我々もだ。

 次に,キャラクターと乗り物のコンボを選択する。簡単なことだが,まだもう1つある。レーサーとクルマを選ぶと,さまざまなレースコースが用意された画面にスライドし(2分52秒),音楽もさらに複雑になり,レースのスリルがすぐそこに迫っていることを教えてくれる。コースを選ぶと,スタートラインが現れる。

オーディオと音楽で勢いと興奮を演出し,プレイヤーをゲームプレイに導く


 任天堂は,各ステップにおいて,シンプルで臨機応変な音楽で我々の注意を喚起し,決断に力を与え,これから始まるゲームプレイのエネルギーを高めている。単純なバックトラックをループさせて終わりにすることもできるが,このダイナミックなアプローチは,プレイヤーにとってより大きな報酬となる。

 オーディオと音楽で勢いと興奮を生み出し,プレイヤーをゲームプレイに導いていく。このような工夫が,任天堂のゲーム体験が親しみやすく遊びやすいという評価を維持する理由の1つなのだろう。


エレベータの音楽は省く


 メニューやロビーはエレベータのようなものだと考えてほしい。エレベータが階と階の間を移動するように,ゲームプレイの隙間を埋めるインタフェースだ。しかし,エレベータは方向感覚に欠ける。どこに移動するでもなく,ただ到着するだけ。変化が起きていることを示す文脈上の手がかりは,新しく光った番号のピング音だけかもしれない。そして,あなたの乗り物に流れる淀んだサウンドトラックは,あなたの旅に無関心で退屈なものだ。エレベータの中では,あなたはただ存在するだけなのだ。

Elliot Callighan氏
【ACADEMY】メニューにおけるアダプティブオーディオ:ゲーム開発における未開拓の機会
 エレベータのシミュレータであれば,このシナリオで問題ないだろう。しかし,それ以外のダイナミックな体験には,アダプティブミュージックがより良い代替案を提供する。アダプティブアプローチでは,出発地と目的地の両方を考慮し,旅に必要な力を与え,実際にどこかへ向かっているように感じられるように調整する。

 静的な音を捨てて,停滞に抗う。ゲームプレイを初めて体験するプレイヤーに対して,波があり,流れがあり,最終的に推進力を与えるような音楽を考えてみよう。

 ファンタジーRPGのキャラクタークリエイションや,ホラーサバイバルゲームの謎とサスペンスに没頭するプレイヤーに合わせて,オーディオをどう変化させればいいだろうか?


メニューは余計なものであってはならない


 音楽とサウンドは,エネルギーを生み出し,情報を提供する素晴らしいツールであり,プレイの質を向上させるものだ。アダプティブミュージックを使えば,普段は見過ごされているメニューやロビーをゲーム体験全体の中核に据え,より摩擦の少ないゲームを開発できる。あまり使われていないこのダイナミックなゲームサウンドのアプローチは,ゲーマーにコントロールと影響力の大きさを感じさせると同時に,ゲーム進行の合間にもゲーム体験をサポートする。

 メニューや中途半端な時間を「レベル」として扱う。標準的なゲームインタフェースのオーディオパートナーやサウンド部門にクリエイティブなライセンスを与えることで,スタジオは慎重にデザインされたビジュアルツールを多感覚の体験に変え,ゲーマーが新しい世界やストーリーに入り込む際に,キーストロークやボタンを押すごとに違いがあるように感じられるようにできるのだ。


Elliot Callighan氏は,作曲家,サウンドデザイナーであり,Unlock Audioのオーナーだ。Army National Guardの大尉でもある。シカゴのデポール大学でゲームと映画プログラムの非常勤講師として音楽とオーディオのカリキュラムを教えている。

GamesIndustry.biz ACADEMY関連翻訳記事一覧

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら