【ACADEMY】広告クリエイティブは内製化すべきか?

IronSourceのDan Greenberg氏がモバイル広告クリエイティブ制作の複雑さを解説する。

 近年,ユーザー獲得の自動化が進む中,ゲームスタジオではクリエイティブに注目が集まっており,広告クリエイティブの完成度は,競合他社に差をつける数少ない方法となっている。

 そのため,最近ではクリエイティブ制作を完全に内製化する,あるいは外注先と一部業務を分担するハイブリッド型にしようとする傾向が強まっている。

 ここでは,どういった手法が自社に適しているかを判断するためのヒントを紹介したい。


内製化する場合


●1. コントロール
 内製チームの場合,スタジオはアイデア出しから最適化まで,広告クリエイティブのプロセスをエンドツーエンドで管理できる。組織の有機的な部分としてゲームスタジオの優先順位を管理し,社内の他のチームと密接に連携してクリエイティブのパフォーマンスを向上させ,運営全体を改善できる。

 各クリエイティブは,社内でベストプラクティスナレッジベースを構築して,市場での競争力として活用することができ,制作スピードも向上させることができる。また,社内のクリエイティブチームは,ゲームの成功が自分たちの成功と直結しているため,クリエイティブコードの解読に常に意欲的に取り組むだろう。

ゲームの全データにアクセスできる社内のクリエイティブチームは,よりシームレスなフィードバックループを生み出すことができる

●2. 内部データの透明性
 社内のクリエイティブチームがゲームの全データにアクセスすることで,よりシームレスなフィードバックループが生まれる。たとえば,ゲームデザイナーは,ゲーム内の指標に基づいて,ゲームプレイのどの部分が最もパフォーマンスが高いかをクリエイティブチームに知らせることができ,クリエイティブチームは次の広告でその部分を強調できるようになる。

 これは,外部のクリエイティブチームとコミュニケーションするよりも迅速かつ効率的に行われる。また,ゲーム内の広範かつ機密性の高いデータを外部組織と共有したくない場合もあるだろう。成功のためのクリエイティブの方程式であるシークレットソースを自分自身で保持しなければならないが,インサイトとデータを確実に秘密にできる。

●3. 市場投入までの時間
 デザインや最適化プロセスなど,クリエイティブ制作のスピードに影響を与える要素は,すべてのチームが社内にいるほうが短縮される。それは,クリエイティブチームを社内に置くことで,社内のコミュニケーションが強化され,先に述べたような円滑なフィードバックのループが生まれるからだ。アイデアから本稼働まで,あらゆる面で効率化が図れる。ハイパーカジュアルスタジオの多くが社内にクリエイティブチームを置いているのは,そのためだ。このジャンルでは,トップチャートの移り変わりが速く,競争も激しいため,スピードがとくに重要になる。

 以前は,クリエイティブが完成してから実際に公開されるまでには,大きな隔たりがあった。極端な例だが,のちにパフォーマンスが5倍向上することが判明したプレイアブルを作成したにもかかわらず,誰かのDropboxで10日間も待たされたことがある。これは,数十万人の潜在的な新規ユーザー(またはマーケティングコストの節約)を失うことに相当する。クリエイティブ制作を内製化することで,チームはこのプロセスを自動化し,よりコントロールされた正確な方法でプレイアブルをテストできるようになり,市場投入までの時間を短縮することができた。

●4. 投資対効果
 長い目で見れば,社内にクリエイティブ・チームを作るほうが,代理店料を支払わなくて済むので,費用対効果は高くなるかもしれない。もちろん,失敗したり,価値を提供できずに苦しんだりするコストは常に存在するが,うまくいけば,その節約分,クリエイティブ部門を拡大し,内製のメリットをすべて享受できるようになる。


ハイブリッドにする場合


 ゲームスタジオは,社内の新しいクリエイターのアイデアを使い果たしてしまうことがある。そのような場合,社内のチームだけでなく,外部からインスピレーションを得ることも有効な手段だ。そんなとき,外部のクリエイティブチームが役に立つ。社内チームを残しながら,クリエイティブをアウトソーシングする4つのメリットを紹介する。

●1. 新鮮な視点
Dan Greenberg氏
【ACADEMY】広告クリエイティブは内製化すべきか?
 前述したように,新しいアイデアが出尽くしてインスピレーションが必要なときには,外部のクリエイティブチームを呼んで,社内のクリエイティブチームに相談することもできる。
 
 どの企業も,クリエイティブチームの規模に関係なく,アイデア出しの段階で行き詰まることがある。何週間,あるいは何か月も特定のタイトルに取り組んでいると,何がうまくいって何がうまくいっていないのか,自分の考えで頭がいっぱいになってしまうことがあるのだ。

 たとえば,デザイナーが3週間かけてクリエイティブの特定の機能に取り組んだものの,うまくいかなかった場合,彼らは振り出しに戻るよりも,試行錯誤する可能性が高くなる。その間に,規模を拡大できる別のクリエイティブ要素を特定するために費やされる貴重な時間が失われる可能性がある。

 他人と一緒に仕事をすることで,まったく違う視点が得られ,良い方向に針が動くことがある。たとえば,ある会社では,半年間クリエイティブ戦略を練り,ゲームを作り込んだあと,ソフトローンチ時のクリエイティブデザインについて相談されたことがある。キャラクターを当時人気のあった2Dから3Dへ切り替える機会となるなど,その進捗状況を振り返って新鮮な洞察を提供することができたのだ。

●2. ボリューム
 社内のチームが必要な量を提供できない場合,アウトソーシングによって制作を補いつつ,社内で増産に取り組むことができる。たとえば,ヒット作を連発し,クリエイティブの制作規模が急拡大して社内のチームではすぐに対応できない場合に外部チームを活用することでキャッチアップを図ることができる。

●3. リスク
 社内でクリエイティブチームを雇用する場合,コストに見合うだけのクリエイティブパフォーマンスを上げることができないのではないか,また,彼らを雇用してクリエイティブを制作し始めるまでに数か月かかるのではないか,と懸念されることがよくある。外部チームを活用することで,社内のクリエイティブチームが成果を上げられるようになるまで,より多くの時間を確保できる。

 先に述べたように,内製チームには雇用の初期コストに見合うだけのメリットがあり,その間に一部のクリエイティブ制作をアウトソーシングすれば,シームレスな移行が可能になる。

社内のクリエイティブチームが抱えている業務負担を,外部のクリエイティブチームが軽減できる

●4. リソース
 外部のクリエイティブチームは,社内のクリエイティブチームの業務負担を軽減できる。しかし,外注チームだけでは,長期的にはコスト高になり,クリエイティブプロセスの足かせになることもある。

 そこで,社内のクリエイティブチームだけでなく,外部のクリエイティブチームを活用することで,両方のメリットを享受できるわけだ。社内リソースに余裕を持たせる必要がある場合には,アウトソーシングを活用するとよいだろう。


進むべき道


 社内クリエイティブチームとアウトソーシングの両方のメリットを実際に見てきたが,どちらの道を選ぶべきかという問いに正解はない。その時点のスタジオのニーズとリソースに依存する問題だ。クリエイティブチームから得られる最大のメリットは何かを見極め,そこから意思決定を始めてほしい。


Dan Greenberg氏は,2013年に入社したIronSourceのチーフデザインオフィサーだ。現在,同社のデザイン全般を指揮するほか,クロスチャネルのアプリマーケティングソリューションの責任者を務める。2012年からはBezalel Academy of Art and Designで講師を務め,インタラクティブデザインとUI/UXを教えている。

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