「株式会社24Frameの内情暴露日誌」第20回:批評と感想のあいだ
さてゲーム関係の媒体で音楽雑誌の2021年度ベストを並べ,それを比較しつつ素人が勝手になんとなく感想を言う,ということをやろうとして失敗した前回から幾星霜。皆様いかがお過ごしでしょうか。
それに加え,まあ誰も気にしてないとは思いますが,僕の昔話をやりますねとかなんとか言いつつ全然そうなってない昨今の当連載。年末年始ってそこそこネタがあったのでしばらく過去話には戻りそうもありません(と言っても前回,ほとんど過去話だったような気もしますが……)。
ま,過去話についてはネタの間が空いたら掲載ということにしていこうかと。この業界で過ごしていると,いろいろとネタが尽きない部分はあるのですが,すぐには言えない話もまあまあ含まれるので,最新の身辺はちょっと寝かしときますね。
過去の話のときには分かりやすくするためのサブタイトルとして「アオムラサキノホノオ(仮)」改め「時には愚にもつかない昔の話を」と付けていきたい所存を,今年の抱負とさせていただきます。
ということで改めて前回の続きを。2021年末の音楽雑誌,各誌見ていきたいと思います。
これはそもそも総合1位,とかが存在せず,各ジャンル,各地域(日本とかUKとかUSとか)のランキングのみとなっております。
これはつまり「絶対的な1位など存在せず,すべては相対的なものだ」という主張であると読めます。換言すればポスト・モダン,そこに最古参たる80年代感が漲るのが魅力ですね。ミュージック・マガジンの創刊は1960年代らしいのですが,僕は80年代の音楽がある意味でのフリークさとしてはピークだと思っているので,そういった意味でも意義深い主張です。
90年代の音楽は基本的に80'sを「軽薄,パクリ,金だけ」などと揶揄して否定する形で形成されていく部分があったのですが,今から俯瞰して見てみるとむしろ逆で,80年代の音楽は「なぜこんなことをやっているのか?」という生命力盛りだくさんの,金の勢いなのか何なのか,由来がまったく分からないものに仕上がっています。むしろそ90's以降はセンスが研ぎ澄まされてしまって(ネットのせいもあり)レファレンスポイントが分かりすぎて謎がない,という構造に陥っていたりします。
これは広義ではゲームでも同じことが起こっている,と言えなくもないかもしれません。「結局どっちがいいワケ?」というところが韜晦されて意味不明になるところも含め,極めてポスト・モダン,ですね。
こちらの1位は「MANESKIN」となっております。厳密にはAがオングストローム表記であるところにビョークのウームラートみたいな,どうでもよさそうだけど同時になんか重要そうなこだわりを感じます。
「ロッキング・オン」の「ロックし続けようぜ!イェーイ!」という雑誌名通り,この時代においてもあくまでギターロックを推してくる辺りに矜持を感じます。時代からレイド・バックしたものにスポットが当たるというのはロックでは起こりがちなことで,ストロークスとかアークティック・モンキーズなんかも最初こんな感じだったような,と思うのも束の間,ビジュアル的にはダイバーシティ(お台場の商業施設ではないほう)もカバー,しているあたりも含め,若干の礼儀正しさを感じるところが現代的です。
ちなみに2021年のゲーム音楽界隈で起こった重要イベントとしてはグラミー候補者の「Japanese Breakfast」さんが「Sabre」というゲームのサントラを手掛けたという事象があるのですが,なぜかあまり話題になっていない気がするのも謎です(僕の交友関係が狭すぎるのが原因だとは思いますが……)。
このランキングはRSもNMEもどこ吹く風,といったほぼ共通項のない独自路線まっしぐらの,よく言えばアングラな,そして悪く言ってもアングラな,そもそも雑誌のタイトルからして相当な歴戦のオタクでなければ手に取り難い代物です。
しかし僕はこの本の編集者さんの「ブラック・マシン・ミュージック」という本を読んで以来の,この界隈のファンですから,これを本殿として自分の中に偏ったパラダイムを築いてきた20年,と言えるかもしれません。
前回触れさせていただいた拙作の映画ではこのフィッシュマンズ後継にあたる「Polaris」さんの音源を使用させていただいておりました。このような人間が雑誌を買い続けるので,上記のような内容が各誌ともに幾ばくかは必要なのでしょう。
もはやなんの話をこんなに引っ張っているのか不明ですが,願わくば次回以降もお付き合いくださいませ。続く!