【月間総括】保守的すぎる任天堂の事業計画を考える

 今月語るべきトピックは,なんといってもNintendo Switch 有機ELモデル(以下,OLEDモデル)の発売だろう。OLEDモデルはファミ通によると10月8日の発売週が13.8万台,2週目3.8万台という実売推移であった。

ゲーム機の発売から25週間の推移 出典:ファミ通

 これは,筆者が想定していた20万台に届くかどうかという水準を下回り,失望する結果であった。エース経済研究所では,OLEDモデルの需要が強くなると予測していたので,正直生産数が少なすぎると言わざるを得ない。

 店頭に液晶モデル,Liteの在庫がある一方,OLEDモデルが品薄な状況を見るとユーザーが何を求めているのかは明らかで,メルカリなどでOLEDモデルの転売価格が5万円前後になっている現状を見るとミスマッチが起こっているのは,はっきりしている。

 しかし,任天堂との議論を通じて感じたことは,投資家や任天堂は,

(1)OLEDモデルと現行品には5000円の価格差がある
(2)価格差と比較して中身のSOCは液晶モデルと同じで,処理能力は同一である

 よって,需要は液晶モデルも一定量あるだろうという認識が大半だったように思う。これ自体は,おそらく読者の方々にとっても常識的に見えるだろう。
 しかし,現実はそうなっていない。PS5のときも最初に供給できなかったことをエース経済研究所では非常に強く非難するような形であったため,ソニーグループからありがたい意見を頂戴したが,ユーザーからすると手に入らないことほど悲しいことはない。ぜひ両社には供給の改善をお願いしたい。

 そして,デフレマインドから来ると思われる任天堂の保守的な生産計画に対しても,あえて苦言を呈しておきたい。Switchは発売されてから2018年度を除くと店頭に在庫がほぼない期間が大半を占めるという事態になっている。
 これは任天堂の需要予想が保守的すぎたと指摘されても仕方がないように思う。デフレ下では在庫は悪であり,損失を減らすためにも保守的な計画は良いことだと考えたのだろうが,もう少し攻めるべきだと思う。半導体や電子部品の不足は長引くと予想しているので,長期的に調達できない状態が当たり前になる可能性がある。

 そうなると「競合よりも高い値段での調達ができるか?」といった,より高い視野での生産計画が必要になってくるだろう。もしかすると,現場サイドで在庫が増えるとなんらかのペナルティが発生するのかもしない。
 これを現場の責任にするだけにはいかないので,経営レベルで判断することや,ゲーム機が売れる因果関係の周知徹底が必要に思う。ぜひ組織レベルでの対応をお願いしたい。

 次に,エース経済研究所ではOLEDモデルは,これまであまり試すことができなかった「中身はほぼ変わらないものの,外見だけを変えて値上げできるか」を確かめる社会実験ができたと考えている。
 小説の文庫本では,表紙を漫画家が書くことで販売が数倍になった事例はあるものの,このようなゲーム機では大幅に値上げする場合,演算能力などの内部性能を向上させるのが一般的なので,外見中心の変化はあまり見られないと思う。

 そのうえで,下図に示した通り,現行の液晶モデル,Liteともに,OLEDモデルが発表されて以降,販売数が落ち込んだことが分かる。さらに,OLEDモデル発売直前のSwitchの販売は急激に減少している。

出典:ファミ通


 一方でOLEDモデルは,大変な人気である。メルカリでも,4万円半ばの値段で取引されている状況で,任天堂の価格設定を大きく上回っている。

 ここで,少しまとめよう。

 検証の結果

(1)OLEDモデルは,Switchの別モデルではなく,上位機種だと顧客には認識されている
(2)5000円の価格差は,顧客には誤差と見られていて3万8000円のOLEDモデルは格安だと認識されている

 ことが分かった。

 つまり,エース経済研究所で提唱している“形”仮説通りの現象が起こっていると考えて良さそうである。性能の向上や,機能付加よりも,外見の変更のほうがユーザーの購入に対する感応度が高くなるということだ。これまでの常識を覆す仮説なので発表時には受け入れ難いとの反応をここでもいただいたが,“形”仮説はかなり正確なのではないかと考えている。

 となると,次回のマイナーチェンジや次世代機ではデザインとスタイルに相当注視する必要があると思う。任天堂は現在,圧倒的に優位なポジションにあるが,デザインとスタイルを軽視すれば簡単に転げ落ちてしまうようなものであることを“形”仮説は示しているからだ。
 古川社長には,ぜひこの点を注意してもらいたいと思う。ソニーグループと違って,私の意見を参考にしてもらえると思うからこその提言である。