【月間総括】主要ゲーム各社と任天堂,ソニーの年度決算
今月は,決算の話題をお話ししたい。大手調査機関の場合,一般的には業界別にフォローしているが,エース経済研究所は,1人で3セクター以上をカバーする特殊なリサーチを行っているため,大手のゲーム会社すべてをカバーすることが難しい。そのカバーしている会社の動向から話を進め,読者の関心が高い任天堂とソニーのゲーム事業について具体的に見ていくことにしよう。
まず,コーエーテクモホールディングスである。
グラフ1 コーエーテクモホールディングス
大幅な増収増益だった。要因はいくつかあるが,最大の要因は中国が新型肺炎の影響でロックダウンされた結果,スマートフォンゲーム市場が盛り上がり,同社がライセンス許諾している三國志タイトルが大きなヒットとなったことが貢献した。羅貫中が編んだ三國志演義自体には,著作権は存在しないが,同社の英雄画は中国でも標準となっており,利用するためには同社の許諾が必要なため,収益貢献するようになっているのである。
また,ガストのアトリエシリーズもSwitchへの展開を続けたことで新規顧客を国内外で獲得し,販売を伸ばした。同社は8bitパソコン時代に7機種同時展開するなど古くからマルチ展開が得意で,ハード展開が非常に上手い傾向がある。特性が遺憾なく発揮されたと考えていいだろう。
今期の計画は開示されていないが,ゲーム開発は残念ながらリモートワークには向いていないため,新型コロナウィルスの影響を避けるのは他社同様に難しいだろう。
続いて,カプコンだが,売上高が減少した。
グラフ2 カプコン
2020年3月期は,大型タイトルが「モンスターハンターワールド」のダウンロードコンテンツである「アイスボーン」1タイトルだけだったことで,総平均単価が下落したことが大きく響いた。
また,「アイスボーン」自体も会社の期待を下回ったとしている。
しかし,利益は大幅に増えた。ダウンロード販売比率が大幅に高まった結果,利益率が向上したためである。
同社が取っている業績の変動を抑える経営戦略はゲーム業界では珍しいものだ。具体的には,ハイエンドゲームに特化することで,タイトルの販売期間を長くし,安定的な収益を実現するという手法である。ゲームをダウンロードで買うという時代を見据えてタイトル構築を進めた同社の先見の明が発揮されたということだろう。
同社は,今期計画も発表しているが,今後も高画質を活用したゲームを作ることでライフサイクルを長期化し,利益率の高いデジタル比率を上げることで収益を拡大する方針のようである。
なお,新型コロナウィルスの影響については,アミューズメント施設の運営に支障がでているとしている。開発効率にも影響が出る可能性にも言及しているが,決算発表時点では大きな影響は見込んでいないようである。
スクウェア・エニックス・ホールディングスも大幅増益となった。
グラフ3 スクウェア・エニックス・ホールディングス
「FF7R」が延期になったことで,売上高は減少したものの,昨年秋にリリースしたスマートフォンゲーム「ドラゴンクエスト ウォーク」が大ヒットし,利益は大幅に増えた。
同社は,コンシューマゲームソフト市場でIPを確立し,ガチャで収益を得るIP活用ビジネスを展開している。この手法が寄与するためには,多数の魅力的なキャラクターが必要だが,同社と次に紹介するバンダイナムコは多くの有力IPを抱えていることで,これを実現できていると考えている。
また,出版部門も大きく伸びている。いわゆる異世界転生ものの漫画化が貢献している。紙媒体はリスクが大きく,厳選した小説しか世に送り出せなかったが,無料の小説サイトが誕生した結果,気軽に小説が公開できるようになり,人気化したものを漫画とすることでリスクが減じられているのである。
世界的に日本のキャラクターに対する理解が深まっていることもあり,今後,大きな市場に成長すると予想している。
なお,新型コロナウィルスの影響については,アミューズメント施設への影響が出ているほか,MMORPGのアップデートにおいて,「FFXIV」,「ドラクエX」ともに遅延が発生するなど影響は大きいようだ。
バンダイナムコホールディングスは減収減益に終わった。
グラフ4 バンダイナムコホールディングス
昨年のクリスマスシーズンに玩具市場が低調だったことに加え,新型コロナウィルスの影響でアミューズメント施設が閉鎖になったことが響いた。
ゲームに関しても高い成長が続いていたが,スマートフォンゲーム市場の高解像度化で,キャラクターの追加コストが大幅に増大した結果,成長率が低下している。同社はシェアを上げてはいるが,それでも成長率は大幅に鈍化している。
アニメの制作現場では度々指摘されているように,三密になりやすいアフレコを行うのが難しい状況にある。同社では,コスト削減などの対応を進めているが,当社がカバーするゲーム会社のなかでは,最もリアルビジネスの構成比が高いだけに影響も大きい。
対応策を検討する必要があるのではないだろうか?
最後に,任天堂(7974)とソニー(6758)のゲーム事業である。
ここで,1つ注意が必要なのが,任天堂とソニーでは会計基準が違うことである。サードパーティのダウンロード販売の収益認識をロイヤリティ収入に限定する「純額」方式の任天堂に対して,ソニーはダウンロード販売を小売店的機能と見なして販売単価をすべて収入とする「総額」で認識している。このため,ソニーのほうが売上規模が大きくなりやすく,単純な比較に意味がないということになる。
これは,ソニーが米国会計基準を採用しているためで,「任天堂のデジタル販売はソニーよりも大きく遅れています」や,「任天堂はサード比率が低い」などメディアによる知識不足の誤解が頻繁に見られる要因になっている。
では,決算の話を進めよう。
任天堂は大幅増収増益だった。
グラフ5 任天堂
年末に発売した「ポケットモンスター」に加え,3月20日に発売した「あつまれ どうぶつの森」が大ヒットしたことが寄与している。とくに,「あつまれ どうぶつの森」は前作に当たる「どびだせ どうぶつの森」の累計販売(着荷)本数をわずか10日あまりで抜き去るという記録的なセールスになった。その結果,Switch本体も2100万台と大きく販売を伸ばした。PS4の3年目の販売台数が2000万台だったので,Switchは名実ともに成功したハードと言ってよいだろう。
ただ,足元では再び生産にトラブルが発生しているようだ。任天堂では,詳細は非開示としているが,中国外で生産している部材の生産トラブルで,現在は組み立て工場で満足に組立てられない状況にあるとのことである。
せっかくの勢いを削いでしまうように感じる人もいると思うが,ゲーム機の需要が品切れによって勢いを落とすことはない。この点は2017年の発売時のSwitchの動向で明らかなので,エース経済研究所では不安要因とはとらえていない。
さて最後に,ソニーのゲーム部門である
グラフ6 ソニーのゲーム事業
昨年は期中に二度の下方修正となり,PS4の販売の落ち込みが顕著となった1年であった。どうも,有力タイトルが出るPS4は販売が大きく落ち込まないと楽観的に見ていた節があるが,実際には急激に末期に向かっているように見える。
マイナーチェンジを行わなかったことが原因と,エース経済研究所では考えているが,このような見方をしているのは当社だけであろう。
なお,新型コロナウィルスの影響は任天堂同様,プラスに働いているようである。PS5の開発にも遅延は見られないとしている。
ソフトウェアに関しても,自社タイトルが想定を下回ったことがマイナスに影響したようだ。ハードの勢いとソフトウェア販売は連動していると考えているため,今期もPS4は厳しいだろう。
このため,PS5に対する期待が高まっている。決算説明会では,Microsoftのマーケティングに遅れを取っているのではないかとの指摘もあったが(関連記事),これは期待の裏返しとも言える。また,近々,ソフトウェアラインナップを発表すると会社側は表明している。
強力なラインナップで状況をひっくり返せると見ているのだろう(ただし,エース経済研究所ではソフトがハード販売の優劣に与える影響はわずかと考えている)。発表があれば,次回はPS5について詳細に触れることができるだろう。
ただ,エース経済研究所ではPS5の先行きを少し不安視している。それは,会社側からPS5のセールスポイントは「immersive:没入感」であると説明を受けているからである。
英語には詳しくないが,「immersive」は一般的な表現ではないようで,説明を聞く限り,「ゲームに熱中するさま」が適切な訳に思える。
ゲームに熱中するというのは面白いゲームであれば当たり前の話であり,面白さはゲーム機とソフトを買うまで判らないものである。
もう1つ,この「没入感」はすでに失敗したワードということもある。では誰が使っていたのかというと,任天堂の故岩田元社長である。
任天堂は,Wii末期から3DS・WiiUにかけて盛んに没入感を追求した時期があったものの,多くのユーザーに受け入れられなかった。とくに,WiiUは大失敗に終わったハードである。このような失敗事例がすでにある「没入感」を前面に出すことに不安を感じる。
さらに,エース経済研究所では,ゲーム機の購買は"デザイン"と"スタイル"で決まるとしており,触らないと判らない「没入感」という宣伝文句はユーザーに伝わりにくいのではないだろうか?
この不安が次回の発表で払拭されることを期待したい。
まず,コーエーテクモホールディングスである。
グラフ1 コーエーテクモホールディングス
大幅な増収増益だった。要因はいくつかあるが,最大の要因は中国が新型肺炎の影響でロックダウンされた結果,スマートフォンゲーム市場が盛り上がり,同社がライセンス許諾している三國志タイトルが大きなヒットとなったことが貢献した。羅貫中が編んだ三國志演義自体には,著作権は存在しないが,同社の英雄画は中国でも標準となっており,利用するためには同社の許諾が必要なため,収益貢献するようになっているのである。
また,ガストのアトリエシリーズもSwitchへの展開を続けたことで新規顧客を国内外で獲得し,販売を伸ばした。同社は8bitパソコン時代に7機種同時展開するなど古くからマルチ展開が得意で,ハード展開が非常に上手い傾向がある。特性が遺憾なく発揮されたと考えていいだろう。
今期の計画は開示されていないが,ゲーム開発は残念ながらリモートワークには向いていないため,新型コロナウィルスの影響を避けるのは他社同様に難しいだろう。
続いて,カプコンだが,売上高が減少した。
グラフ2 カプコン
2020年3月期は,大型タイトルが「モンスターハンターワールド」のダウンロードコンテンツである「アイスボーン」1タイトルだけだったことで,総平均単価が下落したことが大きく響いた。
また,「アイスボーン」自体も会社の期待を下回ったとしている。
しかし,利益は大幅に増えた。ダウンロード販売比率が大幅に高まった結果,利益率が向上したためである。
同社が取っている業績の変動を抑える経営戦略はゲーム業界では珍しいものだ。具体的には,ハイエンドゲームに特化することで,タイトルの販売期間を長くし,安定的な収益を実現するという手法である。ゲームをダウンロードで買うという時代を見据えてタイトル構築を進めた同社の先見の明が発揮されたということだろう。
同社は,今期計画も発表しているが,今後も高画質を活用したゲームを作ることでライフサイクルを長期化し,利益率の高いデジタル比率を上げることで収益を拡大する方針のようである。
なお,新型コロナウィルスの影響については,アミューズメント施設の運営に支障がでているとしている。開発効率にも影響が出る可能性にも言及しているが,決算発表時点では大きな影響は見込んでいないようである。
スクウェア・エニックス・ホールディングスも大幅増益となった。
グラフ3 スクウェア・エニックス・ホールディングス
「FF7R」が延期になったことで,売上高は減少したものの,昨年秋にリリースしたスマートフォンゲーム「ドラゴンクエスト ウォーク」が大ヒットし,利益は大幅に増えた。
同社は,コンシューマゲームソフト市場でIPを確立し,ガチャで収益を得るIP活用ビジネスを展開している。この手法が寄与するためには,多数の魅力的なキャラクターが必要だが,同社と次に紹介するバンダイナムコは多くの有力IPを抱えていることで,これを実現できていると考えている。
また,出版部門も大きく伸びている。いわゆる異世界転生ものの漫画化が貢献している。紙媒体はリスクが大きく,厳選した小説しか世に送り出せなかったが,無料の小説サイトが誕生した結果,気軽に小説が公開できるようになり,人気化したものを漫画とすることでリスクが減じられているのである。
世界的に日本のキャラクターに対する理解が深まっていることもあり,今後,大きな市場に成長すると予想している。
なお,新型コロナウィルスの影響については,アミューズメント施設への影響が出ているほか,MMORPGのアップデートにおいて,「FFXIV」,「ドラクエX」ともに遅延が発生するなど影響は大きいようだ。
バンダイナムコホールディングスは減収減益に終わった。
グラフ4 バンダイナムコホールディングス
昨年のクリスマスシーズンに玩具市場が低調だったことに加え,新型コロナウィルスの影響でアミューズメント施設が閉鎖になったことが響いた。
ゲームに関しても高い成長が続いていたが,スマートフォンゲーム市場の高解像度化で,キャラクターの追加コストが大幅に増大した結果,成長率が低下している。同社はシェアを上げてはいるが,それでも成長率は大幅に鈍化している。
アニメの制作現場では度々指摘されているように,三密になりやすいアフレコを行うのが難しい状況にある。同社では,コスト削減などの対応を進めているが,当社がカバーするゲーム会社のなかでは,最もリアルビジネスの構成比が高いだけに影響も大きい。
対応策を検討する必要があるのではないだろうか?
最後に,任天堂(7974)とソニー(6758)のゲーム事業である。
ここで,1つ注意が必要なのが,任天堂とソニーでは会計基準が違うことである。サードパーティのダウンロード販売の収益認識をロイヤリティ収入に限定する「純額」方式の任天堂に対して,ソニーはダウンロード販売を小売店的機能と見なして販売単価をすべて収入とする「総額」で認識している。このため,ソニーのほうが売上規模が大きくなりやすく,単純な比較に意味がないということになる。
これは,ソニーが米国会計基準を採用しているためで,「任天堂のデジタル販売はソニーよりも大きく遅れています」や,「任天堂はサード比率が低い」などメディアによる知識不足の誤解が頻繁に見られる要因になっている。
では,決算の話を進めよう。
任天堂は大幅増収増益だった。
グラフ5 任天堂
年末に発売した「ポケットモンスター」に加え,3月20日に発売した「あつまれ どうぶつの森」が大ヒットしたことが寄与している。とくに,「あつまれ どうぶつの森」は前作に当たる「どびだせ どうぶつの森」の累計販売(着荷)本数をわずか10日あまりで抜き去るという記録的なセールスになった。その結果,Switch本体も2100万台と大きく販売を伸ばした。PS4の3年目の販売台数が2000万台だったので,Switchは名実ともに成功したハードと言ってよいだろう。
ただ,足元では再び生産にトラブルが発生しているようだ。任天堂では,詳細は非開示としているが,中国外で生産している部材の生産トラブルで,現在は組み立て工場で満足に組立てられない状況にあるとのことである。
せっかくの勢いを削いでしまうように感じる人もいると思うが,ゲーム機の需要が品切れによって勢いを落とすことはない。この点は2017年の発売時のSwitchの動向で明らかなので,エース経済研究所では不安要因とはとらえていない。
さて最後に,ソニーのゲーム部門である
グラフ6 ソニーのゲーム事業
昨年は期中に二度の下方修正となり,PS4の販売の落ち込みが顕著となった1年であった。どうも,有力タイトルが出るPS4は販売が大きく落ち込まないと楽観的に見ていた節があるが,実際には急激に末期に向かっているように見える。
マイナーチェンジを行わなかったことが原因と,エース経済研究所では考えているが,このような見方をしているのは当社だけであろう。
なお,新型コロナウィルスの影響は任天堂同様,プラスに働いているようである。PS5の開発にも遅延は見られないとしている。
ソフトウェアに関しても,自社タイトルが想定を下回ったことがマイナスに影響したようだ。ハードの勢いとソフトウェア販売は連動していると考えているため,今期もPS4は厳しいだろう。
このため,PS5に対する期待が高まっている。決算説明会では,Microsoftのマーケティングに遅れを取っているのではないかとの指摘もあったが(関連記事),これは期待の裏返しとも言える。また,近々,ソフトウェアラインナップを発表すると会社側は表明している。
強力なラインナップで状況をひっくり返せると見ているのだろう(ただし,エース経済研究所ではソフトがハード販売の優劣に与える影響はわずかと考えている)。発表があれば,次回はPS5について詳細に触れることができるだろう。
ただ,エース経済研究所ではPS5の先行きを少し不安視している。それは,会社側からPS5のセールスポイントは「immersive:没入感」であると説明を受けているからである。
英語には詳しくないが,「immersive」は一般的な表現ではないようで,説明を聞く限り,「ゲームに熱中するさま」が適切な訳に思える。
ゲームに熱中するというのは面白いゲームであれば当たり前の話であり,面白さはゲーム機とソフトを買うまで判らないものである。
もう1つ,この「没入感」はすでに失敗したワードということもある。では誰が使っていたのかというと,任天堂の故岩田元社長である。
任天堂は,Wii末期から3DS・WiiUにかけて盛んに没入感を追求した時期があったものの,多くのユーザーに受け入れられなかった。とくに,WiiUは大失敗に終わったハードである。このような失敗事例がすでにある「没入感」を前面に出すことに不安を感じる。
さらに,エース経済研究所では,ゲーム機の購買は"デザイン"と"スタイル"で決まるとしており,触らないと判らない「没入感」という宣伝文句はユーザーに伝わりにくいのではないだろうか?
この不安が次回の発表で払拭されることを期待したい。
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