[CEDEC+KYUSHU]低コストアニメ制作に可愛さの研究,シナリオの自動生成など個性的なセッションをまとめて紹介

 11月23日に福岡県で開催された「CEDEC+KYUSHU 2019」
 ヨコオタロウ氏を招いて行われた基調講演は……残念ながら会場に入れなかった。同じく現地にいた西川善司と苦笑い。九州の人,朝から元気すぎだろう。

 さて,これまでのCEDEC+というと「CEDECの講演を地方でも」といった感じで,CEDECで見かけた講演もそれなりに行われており,そこに地場企業のセッションなどで独自色を出していたように思う。それが,今回はかなり独自性を持ってきているように思われた。本家のCEDECでやっていてもおかしくない「なんか凄くない?」と思うようなセッションが結構あったのだ。

 すでにポリフォニーデジタルの齋藤氏によるセッションはレポート済みだが,私が聴講した3本のセッションについても軽く概略だけでも紹介しておこう。この手のイベントのセッションをフルスペックでレポートしようとすると,結局仕上がらないことが多いので(反省)ちょっと新しいスタイルでやってみたい。




オリジナルアニメ「メカウデ」少人数体制での3DCGを活用した2Dアニメ制作とそのワークフロー
TriFスタジオ/河村翔太氏


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 TriFスタジオは福岡にあるアニメスタジオだ。
 独自制作のアニメ「メカウデ」を企画してKickstarterとCamp Fireでクラウドファンディングを行い,見事に成功させている。集まった資金は合計1200万円。

 河村氏は,一般的なアニメの制作費用は1話あたり約2000万円だと語る。集めた1200万円のうち,500万円はリワード用に使われるので,実質的な制作予算は700万円となる。当然足りない。
 講演タイトルからして,その予算と少人数スタッフで3DCGアニメを作った話だと思う人が大半だろうが,たぶんちょっとだけ違う。


 セルルックな3DCGで省力化するというのは誰でも考え付くのだろうが,実際のところ,手描きアニメのクオリティに近づけようとすると,かなり手間とコストがかかることや,それを行ってなお手作業でのレタッチが必要になることなどから,むしろ普通のアニメより費用がかさんでしまうのだという。
 足りない分は会社の持ち出しで……ということになったようだが,それでも費用は抑える必要がある。

 加えて人手も足りない。一般的なアニメの場合,アニメーターが30〜90人くらい必要になるそうなのだが,社内で動けるのはわずか2人。助っ人を雇おうにも,ただでさえ人が足りない職種で,まして地方都市では供給はおぼつかない。

 ということで今回のアプローチは,「どうせ直すことになるので,3D部分は直すことを前提に作ろう」というものだった。3DCGで出した絵をクリーンナップする,3DCGだと不自然な部分を手直しするという方向だ。

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オカモト監督のスタイルだそうだが,いきなりビデオコンテを起こしている
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 加えて,アニメーターには,

  • 動きがうまいこと
  • 絵がうまいこと

という2つの要素の両方が要求されるのだが,このシステムではどちらかしか能力のない人でも仕事があり,人材調達が楽になるということのようだった。結果として,ちゃんとしたアニメーターの人5人を1か月くらいと,アルバイト15人を調達して制作が行われたという。

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 その過程で,遠めのキャラであればほぼレタッチなしで大丈夫なことが分かったという。逆に言えば,近めのキャラではレタッチは必須になるわけだが。
 さらなる省力化として,よく使う背景は3D化されている。といっても3DCGをそのまま使うのではなく,上下左右前後とその場の様子を6枚レンダリングし,それをアタリとして手動で色を塗ってもらい,手描きアニメの風味を残すというやり方だ。それを周囲にマッピングして3Dで使えば,角度を自在に変えても背景を利用できる。

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 次の問題は,進行管理できる人がいなかったということだ。これはGoogle Apps Script,いわゆるGASを使ってスプレッドシート上に進捗管理システムを作ることで解決している。
 結果として,メカウデは7か月で制作を完了した(費用についての言及はなかった)。現在,同社ではメカウデのシリーズ化を目指しているという。

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 最後に今回のアプローチはコストを下げたりクオリティを上げるものではないと,河村氏は念を押していたのでそれなりにコストはかかったのであろう。しかし,期間はかかったものの,少人数で2Dアニメの制作を可能にする手法としては有効であったと講演をまとめていた。

 昔,新海 誠氏がアマチュアだった頃に「写真や3DCGからトレースしているんで一人でもできるんですよ」みたいな話を聞いて,なるほどと思いつつも絵を見るとほとんど描き直してるじゃないかと呆れたことがあったのだが,少人数でアニメを作る際にこのような手法が有効なのは間違いないのだろう。



「クリエイティブチーム ebi tec labo による「可愛い」動きの定義と研究」
サイバーエージェント/海老沼宏之氏,庄司拓弥氏

 
左:庄司拓弥氏,右:海老沼宏之氏
 サイバーエージェントで進めている「可愛い」の定義と表現についての研究結果が公開された。ebi tec labo(ロゴでは「EBI tech lab」なのだが,それ以外はすべて「ebi tec labo」表記だった)は,海老沼宏之氏を中心に,女の子の可愛い動きを研究するたに作られた組織だ。

 理想的には,「たくさんの可愛いキャラクターを出したい」「みんな違うモーションをつけたい」となるのだが,なかなかそうもいかない。そこでタイプ分類が重要になるという。
 ステップとしては,まず性格分類を行い,その性格ごとの動きの特徴を付け,最後にさらなる可愛さのノウハウを付け足すといった感じだ。

 海老沼氏は最初に「可愛い」を5つのタイプに分類していた。すなわち,「元気」「快活」「冷静」「清楚」「無機質」だ。詳しくは以下のスライドを見てほしい。

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 「誰かガンダムで説明してくれ」という人のために挙げておくと,順にキッカ,フラウ,セイラ,ミライ,ララァといったところだろうか。無機質系? 
 元気と快活はどれくらい違うのかとか,プライドが高いのは冷静なのかとか多少疑問はあるのだが,ざっと見て「ツンデレはどこに入るのか?」といった疑問を持った人も少なからずいるだろう。私も思った。海老沼氏はこれらの複合タイプも存在するという。

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 うむ,なんとなく分かったように思えていたのは錯覚だったようだ。
 とにかく,こういったタイプは動きにも差が出てくるという。動的なタイプは,足を広げたり腕を身体から離す傾向があり,体全体を使った感情表現を行う。逆に静的なタイプでは腕は体から離れず,足は開かない。上品で柔らかい表現になるという。

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 それぞれは,わりと当たり前な感じの事項なのだが,改めて動画で比較されるとかなり説得力はあった。そのうち「しとやかさを数値化して,手足の可動範囲を限定し,プロシージャルにモーションを」みたいな話も出てくるのかもしれない。

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 これらをキャラの所作に落とし込むにあたって助っ人となっているのが能登有沙氏だそうだ。
 能登氏は,ハロプロ系で実際にアイドルもやっていたという,可愛さ研究の第一人者のようだ。彼女が蓄積した可愛い動きをするためのノウハウが今回の研究でも大いに役立っているようだった。
 講演では実際に能登氏が取ったポーズで「可愛い」の例を示していたのだが,ざっくりとまとめると「ひねる」「体から離さない」「伸ばさない」「ねじる」「とにかくひねる」みたいな感じになる。

どちらがなぜ可愛いのかなどがクイズ形式で解説されていた
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 このように類型で原則的な可愛さの出し方を抽出してはいるが,これらはベクトルとしてはベタな「女性らしさ」一方向のものであり,女の子自体の可愛さはそれほど単純なものではない。あえて外すことで子供っぽさや個性を引き出せる場合もある。女の子ごとに可愛さは千差万別であり,キャラに合った動きで魅力を引き出すことが真の可愛さにつながるとまとめていた。

 ちなみに,こんなことをやっているebi tec loboの海老沼氏は,サイバーエージェントにくる前は,コジプロでMGS Vのリードアニメーターをしていたという業界の重鎮である。殺伐とした映像に明け暮れていた反動からか,現在は可愛い系に走っているらしい。
 今後の研究と,これらがサイバーエージェントの作品にどう生かされるのかに注目しよう。


「Automatic Scenario Building Systemによる,AIのプロット自動生成の成果とゲームシナリオの新しい作り方。」
エッジワークス/山野辺一記氏,慶應義塾大学理工学部開放環境科学専攻オープンシステムマネジメント専修/川野陽慈氏


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 ちょっと異色なシナリオの自動生成に関わるセッションである。シナリオライター集団エッジワークスと慶應義塾大学が共同で研究を続けているものが紹介された。

上:エッジワークス 山野辺一記氏,下:慶應義塾大学 川野陽慈氏
 今回紹介されたのは,物語のプロット(あらすじ)をAIで自動生成しようという試みだ。
 具体的にどのようなことをやっているのかについてはほとんど説明されなかったのだが,プロのライターに一定の形式のプロットテキストを作成してもらい,指定された方向性でランダムに組み上げるもののようだ。生成時に発生する矛盾点は,自動で解消する仕組みも備えているらしい。全体的な構成については,金子 満氏が提唱していた13フェーズの展開が採用され,13段階の展開で出力されるようになっている。
 13フェーズ構造というのは,日常生活に異変が起き,それと立ち向かうまでの序盤と,苦境に陥るが支援を得て成長し,一段階覚醒した直後に大苦境に陥り絶対的な危機状態になるも逆転のヒントを得る中盤,対決して勝利する大団円の後半といったストーリーの展開を13段階に分ける手法だ。ベタな感もあるが,受け入れられやすいストーリーが展開できるとされている。
 用意されているプロットも,この13フェーズに沿って作られており,プロットはSF,スポーツ,家族,恋愛という4ジャンルでそれぞれ22〜27本,全94本が材料として用意されているという。

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 具体的なシナリオまですべて自動生成するのではなく,あくまでもプロットであること,プロットにななっているが面白くなるとは限らないなどといった前置きがされたうえで,結果の例が紹介された。
 ……のだが,出力例のスライドが遠めだとほとんど読めず,やりたいことはだいたい分かるのだが,いったいなにができるシステムなのかは講演中にはよく分からなかった。取材が終わってスライドの写真を拡大してみて,ようやくどういったことができるのかが少し分かってきたところだ。
 スライドの出力例自体もある程度模式的なものののようだが,それを参考にするしかないので,ここではできるだけ大きめに紹介しておこう。写りが悪くて申し訳ない。

出力例
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シナリオ生成のインタフェース。いくつかの項目から選択していく
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上記の出力結果
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 前述のように,プロットは自動生成できるが,必ずしも面白いとは限らない。それでもシナリオライターにとってかなり役立つものではあるという。

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 後半で山野辺氏は,法的・権利的問題の発生をかなり危惧していた。
 おそらく芥川龍之介の文章からデータを抽出して,そこから新たな小説を生成したとしても,それが芥川龍之介の作品だと思う人はいないだろう。
 ただ,もとになったデータに対する権利は発生する可能性があるのかもしれない。スタイルを真似て書くようなことについては,(あくまでも別の人が書いたものなので)とくに著作権の問題は発生しない。現状で,作風のようなものに著作権は設定されていないわけだが,それが漠然とした判定も難しいものではなく,具体的なデータとして示されるものになった場合,別の判断が出てくる可能性はあるだろう。

 そういった問題が起きてしまうくらい完成度の高い文章の自動生成がやってくるにはどれくらいかかるのだろうか。

芥川小説のプロットをベースに生成されたプロット
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※書き終わってみると,普通に記事3本にできたんじゃないかという気もしないではない

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