alive 2019開催,Live2Dの最新機能と今後が示された基調講演レポート
その基調講演でLive2Dの中条哲也氏は最初にLive2Dの普及状況について報告を行っていた。
教育機関への採用数では100校を超えているという。Live2Dが使えるということが一定の技能として認められるようになったようで。最近ではLive2Dを指定した求人なども行われるようになってきている。
一方でゲーム企業への採用などは昨年から横ばいだ。すでに採用するようなところは採用済みであり,リピートされている。大きな変化がなければもうあまり動くことはないのかもしれない。モバイルでのトップ10企業での採用数も昨年と変わっていない。
用途としては,VTuberが最多となっており,昨今の世情を示すような結果となってる。ゲームなどでの使用は21%程度だ。Cubism EditorとSDKでの売り上げ比率は昨年比で2.3倍,Editorのほうが増えてきているとのことだった。
ユーザー属性を見ると,個人の趣味などでの使用が8割と,非常に幅広く使われるようになってきていることが分かる。企業は13%と低めだが,これは利用数によるシェアなので売り上げでのシェアとは異なるとのこと。
年齢層で見ると20代30代が多いという状況はとくに変わっていない。今後は10代にもっと訴求していきたいと中城氏は語っていた。
Cubism 4.0の新機能
同社の主力となっているLive2D Cubismは9月に4.0がリリースされ,多くの機能が拡張されている。
新機能56件
バグ対応489件
と,バグが多かったというのもあるが,現在は安定して使えるものになっているという。以下,紹介された機能を順に追ってみよう。
●オニオンスキン
最初にオニオンスキン機能が紹介された。
オニオンスキンとは,前のフレームの絵を半透明にして表示してくれる機能で,次のアニメーションのコマを作っていくときや,アニメーションを調整していくときに役に立つものだ。
Live2Dならではの機能としては,頂点がどう動くかというのを軌跡で確認できるなどの使いやすいものになってるという。
●マスクの反転機能
マスクによる領域指定で領域の内外を切り替えて使えるようになった。
●曲線補間
これまで線形補間しかできなかった部分が,曲線的な補間に対応した。これはオブジェクトの回転や髪揺れなどでとくに効果を発揮するとのこと。またオニオンスキンと組み合わせることで,簡単に改善された軌道を確認できる。
Cubism 4映像制作専用機能
以上のものはCubism EditorでもCubism SDKでも使える新機能だが,Cubism Editor専用の新機能はさらにいろいろと追加されている。
●アートパス
アートパスは線の変形を自在に行うための機能だ。従来はアートメッシュでの変形で対応していた部分だが,曲線を曲線として動かすことができるようになった。
頂点ごとの調整が細かくできるほか,変形しても線幅などは変わらない。最終品質で使えるクオリティのものになったと中城氏は語っていた。
●フォームアニメーション
フォームアニメーションはモデリングすることなくアニメーションができる機能だ。パラメータを設定して動かすのではなく,タイムライン上で形状を直接変形させることができる。
Live2Dではどうしても多少のモデリングが前作業として必要だったのだが,この機能はSpineのように手軽に扱えるようになってくるという。
これはそれまでのアニメーションに足し合わせて動きをつける感じのものとなり,モデリングなしで手軽にアニメーションを作るといった用途以外に,モデリングをしていた従来のLive2Dの使い方で,「この部分だけ」動きを調整するといったことが簡単にできるようになるとのことだった。
●連番画像の動画取り込み
手描きアニメなどの取り込みで連番のファイル名はのまま自動でデータを取り込むことができる。
取り込んだデータをそのまま使うのではなく,タイミングリマップで,動きにタメやキレを付けるような時間軸方法での調整も可能だ。
●コマ打ち
Live2Dというと「ヌルヌル動く」独特な質感のアニメーションを想像する人も多いだろう。これまではそれが一つの特徴でもあったのだろうが,それが必ずしも望まれるとは限らない。ということで,明示的にコマ落としして手描きアニメ風に表示させることができるようになった。今後はLive2Dらしい動き以上の表現ができるようになるのだろう。
SDKの状況
Editorの拡張が目覚ましいことは以上のとおりだが,リアルタイム版となるCubism SDKの状況も語られた。
Cubism 4 SDKでは前述の曲線補間などの拡張のほか,大幅にパフォーマンス改善が行われていること,Cubism 3 SDKのモデルをそのまま利用できることなどが特徴として挙げられていた。
対応プラットフォームは以下の写真のとおりで,非常に幅広く対応している。
海外での展開も進めているのにXbox Oneがないのはやや不思議な感じではある。そのほか,Linuxでのレンダリングで意外な需要があるとのことで,Linuxに本格対応が行われている。
After Effectsプラグイン
続いてLive2DのモデルデータをAfter Effects上でいじれるようになるプラグインが紹介された。
モデルデータとしては,SDKの組み込み用のものを使用するということで若干の制限はあるのだが,これにより,アニメーション編集の最終段でのLive2Dの調整が可能になる。パーツごとにエフェクトをかけるなどの調整などで威力を発揮するという。
これはすでに発表されているものだが,もうじきアップデートされ高速化やメニューの日本語化などが行われる予定とのことだ。
ANIPLEXとの協業
昨年発表されて世間を驚かせたANIPLEXとの資本提携に関する最新情報も報告されていた。次世代のアニメ制作での技術革新を求めていたANIPLEXと長編アニメーションの制作を目指していたLive2Dの思惑が一致して生まれた協業体制なのだが,現在はまだまだ研究と下地作りの段階だが,少しずつ歩みを進めているところだという。昨年も紹介したCubism Mなど,最先端プロダクトの動向を見ても,現実的なアニメ制作を見据えた方向になっている。
その象徴ともいえるのが,Cubism Mの動向だろう。
Cubism Mの最新動向
Cubism Mは,ムービー制作専用に作られたCubismバージョンであり,先端的な研究成果がいち早く盛り込まれている。Cubism Mで安定した機能は随時製品版のCubism 4に還元されていくとのことで,Cubism 4に投入されている機能の多くはCubism Mからきているものである。
●PSDの対応強化
レイヤーそのままでの読み込み機能が強化され,現在はトーンカーブなども段階的に対応中とのことだった。レイヤーの結合や分離にも対応して,柔軟に運用できるものになるという。
これは,そんなに遠くないバージョンで提供できそうとのことだった。
●ブレンド方式に対応
Photoshopの各種ブレンド方式すべての対応するように現在研究開発中とのこと。
●パーツ単位でまとめて描画
Photoshopのレイヤーグループに似た機能で,一定のパーツ群をまとめて描画する機能が追加される予定だ。これまでは多関節物体で半透明を使うと,関節の部分が二重に半透明化されていたものがパーツ群全体で一様な透明度に描画できるようになる。
●マスクオブジェクト
複数のアートメッシュからマスクを作成可能になる。
論理演算で次のアートメッシュがどういう機能をするのか指定可能で,複雑なマスクを作成し,髪の毛と眉毛などが扱いやすくなるという。
●FillMesh
ドロー系のツールのような領域内を塗りつぶす機能が追加される。
●新スキニング
これまで搭載されていたスキニング機能は,SDKを拡張せずに対応できる方式が使われていたとのことでかなり無理をした実装が行われていたようだ。
それがちゃんとしたスキニングに一新される。全体にクセがなくなったため,クオリティも上がり,ウエイトの調整なども可能になるという。
●スクリプト制御
描画フローやシェーダの拡張でスクリプトが使用できるようになる。現在,JavaScriptでそれらをカスタマイズ可能にしているところだという。ちょっとスクリプトを勉強すれば,それなりに凝った表現が可能になるとのことだ。
また,作ったスクリプトに設定を渡して,指定した機能を動作させるような仕組みも紹介された。
おそらくパラメータを渡してAPIを動かすようなものなのだろうが,見た感じでは,ラベル(名前)を渡して対応する定義済みの機能を呼び出しているようだった。
●動画のアートメッシュ
アートメッシュの切り替えでテクスチャアニメーションのようなことが
●カメラ機能
3D的なカメラワークに対応する。アートメッシュにZ軸のパラメータを付けて3D的に正しい動き行うという。
これまでLive2Dでは,見た目は3D的ながら内部処理は2Dだけにこだわっていた。それが,3Dでの処理を取り込むことに決めたのだという。今後は2Dと3Dのハイブリッドになり,より多くのことができるようになる模様だ。このあたりは来年のaliveでいろいろと紹介できそうということなので期待しておきたい。
●パスによる制御
アニメータ上でベジエ曲線による制御ができるようになる。タメツメなどを効果的に表現できるとのことだった。
●3D上での編集に対応
これまでの2次元的な作業空間を3次元に拡張する試みも行われているようだ。今後,本格的な映像制作を行っていくと3D的な使い方がされると想定されているのだろう。
そのほか超大型機能も多数開発中とのことだった。
これらは映像制作専用として作られたものだが,完成した機能はCubism Editorにも移植され,段階的にSDKにも実装されていくことになるという。
Creative Studioの近況
Live2D社内のデザインチームであるCreative Studioの近況も報告された。Creative Studioは,Live2Dの研究開発,サービス事業,映像制作を行うために設立された部門で,現在では同社の開発部門と同じくらいの規模になっているとのことだ。
Live2Dを使い込んで発展させるデザインチームだが,こちらでも3Dを導入していく模様だ。コアになる表現はLive2Dで行うものの,場合によっては3Dによる表現を取り入れていくとのことだった(その表現をさらに2D化していくのかもしれないが)。
Creative StudioはLive2Dのデモ映像的な作品も公開しているが,映画に対する取り組みと合わせて紹介されたのが最新作「ヒーローベータ」だった。
短い映像は,アニメ作品のCM風に作られているが,とくに本編を作る予定はないようだ。これ自体が作品である。
これはCMなどの制作を踏まえて作られているもので,外部とのやり取りなどを含めて,そういった作品作りでのノウハウを蓄積しているところだという。
中城氏はLive2DとCreative Studioで,「Pixarが3Dでなしとげたことを2Dで」実現したいと,かねてよりの夢を繰り返していた。若干バージョンアップされて,アカデミー賞は2回くらいと取りたいとのことだった。
nizimaの動向
昨年同社が立ち上げた2D制作物専用マーケット「2次マ」の近況も紹介された。2次マは主に「打ちにくい」という理由で名前は「nizima」に変更されている。
ただ「nijima」ではなく「nizima」とzが使われているので,これもかなり打ちにくいような気はしないではない(というか簡単に間違える)。
nizimaでは,公開した2D作品の売買が行える。そのほかオーダーメイドの制作依頼や逆に依頼への立候補などが可能だ。
現状ではイラスト売買が7割でブラウザ上でプレビューして購入が可能だ。
数量限定での販売も可能で,1点モノなども出品できるのだが,これまでに20万円の作品も売れているとのことで,思ったより伸びそうだとのことだった。
手数料はすべて10%で,オーダーメイドでの10%はかなり安いのではないかと中城氏は語っていた。nizimaを通して制作物の発注が行われ,Live2Dクリエイターの活動の拠点として根付くことを期待しているのだろう。
●にじコン
nizimaでは不定期にコンテスト企画「にじコン」を開催している。賞金20万円だが実力のアピールの場としての意味のほうが大きいものかもしれない。
にじコン5からはイラスト編とモデル編を2か月おきに交互に行うことにするとのことだった。2月6月10月はイラスト編で4月8月12月はLive2Dモデル編となる。
●nizima Apps
nizimaのモバイル版nizima Appsが開発されている。これは気軽にnizimaのデータを使えるものだという将来的にはnizimaを直接プレビューなどができる「ちゃんとしたnizimaのモバイル版」になる模様だ。
第1弾はデスクトップマスコットで,第2弾以降のモバイルアプリも予定されている。
●nizimaモデル仕様
これらと合わせて進められているのが,nizimaの標準モデル使用の策定だ。タップなどに対する反応を共通化することで,デスクトップマスコットとして使用したときに,対応したデータを作るだけで簡単に差し替えができるようになるという。そのほか,インタラクティブなアプリを簡単に作成できるようにもなるだろう。
ドラフト版が近日公開され,改訂を経ておよそ1年後に正式版を出す予定とのことだった。すでにnizimaでの公式データはnizimaモデルに対応済みであるほか,今後はティラノビルダーやTRPGスタジオといったゲーム作成ツールも対応を予定しているという。
●nizimaの今後
nizimaでは,今後も全体的な改善を進めつつ,現在は税制などの問題が解決されていない法人によるデータ購入の実装や,単なるイラストやLive2Dデータ以外のものも扱えるように拡充していく予定だという。
そのほか,Live2Dの公式マーケットということで,Cubism Editor用の各種素材なども扱えるようにしたいとのことだった。
昨年の話だとLive2Dに限らずすべての2Dに対応するといったコンセプトだったと思うのだが,今年になるとかなりLive2D特化が進んでいるようにも思われる。まあ,しかたがないのだろう。
●エバンジェリスト制度
最後に発表されたのはエバンジェリスト制度だった。
Live2Dには,個人によるファンサイト的な情報サイトなども多く運営されており,さまざまな活用方法などが紹介されている。今後は,そのようなサイトなどにエバンジェリスト制度を適用し,そこを通してCubismの購入やnizimaの登録が行われた際に報酬を支払うアフェリエイトプログラムが予定されているという。早ければ年内に発表されるとのことだったので,心当たりのある人は続報に期待しよう。
中城氏はLive2Dの現在の状況とこれからの取り組みを紹介した基調講演の最後に,昨年と同様な同社の三本柱を紹介した。根本となるイラストを自在に動かす技術「Cubism」,それを使って映像作品を作り上げる「Creative Studio」,あらゆる2Dクリエイターのための理想のマーケットとしての「nizima」である。そしてクリエイターである「You」を加えている。エバンジェリスト制度が構築されることで,よりいっそうクリエイターの関りが強くなるという意味を含んでいるようだ。みんなで2Dクリエイターを盛り上げようと呼びかけて2019年度の基調講演は終了した。
Cubismの進化全般を見ても,特異な技術で作られた尖った製品だったLive2Dが,比較的標準的な方法論を取り入れることで,尖った機能はそのままに柔軟性と汎用度を上げているように思われる。ANIPLEXとの協業で現場の声が取り入れられているだろうか。
かつては「Live2Dだけでアニメを作る」というのは,かなり高い目標のように思われたものだが,最新のCubism Mの様子を見るとわりと現実的なところになってきているようにも感じられる。さらに3D技術も取り入れるという方向性の変化は,今後,表現力の大きな広がりをもたらすことになるだろう。さらなる大きな成果が発表されそうな来年のaliveに期待したいところだ。