モノビットミドルウェア事業部部長の安田京人氏。山口直樹氏は写真NGだった
2018年7月13日に東京・秋葉原UDX GALLERYにて開催された開発&運営ソリューション総合イベント
「GTMF 2018 TOKYO」 では,講義
「VRライブ・コミュニケーションサービス『バーチャルキャスト』でのモノビットエンジンの採用事例と最新情報」 が行われた。
バーチャルキャラクターになって配信ができる
「バーチャルキャスト」 の概要と活用事例について語られた。登壇したのは,モノビットミドルウェア事業部部長
安田京人氏 とインフィニットループ 第四分室 仮想室 室長
山口直樹氏 だ。
「バーチャルキャスト」とは,ドワンゴとインフィニットループが2018年4月から提供する,VRライブ・コミュニケーションサービスだ。一言でいえば"バーチャルキャラクターになり,VRスタジオでコミュニケーションを取れるシステム"である。VRを扱えるスペックのPC,HTCの「VIVE」やOculusの「Rift」と「Oculus Touch」などのVR端末,そしてネット回線があれば,バーチャルキャラクターとなって動画配信ができる。個人レベルでバーチャルキャラクター動画を作れるというわけだ。
「バーチャルキャスト」での番組風景
VRスタジオには,ハリセンやピコピコハンマーといったアイテム類を呼び出して手に持ったり,視聴者からのコメントが頭上から降り注ぐなど,動画配信を盛りあげる機能が搭載されている。
また,視聴者側もバーチャルキャストを使うことで,バーチャルキャラクターとなって放送に乱入できる「凸機能」も特徴だ。ニコニコチャンネルでの公式放送「あいえるちゃんねる」(
参考URL )を見たことのある方もいるのではないだろうか。
そんなバーチャルキャストでは,リアルタイム通信ミドルウェア「MonobitUnity Networking2.0」が使われており,こうした関係からモノビットの安田氏とインフィニットループの山口氏が講演を行うことになったわけだ。
講演の前半では,安田氏がモノビットエンジン Ver.2.0の紹介を行った。同エンジンは,高速ゲームサーバー「Monobit Revolution Server(以下,MRS)」,ネットワークの知識が無くてもマルチプレイを実装できる「Monobit Unity Networking(以下,MUN)」とそのアドオンであるボイスチャットプラグイン「VR Voice Chat」といったラインナップからなっており,低遅延かつ高速の処理が特徴だ。安田氏によると,MRSはNintendo SwitchやUnreal Engine4に,MUNはPlayStation 4とNintendo Switchに,VR Voice ChatはPlayStation VRへの対応がそれぞれ予定されているとのことだ。
「Monobit Revolution Server」「Monobit Unity Networking」「VR Voice Chat」のアップデート計画
続いて安田氏に代わって山口氏が登壇し,
「バーチャルキャストを支える技術」 と題した講演を行った。バーチャルキャストに携わる山口氏は,ネットワーク系技術者からVR方面へと転身した経歴の持ち主。「World of Warships × ハイスクール・フリートコラボ展」の戦艦搭乗体験,VR体験イベント「没入祭 VR FESTIVAL SAPPORO」でのVRモンスターを積み上げるミニゲームといったVRコンテンツに携わってきた。
氏がバーチャルキャストを開発するに至ったきっかけは,2016年のエイプリルフールに発表したジョーク企画「仮想帰宅」(
参考URL )にあるという。これは,会社でHMDを装着し,VR空間に再現された自室へ"帰宅"するとVR美少女が待っている……というもので,ブラックでありつつ夢のような環境を実現してくれるというものだ。これが評判になったことがきっかけとなり,バーチャルキャストを開発することになったのだとのこと。
そんなバーチャルキャストを支えるのは,バーチャルキャラクター用のファイル形式「VRM」だという。
VRMはバーチャルキャラクター(3Dアバター)に特化しており,モデルごとに異なる座標系を正規化(統一)したり,アバターの人格権を設定できる。とくにバーチャルキャラクターを扱ううえで正規化の恩恵は大きく,山口氏は「これだけのためにVRMを使うのもアリ」だと語った。
3Dアバターはモデルによって座標系がバラバラ。正規化前(左)は手首にある矢印が伸びる向きが正反対。同じ人間型モデルだが,このまま使うと同じスクリプトであっても,両者の動きはまったく異なるものになってしまう。しかし,VRM形式に変換すると正規化が行われて座標系が統一される(右)
"アバターの人格権"とは耳慣れない言葉だが,簡単に言えば"アバターが制作者の意図に反した使われ方をしないように設定できるということ。アバターを操作できる人を規定できるのに加え,「商用利用」「暴力表現を演じること」「性的表現を演じること」に許可・不許可を設定できる。すでにプレイヤーによるアバターの改造や,アバターを使った性的表現に関して問題が起こっていることを考えると,アバターの制作者にとっては歓迎できる機能といえるだろう。
バーチャルキャストではいろいろなところに工夫が凝らされているという。視聴者のコメントが文字になってVR空間に落ちてくるのは前述した通りだが,視聴者への見栄えがよいような落ち方をしたり,キャラクターが触れていないコメントは同期処理を省いて通信量を削減したりといった取り組みが行われているのだという。また,アバターのモデルデータが流出しないよう,「ファイルキャッシュを行わない」「通信を暗号化する」などの保護が施されている。前述したVRMの人格権とあわせ,制作者の権利が保護されているというわけだ。動画配信につきものなのが,嫌がらせで番組を破綻させようとする"荒らし"だが,捨て垢(ここでは荒らし行為のために用意したTwitterアカウント)で投稿できないようになっていたり,犯人を特定・通報できる機能も実装されているとのこと。
サーバーサイドのシステムにはLinuxが用いられており,負荷が増えればインスタンスを追加し,接続がなくなればこれを削除するといった動作が自動で行われているという。拡張ネットワーキングは追加料金がないにもかかわらず効果が高く,M5インスタンスを用いることでパケットもスムーズに流れるようになったという
バーチャルYouTuberの流行に伴い,今後も手軽に番組を作成できるシステムが増えていくと思われる。バーチャルキャストは個人レベルで利用できるのに加え,アバター制作者や配信者を保護するシステムも登場するなど,バーチャルキャラクターシーンが変化・成熟の途上にあることが理解できた講演だった。