【月間総括】市場のE3評価,任天堂の株価はなぜ下がったのか

Yahoo!ファイナンスより
【月間総括】市場のE3評価,任天堂の株価はなぜ下がったのか
 今月は,E3について触れざるを得ないだろう。E3での各社の発表はユーザーやゲーム系メディアの批評はともかく,資本市場での評価はあまり良くなかったという印象を受ける。とくに,任天堂では株価が大幅に下落した。先月も指摘した「Nintendo Labo」の戦略的失敗の潜在に加え,今回のE3ダイレクトの内容に投資家が大いに失望したようだ。
 おそらく,Nintendo Switchの大型タイトルが「大乱闘スマッシュブラザーズ(SPECIAL)」と「ポケットモンスター レッツゴーピカチュウ・イーブイ」のみとなり,新規タイトルが弱いと捉えられたことが引き金となったのだろう(関連記事)。

 しかし,ハード販売の成否は大型タイトルのラインナップでは決まらないのである。この「ソフトが少ない問題」は昨年1月の「Nintendo Switch プレゼンテーション」で,マスメディアが盛んに指摘したことである。改めて検証してみよう。
 昨年のタイトルは,ローンチの「セルダの伝説 ブレスオブザワイルド」「1-2-Switch」,4月「マリオカート8DX」,6月「ARMS」,7月「スプラトゥーン2」,10月「マリオオデッセイ」,12月「ゼノブレイド2」である。これらタイトルが昨年1月に発表された当時,多くの人が「ラインナップが弱い」と指摘したのである。
 結果として大ヒットしたためにキラータイトルとされてしまった感のある「マリオカート8DX」は,任天堂自身の期待値もそれほど高くなく,日本では強力なタイトルの「スプラトゥーン2」も欧米ではそれほどでもないと考えられていた。

 任天堂に対するヒアリングで,欧州ではハードの品薄は昨年夏に解消し,店頭に常時ある状態であったと判明しているにもかかわらず,2018年3月期のSwitchの累計販売台数(着荷)は日本378万台に対して,欧州533万台で,欧州のほうが多かったのである。
 米国でも,秋には品薄が解消したが,累計は594万台でこちらも当然ながら日本より多い。市場規模や供給力で販売状況が決まってしまうため,店頭に在庫があるかどうか,ソフトラインナップがどうかは,実際の販売動向に影響することはないということである。品薄商法と揶揄されるようなものは現実には非常に困難であるということなのだ。

 話を戻そう。Switchの発売からの累計台数は1779万台に達し,非常に強い結果だった。1月に懸念されたソフトラインナップの影響は感じられない。AAAと言われるサードパーティのフォトリアル系タイトルがないことの影響も微塵もなかったのである。
 そして今年は,3月「星のカービィ スターアライズ」,5月「ドンキーコング トロピカルフリーズ」,10月「スーパーマリオパーティ」,11月「ポケットモンスター レッツゴーピカチュウ・イーブイ」,12月「大乱闘スマッシュブラザーズ」である。
 資本市場は,昨年1月のNintendo Switch発表会と同じように反応しているが,昨年と比べても極端に弱いとは言えないだろう。また,弱いと思われても,結果がどうなるかを事前予測することはきわめて難しいということが良識人には理解されるだろう。
 エース経済研究所では,世間で指摘されるフォトリアルAAAが世界的な潮流であり,そのようなタイトルがないゲーム機が売れないという主張に対してもきわめて懐疑的にならざるを得ないと考えている。

 もう一つ,今回の株価下落については,春先の販売台数が弱いという意見もいただいている。しかし,Switchは大型タイトルが少ないにもかかわらず,日本の週間販売を見ているとGW明けをボトムに増加傾向にある(参考URL)。
 しかも,「マリオテニス ACE」や「マインクラフト」が発売された6/17日までの週間販売でも,Switchの前週比で大きな変化がなかった。エース経済研究所では,ハード販売の増減は,実は季節的要因が大きいのではないかと考えている。
 カードキャッシングの紹介サイトを手掛ける会社にヒアリングすると,年間で消費者のキャッシュフローが一番厳しくなるのがゴールデンウイーク明けの5月中旬であり,6月〜7月にかけてボーナス支給で改善するとのことであった。
 エース経済研究所では,“形”仮説を提唱しており,その観点からいうと,大型タイトルは従者であり,一定のタイトルがあれば,季節的要因で年末にかけてハード販売が大きく伸びるという結果になると予想している。これについては年明けに再度検証しよう。

 SIEに関しては,次世代機の発表がなかった。ソニーIR DAYにおいて,SIEの小寺社長も「PS4はライフサイクル後半に入った」「2021年3月期まではかがむ時期」とコメントしており(関連記事),具体的な発表はもう少し先といったところであろう。
 SIEは,日本以外の地域ではPS4で成功を収めた。昨年,指摘した米国だけで実施した値下げの施策についても,その後の組織対応で,全世界実施に改められた。PSVRやフォワードワークス問題もあったにせよ,PS4は世界中で多くの人々に受け入れられ,強力なタイトルもあるため,問題点は見当たらなくなった。本社やSIEが迅速に対応したことを,エース経済研究所では評価している。
 Switch版の発売で騒ぎになった「フォートナイト」のアカウントの問題にしても(関連記事),エース経済研究所ではPS4の販売に対しては大勢にはほとんど影響はないと見ている。
 利益的には今期がピークとなるだろうが,PS4で得た成果を存分に享受できるだろう。

 サードパーティでは,スクウェア・エニックスに注目している。E3での発表は見せ方という面ではいま一つだったようだが,「キングダムハーツ」「トゥームレーダー」「オクトパストラベラー」などコンシューマ向けタイトルは充実している。
 HDゲームは少し前までは開発費の高騰に苦しんでいた面があったが,ネットワーク環境の充実で,小売りの棚を確保する必要がなくなり,長期販売が可能性になった結果,収益性が大幅に改善している。
 さらに,米国の市場自体に変化の兆しがあることも追い風になるだろう。来月は,この点について触れたい。