【月間総括】予想外の貢献を示した「Fate GO」。ソニーと任天堂の2017年上半期決算を検証する

 今回はソニーと任天堂の決算について解説したい。ソニーの2017年度上期(6か月累計)決算は大幅増収増益となった。その要因は複数に分かれるが,

  1. CMOSセンサーを含む半導体事業の好調(前年同期比+1525億円)
  2. 熊本地震のマイナス影響がなくなったこと(同+479億円)
  3. スマートフォン用ゲームアプリ「Fate/Grand Oder」(以下Fate GO)が想定を大きく上回る成果を得たこと(同+251億円)
  4. PS4を含むゲーム事業の好調(同+95億円)

が挙げられる。なお,これら影響は地震の影響を含み,そのほかの増益や全社消去分もあるため,全体の増益額とは一致しない。

近年のソニー上半期時点での事業別営業利益の推移。昨年は熊本地震の影響で同社のCMOS工場などに大きな影響が出ていた
※Fate GOはゲーム&ネットワークサービス事業ではなく,音楽事業に属するものなので注意

 公表されてはいないが,社内計画に対しても大幅に上回る内容だったと会社側は説明している。計画比という観点でとくに寄与が大きかったのは「Fate GO」だったようだ。エース経済研究所のレポートでは具体的な点まで触れなかったのだが,夏場に実施した水着キャラクターを得られる「水着イベント」ガチャ効果が大きかったとのことのである。結果,アップストアランキングでも,1-3位に入ることが一段と多くなり,8月の月商は100億円に達したと推測している。
 11月22日にはダウンロード数が1100万を突破し,依然として拡大基調が続いている。年末年始はスマホゲームのピークとなる時期であり,今後第2部開始など話題が盛り上がれば年間1000億円を超える売上高も視野に入るだろう。
 このような大ヒットが実現したキーワードとして,エース経済研究所では「愛情」を挙げておきたい。以前,SMEJとその子会社で「Fate GO」を企画したアニプレックスに話を聞く機会があったが,「Fate GO」のチームを組成する際,スマートフォンやゲームビジネス対する知見よりも,「Fate」シリーズに対する愛着,愛情を持つ人を優先したとしていた。同タイトルのヒットで,このような基準で企画を立ち上げるケースが最近散見されるものの,当時としては極めて異質である。
 ITの素養を持たないチーム編成で立ち上げたため,「Fate GO」は初期トラブルが多発したが,SNSを通じて拡散したことによる知名度の向上で基礎固めができた。トラブルに対しても,デバッグ会社を有効に活用したことで早期対応できたことも大きかったといえるだろう。
 プレイヤーも,企画のアニプレックスと開発のディライトワークスの「Fate GO」に対する深い愛情を理解しつつ,原作者の奈須きのこ氏の創造した世界・ストーリー・キャラクターに共感し,積極的な課金行動を示した。
 しかも,ストーリー,キャラクターにプレイヤーを深く共感させたことはキャラクターの強さのインフレ問題に対して一定の効果をもたらした。
 通常,レア度の高いキャラクター・アイテムは,ゲーム内では非常に高い能力・効果が付与されている。しかし,それで満足されてしまうと,運営側は課金収入が減るため,新たなアイテムをガチャに誘導する必要が生じる。結果,強力な敵を実装して,レアアイテムをコモディティ化するという方法をとることが極めて多い。しかし,これは長期的にはプレイヤーのモチベーションを低下させ,ゲーム離れを引き起こしてしまう一因となっている。
 「Fate GO」は,その優れたキャラクター・シナリオによって,キャラクターの能力が高くなくても欲しいと思わせることが可能になっており,ほかのゲームよりも高いインフレ抵抗力を持っている。
 企画・開発・運営・プレイヤーがIPに対して深い愛情をもって接していることこそが長きにわたって高い課金率を維持できている原動力だと,エース経済研究所では見ている。
 一方で,SIE子会社のフォワードワークスがスマートフォンで成功できていないのは,このような視点が欠けていることに加え,現状のスマートフォンゲームビジネスがIPを活用して収益を最大化するのに適していて,新規IPでは成功しにくくなっている点を見落としているためではないかと考えている。

 次に,任天堂である。上期決算は,ソニー同様に大幅な増収増益だった。要因は「Nintendo Switch」の販売好調に尽きる。第1四半期の販売台数(小売店に着荷)が197万台,第2四半期292万台,計489万台と増産効果もあり,販売台数は大きく伸びた。

任天堂,上半期時点での営業利益の推移。昨年は新機種との端境期で売り上げは低下していた

 通期の販売台数も1000万台から1400万台に上方修正されたので,下期(2017年10月⇒2018年3月)の計画は911万台となる。エース経済研究所では,クリスマス商戦期に空輸を実施することを前提に,第3四半期700万台,第4四半期411万台,計1111万台を予想している。
 エース経済研究所では,先日開催された任天堂決算説明会の質疑応答での君島社長の回答などから,現時点での「Switch」の生産台数は月産200万台程度と推測している。この水準は,かつての「Wii」のピーク水準に若干劣る程度でかなり高い。しかし,問題は需要が強すぎるため,店頭に在庫を積めない状況が続いている点である。ゲームハードは発売から3間年は販売が伸び続けるが,2年めとなる来期は最も需要が大きく伸びるタイミングである。すでに"形仮説"で説明したように,大型タイトルの有無はハード販売の決め手にならない。デザインとプレイスタイルの差異化こそが決定要因である。これを前提に考えると,来期のタイトルが未発表であることはそれほど重要ではないと言えよう。
 しかし,来期のゲームタイトルが発表されていないことから販売を危惧する向きがあるとも聞いている。どちらの見方が正しいかは来年の今頃には明白になっているだろう。
 そして,エース経済研究所では,経験則から見ても任天堂が重視しなければならないのは大型タイトルの投入だけではなく,「Switch」ハード側の機会ロスであると考えている。
 エース経済研究所では,今期末(2018年3月末)の累計販売台数は1900万台近くなると予想しているが,発売から1年あまりでこの水準となると,来期に想定される需要は3000万台を大きく上回ってくると考えられる。このあたりの話は来月することにしたい。

 ところで,日本では11月21日夕刻から「どうぶつの森 ポケットキャンプ」がリリースされた。課金システムは日本標準のガチャではなく,グローバルで最近人気の時短型アイテム課金である。リーフチケットと呼ばれるアイテムを行使することで,アイテムの完成時間を短縮することができる。このリーフチケットは運営からも大量に配布されているので課金動機は高くない。任天堂側にヒアリングしても,大きな収益を上げることは目的ではないとしていた。しかし,11月27日時点で売上ランキング4位と非常に強い状況にあり,ポケモンGO同様にダウンロード数が非常に多いと推測される。
 任天堂の現時点での戦略目標は「自社IPに対する接触人口の拡大」である。「どうぶつの森」のダウンロード数が多いことは戦略目標に合わせて実施したスマートフォンゲームアプリが成功したことを意味している。
 おそらく,この成果はゲーム専用機版「どうぶつの森」の次回作で享受できるだろう。
 高い戦略目標の設定は実現すれば大きな成果が得られることが多い。来期も,同社は大きな成果を得るだろう。