2017年度はゲーム業界に何を期待できるか

業界関係者の目は任天堂の動きに注目。VRゲーム市場は自身を証明するための正念場を迎えることになる。業界アナリストの声を参考にしつつ,我々も2017年度のゲーム業界について一考してみた。

 信じ難いことではあるが,2016年という年もあっと言う間に駆け抜けていった。とてもバタバタとした1年であり,ゲーム業界では非常に興味深い動きがいくつもあった。コンシューマ機市場ではかつて見られなかった“ミッドサイクル”での世代交代,消費者の関心を受けようと苦闘するVRゲーム市場,任天堂は本格的にモバイルゲーム市場に触手を伸ばしつつもSwitchのローンチに向けて加速しつつあり,e-Sportsは日々発展しつつある。こうした状況は,2017年に向けてどのようにつながっていくのであろうか?

 もはやGamesIndustry.bizでは恒例とも言えることだが,昨年も本誌にさまざまな助言をもらった業界アナリスト各人に2016年度のまとめをお願いし,その動向が彼らにとって想定内であったかどうかを判断してもらいつつも,2017年度の動きについての予想をしてもらうことにする。今回のメンバーとなるのはSuperDataのJoost van Dreunen氏,EEDARのPatrick Walker氏,IHS MarkitのPiers Harding-Rolls氏,Wedbush SecuritiesのMichael Pachter氏,そしてKantan GamesのSerkan Toto博士といった面々だ。
 これに加えて,GamesIndustry.bizのメンバーによる昨今の動向についての一考も末尾に掲載しておこう。


Joost van Dreunen, SuperData


 モバイルゲーム市場のワールドワイドでの収益は400億ドル(4.7兆円)に到達するはずです。これまでの伝統的なパブリッシャは,高い価値のあるAAAタイトルで消費者の購買意欲を誘い続け,彼らの知的財産をさらにうまく利用していくことになるでしょう。任天堂は,より品質の高いゲームに投資しようとする消費者を刺激して,高価格なモバイルゲームという市場を完成する原動力になり,ほかのパブリッシャも追随しようとするかもしれません。

 e-Sportsは,その予算の急速な拡大とともに,メディア市場として定着できるかどうかの本格的なストレステストを受けることになるでしょう。e-Sports市場への投資を後押ししている現在の勢いは揮発的なものであり,各チームやプラットフォーム,およびパブリッシャたちに,彼らがこれまで約束してきたものすべてを実現するよう強いてくるはずです。2017年度にはActivision Blizzardや,Riot Gamesを傘下に持つTencentは,それぞれのe-Sportsタイトルの放映権で2億ドルほど得られると予想しますが,急成長した現在の状況を維持して効率よく展開していくためにもトーナメントの運営企業の中には吸収や統合の動きも見られると予想します。

 VRゲーム市場で,キラーアプリが出てきてもおかしくはないでしょう。もし,2016年度が「一般消費者向けのVR機器が誕生した年」であるとするなら,2017年は,「市場に食い込んでいく年」でなければなりません。HTCやソニー・インタラクティブエンタテイメントも徐々に成長していくと思われます。メジャーなパブリッシャはVRゲーム市場への投資には引き続きおよび腰であるかもしれませんが,その分だけこの分野で成長できる中小のパブリッシャが増えるということでもあります。

 Activisionは,1億ドルの広告収入を達成するかもしれません。ほかのパブリッシャも,無料でプレイし続ける95%のゲーマー層をマネタイズしようとさらに広報マーケティングを活発にしていかざるを得ません。Activisionは傘下のKING Digitalのゲームアプリ数本でテストを行っている状況ですが,2017年中期までには本格的に広報戦略を押し出していくと思われます。


Patrick Walker, EEDAR


 VRゲーム市場の動向は,2017年は好転していくと期待しています。私が昨年に導き出していた(関連英文記事)の,「VR市場はメディアを魅了する一方で,マスマーケットの消費者にアピールするのに苦労する」という予想は適格であったと思います。PlayStation VRがアナウンスされて以降,VRはハイプ(大きな話題)のサイクルに突入し,メディアから楽観的ながらも急速に萎んだ期待を受けることになりましたが,それも2016年度のホリデーシーズンで終息することになりました。しかし,皮肉であるかもしれませんが,私は2017年にはVRゲーム市場がメインストリーム化していくきっかけを掴むことになるのではないかと思っています。より多くのハードウェア製造メーカーやゲーム開発会社がDaydreamへのサポートを表明することでモバイルVRも活性化し,最初のキラーアプリとなるコンテンツが生まれてくることになるかもしれません。EEDARは,VRゲーム市場の動向を調査し始めてから,ようやく初めて発売前のプロジェクトの評価版に触れられるようになりましたが,「もしハイエンドVRシステムを購入できる予算があったなら,絶対このゲームは遊ばなければならない」と思えるような作品も少なくないのです。

 Switchは力強いスタートを切れそうですが,サードパーティのサポートが鈍化して難しい道を歩んでいくことになると思われます。ローンチ日には任天堂の熱狂的なファンたちが飛びつき,任天堂も導入時のプロモーションを含めてしっかりとエクスクルーシブタイトルを予定できるはずですが,Switchの成功もしくは失敗は,その日に判明するものではありません。サードパーティの継続的なサポートによる,継続的なソフトウェアのセールス状況で決まっていくべきものなのです。そしてそれは,消費者が携帯型と家庭用ゲーム機型のゲーム機のハイブリッドともいえるSwitchにニーズを見出すかどうかに左右されるはずです。EEDARでは,「このプラットフォームでは,どのようなタイプのゲームをプレイヤーたちが欲しているのか」を常に考慮しながら予想を立てますが,残念ながら私の個人的な予想では,メインストリームの消費者はコンシューマ機の表現力を重視し,スマートフォンやモバイル機を副次的なゲーム体験と利便性の代用品として受け入れていくために,Switchのようなハイブリッド機はどっちつかずの中間部分にトラップされ兼ねないでしょう。

 2016年度のモバイルゲーム市場は,ブランド力のあるフランチャイズのヒットが大きな話題になりました。こうしたヒット作の短期的な成功は,プレイヤーとの関係を維持していくリテンション,マネタイゼーション,そしてブランドの価値を体系化していくポートフォリオ戦略といった心柱にモバイル業界のフォーカスを集めることになるでしょう。「Pokémon GO」の成功はブランド中心のバイラリティを確かめるうえで,もしくはClashシリーズの知的財産が「Clash Royale」を瞬間的にヒット作へと押し上げてしまう力,もしくは「スーパーマリオ ラン」が何百万,何千万というダウンロードを記録していくことなども,良いケーススタディとなっていくはずです。しかしながら,こうしたヒット作からはまた,長期的な人気を維持するのがどれほど大変なことなのかも表しています。「Pokémon GO」の月間収益は,ローンチ後に見た上昇率と同じほどの速さで下降を続けていますし,「クラッシュ ロワイヤル」の人気が「クラッシュオブクラン」のプレイヤー層を奪い取ってしまうという私の去年の予想は,図らずしも本当になってしまいました。「スーパーマリオ ラン」でも似たようなことが起きるのではと考えています。ローンチ当初の記録的なダウンロード数と,ファン層のモバイルプラットフォームへの高い移行率はエキサイティングで大きな話題にもなりましたが,モバイルにおけるプレミアムモデルとマネタイズし難いジャンルであるために,同市場やコンシューマ機市場を率いる大手のパブリッシャの総体的な収益よりも低くならざるを得ないという事実が表面化してくるかもしれません。

 2017年度はまた,“コンシューマ機世代“というような業界の呼び方の最後の1年になるでしょう。そしてこの新しい傾向が,Microsoftに再び競争力を与えることになっていくと思います。Microsoftは,コンシューマ機の改変には慣れていることもあって,それをうまく利用していけるだけの良いポジションにあります。Scorpioの持つパワーは4KやVRゲーミングには不可欠なものであり,成長を遂げているPCゲーム市場との境界線をクロスプラットフォーム戦略を推し進めることでいっそう曖昧なものにしていくはずです。コンシューマ機向けゲームとPCゲームの橋渡しをすることの可能性について,ゲーム業界はその価値をよく理解していないのではとさえ思っており,デバイスに限らずライブラリを増やしていけることは,消費者に強くアピールするものだと思っています。


Piers Harding-Rolls, IHS Markit


 総体的なゲーム市場の予想 − IHS Markitは,2017年度のゲーム消費はグローバルな年率で6%程度となり,1000億ドルレベルに到達するのではないかと考えています。ゲーム産業はもはや映画の興行収入やDVD/Blu-rayディスクのセールスやレンタル,オンラインによる映画の動画配信サービス,音楽CDやストリーミングサービスをすべて合計したものよりも大きくなっています。ゲーム市場の成長の多くがゲームアプリの販売によるものであり,今後もモバイルデバイス関連のアプリ販売が,2位のPCゲーム市場に大差をつける形でさらなるシェアを獲得していくという傾向は続いていくと思われます。ゲーム市場として最大の中国市場は,2位の北米市場との差をさらに拡大していくというのも変わりないでしょう。また,ゲーム関連消費の総計におけるマイクロトランザクションやアプリ内購入(IAP)は69%に到達すると思われ,マネタイゼーションの手法としては記録的なものになることが想定されます。

 デバイスとテクノロジー開発 − 我々は,2017年度のPlayStation 4のセールスはXbox Oneの総額の2倍に達するのではと見ています。この二つのプラットフォームの2017年度のセールス台数は2700万台程度に達するでしょう。Microsoftがヨーロッパ市場においてSIEと競合できるだけのシェアを回復できるとは思えません。コンシューマ機のデジタルセールスが,市場シェアの50%の大台に乗るのは2018年度まで待たなけれならないはずです。

 新しいプラットフォームのローンチについて言えば,任天堂のSwitchの可能性は高いものの,かなり複雑なポジションにあるのは間違いなく,必ずしも広範なユースケースに対応しているとは限らないことを懸念しています。マーケティング戦略での強いメッセージを発信することによって,Wii Uのキャンペーンで冒したような問題に遭遇しないことを願っています。現時点では,2017年度のSwitchのセールスは暫定的に400万台と想定していますが,ソフトの価格やコンテンツ量によって予想は再考されていきます。任天堂にとって肯定的な要素になるのは,同社のスマートフォン戦略の相乗効果によってセールスにポジティブなインパクトを生み出すかもしれないということです。

 Switchが3DSの成功を後追いできるチャンスはほぼないという一般的な前提がありますが,二つの製品カテゴリーがさまざまな点で異なるため,次世代ハンドヘルドデバイスのためのスペースはまだまだ存在します。任天堂のハンドヘルドデバイス新作については,2017年にはさらに詳しく知ることになるでしょう。

 Project Scorpioでコンシューマ機における4Kゲーミングのネイティブサポートを実現しようという野望によって,ひょっとしたら同機のローンチは2017年末ではなく2018年度にまで延びてしまうかもしれません。さらに,その価格もソニーのPlayStation 4 Proよりも,ずっと高価なものになると思われます。MicrosoftがOculus VRと提携して,Project ScorpioでRiftのサポートを行う可能性も十分にあるはずですが,Windows Holographicの戦略で数々のOEMパートナーと契約していることから推測する限り,この2社がエクスクルーシブな提携を行う可能性は少なさそうです。

 VRゲーム市場での展望 − コンテンツの初期の実験が,多くの開発者の引き出しをすでに開けてしまっていることもあり,VRに対する反発の兆候があるように見受けられます。これまでのハイプから,消費者のVRセクターは,商業的な現実が詳らかになるにつれて自己反映の期間に入り,私はそれが2017年にもっと強く打撃を与えるだろうと思っています。このため,VRセクターの周囲に多くの否定的なニュース記事が渦巻くことも予想されます。2017年末には据え置きベースのハイエンドモデル市場が着実に成長し,VR市場がよりポジティブに見えるのは間違いありません。また,プレイステーションVRは,徐々に工場の生産が追いついているのですが,2017年度は引き続き供給が制約を受けることになるでしょう。今年もまたほとんどのVRニュースは,ソフトウェアコンテンツではなくヘッドセットの技術やその進化に集中していくでしょうが,今年の終わりにはこの潮流に変わっていくと思われます。

 すでに中国国内だけで6000店舗も存在すると言われるVR商業施設は,今年はIMAXのVR専用シアターの拡充に合わせて,北米でも大きく展開していくことになります。中国では聞いたこともないようなVRヘッドセットがいくつもローンチするでしょうが,そのほかの地域では市場に影響を与えるほど意味のある新作は出ないはずです。Appleが,2017年度内に同市場で展開することはないと予想できます。
 2017年には,サードパーティからのGoogleのDaydream Viewヘッドセット対応スマートフォンの海外販売が開始され,プレミアム端末市場への進出を狙う中国企業のスマートフォンOEMのローンチなども盛んになるはずです。それでもなお,Daydream ViewがSamsungのGear VRの販売台数を抜き去るのは,少なくても2018年までは待たなければならないでしょう。
 

Michael Pachter, Wedbush Securities


昨年の予想成績
 ソニーがPS Vitaを見限るという予想は「A-」。もはや製造さえ行われていないように見えますが,まだ公式なアナウンスメントはありません。E3 2016では存在感がまったくありませんでした。

 「Miitomo」が商業的に失敗するという予想には「A+」の自己評価をしてよいでしょう。これに関する今年の収益を任天堂が発表することはまったくなかったですし,もはや誰も語ろうとさえしません。

 任天堂のモバイルゲーム第2陣が成功するという予想は,実際に「スーパーマリオ ラン」がリリースされたこともあって「B+」を付けておきます。「Pokémon GO」は実際に任天堂のゲームではありませんが,とてつもないヒット作になりました。「スーパーマリオ ラン」は,「Pokémon GO」を数えると2作めということになり,2016年末のローンチは幸先の良いスタートを切っています。

 任天堂の「NX」と呼ばれる最新機種が2016年中にリリースされないという予想も的中したので「A+」。

 Activisionが買収したKingとの提携により,「Skylanders」の新作が出るだろうという予想は,まだ実現がしてないこともあり不完全なものです。まだ発表もされておらず,両社が協力している様子もありません。

 映画「アサシン クリード」はそれなりに成功するだろうという予想には,「A」の自己評価を付けておきます。残念ながら2016年度末にリリースされたこともあって,私自身がまだ観る機会もないのですけど,トレイラーを見る限りは非常に良くできているようです。


2017年度の予想
 PlayStation 4の価格は199ドルまでに下がります。もし,SIEがMicrosoftを引き離し続けたいと願うのであれば,2017年が終わるまでにはPS4を199ドルで売っているでしょう。

 Rockstar Gamesから「Red Dead Redemption」の続編以外の新作がリリースされることはありません。同社は2013年から新作をリリースしていないのですが,2017年度は「Red Dead Redemption」の新作だけにすべての労力を消費するはずです。

 「Call of Duty」のフランチャイズは,Sledgehammerが開発する「モダン・ウォーフェア」新作により,再び大ヒットを経験することになります。SledgehammerとActivisionは,「アドバンスド・ウォーフェア」を一つの柱として確立したいと願っているようですが,「インフィニット・ウォーフェア」のパフォーマンスの悪さを重く見ているActivisionは,その路線を見直してファンを呼び戻すことに集中していかなければなりません。

 「スーパーマリオ ラン」は,そのローンチ当初は大きな成功となりますが(関連英文記事),2017年6月までには消費者からの興味は失われていくものと思われます。ブランドの人気にもかかわらず,任天堂は「Free-to-Start」のビジネスモデルで戦略的な過ちを犯しているようです。

 「Pokémon GO」は,その人口が2000万人を超えるすべての国や地域で,トップ10の座から転落してしまうでしょう。ゲームは面白いのですが,コンテンツ追加のスピードが遅く,捕まえたいポケモンもすぐにいなくなってしまいます。

 Switchは,9月までは品薄状態が続くはずです。このデバイスは興味深いですし,その価格設定も良く,その需要は高いと考えられます。もし,実際にゲームを提供してくれる,サードパーティからのサポートが十分に得られるのであれば,その高い需要は9月以降も維持できるでしょう。

 Xbox Scorpioの価格は399ドルと発表されます。SIEがPlayStation 4 Proの価格を2017年度末に引き下げてくることを想定すると,これは決して安いとは言えないので,Microsoftも競合していくために,さらに価格を下げてもおかしくはありません。

 次の「Elder Scrolls」が発表されますが,「Half-Life」の新作には期待しておかないでおきましょう。Bethesda Softworksは続編の開発を頑張っていますが,Valveはそんな気配も見せません。しかしながら,Valveの内部は不鮮明で,これに関しては半々といったところです。


Dr. Serkan Toto, Kantan Games


2017年度は任天堂にとって非常に重要な1年になる
 2017年という年は,長期的な展望を考えると任天堂にとっては非常に重要であると思います。Switchは,任天堂にとっては革命的なものであり,同社がコンシューマ向けゲーム機とポータブルデバイスを組み合わせる初の試みになります。任天堂は,このSwitchですべての拠点を攻撃する必要があり,それに失敗すれば,彼らはコンシューマ機市場において,今後さらに数年間は苦渋をなめていくことになるからです。

 2017年はまた,任天堂がモバイルゲーム市場で最初の大ヒット作を生み出す年になるでしょう。もし,すべてのゲーム体験ができるプレミアム版のセールス,Free-to-Playモデル,高いクオリティのゲームプレイ,そして協力なバイラリティといった点をうまくクリアできていくのであれば,「どうぶつの森」がその大ヒット作になる可能性は十分にあります。
 私の予想では,Switchのローンチにも関わらず,任天堂はさらなるモバイルゲーム向けタイトルの発表や,映画などへの知的財産の有効利用も2017年中に発表していくと思われます。

ソニー vs. Microsoftの戦いはほとんど形勢が変わらず
 コンシューマ向けゲーム機市場においては,2017年度はほとんど動きがなさそうです。SIEの優勢は強固なものですし,PlayStation 4機種の展開によって,現状ではより良い勢いを持っています。

 Microsoftは,Scorpioを少しでも早くローンチできるよう努力しなければなりません。現在知られているところでは,Scorpioはとてつもない性能を誇るデバイスになりそうですが,もたもたしてしてはソニーの次の機種が発表され兼ねないでしょう。

VR市場は今後も右往左往する
 私はVRのファンであり,いずれは躍進していく市場であると確信しています。しかしながら,2016年度はテクノロジーの実験を行う年であり,大きな第一歩を踏み出すまでには至りませんでした。2017年度も,メインストリーム市場で存在を確立するのは苦労していくことになると思われます。まだ2017年中にはキラーアプリは出ないかもしれません。

モバイルゲーム企業は,さらに買収が行われる
 モバイルゲーム市場の2017年は,さらなる企業合併や買収が続き,この業界からモバイルゲームを開発する企業の数は徐々に減っていくことになります。現状では,すでに需要と供給の両面において,あまりにも酷い飽和状態に陥っています。すでにお話ししているように,2017年度はここに任天堂という巨人が割り込んでくることになるのです。

HTML5ゲームがさらに人気を得る
 Facebookが「Instant Games」のβ版を2016年度に立ち上げていますが,これは同社がHTML5ゲームのサポートを強化することで,自らをAppleとGoogleの呪縛から解放しようと考えているのではと推測しています。このセクターは,中国や日本などのほかの大規模なゲーム市場でさらに先行しており,2017年度はHTML5のゲームが西洋の主流になった年として記憶されると私は信じています。


GIスタッフによる予想


 GI.bizのチームメンバーも業界予想をするのが大好きだ。せっかくなので,皆に短く予想してもらった。

James Brightman:
  Wii Uが冷たくあしらわれてしまうという大洗礼を浴びた任天堂が,その初年に1500万台ものSwitchを販売して大きくカムバックする。その起爆剤となるのは,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」に始まり,マリオやポケモンといったフランチャイズの新作,そしてサードパーティからのサポート。これで,Wii Uの販売台数を最初の1年で超えてしまってもおかしくはない。

Dan Pearson:
 ソニーとMicrosoftは引き続き4Kゲーミングへの移行を推進させていくが,ウルトラHDテレビの浸透率が低調なものとなり,「人喰いの大鷲トリコ」で見られるようなパフォーマンス格差の発生頻度が増すと,プラットフォームの断片化が問題になっていく。2Kと4Kプラットフォームの差を明確にするために,どちらかのプラットフォームがPlayStation 4 ProもしくはScorpioの4Kエクスクルーシブタイトルをリリースするか,「Made for 4K」といったラベリングを使うという禁じ手に打って出ることになる。つまりは,ミッドサイクルのハードウェアアップデートは,簡素化する前に難しい道を歩むだろう。


Matthew Handrahan:
 不確かな2016年が終わり,2017年度は,とくにHTC,Oculus VR,そしてSIEが押し進めるハイエンドなVRゲーム市場に鮮明な失望が訪れることになるだろう。多くの人々が,この新しいメディアが成長していくために必要であると信じていた,ユニークなゲームプレイの経験は今後12か月では出現することはなく,必然的に高い評価を得るであろう数少ないタイトルも,無意味に高価な価格帯のためにヒット作となることもない。Rift,Vive,PlayStation VRの販売は期待を大きく下回っているが,製造元からの厳しいデータがないため,実際にどれだけ下回っているのかは推測するしかなく,それだけに市場の不鮮明な状態は継続していく。

Christopher Dring:
 現行のコンシューマ向けゲーム機が4年めに入り,MicorosoftとSIEの首脳のお気に入りのモットーは「視聴者の拡大」になる。しかし,タブレット,スマートフォン,PCでゲームを楽しんでいる主流の消費者(子供,家族,女性を含む)が増えれば,コンシューマ向け専用ゲーム機に投資する価値があると確信させるための戦いになっていく。この分野においては,任天堂が答えを握っているかもしれない。

 その網を広げようとしているプラットフォームホールダーだけでなく,サードパーティパブリッシャも同じ課題に直面していく。ゲーマーが大量のタイトルを購入しなくなり,「Overwatch」「Destiny」「The Division」「FIFA17」などのゲームを長くプレイすると,主要なスタジオやパブリッシャは,シューティングゲームやスポーツゲームに満足しない,まったく新しい聴衆にアピールするためのプロジェクトを発表せざるを得なくなっていく。残念ながら,Toy-to-Life(関連記事)と呼ばれる新興ジャンルは,こうした構想の中には入っておらず, 次のクリスマスまでには,絶滅の危機に瀕しているはずだ。

James Batchelor:
 メディアとゲーム業界の関係は,今後も徐々に変わっていく。パブリッシャと“インフル―エンサ―“と呼ばれる動画配信する側の人間による,従来のメディアを飛び越えるための秘密裏の合議といったYouTubeに取り巻くいくつかのスキャンダルが暴き出されているにも関わらず,より多くのゲーム企業はユーチューバーやSwitchのストリーマーたちにプレビュー版を送り続け,既存のメディアは完成版のレビューに明け暮れる。より多くのパブリッシャが,E3やGamescomのような主要なトレードショーへの参加を見合わせ,その一方で自分のイベントを主催したり,従来の報道関係者よりも多くのインフルエンサーを招待する。既成メディアは,より広範囲なエンターテイメントの領域に手を伸ばしているにも関わらず,少なくとも一つのゲーム雑誌(将来的には,英国ではFuture / Imagine合併後)や人気ゲームサイトが休刊することになる。

Brendan Sinclair:
 まだおそらくは2016年を引きずった話ではあるが,2017年度はゲーム業界が失意のうちにあるはずだ。新興市場の成熟とハードウェア革新の欠如は,モバイルゲームの成長を確実に維持していく。VR,AR,そしてe-Sportsは,引き続き成長していくことになるだろうが,2017年中には 「未来のもの」から 「現在のもの」に移行することはないだろう。コンシューマ向けゲーム機では,マイクロソフト社がScorpio関連のマーケティング用メッセージを生み出すのに問題を抱え,PlayStation 4 Proを取り巻く感情も,楽観主義から曖昧なものになるだろう。任天堂のSwitchはWii Uよりも優れているが,同社のモバイル向けの取り組みは,「Pokémon GO」によってもたらされた非現実的なほどの期待感には及ばない。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら