【月間総括】2つの新ハードに見る任天堂とSIEのマーケティング戦略

 2016年11月10日,二つのハードが発売された。一つは,任天堂の「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」(以下ミニファミコン),もう一つはソニーのゲーム事業子会社であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の「PlayStation 4 Pro」(以下PS4Pro)である。両方ともほぼ即日完売であったが,初週の販売台数は大きく異なった(参考記事)。

 ミニファミコン26.1万台,PS4は従来機種も含めて9.2万台,PS4Pro単体は6万台程度だったようだ。

 前回(参考記事)も述べたようにハードの販売は初動でほぼ決まってしまうため,国内ではPS4Proの厳しい展開を想定している。エース経済研究所では,3DSとの併売が続いたNew3DSもだが,ハードの選択肢が増えることを好ましいとは捉えていない。任天堂の故・山内氏が話していたとおり,ハードはプレイヤーがソフトのために仕方なく買うものであり,スペックを見て買うものではないからだ。

 今世代は,世界レベルで見れば初動で販売が好調だったPS4の優位は揺るぎないと予想しており,最終的な販売は1億台に達するだろう。しかし,最近のSIEの新サービス・マーケティングはうまく行っているとは言い難い。PSNowはそもそも物理的な障壁が大きすぎ,実用化のハードルが高い,PSVRは生産性に難があり,PSVueは米国では有意義でも,日本では著作権などの問題が複雑でサービス化することが困難である。PS4Proも専用タイトルを出せないため,現状のPS4と差別化されていない。これでは,カタログスペックの高さも意味がないと言わざるを得ない。
 せっかくのPS4の成功を生かし切れておらず,世間の関心を引き付けられていないのは,戦略目標の設定が焦点のない漠然としたものであるためと考えている。詳細については,いずれ触れたい。

 ところで,任天堂Wii Uの生産が終了することが明らかとなった(参考記事)。通常,ゲームハードは5年サイクルであるため,少し早いことになる。エース経済研究所では,おそらく一部の部材の調達が困難になったことと,前述の通り初動で販売不振に陥ったハードの挽回は極めて困難なため,仕切り直しを狙ったものと推測している。
 3DS,Wii Uともに,実際に遊ばないと良さが伝わらないタイプのハードだったと,エース経済研究所では考えている。今回のSwitchは分かりやすさが追求されており,発表されたPVでも画面を持ち出して見せることで,ゲームの良さを伝えるシーンがある。
 おそらく,任天堂の現在の戦略目標は,自社の強みが生かせるゲーム専用機ビジネスに対する関心を高めることである。

 そして,その戦術がPokemon GOのヒット(7月)以降,リオ五輪閉会式の安倍首相マリオパフォーマンス(8月),アップルイベントでの「スーパーマリオラン」発表(9月),アップルCEO任天堂本社訪問,「Nintendo Switch」発表(10月),ミニファミコン発売(11月)とほぼ毎月,なにかしらの発表が行われ,そのたびにマスメディア・SNSで話題になる状況を作ることだと考えている。
 これを読んでお気づきかもしれないが,スマートフォン用ゲームアプリも,ミニファミコンも少なくともゲーム業界においては,新しいタイプのマーケティング戦術の結果である可能性が高い。ミニファミコンは初代ファミコンのタイトルを30本内蔵した製品で単価も5980円(税別)と比較的安い。初週26万台を販売し,品切れとなったことで今後も一定期間は販売される可能性が高い。このようにアプリや製品を継続して投入することで収益を確保しつつ,プレイヤーの関心を高める方策であると見ている。

 とくに,コンシューマゲームは発売されて短期間にコンテンツが消費される一方,開発期間が長期化しており,連続してコンテンツを出すことが難しい。その点,スマートフォンゲームはオンラインゲームに近く,継続してアップデートを行うことで,プレイヤーの関心を高いレベルで引き付け,維持することが可能になっている。
 これまで,スマートフォンゲームアプリとコンシューマゲームは相互に対立する関係で語られることが大半であった。故・岩田社長やエース経済研究所ではそういうことはないと指摘していたが,実績がガンホーの「パズル&ドラゴンズ」,ミクシィの「モンスターストライク」といった国内の一部タイトルに限られたこともあり,一般的な論調になることは無かった。
 しかし,11月17日にポケモンは,「ポケットモンスター」の最新作「サン・ムーン」が3DSで過去最高となる世界1000万本の初回出荷を達成したと発表した。世界的に「Pokemon GO」が空前のヒットとなったときに,日欧米で3DSハードと過去作の販売が伸びる現象が起こっていたが,その流れが新作にも波及し,ぜひ本編を遊んでみたいと考える人が多数現れたと考えている。つまり,両者は世界的に共存が可能だということが初めてデータとして示されたといえよう。

 12月15日には,いよいよスーパーマリオランがiOS先行でリリースされる。娯楽は発売まで成否を確認することができないが,Pokemon GOに続き,世界的な関心を引き付けることができれば,収益を確保しつつ,1月の「ニンテンドースイッチプレゼンテーション」につなげることができるだろう。
 両社の戦略目標の違いによる結末がどのような状況を生むのか,エース経済研究所では引き続き注目したい。