レビューがないということは,ネガティブなものが出てくる可能性がないということ

今後,ゲームの評価版を保留するというBethesdaの決定にゲーム評論家(メディア)たちがひとこと。

 Bethesdaは「Dishonored 2」と「Skyrim Special Edition」をメディアに提供するのはリリース前日にするという方針を明らかにした(関連URL)。

 すなわち,ゲームが発売されるタイミングではレビューが出ていないので,購入を考えるゲーマーは,レビューを待つか,一か八かで買うしかないのだ。

 「Bethesdaはメディアのレビューを大事にしています」との書き出しで始まった同社のBlogにはこのように書かれている。「私たちはレビューを読み,動向を注視しています。批判があったときにはそこから学ぶようにしており,それが私たちのゲームをプレイするゲーマーにとっても価値があることだと思っています。今年の初めに『DOOM』をリリースした際,私たちはレビュー用コピーをローンチ前日に到着するように発送し,それがゲームのクオリティに関する憶測を呼ぶ結果となりました。その後,DOOMは批評家たちにも,一般にもヒットと作品となり,今や過去数年において最高ランクのシューティングゲームになりました。これからローンチするSkyrim Special EditionとDishonored 2についても同様に,レビューコピーの提供はリリース前日に統一します」

 Bethesdaが引用したDOOMは興味深い例である。

 イギリスを拠点にする調査企業GfKによれば,リリース1週めの売上(フィジカルのみ)は比較的低く,(同じ週にリリースされた)「Uncharted 4」の1/3にも満たなかった。

 しかしながら,2週めに入って,ポジティブなレビューが浮上してきたあとは極めて強いパフォーマンスを示した。コアなアクションゲームのタイトルで,リリース2週めに売上が70%,80%と下がるのは珍しいことではないが,DOOMについては2週めではたった35%下げただけで済んだ(ちなみに「Uncharted 4」の売上は78%下落した)。これが意味するところは,レビューの公開が遅かったことにより,結果として息の長い売上につながったということだろう。

 無論,ひねくれた見方をすれば,Bethesdaの発表は単純にDishonored 2とSkyrim Special Editionの先行予約を確保したいがためとも言える。

 「Bethesdaがやっていることに惑わされる人はいないでしょう」とGamesradarのエグゼクティブ・ニュース・ディレクター,Leon Hurley氏は言う。「レビューが公開されていないということは,トレイラーやデモプレイ,ユーチューブによる,よくコントロールされたポジティブなメッセージだけが発信されるので,否定的なものの可能性がないということです。ゲーマーは,ゲームが出るずっと前から,頭の中の想像でゲームを買っているのです。ですから,リリース間際に購入を思いとどまらせるようなネガティブな要素を取り除いておくことは,売上に明確に貢献します」

 Videogamer.comのエディトリアル・ディレクター,Tom Orry氏によれば,Bethesdaのケースではこれまでの高い実績により,批評家の低い評価をそれほど心配していないようだと見る。「Bethesdaはここ数年継続的にヒット作品を出しているので,レビューのスコアを気にするような消費者はたとえリリース前のレビューがなくても,素晴らしいものに決まっていると期待することでしょう」

 「今回の状況においては,Bethesdaのラインナップは印象的で,DOOMは結果的に素晴らしかったと強調しつつ,同社のポリシーがいかに消費者にとってよくないものかという似通った記事を書く記者がたくさん出てくることでしょう。他方で,そのような否定的な中で同社が反メディア,反消費主義を表明したことについては,肯定的な記事が出るでしょう」

 Bethesdaのブログで,ゲーム批評家たちがとくに不快に感じた一文がこれだ。「私たちのゲームを,メディアも含め,皆さんに同時に経験してほしいのです」

 Eurogamerの副編集長Wesley Yin-Poole氏はこう見る。「YouTuber(YouTube向けに動画を作成し公開するクリエイター)は新しいSkyrimをすでに持っている。Bethesdaの表明では言及されなかったが,YouTuberやストリーマーたちは,従来のメディアよりも特別待遇をされていると一部の批評家たちの間では受け取られている。

 Hurley氏は加える。「YouTuberを擁護する見せ方は純粋に,Bethesdaが彼らを広告の一環として受け入れているということです。いくつかのリリースで見てきたように,レビューで最高の評価でなくても,正しい高さの視認性を確保できれば人々は買うのです。レビューを完全に追いやるということはこれを最大化するわけです」

 「Bethesdaを強く非難することはできません。Webサイトや雑誌がゲームを詳細に分析し,レビューを載せることで何か欠点を指摘されるかもしれません。もしくはYouTubeなどの動画サイトでの閲覧が数十億に達し,そのゲームは素晴らしいということになるのとどちらがより重要でしょうか?」

 しかしながら,Orry氏は,YouTuberへのえこひいきは徐々になくなるだろうと考える。「このエリアのメディアは成熟し,歩調を合わせる人々は減るので,YouTuberなどを利用するやり方は再検討されなければならなくなるだろうと思っています」

 もちろん,ゲーム業界において,リリース後にレビューを公開するというやり方は目新しいものではない。

 「ゲームは変わっていきます。“Day-1パッチ”やオンライン部分がほとんどというゲームも多くあるので,いずれにせよローンチ前にゲームをレビューするのは難しいことです」とEurogamerのYin-Poole氏は言う。

 「Bethesdaのゲームはストーリー主体であったり,拡張系RPGが多かったりするので,そういったカテゴリーに当てはまらなくなってきています。しかし,私たちはたいてい,ローンチ当日かその後にレビューを公開しています。私たちの読者が手にするものと同じ状態のゲームをやることがEurogamerのポリシーです。しかし,Bethesdaがわざわざ手間暇かけてBlogで公表したことは驚きでした。そのようなことをしたパブリッシャは過去にいないでしょう」

 GamesradarのHurley氏はこう結論する。「いずれにせよ,プレビュー,レビュー,そして最終的な記事というやり方からどんどん遠ざかる動きが顕著です。一つの大きなレビューのトラフィックを勝ちとるために頑張るよりも,ゲームを買い,固執し,もっと欲しがるコミュニティから,より長い関心を求める流れになるでしょう。Destinyの『Xur』について毎週投稿したり,オーバーウォッチの最新調整を特集したりするたくさんのサイトを見てごらんなさい」

 「その点で,もしBethesdaがつまらないものをリリースしたら,気付かれないということはないでしょう。それは単に,買ってしまったのは手遅れということです。『No Man’s Sky』であったように,もし買った人々が満足しなかったら,それは周知の事実となってしまうのです。Hello Gamesはいまだにお金を得ていますがね。ゲームはどんどん高額に,よりリスクあるものになりつつあるので,面白いゲームを入手するチャンスを最大化することには意味があるはずです。Bethesdaはそれを明確に記載しただけなのです」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら