「24Frameの邪道経営哲学」第11回:東京ゲームショウに出展する時の哲学
家庭用ゲームのパブリッシャとして
とはいえ元々のデベロッパとしての日常も継続しており,業務拡大という新たな地平線がそこには広がっております。
こういうと景気のいい話のようにも思えるのですが,話はそう単純ではありません。
業務を拡大するということは,それに伴ってやるべきことも増えるということです。
例えば「広報活動」などがそうです。
これは大手のパブリッシャでは言うに及ばず,我々のような小さな会社にとっても重要な舞台になります。
競争の激しいゲーム業界において,自社のゲームを広く知ってもらい,ターゲットユーザーにリーチするために,積極的に情報発信に取り組まねばならい……のは火を見るよりも明らかなのですが,ここに一つ問題があります。
それは,非常に限られた予算とリソースの中で広報活動を展開せねばならないことです。
大手パブリッシャは巨額の予算がある中で,紙面なりインターネット空間を買い取りながら広報戦略を展開する……なんてことも可能なのかもしれませんが,我々のように小さな会社としてはそもそもそういった手段はとれず,大きなメディア露出を獲得することは難しいのが実情です。
また,現状では我々の開発したゲーム「METAL DOGS」はすでに正式リリースを迎えており,ここからは「売り伸ばし」をするべきフェイズに差し掛かっています。
リリース当初は国内外のメディアにも多数取り上げていただけた本作も,一般的にはここからはよほどの「大型アップデート」などがない限り,ニュースにはなりにくい状況です。
まだ始まったばかりなのに手詰まり感のあるわが社の広報活動。
途方に暮れかけていたところに,一筋の光明が差し込みます。
それは同じ業界の友人と話していた時のこと。
「え? 友野さんイベント出展してないの? ダメだよそりゃ。お金がないなら足で稼がないと」
イベントへの出展
「足で稼ぐ」!
なんということでしょう。
僕たちは高度に情報化されたインフラに胡坐をかいて,そんな物事の基本さえ忘れてしまっていたのです。
そしてこの場合の「足で稼ぐ」=「イベント出展」とは一体どういうことなのでしょうか。
それをまず知る必要がありました。
僕はすぐさま弊社のインテリジェンス部(普段は普通にゲーム作ってる人たち)に連絡し,「ゲームのイベント出展」について相談しました。
「ゲームのイベント出展をせんといかんぞ!」
「ハァ? それってE3とかTGSのことですか? そういうのって最近はコロナの影響で中止されたりオンライン開催になったり,そんなのばっかりですよ」
「え? そうなの?」
「いつも思うんですけど,もっと考えて発言してくださいよ」
そんなやり取りを経て,改めて調べてみると然り。
多くのイベントはコロナ禍で変容しつつあるようです。
そしてそもそも,上に挙がった大規模なイベントというものは莫大な出展料がかかります。
そこの費用を払えるようであれば,もともと「金がない」ということで困っていたりはしません。
残念ながら「巨大なイベント」は,巨大なメディアと同じく大規模パブリッシャの独壇場だったのです。
しかしあきらめるわけにはいきません。
しつこく調べていくことで,見えてくるものもあります。
パブリッシャに大小様々なものがあるように,よくよく調べてみるとイベントにも大小があるのでした。
そこで我々はまず自分の身の丈にあったイベントに当たっていくことになります。
イベントの意義
調べてみて分かったのですが,我々のような小さなゲーム会社は世界に数多存在し,そこからのヒットタイトルの多くがイベント出展を行っています。
しかも最近では「インディゲーム」に特化したイベントなども多数行われており,まさに「足で稼ぐ」ことが可能な状態が出現していたのです。
確かにこれを見過ごしているようでは,怠惰のそしりも免れ得ません。
我々は失った過去を取り戻すかのようにインテリジェンス部の協力の下,今後開催される予定のイベントをリストアップしていきました。
これはSteamの市場調査をしたときと同じ方法ですね。
初のイベント参加
実は我々「イベント参加」自体はまったくの未経験ではありませんでした。
2021年に京都で開催された「BitSummit THE 8th BIT」にお呼ばれして,そこへの出展と,開催されていた番組収録に参加させてもらったことがあります。
しかしこのときはまさにコロナ禍の真っただ中。
出展者以外にほぼ人はおらず,余り活況とは言えない状況でした。
つまり我々はこのとき,このイベントの本来の姿を見逃していたのです。
そこでMETAL DOGSの正式リリースを終えた今,コロナ禍の状況変化を踏まえ,改めて開催イベントの情報を集めてみたわけです。
すると,そろそろオンラインだけでなく現場ありきのイベントが復活しつつあるではありませんか。
これは面白くなってきました。
準備は大変
こうして我々はイベントへの出展を決意した訳です
しかしやってみると,これが中々一筋縄ではいきません。
書類の申請から,実際のブース設営まで,やることは盛りだくさんです。
うちの規模ですとそれ専任の広報部などは当然ありませんから,社内で有志を募って協力してくれる人を探すところから始まります。
イベントですから,当然開催は週末,休日です。
休日出勤での決行となり,会社としてのカロリーも中々に高い。
インディでありながら会社でもある,という奇妙な構造はここでも微妙に話をややこしくしてきます。
やったことのないこと,というのはいつだって高カロリーです。
そしてわが社は頻繁にそういったことに身を投じがち。
付き合ってくれるスタッフは大変ですし,そこには感謝しかありません。
ブースの設営は,長机と椅子で構成された簡単なものに見えますが,これもゲームを試遊してもらう必要がある場所です。
なのでディスプレイの配置や,そもそもゲーム機はノートPCなのか,家庭用の携帯機なのか,SteamDeckなのか,そこから決めていく必要があります。
さらには,せっかく出展するからには少しでも目立ちたい,などの煩悩も抑えきれないものがある。
結果としては配置をほかの出展社さんたちを横目で見ながら,時には話しかけたりしつつ,根性で決めていきました。
目立ちたいという欲望は,家庭用リリースの際のイベントで使用した立て看板などを再利用。
このように様々な人の協力により,我々は出展を果たします。そして当日の体験は思いの外,感動的なものとなりました。
出てみてわかったこと
何がそんなに感動的だったのか?
別に何か驚異的な事が起ったわけではありません。
ただ,実際にゲームに興味を持ってくれた人,すでに知っていてくれた人,なんとなく足を止めてくれた人たちと実際に会って話し,その感想を聞くことができる。
それだけで十分に特別なのです。
元々ゲームというメディアはそれ自体特別なユーザーコミニュニケーションを必要としません。
オンラインゲームならいざ知らず,スタンドアロンのゲームはなおさらです。
なのでユーザーの感想を直接聞く,そのことがとても印象的に残りました。
コロナ禍を経た現在,それは殊更に感じられます。
この日の思い出は,僕の心に深く刻み込まれました。
そして,TGSへ
イベントというものの体験に深い感銘を受けた我々は,その後もいくつかのイベント出展を経て,2023年,我々は世界最大のコンベンションの一つである「東京ゲームショウ」への出展を決意します。
これも少し前までは,我々の規模の会社では手の届かない檜舞台でした。
しかし今年は久々の来場規制なし開催であることに加え,その構成が少し変わっているようです。
具体的には従来のような大企業の独壇場,ではなくインディ用のコマ(展示用スペース)が多数用意されていました。
そしてそこに対する出展料も我々にとっても比較的現実的な規模。
これには,我々が変化して来たように,時代そのものも変わりつつあることを感じました。
とはいえ実際に出展社説明会などに出席すると,その大変さは今までより一段ギアが上がったものになっていることが実感されます。
数百人が集まる説明会場で渡されたとても分厚い冊子。
それにはびっしりと規定や注意事項が書いてあり,それを片手に巨大なホールでイベント主催者側の説明を数時間受ける。
激化しつつあった夏の暑さも手伝ってこれだけで僕はノックアウト寸前です。
さらには準備の二日前から会場入りし電気工事の立ち合いから始まる(!)設営,会期中を合わせると計6日間,幕張メッセにいなければならないことになります。
今まではビジネスデイにふらっと立ち寄る,くらいの距離感が,いきなりシルバーウィークをぶった切ってTGSウィークになる。
それくらいのインパクトがありますね。
イベントというのは楽しくも大変なもの。そういう意味ではかつてニコニコ超会議に参加したときのことを思い出します。
あの時も設営の進むテントの裏側で,一人シナリオを書いていた,そんな思い出を。
……と,ここでは本連載の「邪道」に基づき,大変さ多めで今回書かせていただきました。
とはいえ,我々にとっては初めての大型イベント出展!
会場で皆様にお会いできることを楽しみにしております。
新作もあります
そんなこんなで来る9月23日,24日は皆さん,ぜひ東京ゲームショウで我々24Frameのブースにお越しください。
実は今回のTGSには,我々の完全に新しい作品も出展します。
日本語対応や細部の調整が落ち着いた形でのアップデート・リリースはもう少し先になりそうなのですが,ここで先行体験などしていただければと思っております。
内容について話せることはまだないのですが……
「いぬ」が関係しているということは,言えるのかもしれません。
「いぬ」とはいえ,これには動物の犬も,METAL DOGSもまったく関係ないのですが。
何はともあれ,乞うご期待!