「24Frameの邪道経営哲学」第9回:Steamのマーケティングを振り返る時の哲学
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Steamという「謎」を解いていく
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前回は弊社制作・販売のゲーム「METAL DOGS」が正式リリースされたことを節目として,本作がいかにして立案され,制作が進行していったかをお話してきました。
そしてその最終段階において我々は「Steamでゲームを販売する」ということに真正面から取り組むことになりますが,これは家庭用ゲームに慣れ親しんだ我々としては初めての経験でした。そして改めて考えると「販売プラットフォーム」としてのSteamというものに対し,自分たちがほぼ無知であることに気づかされたのでした。
そんな我々がどうやってその実情に迫り,正式リリースにこぎつけたかを,前回同様にある程度時系列で説明していきたいと思います。
調査開始 2021年4月
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まずそれについて無知であろうとなかろうと,Steamが次の戦場になるのであればまずは視察/偵察をせねばなりません。具体的な販売部門や調査メソッドなど持ち合わせていない我々は,それなりに途方に暮れながらも「一からやるしかない」と思いました。
そこでまずやったのは「ここ数年のSteamにおけるヒット作を網羅する」ということでした。そしてそのためには当然ながら「ここ数年のSteamにおけるヒット作」の定義が必要です。
これの土台となるものとしては「Steamのレビュー」というものがあるのですが,これも結構特徴的で,ここでは「購入者のみを対象としたGOODかBADのみの評価」が採用されています。
「何点満点中の何点」みたいな間は存在せず,いいか悪いかのみ。そして,そのレビューが80%以上GOODであれば「好評」というグレードが付き,さらにレビューが50件以上かつ85%以上GOODで「非常に好評」,レビュー数500件以上かつGOODが95%以上であれば「圧倒的に好評」となります。(これらの数字は経過日数なども踏まえてある程度の揺らぎがあるようですが,基本の定義的には上記のようです)そしてこのグレードは販売ページのトップに表示され,おそらくユーザーの購買動機の多くを占めることになるでしょう。
そこで我々はまず2018年以降にリリースされた「圧倒的に好評」と「非常に好評」を網羅してリストにしてみることにしました。
データにアングルを与える 2021年5月
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これだけで結構な数があるのですが,結果としてはこれらが「好評・やや好評」とどう違うのか? という軸でも考える必要があったため,「好評」「やや好評」を含め,ある程度のレビュー数のあるものは最終的なグレードによらずリストアップして比較検討を行います。
結構ヘヴィな作業だったのですが,ここから拾える情報は果てしないものがあり,これは今現在もある程度継続してなお,未だに新たな発見があったりする規模のデータです。
そのすべてをここで述べることはできないので,METAL DOGSにフィードバックを及ぼした部分だけを抜き出して精査する必要があります。
ここも経緯としては複雑なものがあったので結論的に述べますと,まず大きな分水嶺になっているのは「流行のジャンルであるか否か」というものと,もう一点「チュートリアルの充実」という傾向が見られると我々は判断しました。
「人気ジャンル」はそもそも立案時にある程度考慮したつもりでしたが,その時点ではこのように統計的な考え方ではなく,ユーザーである我々のなんとなく集合した意見にすぎませんでした。データは統計的になればなるほど信憑性を増す気がするものですが,逆に統計的になればなるほど「データの見方」が重要になってきます。
例えばこの時点で「横スクロール」が一定の流行にあるとみてゲームを急遽,横スクに変更しようと言い出すことも不可能ではない訳ですが,これはもちろん愚策です(あり得ない,とまでは言えないところがこの業界の,というよりも人の営みの奥深いところではありますが)。
最終仕上げの力点を決める 2021年6月
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さて,ここで我々がチュートリアルに注目した経緯を以下に説明していきます。
まず,上記の統計データの整理は「不可解なSteam世界の地図を作る」という目的をはらんだものでした。
そしてその地図がおぼろげながら形を成してくると次のタスクは「自分たちがどこにいるかを確認する」ということになります。その周辺の作品自分たちの作品を見比べてどこがどう違うのか,何が足りていないか,を検出していくことになるのです。
上記のリスト(Steam世界の地図)からSteamの作品には大まかにいくつかのタイプがあることが分かりました。
(1)安心して遊べる家庭用同発のフルプライスのゲーム
(2)フルプライスに類するシステムを持ちつつ,ある程度グラフィックスを簡略化したミドルプライスのゲーム
(3)マジでどういう人が何を考えて作ったか分からないし,グラフィックスも圧倒的に簡素だが破壊的に面白いことがあるロープライスのゲーム
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※「Vampire Survivors」のように(3)の要素に「超低価格」を兼ね備えたものも登場してきてはいますが,ここはまだ後続も少なく,いったん分けて考えます。今後これも(4)として増えてくるとは思いますが。
主に(2)以降がインディと呼ばれるゲームサイズなわけですが,我々の「METAL DOGS」もまさにタイプ的に(2)に属します。その中でも周辺で近いものをさらに探していき,そこの好評か否かの線にはチュートリアルが大きく絡んでいるな,という判断をしたわけです。
チュートリアルが充実していた方がいい,というのは「世界は平和なほどいい」と同じレベルで意味のない言葉になる可能性もあるのですが,この時点まで我々は意識的にチュートリアルをピックアップするわけではなく,「家庭用ゲームに当然あるべきもの」というくらいの意識で作っていました。しかしこれが見えてきてからは,操作タイミングに徹底的に合わせたタイミングでのチュートリアルパネルの表示,さらにはオープニングを「ある程度レベルが上がった状態でまず遊ばせる(その後ステータスはリセット)」という「ホットスタート」という方式を採用するなど,そこに重点を置いたクオリティアップを目指す事になりました。
Steam世界の地図を描く,というのはある意味で「そこにいるお客さんの姿を想像する」ことと同義です。そしてこの場合の我々のお客さんとは「フルプライスのタイトルではないが,家庭用から極端に離れたものを期待しているわけではない」という人々であると我々は規定したわけです。
クローズドαテスト実施 2021年7月
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上記を最終的なポイントとしてベンチマークしつつ,制作は佳境に入っていきます。
しかし上記までの分析はこの時点では「仮説」にすぎません。アーリーアクセス自体そもそも「仮説の実証実験」的な意味を持ちますが,アーリーとはいえリリースはリリース。それ自体が大き目な勝負になります。それ以前に「仮説のプチ答え合わせをできないか?」というところに今度はこれもSteamの「クローズドαテスト」という仕組みを発見し,これを使ってみることにしました。
これは世界中からユーザーを募ってそれ専用のROMを配布する,というものなのですがこれの実施により「思った以上に応募者が集まった」「実施後の反応も悪くない」というユーザーからの反応を得ることができ,我々は大いに手ごたえを感じました。
初のリリースであるにも関わらず多言語対応なども進めていたため,そのローカライズ精度がどの程度か,という事も調査できますし,我々ができる規模でのユーザーコミュニケーションがある程度回り始めた感が出てきたのがこの頃です。
アーリーアクセス開始 2021年8月25日
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そして,これらの過程を経て,METAL DOGSのアーリーアクセスがようやく始まりました。ここでは,上記のαテスト同様,前半ステージのみを開示した状態でのリリースです。今後,残りのステージの開放と若干の価格変動の可能性など,ユーザーが「アーリーアクセス」を購入する際に迷う因子となる部分への言及を含め,リリース状態を決めていきました。
αテストで出てきたユーザー要望などにも細かく対応しつつのリリースでしたが,結果としては初日は売り上げトップをいただくなど,我々としては望外の成功的リリースだったと思います。その後も評価は「非常に好評」を維持しつつ堅調と言える状態。
ここである程度の本数がダウンロードされたことにより,その結果を受けてのユーザーからの要望への対応,家庭用パッケージの発売など,様々なことが五月雨的に決定されていき,我々は改めてアーリーアクセスリリースは「何かの終わりでなく始まり」でしかないことをかみしめながら次のステージへと進んでいくのでした。
そして,METAL DOGSの制作はこのように続きながらもそのアップデートと,それとは異なる「これから」の問題も降りかかってきます。
その詳細は次回,さらに整理してお伝えします。おそらく年表的には多少未来のことにも触れていきそうですので,乞うご期待!