【ACADEMY】ゲームにおけるメンタルヘルスFAとしての仕事

Inflexion GamesのWyatt Fleming氏が,MHFAがゲームスタジオにとって重要な理由,専門コースの利点,スタッフを助けるためにできることを紹介する。

【ACADEMY】ゲームにおけるメンタルヘルスFAとしての仕事

※このコンテンツは自殺,過剰摂取,パニック発作,不安,うつ病,精神衛生上の問題についての内容を含みます。

 応急処置は,専門家の助けが到着するまで負傷者の世話をすることを含むかなりよく知られた概念だが,精神的健康危機に苦しんでいる人の世話についての指導がこれに含まれることはほとんどない。

 メンタルヘルスは健康全般の一部とみなされておらず,基本的な応急処置のコースには含まれていないが,メンタルヘルスファーストエイド(MHFA)の専門コースで受講できる。



メンタルヘルスファーストエイドとは何か?


 MHFAとは,精神的な問題を発症したり,精神的な危機を経験したりする可能性のある人に提供されるケアのことだ。これが実際にどのようなものなのか,気になる人もいるかもしれない。

Inflexion Gamesのメンタルヘルスファーストエイダー,Wyatt Fleming氏
【ACADEMY】ゲームにおけるメンタルヘルスFAとしての仕事
 これは状況の深刻度によって異なるが,日常的な業務としては,ある人の行動の変化を見つけたら,応急処置を提供するために彼らと会話をし,専門家の助けが得られるようなプロセスを案内する仕事が多くなる。

 職場であれば,その人が精神的な健康のために休暇を取れるようにサポートし,公的・私的なさまざまな手当やサポートを利用できるようナビゲートすること,その人が必要な助けを得ているかどうかを確認してフォローアップをすることも含まれる。

 危機的な状況とは,人が直ちに援助や介入を必要とするような状況を指す。つまり,薬物の過剰摂取やパニック発作,自殺念慮,精神病エピソードなどだ。

 身体的な応急処置と同様に,このようなシナリオでは,基本的な手順に従って状況を把握すること,さらに救急隊を呼ぶ可能性も含まれる。


ゲームスタジオにとってMHFAが重要な理由


 我々は起きている時間の多くを職場で過ごすので,MHFAが必要なときも職場にいる可能性が高い。カナダでは,5人に1人が1年の間にメンタルヘルスの問題を経験すると言われており(参考URL),COVID-19の大流行後は,この統計はさらに悪化していると想像される。

 また,長時間のストレスは精神的な問題のリスクを高めると言われており,ゲーム開発は,プレイヤー,パブリッシャ,リーダー,同僚からのプレッシャーを受けながら,厳しい納期と長時間労働を強いられるストレス環境になる傾向がある。

 私の経験では,ゲームデベロッパは自分の仕事に対して非常に情熱的である傾向もあり,たとえそれが要求されていない,あるいは期待されていない場合でも,余分な時間を費やすことがある。そのため,ストレスの増加,仕事以外の社会的つながりの欠如,好きなことに費やす時間の減少などが,精神衛生上の悪影響につながる可能性がある。


従業員のメンタルヘルスを支援するためにリーダーができること


 組織やリーダーが従業員のメンタルヘルスにプラスの影響を与えるやり方はたくさんある。それは,できるだけストレスや不安のない,安全で居心地のよい環境を作ることから始まる。スタジオやグループごとに必要なものは異なるが,私が目撃したり聞いたりした中で,従業員のメンタルヘルスと福祉に最も良い影響を与える要素は,以下のとおりだ:

●トレーニング
 さまざまな人を対象としたMHFAトレーニングに投資しよう。できれば,各部署から,行動の変化に気づき,必要であればMHFAを提供できるような人材が参加することが望ましい。

さまざまな人を対象としたMHFAトレーニングに投資しよう。理想的には各部門の誰かが参加することが望ましい

 あなたの組織には,すでにこのような仕事をしている人がいるかもしれないが,肩書きをつけて正式なものとし,必要なツールや情報を与えることが,彼らの成功につながる。このような人々が行っている仕事を認識して,賞賛することが重要である。

 多くの場合,MHFA の仕事は誰かの通常の職務や期待を補完するものとして引き受けられるため,計画や報酬に関する話し合いの際にこの仕事が十分に考慮されているかを確認することで,それが公正で価値のある取り組みであることが保証される。

 部下が新たなメンタルヘルスの問題を抱えている可能性にリーダーが気づき,部下とメンタルヘルスの問題について話し合えて,必要なときに必要な助けを得られるように指導できるように,リーダー向けの研修にも投資しよう。

 また,無意識の偏見に関するトレーニングは(関連英文記事),とくに精神疾患を持つ人たちが,自分の無意識の偏見が日常生活にどのような影響を及ぼしているかを,誰もがより認識できるようにするための有用なツールだ。

●福利厚生
 すべての従業員がメンタルヘルス関連の保険にアクセスできるようにしよう。治療を受けることを妨げる障壁は,費用以外にもたくさんある。場合によっては,それは,治療を求めて受けるということに対する偏見であったり,精神的健康上の問題はたいして深刻ではないと感じたり,適切な医療提供者にアクセスするのに長い時間待たなければならないために治療費の支払い方法を心配する必要がなかったりすることだ。

 ここアルバータ州では,民間の心理学者による50分のセッションは,協会が定めた料金表によると通常220ドル以上かかり,公共のプロバイダーを通すと数週間から数か月かかることがある。

全従業員が確実にメンタルヘルス関連の保険にアクセスできるようにしよう

 福利厚生には,不安,うつ病,ADHD などの精神的健康障害の治療をカバーする処方薬補償を含める必要がある。そうすることで,診断された精神的健康上の問題を治療するために,費用がいくらかかるか,薬をどのように支払うかを従業員が考慮する必要がなくなる。総合的な健康と福利厚生のための保険を含めることで,従業員が精神的な健康を増進し,ストレスを管理するための方法を提供することもできる。マッサージや鍼灸などのサービスは,この種のサービスの良い例だ。また,視力,歯科,処方箋薬など,別の福利厚生の健康分野での保険適用も,健康全般に関わる意思決定を行う際のストレスを軽減してくれる。

 物理的なオフィススペースでは,従業員が何らかの理由で離れていたいときに行けるプライベートスペースを確保しておくと便利だ。通常の会議室よりも快適で居心地の良い場所であれば,さらにポイントが上がる。こういったスペースは,他の人から離れたいときに行く場所を提供するだけでなく,メンタルヘルス救急隊員がMHFAを必要としている人と話をするのにも適した場所にもなる。

●プランニング
 リーダーであるあなた次第で,チームにクランチ(プロジェクトの期限を守るために残業すること)を要求するような要件や期待に背中を押すことができるのだ。そのためには,チームの能力やキャパシティをよく知っておき,自分やチームに求められていることをしっかり理解することが必要だ。また,休暇や病欠,その他の責任についても,計画中に考慮する必要がある。

 クランチの必要性を最小限に抑えることに加えて,ゲーム内でデリケートなトピックやトラウマになる可能性のあるトピックを扱う場合は,そのトピックの専門家と協力し,投資して,このコンテンツ内およびその周辺で作業するチームの計画を立てる際にセルフケアの時間を組み込むことが重要だ。

●方針
 病気休暇のポリシーにメンタルヘルス関連の問題を盛り込もう。従業員とそのメンタルヘルスをサポートしたいのであれば,身体的な健康に対処するのと同じように,メンタルヘルスに対処するために仕事を休むことを許可する必要がある。

 クランチ(プロジェクトの期限に間に合わせるための長時間の残業)を強制したり,義務付けたり,あるいは許可することは,ストレスや燃え尽き症候群を引き起こし,メンタルヘルス上の問題につながる可能性がある。クランチは複雑なテーマであり,この記事で取り上げる範囲よりもはるかに深く掘り下げる必要があるが,チーム全体の健康と幸福のためには,一般的に避けるべきものだ。

コミュニケーションガイドラインの中で,メンタルヘルスについてどのように話すべきかを定めてほしい; それで仕事上のコミュニケーションで何を期待するかを明確にできる

 雇用の安定,契約更新,報酬交渉,昇進に関して,従業員に過度の不確実性を与えないようにしよう。このような問題が明確で確実であればあるほど,社員は重要なこと(素晴らしいゲームを作るなど)に集中しやすくなる。

 最低限必要な休暇制度を導入しよう。ゲームデベロッパに関する問題の1つに,仕事に熱中するあまり,休息や充電のための時間を確保するのが難しくなるというものがある。スタジオの休憩時間を調整することで,超熱心な人たちがハードワークから回復するために必要な時間を確保できる。

 コミュニケーションガイドラインの中で,メンタルヘルスについてどのように話すかを定めて,仕事上のコミュニケーションで何を期待するかを明確にしよう。これには,引き金となる警告をいつどのように使うか,仕事と関係のない特定の話題についていつどこで議論するか,といったことが含まれるかもしれない。

 従業員がコミュニティと関わる必要がある場合は,匿名で関わることができるようにし,安全な方法でコミュニティと関わる方法について明確なガイダンスを提供しよう。また,従業員がコミュニティのメンバーから危険な思いをさせられている場合にどうすればよいかについても,明確なガイダンスを用意する必要がある。


従業員にできること


 従業員側では,メンタルヘルス応急処置のトレーニングを受けることを検討してほしい。私は,メンタルヘルスについて難しい話をしなければならないときに,このトレーニングが非常に役に立ち,仕事以外でトレーニングが必要になったときにも,何度もこのトレーニングに感謝された。

 もし,あなたの会社や上司が上記で紹介したことを行っておらず,あなたやあなたのチームのメンタルヘルスに有益だと思うのであれば,その価値を説得してみることをお勧めする。

 上司に相談してもうまくいかない場合は,チームメイトに相談して,同じようなことを感じていないか,追加的なサポートが必要ではないかを確認してみてほしい。私の経験では,1人で悩みを打ち明けたり,何かを求めたりするよりも,統一された集団的な声を出すほうが成功することが多いのだ。

 もし,同僚やリーダーにどのようにアプローチしたらよいか悩んでいたり,アドバイスが必要な場合は,あなたのネットワークにいるリーダーにアドバイスを求めることができるかどうか確認してみてほしい。このような問題で彼らが考えを変えるには何が必要なのかを確認するのだ。

また,労働組合のオーガナイザーにアクセスできれば,素晴らしいリソースとなる。自分の住んでいる地域に,つながれる人がいるかどうか周囲に聞き,調べてみよう

 また,労働組合のオーガナイザーも,もしあなたがアクセスできるのであれば,素晴らしいリソースとなる。あなたの住んでいる地域に,あなたがつながることができる人がいるかどうか,周囲に聞いて調べてみてほしい。彼らはあなたにアドバイスをくれたり,難しい会話の練習を手伝ってくれる。あなたの地元の労働法に精通している傾向があり,あなたの権利が確実に尊重されるように助けてくれるだろう。

 もしあなたの会社がメンタルヘルスや総合的な健康保険に加入している場合は,できる限りそれをフル活用しよう。とくにストレスの多い時期には,補償内容を見直して,仕事から離れ,ストレスを解消し,充電したり,全体的な健康や幸福を向上させるのに役立つような要素を利用することをお勧めする。

 セラピーや心理カウンセラーを利用する場合は,緊急に必要となる前に適当な人を見つけておくことをお勧めする。セラピストとある程度の信頼関係があれば,難しい話題でも話しやすくなり,悩んでいるときにも相談しやすくなる。

 最後に,誰でも簡単にできることとして,地域の緊急用電話番号を調べて携帯電話に入れておくとよいだろう。自分や知り合いが苦しんでいて,次にどうすればいいのか分からないときに,こうした相談窓口を利用するのはとてもいい方法だ。彼らは状況に応じて,アドバイスをくれたり,状況を緩和する手助けをしてくれたり,緊急サービスを提供してくれたりする。ただし,あなたやあなたの知り合いが自分自身や他人に危険を及ぼすような場合は,すぐに地域の救急隊に連絡する必要がある。


結論


 従業員のメンタルヘルスに影響を与える問題の解決策を見つけるために,従業員と積極的に関わり,解決策やサポートへの投資でその関わりをフォローすることができれば,スタジオとそのリーダーシップは従業員のメンタルヘルスに良い影響を与えることができる。上記でいくつかのアイデアを紹介したが,スタジオによってニーズや解決すべき問題は異なる。

 従業員に対して ― 理想的には,あなたが働くスタジオとそのリーダーシップチームが,メンタルヘルスサポートを提供することに価値を見出すことだ, とくに,あなたが自分の悩みや改善案を前面に押し出している場合はなおさらだ。もしそうでなくても,数の力は偉大だ! 職場には,労働者の健康全般をサポートする責任があり,労働者は団結してこのサポートを要求する力を感じるべきだと私は思う。

 また,労働者は,団結してこのような支援を求める力を持つべきだ。もし,変更を実現させることができなかった場合は,勤務時間外に地元の組合組織と関わり,何か追加のサポートやアドバイスを受けられるかどうか確認することをお勧めする。


Wyatt Fleming氏は,Nightingaleの開発元であるInflexion Gamesのリードゲームサービスプログラマ兼メンタルヘルスファーストエイダーだ。


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