【月間総括】NVIDIAのDLSSが据え置き機ビジネスを崩壊させる?

今月は,業界全体の動向に触れたい。

 スマートフォンゲームでは,権利関係の問題もありリリースが随分遅れたが,Cygamesの「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒットとなっている。従前からエース経済研究所がキャラクターのためにガチャが引かれていると指摘していた通り,「ウマ娘」もキャラクターの魅力とゲーム性が評価されているのだろう。

 コンシューマゲームと違い,スマートフォンゲームはガチャがビジネスモデルの根幹を成しており,魅力的なキャラクターを提供できるかどうかがとても大切だとエース経済研究所では考えている。Cygamesに比較的ヒットが多い印象を受けるのは,キャラクターの魅力をうまく引き出せているからだろう。ただ,10-12月の決算は,スマートフォンゲーム専業各社にとって厳しいものだった。

(図)6企業の四半期売上高合計の推移
サイバーエージェント,DeNAのゲーム事業,ガンホー,コロプラ,グリー,ミクシィの四半期売上高を合計した 出典:各社決算資料

 このグラフの通り,2017年をピークに売上高の下落傾向が続いている。トレンドは下げ止まりつつあるが,これは海外に活路を見出そうとする一部メーカーの影響で,国内市場全体は低迷が続いている印象だ。

 スマートフォンゲームは,コロナ禍でもほとんどプラス効果がなかったように見える。海外のスマートフォンゲームは成長が続いていることを考えると,奇異に感じるが,日本のスマートフォンゲームは「スキマ時間」に楽しむものが多く,コロナ禍でステイホームが一般化した結果,このステイホームのライフスタイルと合わなかったのかもしれない。

 つまり,日本製のスマートフォンゲームに多いスタミナ制は長時間連続して遊ぶことに向いておらず,ガチャもボタンを押すだけなので,コンテンツ消費を長時間にわたって楽しみたい「ステイホーム」と合わないのではないか? ということである。これが事実なら,ワクチンが普及するまでこの傾向は続きそうである。

 さらに,経営サイドからスマートフォンゲーム市場が厳しいとのコメントは出てくるものの,コストコントロールで黒字の大手企業も多く,本当の意味での危機感に乏しい。メディアで取り上げることも少なくなっている印象である。昨年から繰り返しコメントしているように,このままでは漫然と衰退が続いてしまう可能性もある。

 次にコンシューマゲームである。みなさんの関心が高いPS5は,順調に販売を伸ばしている。ファミ通のデータによると,3月末には50万台を超えた。ようやく2月に入って出荷台数も増えたようで,週3万台を超える水準まで増えてきている。
 そして,このペースでいけば早晩,PS4並みになりそうである。販売台数が増えないとゲーム開発が行われず,世界的に日本の開発が出遅れることになりかねない状況だったので,このペースが続くことを強く希望したい。

発売から25週間のゲーム機の推移
出典:ファミ通販売データ 

発売から250週間のゲーム機の推移
出典:ファミ通販売データ

 PS5は店頭では売り切れが続いており,エース経済研究所の不安は杞憂だったと思われるかもしれない。ところが,これだけの台数が売れているのに,パッケージソフトはまったくと言っていいほど売れていないのである。
 2021年に入って,毎週発表されるヒットチャートには,まったくPS5のタイトルが出てこない。ようやく3月になって「龍が如く7 光と闇の行方 インターナショナル」がランキングに入ってきたが,販売本数は3000本に満たなかった。ダウンロード比率が極端に高い場合を除いて,やはりPS5用ソフトが売れていないことになる。メーカーサイドからもリリースが出ておらず,ソフト販売はハード販売に見合っていないといって良いだろう。実際,日本一ソフトウェアにヒアリングしたところ,2月に発売したPS5タイトルの販売は非常に厳しい結果だったようである。

 まだ確実なデータがないため,推測でしかないが,やはりゲーム愛好家にPS5が届いていないと考えるのが妥当だと思う。Nintendo Switchは2017年3月の発売後,ソフトタイトルが少ないとされていながら,ランキングには「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」や「マリオカート8 デラックス」が継続して載っていたことを考えると,PS5は熱心なユーザーを捉え切れていないのかもしれない。

 さて最後に任天堂に関してだが,BloombergがSwitchの新型にOLEDを搭載するという記事を出した。

 新型Switchに関して任天堂はコメントしていないので,エース経済研究所の予想であるが,現行のSwitchはアモルファスTFTという結構古いタイプの液晶を用いている。2017年当時でも低温ポリシリコン(LTPS)が一般的だったので,コスト的に厳しいゲーム機に償却が終わったラインで生産可能なアモルファスTFTが採用されたのだろう。OLEDはスマートフォンでも一般化しているので,採用される可能性が十分あると思うが,それでも本当にOLEDを採用するなら,過去の任天堂に比べると見映えを気にしているように思える。

 しかし報道を見て,OLEDよりも個人的に気になったのが4Kへの対応である。現行のSwitchと同程度のサイズのものをネイティブ4K描画に対応させるのはコスト的に難しい。4Kの描画はできたとしても質はPS5やXbox Series Xなどに大きく劣ると考えるのが普通だ。それでもなお,Bloomberg以外の複数メディアが4K対応を報じているのは興味深い。

 また,この原稿を執筆している最中に,Bloombergからさらに新型SwitchにNVIDIAのDLSS2.0を採用するとの報道も行われた。これも事実は不明だが,DLSSならばサイズ/価格と4K出力の疑問に整合性は付く。

 DLSSとはDeep Learning Super Samplingの頭文字をとったもので,高解像度,ハイポリゴンのアセットと低解像度,ローポリゴンのアセットを深層学習(ディープラーニング)させることで,レンダリング解像度が低いまま,表示解像度を大幅に引き上げる(アップスケーリング)技術で,NVIDIAによるとDLSSのオーバーヘッドはわずか25%増しにすぎないという。詳細は資料のP21にある。一般的には描画解像度が低くなるとこれに準じて処理負荷は下がるので,ハーフHD程度の描画能力しかないマシンでも4Kの出力が可能になることを意味している。


 DLSSはNVIDIAにとって,高い単価で売りたいGPUの価格(ASP=総平均単価)を下げかねないテクノロジーかもしれない。だが,ゲーム機はスペック固定であり,PS5,Xbox Series Xは,ライバルのAMDのAPUを採用しているので,搭載するメリットが任天堂にもNVIDIAにもあるように思える。

 これも,エース経済研究所の予想であるとあらかじめお断りしておくが,任天堂がDLSSをSwitchに搭載する目的は,自社ゲームのフレームレート向上とサードパーティのAAAタイトルのSwitch対応促進であると思う。SIEやMicrosoftの絶対的な強みも,AAAタイトルは高TFLOPSマシンでしか体験できないという点にあったので,スペックが高くないハードでもハイエンドゲームが問題なくプレイできるとなると,その優位性が崩れてしまい,大きなゲームチェンジを引き起こすことになる。この予想が正しいかどうかは,新型Switchのスペックが発表されれれば,明らかになるだろう。

 そして,これは古川社長の言う「圧倒的な面白さが一目で分かる」に通じるものに見える。報道が正しいかどうかはともかく,技術面での進歩は各所で進んでおり,据え置きゲーム機の意義がいずれ問われかねない事態になりそうだ。そして,それはゲーム機のビジネスに大きな影響を与えそうである。