【月間総括】「ドラガリアロスト」は任天堂のモバイル課金を革新するか
下のグラフは,似通ったガチャが導入されているRPGという観点から,「ドラガリアロスト」と「Fate Grand Order:以下,FGO」「白猫プロジェクト:以下,白猫」「グランブルーファンタジー:以下,グラブル」,そしてパズルゲームながらRPGの要素を持つ「パズル&ドラゴンズ:以下,パズドラ」のアップストアランキングをリリース時から10/30日の期間でプロットしたものである。
2018年9月末から一か月のアップストアランキング推移
トップを走るアニプレックス(ソニー孫会社)の「FGO」については,簡単に触れことする。「FGO」は,9月頭から復刻イベント,「バトルインニューヨーク(ネロ祭リニューアル)」,復刻イベントとほぼ連続して実施していたこともあり,プレイヤーが課金疲れを起こしたようで,1年以上ぶりに20位以下まで落ち込んだが,10月下旬からの「神秘の国のONILAND!! 〜鬼の王とカムイの黄金〜」で一気に盛り返している。とくに新サーヴァントの「シトナイ」が人気でプレイヤーが盛んにガチャを引いているようだ。
さて,特徴的なのは「ドラガリアロスト」の順位変動が比較的小さいことである。「白猫」「グラブル」は1桁前半がある一方,100位以下の期間も結構多いことが見て取れる。
一方「ドラガリアロスト」は,まだ,リリースから1か月であり,プレイヤー層の厚みを考えると,これは驚きである。通常であれば,ガチャが利用されにくくなるイベント後半や,非イベント期間には,「白猫」や「グラブル」「パズドラ」のように大きくランキングを落としてしまうはずだ。どうしてこのようなことが起こったのであろうか?
また,事前にヒットするような動きはなかったように見える。
「ドラガリアロスト」は,ゲームシステムはRPGだが,アクション性にしても他社製RPGでも存在するシステムで目新しさはない。キャラクターデザインも差があるように見えない。課金にしても,一般的なガチャに,日,週,月単位の課金を加えたもので,共同開発をしているサイゲームスの「プリンセスコネクト!」などでも見られるものである。
そのため,リリース前の個人的な感想は,差別化できていないので厳しい結果になるのではないか? というものであった。ところがリリースされてみると,「ドラガリアロスト」は上位ランキングとなり,予想を覆す形となった。
また,10月25日のサイバーエージェント(サイゲームスの親会社)の決算説明会では「多くの指標でサイゲームスの過去タイトルを大きく上回る結果になった」としている。
詳細は,これからヒアリングを行うので現時点での見解となるが,エース経済研究所としては,「ドラガリアロスト」のヒットは,
(1)これまでよりも若い層に訴求できたこと
(2)ガチャを主力とせず,日,週,月単位の課金を主力としたこと
の2点が大きいのではないかと推測している。
(1)の,これまでよりも若い層に訴求できたのではないかという点については,「ドラガリアロスト」はSNSで大きく盛り上がった形跡がなく,ゲームを紹介するPVが9月末時点で120万再生となっていたことが話題になっていた程度だったことからの推測である。つまり,外部には出てこないクローズドのSNS内で盛り上がったと見ているということだ。一般的なゲームアプリプレイヤーとは違う層,おそらく最初に「ドラガリアロスト」をダウンロードしたのは20歳未満だったのではないだろうか?
カプコンの「モンスターハンターワールド」は大ヒットとなったが,カプコンは日本では,10代後半の若い層に受けたとしている。同タイトルもSNSでの盛り上がりは限定的であった。ネットでは観測しにくい部分でも盛り上がりがあったと見るのが妥当で,それが若い層だったということだろう。ゲーマーの世代交代が進んできていると考えている。
(2)については,上記ランキング推移を見ても分かるように,顧客の厚みが薄いはずの,「ドラガリアロスト」のほうが,落ち込み方が小さい。これは,日,週,月単位の課金や初心者向けのウェルカムパックなどの寄与だと見ている。「ドラガリアロスト」では消費アイテムやゲーム報酬,機能をパック化して販売しており,おそらくこれにより,通常は1〜1.5%だとされる課金率を大きく引き上げているのだろうと強く推測される。通常のガチャでは新キャラクター登場が誘因となってランキングが急上昇するが,課金プレイヤーが,目的のキャラクターを引き当てたあとは,課金額が減少する。
一方,「ドラガリアロスト」は,ガチャを実装しながらも,ガチャ課金は主力ではない可能性が極めて高い。パック販売はどちらかというと,定額課金を行うMMORPGに近い課金思想になっている。これが,ダウンロード数から見て,ランキングが安定している要因と見ている。
「ドラガリアロスト」はすでに存在する課金方法を利用しているため,革新的に見えないかもしれない。しかし,すでにスマートフォン用ゲームアプリは,登場から6年以上が経過し,あらゆる課金,ゲームシステムが試みられており,革新性を求めるのは難しいと考えられる。この課金導線を作ったのが任天堂なのか,サイゲームスなのか分からないが,既存のシステムの運用を最大化することで,ランキングの変動を抑え,かつ大きな収益をあげることができたのは特筆に値すると考えている。
任天堂も古川社長は就任時の課題として,「スマートフォン用ゲームアプリの収益化」を掲げていた。古川社長はそれまで大きな実績を出していたわけではないので,経営手腕に未知数なところがあった。
今回,「ドラガリアロスト」で結果を出せたことは大きな成果といえるだろう。次はNintendo Switchでどのような成果をだせるかが問われることになると考えている。Nintendo Switchは2年めに入り,もはや売れることは当たり前の状況になっている。次は,如何にこれをさらに引き上げられるかに注目が集まるだろう。
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