【月刊総括】Nintendo Directから読み解く任天堂のSwitch 2戦略

 2025年4月2日に任天堂のプレゼンテーション番組「Nintendo Direct: Nintendo Switch 2」が配信された。
 
 一般的には,価格やソフトのラインナップで販売数が決まるとされているが,筆者は視覚情報によって販売動向が左右されると考えている。もともと筆者は,Switch 2はSwitch以上に大成功すると予想していた。そして今回のNintendo Directを見終えた今も,その考えを変える気はない。ただ先月も触れたように,PlayStationビジネスには相当影響が出ると考えている。

 本題に入ろう。
 Nintendo Directでは,ハードとソフトの情報に加え,発売日や価格(配信後のプレスリリースにて)が発表された
 みなさんの関心が最も高いであろう価格は,米国で449.99ドル,欧州で469.99ユーロ,日本国内専用モデルが4万9980円,多言語対応モデルが6万9980円となっている。

 日本専用モデルの価格が際立って安い形になっているが,これは地域選択が日本限定,言語選択も日本語だけの特殊モデルになっているためだ。
 リージョンロックは現在の欧州の法規制で難しい面があるらしく,いろいろと検討した結果だと思われる。

 日本専用モデルを投入したのは,SwitchやPS5が中国に大量流出していたことが深刻な問題となっていたからだろう。
 中国では政府や共産党の許可がないとゲーム事業を展開できないため,このような規制の影響を受けにくいグローバルモデルに対するニーズが潜在的に高い。そこに円安でインバウンド需要が発生し,Switchも,PS5も日本で売れたゲーム機の台数がわかりづらくなっていた。

 その対策としてSony Interactive EntertainmentはPS5を8万円に値上げすることで鎮静化を図り,任天堂はその対策として,日本専用モデルを導入したと考えられる。
 なおドナルド・トランプ大統領は各国に関税をかけると表明した。特に中国からのアメリカ輸出はかなり高い関税がかかるようだ。
 当然Switch 2も影響をうけることになるが,30〜50%の値上げで売れないのであれば,そもそもSwitch 2に十分な魅力がなかったと見るべきだろう。

【月刊総括】Nintendo Directから読み解く任天堂のSwitch 2戦略

 次にハードの仕様だが,まずマウス機能の実装は一部で報道されていたこともあり,ほぼ想定内だったといえよう。
 筆者は少し先行してSwitch 2を体験する機会があり,「信長の野望・新生」ではマウス機能が活用されていた。PCで遊ぶよりも優れていたと感じたほどだ。

 だが筆者としては,画面共有が可能なチャット機能には大変驚いた。
 フレームレートが高いわけでないが,ゲームをしながらビデオチャットができるほどのスペックとは正直想定していなかったのである。このビデオチャット機能を実現するためには遅延を抑える必要があり,ソフトウェアだけでの実装は難しい。NVIDIAのGPU機能を利用していることから,ソフトウェアの領域を越えた,ハードウェア寄りの機能と言えるだろう

 また,任天堂はDeNAと合弁で設立した会社でネットワークエンジニアの採用を進めていたので,その成果かもしれない。

 ソフトに関しては想定通りの量と質だったと思う。
 フロム・ソフトウェアの新作「The Duskbloods」も,確実にSwitchとは一線を画す水準に達しているようだ。また移植とはいえKONAMI,スクウェア・エニックス,バンダイナムコエンターテインメントもPS5で動作しているタイトルを出してきており,初動用としては十分と言えるだろう。

 さらに「Cyberpunk 2077」も筆者が体験した際にはフレームレートが普通に出ており,筆者の目にはクオリティが下がっているようには見えなかった。

 Cyberpunk 2077はSwitch 2向けにはDLC込みのアルティメットエディションが発売される予定だ。現在でもベンチマーク的に使われるCyberpunk 2077を出せるという事実こそが重要なのである。

 恐らくSwitch 2の演算能力はPS5の1/3以下と見ており,DLSSが載っていないと難しいと思ったところ,ちょうどNVIDIAからDLSSが搭載されているとの発表があった。Cyberpunk 2077のSwitch 2版発売が実現したのも,このDLSSの恩恵だと考えられる。

 ここでのポイントは,筆者が以前から指摘していたようにSwitch 2がPS5に近い絵を出せるという事実だ。
 フレームレートや解像度で騒ぐ人がいるのは確かだが,多くの人はSNSやYouTubeでそんなことには触れないし,自分が持っているハードに好きなゲームが出るかどうかが重要だろう。

 Switch 2におけるDLSSは“ゲームチェンジャー”になり得ると以前から述べていたが,それが現実になりそうだ。
 ここまでハイエンドなゲームが出せるSwitch 2で動かせないゲームを開発するとなると,コストが300億円以上はかかってしまう。そうなるとSwitch 2に対応させないと,開発費の回収が困難になる恐れがある。

 この点については来月もう少し触れたい。


 今回のNintendo Directを見て思ったのは,任天堂の戦略は,ゲーム人口のさらなる拡大にあると感じた。Switch 2の発売は

(1)ファミリー層からハイエンド層への進出
(2)多様な地域への進出


 が目的だと,筆者は考える。

 注意が必要だが,この場合のハイエンド層とはスペックの数値にこだわる層ではなく,純粋にゲームを楽しむ人たちのことを指している。

 PlayStationやPCでゲームを楽しむ層へ,Switch 2という王道進化を遂げたハードを,この層にも広げたいという狙いがある。この層はゲームもたくさん購入するので,より業績の拡大が見込めるだろう。

 また,販売国や地域の拡大も見据え,大量生産が行われていると考えられる。
 ビジネスは成長を貪欲に追求するものであり,古川社長の姿勢は大変良いことだと思う。あとは初動がどうなるかだけだ。今後の展開に期待しつつ,発売を楽しみにしたい。

 そうなるとSwitch 2で一番影響を受けそうなのはPS5だ。Switch 2は,多くのユーザーにとって見劣りを感じさせない水準に達した。もちろんPS5にはPSSR対応のPS5 Proも存在するが,しかし,日本ではその存在自体が広く認知されていない。このままでは“宝の持ち腐れ”になりかねない。

 PS4時代までは,一部の“優越感を得たい層”向けに高性能路線が一定の効果を持っていた,しかし,膨大な開発費が必要となった今では,一部の“違いの分かる”層だけにゲームを売るのはビジネスとして成立しづらくなっている。
 しかも任天堂は初動段階から数千億円規模の在庫投資を行い,ソニーグループとの差を一気に広げようとしている。
 PS5はネットワークサービスなどによって増益傾向にあるものの,任天堂はSwitchの倍以上の売上・利益水準を狙っているだろう。長期的には“稼ぐ力”の差が,ビジネス全体に決定的な影響を及ぼす可能性がある。

 筆者はソニーグループには批判と警告を繰り返してきたが,おそらくPS6でも挽回は難しいだろう。西野CEOがどんな戦略を繰り出してくるか注目している。ソニーグループのような優れた企業であれば,必ずや対応策を見出せるはずだ