誰も教えてくれない企画書の書き方。「漫画・テレビ・ゲームなど,メディア別に採用される企画書の極意」レポート
クリーク・アンド・リバー社によるウェビナー「漫画・テレビ・ゲームなど,メディア別に採用される企画書の極意」が2025年3月7日に開催された。本講演は,ライターの白石マミ氏(以下,白石氏)を講師に,シナリオライターや漫画原作者を目指すクリエイターに向けて,業界で通用する企画書の作成方法を学ぶ連続講演の第1弾となる。
多くのクリエイターが,自身の物語を世の中に広く伝えたい,想いに共感してもらいたいという願いを込めて文章力の研鑽を積む。世の中にはそういった人々に向けたスクールや書籍も多い。一方で,企画書の書き方を学ぶ場は限られており,クリエイターが独学で試行錯誤をしているのが現状だ。本稿ではそんなクリエイターに向けて,白石マミ氏の講演を基にメディアごとの企画書の特徴と採用されるための重要なポイントを紹介する。
本講演の講師を務めた白石氏は,主にテレビドラマの脚本執筆や漫画原作,ゲームのシナリオライティングと多方面で活躍するライターだ。金融や船舶といった分野の一般企業でサラリーマンとして働きながら,スクールなどを活用してシナリオを学び,大手出版社が開催しているシナリオ賞など,複数のコンクールに入選したことをきっかけにライター業を始めた。
当初は兼業ライターとしてキャリアをスタートさせたが,ゲームシナリオのコンペティションに自らの企画がとおったことを皮切りに,漫画原作の連ドラ企画や漫画原作の連載が決まったことでわずか半年でシナリオに専念するようになった。
今でこそ例はあるものの,白石氏のデビュー当時はテレビ,漫画,ゲームと複数のメディアで活動するライターは決して多くなかったという。“脚本家はコンクールで入選してプロデビューしても10年経てばいなくなっているなどと業界内で揶揄されるなか,長年仕事を続けてこられたのは1つのメディアにこだわらなかったおかげ”と白石氏は話す。
さて,プロのライターとしてデビューできたとしても,メディアを問わず重要になるのが企画力だ。どんなに素晴らしい脚本を書けても,実際にプロとして仕事を始めようと思うと企画が通らなければ自身の物語を見てもらう機会は巡ってこない。ところが,原稿の書き方を教えてくれる教室や講座がたくさん存在する反面,企画書の書き方を教えてくれるところはほとんどないし,誰に聞いても教えてもらえない。実は,それには理由がある。
まず,脚本の教室や講座を担当する講師というのは現役,または引退した脚本家であることがほとんどだ。彼らにとってみれば生徒はライバルであり,そういう状況のなかで肝となる企画の書き方を教えるわけがない。では,テレビ局や制作サイドに聞いてはどうかと考えるわけだが,企業からすれば過去にとおった企画書というのは企業秘密であり,そう簡単に外に出せるものではない。結果,世の中には企画書の書き方を学ぶ機会がないのだという。
白石氏も,企業からの依頼だけで企画を作ってきたわけではなく,自ら試行錯誤しながら通る企画書の書き方を確立させて,企画会議や編集会議,コンペを勝ち抜いて仕事を勝ち取ってきたとのこと。そしてその企画書を書く際に肝となる要素,どんなところを企業側が見ているのかというポイントが,今回の講座の目玉となる。
下記に白石氏が講演内で語ったメディアごとのオーソドックスな企画のフォーマットとそのポイントをまとめよう。いずれのメディアもストーリーを重要視している点は共通しているが,そのストーリーの何を重視しているかは明確に異なるようなので注視しておきたい。なお,脚本を書く際はA4の用紙に縦書きされることがほとんどだが,企画書はどのメディアも横書きが多いとのこと。
1. テレビドラマや映画の企画書
テレビドラマと映画の企画書では,タイトルにドラマ枠などが入るパターンが多い。例えば月曜9時の枠なら月曜9時,さらに制作会社を通している場合は制作会社名を 入れる。そして重要な企画意図だ。なぜこのドラマを提案するのかという理由を書く。その後に登場人物表,全体の構成,設定と続く。ただし,設定関連は連続ドラマのような長期継続する企画の場合をのぞけば作られないケースが多く,登場人物表のあとには大抵ストーリー概要がくるそうだ。局や枠によって違いはありつつも,企画書は概ね14,15ページ前後かつ文字のみで構成することは厳守したい。
時おりイメージキャストとしてタレントの資料が入っている企画書を見ることがあるが,白石氏は“絶対にやめたほうが良い”と話す。 キャスティング権は局が持つもので,プロデューサーの領域。ドラマによってはキャスティングが先に決まっているケースも多く,逆効果になることが多い。
また,文字のみにするというのも重要である。例えばドラマの企画書の場合,数百本におよぶ企画書が集まり,それを数人のスタッフで10本程度に絞る。そういった場合,フォーマットから外れたものは弾かれてしまう傾向がある。
ある程度定まったフォーマットの中での戦いとなるテレビドラマ・映画の企画では,特に企画意図が重要となる。特にテレビドラマは公共電波を使って放送される以上,社会的な責務があり,「なぜ今,このドラマを放送するのか」「社会性のあるテーマか」という点に重きが置かれる。コンプライアンス問題が声高に叫ばれる時代では, 放送する理由,そして何よりその説得力が弱いと 採用は難しいとのこと。
では,実際にどんな企画を出せばよいのか。白石氏は,“世相を切り取るセンス”が必要だと話す。世相を反映する以上,企画はかち合いがちになる。そのうえでどうやってほかの脚本と差別化をはかり,かつドラマとして成立させるのか。そこでセンスと腕が問われるとのこと。もちろん文章力も重要で,良いドラマは企画意図にも名文が多いので,その出力を磨くことも忘れてはならない。
企画意図だけでなくストーリーも手を抜いてはいけない。ストーリーは読みやすくおもしろいことが必須条件で,登場人物のキャラクターがしっかり立っており,さらに印象に残る映像を連想させるシーン,記憶に残るセリフをあらかじめ入れておかなければならない。これは,企画が通ってもシナリオを書かせてもらえるとは 限らないからだ。シナリオライターとして企画書を出している以上は,シナリオを書かせてもらいたい。そう考えるなら,やはり“この人に書かせたい”と思ってもらえるような文章力や刺さるセリフが必要になる。企画に関しては書き方より内容やアイデア,という人もいるが,実際にはどちらも良くないと通らない。おもしろいストーリーを書ける人は文章がうまく,サクッと読ませても記憶に残る文章を書ける人が多いそうだ。
2. 漫画原作の企画書
漫画原作の企画書は,ライターが書く,漫画家が書くといった複数のパターンがあるために定型がない。よって,ここで紹介するのはライターが漫画原作の企画書を書く場合の一般的な構成となる。大まかな流れはテレビドラマ・映画の企画書と変わらないが,肝となるのは全体の構成と設定を必ず入れること。これは,作画必要になる漫画原作では漫画家が描きやすい(詳細にイメージできる)設定を作るというのが必要不可欠だからだ。絵が描けない場合でも,図や資料を必ず入れるというのは覚えておきたいポイントだ。また,連載漫画の企画を出す場合,第1話を完成させておくことも大切になる。
白石氏によれば,漫画原作で求められるのは専門性とオリジナリティで,まだ見たこともない斬新なアイデアや,世間によく知られていない専門性を生かした企画が歓迎されやすいとのこと。「神の雫」(講談社)は複雑なワインの世界を,「ちはやふる」(講談社)は百人一首という「誰もが知っているけれども,誰もよく知らない」ものをテーマにした専門性の高い企画だと白石氏は話す。
オリジナリティに関しては,唯一無二のオリジナリティは存在せず,どんなに奇抜なアイデアでも似たようなものは必ず存在するし,ほかの人も考えていると思った方が良いと白石氏は話す。そしてアイデアが被ったとき採用されるのは,より綿密に細部まで作り込まれた作品であることを忘れてはならない。
次に,設定とディテールの重要性についても白石氏は触れる。漫画原作の場合は必ず作画という工程が入るため,絵を描く際に詳細な設定と資料が必要になる。自分の考えた世界観をより正確に伝えるためにも資料となるものは原作者が用意するものだと心がけて欲しいとのこと。
なので,企画書自体は15枚ぐらいで良いが,そのほかに資料数十枚の細かい資料を添付することもあるという。白石氏の場合は,3姉妹が起業するというアイデアの企画を提案する際に,その女の子たちの仕事内容,どんなアイデアか,合資会社を作るにはどうしたらいいかといった資料を写真なども交えて添付していたという。漫画原作に取り組む際は,そういった作画のしやすさや次の工程でスムーズに作業できるような環境作りも大切になってくるようだ。
3. ゲームの企画書
ゲームの企画書では,表紙の段階でタイトルや企画者名,ジャンル,ターゲット,プラットフォームといった情報をすべて記載する必要がある。その次にコンセプト――そのゲームを一言で表現するとどういったものなのかというのを明記する。さらにゲームの遊び方やフローをゲーム画面のイメージも交えて説明する。ほかにも,どんな操作性なのか,どういう世界観なのか,そして最後に課金要素や利益につながる要素を記載するというのがオーソドックスな構成となる。
特に重要なのはコンセプトとゲームの概要だ。覚えておきたいのは,ゲームの企画では“画像をたくさん使う”こと。ドラマや漫画原作の企画書では,テキストだけでも土俵に上がれるが,ゲームの場合はそうはいかない。むしろテキストは短く少なくっていうのが基本的なルールになるという。すべてのページに画像を入れて文字ではなくて画像の力で,どんなゲームなのかという情報を伝える。ゲーム制作者のほとんどはテキストからではなく画像から情報を得ているというふうな意識を持ったほうが良いとのこと。
また,ゲーム企画書の場合はコンセプトを明快にするのもポイントだ。5W1Hを使ってゲーム内容を明確に説明できるようにしたうえで,一行でどんなゲームなのか分かるような説明文を入れること。さらに,プラットフォームやジャンル,エンジンなどゲーム関連の用語を理解できるようにしておくことも必要なのだという。
ゲーム関連の企画では,恋愛シミュレーションのようにストーリー主導ではなく,ある程度決まった条件のもとにストーリーを提案する場合もある。白石氏はこれを条件指定型のゲーム(企画)と呼んでおり,企画書の書き方もそれに合わせて調整をしている。
この類の企画では,与えられた条件のなかで,ストーリーの力でなんとかゲームとして仕上げるということを期待されていると白石氏は話す。こういった企画はすでにゲームシステムや画面構成などは決まっている場合がほとんどなので,ゲーム内容に関する資料は必要ない。代わりに,ストーリーや設定,世界観を構築し,加えてシステムを理解したうえでマネタイズのきっかけを入れてあげると喜ばれるとのこと。
さて,以上3つが白石氏が紹介した各メディア向けの企画書の書き方だ。これまで見てきたようにメディアによって重視されるポイントは異なるが,実は1つだけ共通する重要なポイントがあるという。それは「1行でおもしろさが説明できる企画」であるということ。
例えば「東大卒のちょっと変わった女の子が主人公で同僚の捜査官と怪奇事件を捜査していく話」ではなく「超能力“スペック”を持つ女刑事が怪奇事件を捜査する話」と説明する。これは連続テレビドラマ「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」の概要だ。このように,ドラマのタイトルにもなっているスペックというキーワードを使うことで,端的に企画のおもしろさを説明する。一言で企画を説明するというのは,そういったキーワードをどれだけしっかりと作り込めるかが勝負だという。
ほかにも「ネットワークを通じてユーザー間のコミュニケーションが楽しめる,誰でも参加できる他人数協力アクションゲームがコンセプト」という,とあるゲームについて。これだけだと何のゲームなのか分からないが「仲間と協力してモンスターを倒すハンティングアクションゲーム」とすれば,ご存じ「モンスターハンター」だと分かる。このように概要は,シンプルに分かりやすく作ると伝わりやすくなる。
また,コンセプトのキャッチコピーも有効だという。「ひと狩り行こうぜ!」という有名なコピーは「行こうぜ」という言葉だけで,誰かを誘って仲間と遊ぶものなのだと分かる秀逸なものだと白石氏は評価する。
どうすれば一行でその企画の魅力を説明できるか知恵を絞るのが企画書の醍醐味であり,通る企画書を作るためのコツだ。そしてこれは,ドラマも漫画原作,ゲームもすべて共通するポイントだという。もし,今自分の作っている企画が一行でおもしろさを伝えられないとしたら,それはブラッシュアップの余地があるということだと思って練り直してみるのも良いとのこと。
最後に,あらためて白石氏が講演内で語ったメディア別の企画書の書き方のポイントをまとめておきたい。また,当該の講演は今回を皮切りに2026年1月にかけて毎月1度開かれる予定とのこと。
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多くのクリエイターが,自身の物語を世の中に広く伝えたい,想いに共感してもらいたいという願いを込めて文章力の研鑽を積む。世の中にはそういった人々に向けたスクールや書籍も多い。一方で,企画書の書き方を学ぶ場は限られており,クリエイターが独学で試行錯誤をしているのが現状だ。本稿ではそんなクリエイターに向けて,白石マミ氏の講演を基にメディアごとの企画書の特徴と採用されるための重要なポイントを紹介する。
誰も教えてくれない企画書の書き方
本講演の講師を務めた白石氏は,主にテレビドラマの脚本執筆や漫画原作,ゲームのシナリオライティングと多方面で活躍するライターだ。金融や船舶といった分野の一般企業でサラリーマンとして働きながら,スクールなどを活用してシナリオを学び,大手出版社が開催しているシナリオ賞など,複数のコンクールに入選したことをきっかけにライター業を始めた。
当初は兼業ライターとしてキャリアをスタートさせたが,ゲームシナリオのコンペティションに自らの企画がとおったことを皮切りに,漫画原作の連ドラ企画や漫画原作の連載が決まったことでわずか半年でシナリオに専念するようになった。
今でこそ例はあるものの,白石氏のデビュー当時はテレビ,漫画,ゲームと複数のメディアで活動するライターは決して多くなかったという。“脚本家はコンクールで入選してプロデビューしても10年経てばいなくなっているなどと業界内で揶揄されるなか,長年仕事を続けてこられたのは1つのメディアにこだわらなかったおかげ”と白石氏は話す。
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さて,プロのライターとしてデビューできたとしても,メディアを問わず重要になるのが企画力だ。どんなに素晴らしい脚本を書けても,実際にプロとして仕事を始めようと思うと企画が通らなければ自身の物語を見てもらう機会は巡ってこない。ところが,原稿の書き方を教えてくれる教室や講座がたくさん存在する反面,企画書の書き方を教えてくれるところはほとんどないし,誰に聞いても教えてもらえない。実は,それには理由がある。
まず,脚本の教室や講座を担当する講師というのは現役,または引退した脚本家であることがほとんどだ。彼らにとってみれば生徒はライバルであり,そういう状況のなかで肝となる企画の書き方を教えるわけがない。では,テレビ局や制作サイドに聞いてはどうかと考えるわけだが,企業からすれば過去にとおった企画書というのは企業秘密であり,そう簡単に外に出せるものではない。結果,世の中には企画書の書き方を学ぶ機会がないのだという。
白石氏も,企業からの依頼だけで企画を作ってきたわけではなく,自ら試行錯誤しながら通る企画書の書き方を確立させて,企画会議や編集会議,コンペを勝ち抜いて仕事を勝ち取ってきたとのこと。そしてその企画書を書く際に肝となる要素,どんなところを企業側が見ているのかというポイントが,今回の講座の目玉となる。
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メディア別企画書のポイント
下記に白石氏が講演内で語ったメディアごとのオーソドックスな企画のフォーマットとそのポイントをまとめよう。いずれのメディアもストーリーを重要視している点は共通しているが,そのストーリーの何を重視しているかは明確に異なるようなので注視しておきたい。なお,脚本を書く際はA4の用紙に縦書きされることがほとんどだが,企画書はどのメディアも横書きが多いとのこと。
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1. テレビドラマや映画の企画書
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テレビドラマと映画の企画書では,タイトルにドラマ枠などが入るパターンが多い。例えば月曜9時の枠なら月曜9時,さらに制作会社を通している場合は制作会社名を 入れる。そして重要な企画意図だ。なぜこのドラマを提案するのかという理由を書く。その後に登場人物表,全体の構成,設定と続く。ただし,設定関連は連続ドラマのような長期継続する企画の場合をのぞけば作られないケースが多く,登場人物表のあとには大抵ストーリー概要がくるそうだ。局や枠によって違いはありつつも,企画書は概ね14,15ページ前後かつ文字のみで構成することは厳守したい。
時おりイメージキャストとしてタレントの資料が入っている企画書を見ることがあるが,白石氏は“絶対にやめたほうが良い”と話す。 キャスティング権は局が持つもので,プロデューサーの領域。ドラマによってはキャスティングが先に決まっているケースも多く,逆効果になることが多い。
また,文字のみにするというのも重要である。例えばドラマの企画書の場合,数百本におよぶ企画書が集まり,それを数人のスタッフで10本程度に絞る。そういった場合,フォーマットから外れたものは弾かれてしまう傾向がある。
ある程度定まったフォーマットの中での戦いとなるテレビドラマ・映画の企画では,特に企画意図が重要となる。特にテレビドラマは公共電波を使って放送される以上,社会的な責務があり,「なぜ今,このドラマを放送するのか」「社会性のあるテーマか」という点に重きが置かれる。コンプライアンス問題が声高に叫ばれる時代では, 放送する理由,そして何よりその説得力が弱いと 採用は難しいとのこと。
では,実際にどんな企画を出せばよいのか。白石氏は,“世相を切り取るセンス”が必要だと話す。世相を反映する以上,企画はかち合いがちになる。そのうえでどうやってほかの脚本と差別化をはかり,かつドラマとして成立させるのか。そこでセンスと腕が問われるとのこと。もちろん文章力も重要で,良いドラマは企画意図にも名文が多いので,その出力を磨くことも忘れてはならない。
企画意図だけでなくストーリーも手を抜いてはいけない。ストーリーは読みやすくおもしろいことが必須条件で,登場人物のキャラクターがしっかり立っており,さらに印象に残る映像を連想させるシーン,記憶に残るセリフをあらかじめ入れておかなければならない。これは,企画が通ってもシナリオを書かせてもらえるとは 限らないからだ。シナリオライターとして企画書を出している以上は,シナリオを書かせてもらいたい。そう考えるなら,やはり“この人に書かせたい”と思ってもらえるような文章力や刺さるセリフが必要になる。企画に関しては書き方より内容やアイデア,という人もいるが,実際にはどちらも良くないと通らない。おもしろいストーリーを書ける人は文章がうまく,サクッと読ませても記憶に残る文章を書ける人が多いそうだ。
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2. 漫画原作の企画書
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漫画原作の企画書は,ライターが書く,漫画家が書くといった複数のパターンがあるために定型がない。よって,ここで紹介するのはライターが漫画原作の企画書を書く場合の一般的な構成となる。大まかな流れはテレビドラマ・映画の企画書と変わらないが,肝となるのは全体の構成と設定を必ず入れること。これは,作画必要になる漫画原作では漫画家が描きやすい(詳細にイメージできる)設定を作るというのが必要不可欠だからだ。絵が描けない場合でも,図や資料を必ず入れるというのは覚えておきたいポイントだ。また,連載漫画の企画を出す場合,第1話を完成させておくことも大切になる。
白石氏によれば,漫画原作で求められるのは専門性とオリジナリティで,まだ見たこともない斬新なアイデアや,世間によく知られていない専門性を生かした企画が歓迎されやすいとのこと。「神の雫」(講談社)は複雑なワインの世界を,「ちはやふる」(講談社)は百人一首という「誰もが知っているけれども,誰もよく知らない」ものをテーマにした専門性の高い企画だと白石氏は話す。
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オリジナリティに関しては,唯一無二のオリジナリティは存在せず,どんなに奇抜なアイデアでも似たようなものは必ず存在するし,ほかの人も考えていると思った方が良いと白石氏は話す。そしてアイデアが被ったとき採用されるのは,より綿密に細部まで作り込まれた作品であることを忘れてはならない。
次に,設定とディテールの重要性についても白石氏は触れる。漫画原作の場合は必ず作画という工程が入るため,絵を描く際に詳細な設定と資料が必要になる。自分の考えた世界観をより正確に伝えるためにも資料となるものは原作者が用意するものだと心がけて欲しいとのこと。
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なので,企画書自体は15枚ぐらいで良いが,そのほかに資料数十枚の細かい資料を添付することもあるという。白石氏の場合は,3姉妹が起業するというアイデアの企画を提案する際に,その女の子たちの仕事内容,どんなアイデアか,合資会社を作るにはどうしたらいいかといった資料を写真なども交えて添付していたという。漫画原作に取り組む際は,そういった作画のしやすさや次の工程でスムーズに作業できるような環境作りも大切になってくるようだ。
3. ゲームの企画書
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ゲームの企画書では,表紙の段階でタイトルや企画者名,ジャンル,ターゲット,プラットフォームといった情報をすべて記載する必要がある。その次にコンセプト――そのゲームを一言で表現するとどういったものなのかというのを明記する。さらにゲームの遊び方やフローをゲーム画面のイメージも交えて説明する。ほかにも,どんな操作性なのか,どういう世界観なのか,そして最後に課金要素や利益につながる要素を記載するというのがオーソドックスな構成となる。
特に重要なのはコンセプトとゲームの概要だ。覚えておきたいのは,ゲームの企画では“画像をたくさん使う”こと。ドラマや漫画原作の企画書では,テキストだけでも土俵に上がれるが,ゲームの場合はそうはいかない。むしろテキストは短く少なくっていうのが基本的なルールになるという。すべてのページに画像を入れて文字ではなくて画像の力で,どんなゲームなのかという情報を伝える。ゲーム制作者のほとんどはテキストからではなく画像から情報を得ているというふうな意識を持ったほうが良いとのこと。
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また,ゲーム企画書の場合はコンセプトを明快にするのもポイントだ。5W1Hを使ってゲーム内容を明確に説明できるようにしたうえで,一行でどんなゲームなのか分かるような説明文を入れること。さらに,プラットフォームやジャンル,エンジンなどゲーム関連の用語を理解できるようにしておくことも必要なのだという。
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ゲーム関連の企画では,恋愛シミュレーションのようにストーリー主導ではなく,ある程度決まった条件のもとにストーリーを提案する場合もある。白石氏はこれを条件指定型のゲーム(企画)と呼んでおり,企画書の書き方もそれに合わせて調整をしている。
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この類の企画では,与えられた条件のなかで,ストーリーの力でなんとかゲームとして仕上げるということを期待されていると白石氏は話す。こういった企画はすでにゲームシステムや画面構成などは決まっている場合がほとんどなので,ゲーム内容に関する資料は必要ない。代わりに,ストーリーや設定,世界観を構築し,加えてシステムを理解したうえでマネタイズのきっかけを入れてあげると喜ばれるとのこと。
すべてのメディアの共通点
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さて,以上3つが白石氏が紹介した各メディア向けの企画書の書き方だ。これまで見てきたようにメディアによって重視されるポイントは異なるが,実は1つだけ共通する重要なポイントがあるという。それは「1行でおもしろさが説明できる企画」であるということ。
例えば「東大卒のちょっと変わった女の子が主人公で同僚の捜査官と怪奇事件を捜査していく話」ではなく「超能力“スペック”を持つ女刑事が怪奇事件を捜査する話」と説明する。これは連続テレビドラマ「SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜」の概要だ。このように,ドラマのタイトルにもなっているスペックというキーワードを使うことで,端的に企画のおもしろさを説明する。一言で企画を説明するというのは,そういったキーワードをどれだけしっかりと作り込めるかが勝負だという。
ほかにも「ネットワークを通じてユーザー間のコミュニケーションが楽しめる,誰でも参加できる他人数協力アクションゲームがコンセプト」という,とあるゲームについて。これだけだと何のゲームなのか分からないが「仲間と協力してモンスターを倒すハンティングアクションゲーム」とすれば,ご存じ「モンスターハンター」だと分かる。このように概要は,シンプルに分かりやすく作ると伝わりやすくなる。
また,コンセプトのキャッチコピーも有効だという。「ひと狩り行こうぜ!」という有名なコピーは「行こうぜ」という言葉だけで,誰かを誘って仲間と遊ぶものなのだと分かる秀逸なものだと白石氏は評価する。
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どうすれば一行でその企画の魅力を説明できるか知恵を絞るのが企画書の醍醐味であり,通る企画書を作るためのコツだ。そしてこれは,ドラマも漫画原作,ゲームもすべて共通するポイントだという。もし,今自分の作っている企画が一行でおもしろさを伝えられないとしたら,それはブラッシュアップの余地があるということだと思って練り直してみるのも良いとのこと。
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最後に,あらためて白石氏が講演内で語ったメディア別の企画書の書き方のポイントをまとめておきたい。また,当該の講演は今回を皮切りに2026年1月にかけて毎月1度開かれる予定とのこと。
今後の予定
3月7日(金)開催 Vol.1 エンタメ業界におけるメディアの種類とその企画書の特徴
4月実施予定 Vol.2【ドラマ】ドラマ業界向け,企画アイデアの考え方(原作アリ・ナシ)
5月実施予定 Vol.3【ドラマ】映画・ドラマにおけるストーリー構成の基礎知識
6月実施予定 Vol.4【ドラマ】採用される企画書の重要ポイント
7月実施予定 Vol.5【マンガ原作】マンガ原作向け企画アイデアの考え方
8月実施予定 Vol.6【マンガ原作】マンガにおけるストーリー構成の基礎知識
9月実施予定 Vol.7【マンガ原作】採用される企画書の重要ポイント
10月実施予定 Vol.8【ゲーム】ゲーム向け,企画アイデアの考え方(システムアリ・ナシ)
11月実施予定 Vol.9【ゲーム】ゲームにおけるストーリー構成の基礎知識
12月実施予定 Vol.10 【ゲーム】採用される企画書の需要ポイント
1月実施予定 Vol.11.メディアミックスを意識した企画の作り方
※月1回のペースで実施予定(都合により予告なく実施月・内容が変更となる場合があります。)
セミナー概要サイト