【ACADEMY】PRについてのアドバイス

PlaystackのWout van Halderen氏は,同社がリリースを成功させた「Balatro」のように,ゲームマーケティングで成功したいインディー開発者に,PRの要点をアドバイスする

【ACADEMY】PRについてのアドバイス

 インディー業界は非常にエキサイティングで,競争は激化している。プレイヤーは1年に限られた数しかゲームを遊べないので,発見可能性は開発者(とプレイヤー)にとって主要な問題のひとつだ。

 しかし,自由に使えるPRリソースを効果的に活用するには,どうすればいいのか。どのような戦術を用いれば,ターゲットとなるオーディエンスに訴求できるのか。また,あなたが関わるメディアやインフルエンサーも利益を得られるようにする方法は?

 経験から言うと,ゲーム業界でのPRに万能なアプローチはない。AAAプロジェクトでインフルエンサーに働きかけるのと,「The Case of the Golden Idol」のようなインディーゲームに関わるのでは,体験が大きく異なる。どちらも,PRとマーケティングのアプローチには柔軟性が求められる。

 確かなのは,オーディエンスへの訴求に関して,さまざまなテクニックや戦略を行き来する必要性が,さらに高まっているということだ。ジャーナリストやインフルエンサーはかつてないほど敏感で,オーディエンスの好みや期待へと機敏に合わせている。その結果,最新作の成功を目指すインディー開発者にとって,良質なPRがこれまでにないほど重要になっている。

 しかし,インディー開発者がPRを効果的に活用し,最新作の売り込みやマーケティングを成功させるには,具体的にどのようなコツがあるのだろうか。


人間関係を築き,オーディエンスを理解することの重要性


 PRは人間関係に基づく業界である。マーケティングなどほかの分野では,数百万人のオーディエンスに訴求するような働きかけを行うが,PRは数千人単位を扱うことが多い。しかし,何千人もの人々との関係を維持することは,不可能に近い仕事だ。

 その結果,多くのスタジオはメディアやインフルエンサーとの関係構築の重要性を軽視し,代わりに伝統的な「下手な鉄砲も数撃てば当たる」のアプローチを採用することになるだろう。

 これは場合によっては重要であり,特に働きかけを始めたばかり,この分野でスタートを切ったばかりのころには必要なことだ。しかし,この戦略を頻繁に取り入れると,新しい人間関係を築く望みを失うだけでなく,今ある人間関係も危険にさらすことになる。

 そのため,このアプローチに磨きをかけることが重要だ。インディー開発者にとってPRの第一のコツは,ジャーナリスト,レビュアー,インフルエンサーとの最初の交流から学び,彼らと真の関係を築くことだ。

 どの相手があなたの最初のアプローチに関心を示したかを読み解き,あなたのコンテンツに最も共鳴してくれると確信できる相手に具体的な売り込みをする。否定的な最初の反応から,このような関係を築くことも可能だ。彼らが何を求めているか,そして重要なのは,彼らが何を聞きたくないと思っているのかを知ることだ!

 自分に興味を示している人々のリストができたら,次はそれぞれの興味に基づいて売り込みを調整しよう。FPSが嫌いなジャーナリストには,新作のFPSを売り込む必要はない。

どのチャンネルに売り込むべきかを見極め,それに合わせて売り込みを調整することは,インディー開発者にとってPR活用の重要な部分だ

 伝統的なゲームファン向けメディアは,レビューにおける異なるアプローチを持ち,YouTubeのインフルエンサーとは異なるオーディエンスに向けて放送するだろう。ゲームプレイのスクリーンショットは,Webメディアの役に立つが,Twitchストリーマーにとってはあまり役立たない。

 「Balatro」は,成功の確率を最大化するために適切なオーディエンスに向けて売り込みを調整することの重要性を示す,主要な例だ。売り込みの過程で,ターゲットリストのインフルエンサー全員が「Balatro」の売り込みを受けたわけではなかったが,ゲームファン向けメディアやオンラインレビュープラットフォームへの働きかけは強力だった。

 このゲームは9/10や10/10の評価を獲得し,反響は圧倒的に好評だった。その時点で,メディアはインフルエンサーとなり,その結果として個々のインフルエンサーがこのゲームに興味を持ち,彼らが得意なことをするようになった。

 どのチャンネルに売り込むべきかを見極め,それに合わせて売り込みを調整することは,インディー開発者にとってPR活用の重要な部分だ。オーディエンスを理解することで,対象となる特定のオーディエンスに訴求し,ゲームにふさわしい露出が得られる。


Win-Winを理解しよう


 売り込みを調整することも重要だが,相手側がどのような利益を得るかを考えることも重要だ。メディアの状況は常に変化しており,昔はジャーナリストやインフルエンサーが最新のインディー作品に注目する時間があったかもしれないが,現在のメディアの状況は(ゲームそのものと同じように)競争が激化している。

 KPIやベンチマークを満たさなければならないということは,通常,そのゲームが自分たちとオーディエンスにとって価値があると判断した場合のみ,それを取り上げるということを意味する。このため,Win-Winの売り込み戦略に注力することが鍵となる。

Wout van Halderen氏はPlaystackのPRマネージャーだ
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 その一例が,2022年に発売した「The Case of the Golden Idol」だ。このゲームはレビューで9点と10点を獲得し,ゲームに対するプレイヤーの反応は圧倒的に好評だった。しかし,このゲームのPRに取り組む際,私たちが真剣に検討しなければならなかったのは,このゲームがとりわけストリーミングされていないということであった。

 これは非常に頭脳的な体験であり,TwitchやYouTubeのようなストリーミングには必ずしも適していないのだ。ゲーム自体の露出を稼ぎながら,ストリーミングや動画を制作する目的でインフルエンサーに売り込むことは,その特定のインフルエンサーのチャンネルに悪影響を及ぼしかねない。

 つまり,Win-Winを考慮することが重要になってくる。売り込みを調整するにあたり,私たちはあるインフルエンサーに,まずゲームをプレイしてもらい,もし楽しんでもらえたら,ソーシャルメディアで取り上げてもらえないかと提案した。ゲームはそのインフルエンサーのオーディエンスに届き,結果としてインフルエンサーのアウトプットに悪影響を与えることなく,歓迎された露出を受けた。両者にとってWin-Winな関係だ。

 最近では,発見可能性を重視するものから,このようなWin-Winのパートナーシップを優先するものへと注目が移ってきている。PRの際は,ゲームファン向けのWebサイト,レビュープラットフォーム,そして個々のインフルエンサーが,それぞれビジネスとして運営されていることを念頭に置かなければならない。Win-Winの結果を目指して売り込めば,売り込んだ相手との関係を築き,ゲームに有益な機会を確保できる可能性が高くなる。

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第一人者たち


 よりWin-Win志向のアプローチに注目が移りつつあるとはいえ,発見可能性は業界全体の多くのインディー開発者にとって,依然として主要な関心事である。要するに,発見可能性の鍵は単なるPRではなく,良質なPRなのだ。

 「Balatro」の例を再び見てみよう。ゲームのスクリーンショットやゲームプレイの短い動画を送っても,興味を引くにはあまり役立たなかった。文脈から外れたスクリーンショットは,ポーカーテーブルの上のトランプのようにしか見えず,ゲームの内容はほとんど伝えられなかった。

 簡単に言えば,リサーチによって突き止めた第一人者たちを20分間ゲームに招待し,彼らが何時間もゲームを手放さないであろうことを理解したうえで,ゲームをプレイしてもらうということだ。ゲームはストーリーであり,それを語るには適切な人材が必要だった。

要するに,発見可能性の鍵は単なるPRではなく,良質なPRなのだ

 あなたのゲームにふさわしい第一人者たちを選んだら,そのタイトルにまつわるすべての言動が,知名度に影響を与えることを忘れないように。肯定的なレビューも否定的なレビューも注目を集める可能性があり,最終的にPR戦略の成功を左右するのは,その注目をどう活かすかだ。

 これらのメディアは世論を形成し,オンライン上の会話をスタートし,特定のゲームの文化的意義を決定できる。あなたのタイトルをメディアの前で紹介することで,このような会話の中心的存在となり,あなたのゲームの発見可能性を向上させられる。


最初のアセットの価値


 インディー開発者がPRキャンペーンを始めようとするとき,まず手を付けなくてはならないことがある。トレイラーであれ,スクリーンショットであれ,ゲームプレイ動画であれ,あなたが働きかけたいと思っているオーディエンスの注目を集めるような,素晴らしい最初のアセットを用意することがとても重要だ。

 イカしたトレイラーの作成は,「Mortal Shell」のローンチに向けて私たちが行った重要なステップのひとつだった。このトレイラーはIGNのWebサイトに掲載され,インフルエンサーにゲームのストリーミングをうながし,より多くの視聴者へのプロモーションとなった。この最初のアセットによって,早い段階からゲームに勢いがつき,今後のPR戦略を具体化して前進させられた。

 スタジオによっては,このような贅沢はできない。アセット作成に時間がかかっていたり,すでに持っているアセットが,必ずしもアプローチしているチャンネルに響くとは限らないからだ。

アセットに対する無関心な反応は,場合によっては,まったく働きかけないよりも生産性が低いと理解しなくてはならない

 クリエイティブアセットを活用する際に重要なのは,そのインパクトを理解し,望ましい結果が得られない際は柔軟に対応することだ。もしあなたのアセットが,非常に強力でポジティブな訴求につながりそうなら,戦略を進めながら,この成功を土台にすることを考えよう。

 もしあなたのアセットが,高レベルのトラフィックを生み出さないのであれば,これらのアセットに対する無関心な反応は,場合によっては,まったく働きかけないよりも生産性が低いと理解しなくてはならない。

 結論としては,Win-Winを第一に考えるべきなのだ。新進気鋭のインディーゲームスタジオが成功するためには,取材の障壁をできるだけ低くすることが重要である。

 例えば,インフルエンサーにデモを送り,彼らのフォロワーに向けて放送してもらおうと考えている際,そのデモに本編の前にプレイする1時間のチュートリアルがあるなら,インフルエンサーは自分のチャンネルへのメリットを感じにくいだろう。

 あなたの選んだPRオーディエンスに合った,シャープでパンチの効いた刺激的なアセットが,あなたの望む訴求につながる可能性をはるかに高める。何よりも,PRの「人間関係」の部分を忘れないでほしい。具体的には,あなたの選んだチャンネルが作っているコンテンツを知り,それに合わせて作品の売り込みを行おう。


Wout van Halderen氏は,イギリスのパブリッシャPlaystackでPRマネージャーを務める。同社は最近,100万本のセールスを記録した「Balatro」や,新作の協力型アクション「Abiotic Factor」を発売した。

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら