【ACADEMY】パブリッシャとデベロッパがインフルエンサーを起用するための入門書
ゲームパブリッシャやデベロッパにとって,インフルエンサーとのパートナーシップの世界を航海するのは大変なことかもしれないが,うまく構築された契約はキャンペーンを決定づける貴重な活気を生み出すことができ,それはゲームがささやかなファンファーレで登場するか,ゲーム文化の中で無視できないほどの存在感を示すかの分かれ目となる。
コンテンツクリエイターとの戦略的な展開は,ゲームをローンチする際に無視できないほどの可能性を秘めている。大半のゲームでは予測可能な将来にわたって予算が逼迫し続けているので,なおさらだ。
ここでは,インフルエンサーマーケティングに10年以上携わり,現代の業界で大成功したいくつかの有名ゲームをサポートしてきた経験から学んだ,5つの重要な戦略を紹介する。
1. いつゲームの準備ができるのかを知る
お互いを成功に導くために自分自身のゲームを見極め,インフルエンサーにとって適したタイミングを知ろう。基本的な項目は,以下の通り。
- あなたのゲームには,今後のビート,ローンチ,DLCなどの予定があるか
- 有料検索,オーガニック検索,または獲得エンゲージメントに,どのようなインセンティブを与えているか
- 予算は目標を達成できるか
2. 予算の設定
どのインフルエンサーに予算が出せるのか,その予算でどのような成果物を用意できるのか,自問してみよう。
インフルエンサーマーケティングの予算は,パフォーマンス重視(クリック数やコンバージョン数)であれ,認知度重視(閲覧数やエンゲージメント数)であれ,全体的な目標を反映させるべきだ。共通の目標とKPIは予算決定の指針であり,優先順位に関わる。
- 視聴回数単価/視聴時間単価
- ジャンルの乗っ取り(Twitchのディレクトリで上位に表示される)
- 獲得エンゲージメント
- Webサイト訪問数
- 事前予約または購入
この計算には多くの細かな違いがあるが,出発点として,ストリーマーの平均視聴者数を2倍にしよう。ただし,より大きなフォロワーを持つストリーマーは5桁の範囲になることに気をつけよう。
Twitch配信の場合,支払いを計算する際の業界標準を「視聴者1時間あたりのコスト(CPVH)」と呼ぶ。これは,1人の視聴者が配信を1時間視聴した場合に支払われるものだ(平均視聴数に基づいて算出)。YouTubeやショートコンテンツ(TikTokなど)の場合は,「視聴回数あたりのコスト(CPV)」となる。
クリエイターは,広告ではなく通常のコンテンツだと思えるようなキャンペーンに参加しやすい
以下は一般的な指標だ。- Twitchでは1.5〜3ドルのCPVH
- YouTube/ビデオオンデマンドでは0.05〜0.15ドルのCPV
- ショートコンテンツ(TikTok,Instagramリール,YouTubeショート)では0.02〜0.15ドルのCPV
インフルエンサーに依頼する成果物の数は,予算の一部に含めるべきだ。依頼する成果物には,それぞれコストがかかる。いくつの成果物を含めるかは,ゲーム,KPI,ゲームから利用できるコンテンツの種類,特定のものに対してクリエイターが作業できる時間によって決まる。
例えば,TwitchでゲームのTop5に入ることが企業の目標であれば,シンプルな成果物とすることで,指定された時間に生配信を行うクリエイターをより多く揃えやすくなる。
またクリエイターは,分かりやすく,クリエイティブの自由があり,広告ではなく通常のコンテンツだと思えるようなキャンペーンに参加しやすい。
3. 交渉の余地は常にあるが,現実的に考えること
ブランドとして,クリエイターに接触する前に自問すべきことがある。KPIを設定し,協業相手として検討しているクリエイターのデータを収集しなければならない。以下のことを考えてみよう。
- 視聴回数やクリック数に対して,いくら払うのか
- このクリエイターのコンテンツは,あなたのブランドと合致しているか
- このクリエイターのスポンサードコンテンツのパフォーマンスはどうか。うまくいかなかった場合に備えて,バックアップのクリエイターはいるか
こうした最初のステップは,料金が妥当かどうかを判断し,交渉の準備をするうえで非常に重要だ。また,クリエイターを教育し,より良い関係を築くためにも役立つ。両者がブランドのKPI目標を満たし,妥当な投資収益率に基づくレートに合意できなければ,立ち去っても構わない。ほとんどのクリエイターは,これがビジネスであり,ブランドごとに目的が異なることを理解している。通常,クリエイターは交渉に応じるが,ときにはレートを固辞したり,予想よりも大幅に高く見積もったりすることもある。これは,ほかのクリエイターを探し始めるべきサインとなる。
クリエイターや代理店は,予算には限りがあることを理解している。あなたはいつでも,成功のために次のような方法をとれる。
1)最良のオファーを提示する
2)何が「割増」料金につながるのかを理解する
- プラットフォームの制限(モバイル,PS5のみ,など)
- クリエイターのブランドや評判に対するあらゆるリスク
- 新規IPと既存IPの比較
- 要件の厳しさ(例えば,クリエイティブの自由を制限するようなもの)
- 厳しいスケジュール
- 使用権限の要求
3)次に進むべきタイミングを知る
4. 契約の落とし穴
コンテンツクリエイターにお金を払ってゲームを宣伝する場合,効果があるものと効果がないものを理解することが不可欠である。もし視聴者が,そのセグメントや配信,動画がスポンサーによるものだと気づけば,積極的に関わってくれる可能性は低くなる。
セルアウトと思われないためには,クリエイターが自分のスタイルに沿った,視聴者の期待に応えるコンテンツを作れるようにすることが不可欠だ。
事前にタレント候補をリサーチし,スポンサードセグメントで彼らに期待できることを理解しておこう。客観性で知られるクリエイターが,あなたのゲームの欠点を指摘したとしても驚かないように。
最高のスポンサードコンテンツは,クリエイターの普段のスタイルに沿ったものであり,単に伝えるのではなく,ゲームの面白さを視聴者に紹介することが欠かせない
最高のスポンサードコンテンツは,クリエイターの普段のスタイルに沿ったものであり,単に伝えるのではなく,ゲームの面白さを視聴者に紹介することが欠かせない。そのためクリエイターと契約して,事前に概要を説明することで,全員が同じ認識を持つことが重要だ。クリエイターにクリエイティブの自由を与え,成功するように仕向けながら,主要な論点を確実に押さえる。KPIを達成するために,次のような具体的なリクエストをしよう。
- ゲームページへのトラッキングリンクをハイパーリンクした,配信説明文のパネル画像を要求する
- 各クリエイターが同じハッシュタグをSNS投稿で使用して,認知度を高める
- シンプルかつ戦術的な行動喚起(CTA)をクリエイターに与え,コンテンツからオーディエンスに何を得てもらいたいのかを明確にする
- 再生回数の最大化を優先するのなら,クリエイターには視聴者がピークの時間帯に生配信を許可し,リーチを最大化する。あるいは,TwitchでTop5に入ることを優先するのなら,すべてのクリエイターと特定の時間帯に生配信を行うように契約し,ゲームをチャート上位に押し上げよう。
5. 良きパートナーであれ
透明性と柔軟性があれば,クリエイターにポジティブな経験を残せる。インフルエンサーやそのマネージメントに関わるすべての段階を通じて,以下のことには長期的なメリットがある。
- 現実的で時間に余裕を持つこと:よくできたクリエイティブなコンテンツは,制作期間と準備がすべてだ
- 適応力を持つこと:テクノロジーの問題,サーバーの問題,ゲームの遅延。予期せぬ事態も想定しておこう
- 最後までやり通す:コミュニティやトップパフォーマーに投資し,長期的なパートナーシップの基礎を築こう
効果的なインフルエンサーとのパートナーシップは,単なる取引にとどまらず,信頼できる互恵的な関係を築くことだ。戦略的で,適応力があり,敬意を持つことで,このようなコラボレーションを活用し,ゲームのリーチとゲームコミュニティ内でのブランドセンチメントを増幅させられる。
インフルエンサーとの関係を管理する人材をチームに加えることを現在実行できない場合,代理店とのコラボレーションは有効な選択肢となり得るが,今後の「活気づけ」のためにインフルエンサーとの協業にどのように取り組むにせよ,これらのベストプラクティスを念頭に置いておくことは,結果につながる効果的なプロモーションキャンペーンを設計し,将来のタイトルにも活用できる長期的なビジネス関係を築くための鍵となる。
Gamesightのインフルエンサー責任者であるEmilee Helm氏は,ゲーム業界全体のパートナーのために,何百ものインフルエンサーキャンペーンを成功に導いてきた。GDCをはじめとする主要なカンファレンスにおける著名な講演者でもある
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)