リメイク&リマスターゲームの成功要因とは何か?Virtuosの分析から読み解く

リメイク&リマスターゲームの成功要因とは何か?Virtuosの分析から読み解く
 シンガポールを拠点に世界各国のAAAタイトルやHDリマスターなどさまざまなタイトルのエクスターナル・デベロップメントを請け負う企業Virtuos(ヴァーチャス)の東京スタジオが、リメイクやリマスター作品のトレンド分析と、それらの成功要因を探った独自の調査を公開している。

 同社によると、2023年は「リメイクとリマスターの黄金時代」と呼ばれるほどリニューアル作品の成功が目立った年だったという。今回の調査では、ゲーマーとゲーム開発会社双方の視点から、その成功の要因が分析されている。

定義

  • リマスターとは主にグラフィックやクオリティ・オブ・ライフ等の小規模なアップグレードによって、ゲームを現行の基準に合わせることを特徴とする
  • リメイクはゲームのコアストーリーや世界感をそのまま保持しながら、ゲームプレイの大幅な改変や、その他のほぼ全ての要素の広範な変更を伴う

リスクを避けるデベロッパたち


 過去数年間,グラフィックスの向上や,ほぼ必須となったオンラインサービスの提供といった急速な技術の進化と激しい市場競争の渦の中で,ゲームデベロッパは従来と比べてゲーム開発により大規模なチームと,長い制作期間を要することとなった。さらに,インフレや高金利,開発コストの上昇といった経済情勢,新型コロナウイルスの蔓延による投資家たちの保守的な動きといった多大なリスクに直面した開発会社は,過去にマーケットで優秀な実績を残したゲーム(IP)を用いることで,こういったリスクを軽減しながら優れた作品を提供できるリマスターやリメイクに着目するようになった

 このような経緯で活発にリリースされたリメイクやリマスター作品は,1980から1990年代に生まれて現在は可処分所得を持つ社会人になっているミレニアル世代を中心に需要が高く,現在のマーケットでも重要な役割を果たしている。2018年と2020年を比べると,売上トップのゲームのリメイク版の収益はほぼ倍増したとのこと。そしてこの成功には適切なタイミングでのリリースと,オリジナル版から適切な変更がいかに行われるかが重要な要因となっているようだ。

リメイク&リマスターゲームの成功要因とは何か?Virtuosの分析から読み解く


リメイクかリマスターか


 2014年にPlayStation 4とXbox Oneが市場を席巻するとリマスター作品の人気が急上昇。新世代のコンソールの登場に合わせて,デベロッパは最も成功し愛されたゲームを最新のグラフィックスで提供した。「グランド・セフト・オート(GTA)V」「The Last of Us Remastered」といったリマスター作品が登場したのもまさにこの年だ。

 しかし,PlayStation 5とXbox X|Sが発売されたときには,こういったリマスターのトレンドは再現されなかった。その理由は市場がより高水準の機能強化やイノベーションを求めたことと,後方互換性の向上(PS5でPS4の作品がプレイできるといったような)によって,グラフィックスの向上だけではプレイヤーの購買意欲を満たすことができなかったためだという。

 そこで登場したのがリメイク作品である。2020年には「FINAL FANTASY VII Remake」や「Demon’s Soul」といった人気作のリメイクが次々と登場し,2023年になるとリメイク作品の発売本数がリマスター作品のそれを初めて上回った

 Virtuosは同調査の中で「次世代のコンソールでもリメイクが繁栄し続ける可能性が高いが,リマスターの成功如何は,現行世代のコンソールからどれほどの技術的・グラフィックの革新があるかによる」としている。

リマスターは早めに,リメイクはじっくりと?


 今回の調査で興味深いのは,リマスター作品はオリジナル作品の発売からそれほど月日が経たないうちのほうが市場に受け入れられていたという点だ。分析によると,0から5年前のゲームのリマスター版が,それよりも古いゲームのリマスター版と比べて平均して良いパフォーマンスを示したという。

リメイク&リマスターゲームの成功要因とは何か?Virtuosの分析から読み解く

 2014年頃から現在にかけて多くのデベロッパがさまざまな作品のリマスターに取り組んできたが,オリジナル版の発売から時間が経つほど市場競争力が下がるような傾向が見られたようだ。

 一方のリメイク作品については,それを成功に導く要因はリマスターと比べると不明瞭であるとしつつも「主要なハードウェアやソフトウェアの開発によって,オリジナルのゲームに有意義な追加要素や問題を解消できたときに成功する傾向がある」と同調査ではまとめられている。

 例えば発売から10年未満の作品のリメイクでは「ファイナルファンタジーXV ポケットエディション」(2018年,2年間)や「龍が如く 維新!」(2018年,9年間)のように,携帯ゲーム機や欧米市場(新たなマーケット)への参入を目的にリリースされているが,これらは主にアクセシビリティの向上を目的としていたとのこと。

リメイク&リマスターゲームの成功要因とは何か?Virtuosの分析から読み解く

 また,発売から20年以上が経過したタイトルのリメイクはレトロゲームとして位置づけられるリスクを伴い,最新ゲームとの競争で苦戦する可能性が高いとされているが,「バイオハザード2」や「FINAL FANTASY Remake」のようにタイトルの選択,グラフィックスの向上,そしてゲームプレイに注意を払えば,90年代半ばのタイトルでさえ成功を収められる。そしてそういった開発の際にはノスタルジア(懐かしさ)と現代の需要のバランスを取ることが重要だという。


リニューアルの鍵は需要の把握とオリジナルへの敬意


 Virtuosによれば,リマスターやリメイク作品のプレイヤーの多くは,懐かしさを追体験できることに魅力を感じているとのこと。例えば,「ハーフライフ」の2020年リメイク版である「Black Mesa」のSteamプレイヤーの36.5%は,1998年にリリースされたオリジナルの「ハーフライフ」もSteamでプレイしている。また,プレイヤーの思い出というのはゲームプレイ全体ではなく,象徴的な瞬間やレベルにフォーカスされている傾向があるとのこと。


 このことから,デベロッパはオリジナルゲームの本質を忠実に再現しつつも,最新のゲームと競争できるようなクオリティを満たすことが成功の鍵だといえる。プレイヤーがその作品の本質を何だと捉えているかを分析したうえで,そういった要素に手を加える際には慎重に行うことが肝要だという。

 オリジナル作品にどのような付加価値を与えるかのビジョンを明確にすることも大切で,Virtuosは「リマスターやリメイクに加えられそうな変更点は無数にある。だからこそ,十分な情報に基づいてビジョンを見据えることで,リニューアルのすべての要素を一つのゴールへ導く。この一貫性がプレイヤーに楽しい体験を提供するために必要不可欠なのである」と結論付けている。

 なお,Virtuosは今回の調査結果をPDFで公開している。このレポート内では具体的な作品名を上げつつ,細かくリマスター&リメイク作品についての分析がなされている。

リメイク&リマスター ゲームの黄金時代(PDF)

「Virtuos」公式サイト