【月間総括】年末商戦期で明確になったPS5の魅力のなさと,逆ザヤによる利益率低下

 今月は最初にソニーグループの決算について話したい。
 ソニーグループの第3四半期全体は好調だった。ただ,ゲーム事業は大幅な増収となった一方,営業利益は大幅な減少となった。この理由は後に述べるとして,最初に結論から話すとPS5に魅力がないのではないか,ということである。

 ジム・ライアン氏は一貫して,「PS5は素晴らしいゲーム機でPS4を上回る販売になるのは当然であり,2021年〜2022年にかけては半導体不足の影響を受けたことが大きいので,PS5はPS4を上回る実売になる」と豪語していた。

【月間総括】年末商戦期で明確になったPS5の魅力のなさと,逆ザヤによる利益率低下

 しかしPS5ハードの売上(着荷)台数は前年同期比で増えたものの,PS4のピーク970万台を大きく下回る820万台に留まった。半導体不足も解消し,万全の体制で臨んだ第3四半期は「Marvel's Spider-Man 2」の同梱版を旧型,新型ともに出すなど,同社では出来うる限りの販促施策を打っていた背景も考えると,第3四半期実績は驚きの数字だったと言っていいだろう。

 結果,累計の台数は5480万台で、PS4の同時期の5710万台には年末商戦期にもかかわらず及ばなかった。在庫水準も6400億円と前四半期から減らしたものの,決算説明会で第3四半期末に想定を下回った台数分の販売価格と製造原価の差(逆ザヤ)の評価損300億円を計上したと,十時氏はコメントしていたので,実際にはもう少し多いことになる。
 この評価損を計上したということは,PS5の499ドル,6万6980円現状の価格では,採算が取れていないのである。

 2023年末の状況を整理すると

(1)PS5は材料費の高騰で逆ザヤ
(2)販売が想定を大幅に下回ったことで,在庫水準は高い
(3)値引きをしてもPS4以下の販売(着荷)台数。


と言うことになる。

 結局,PS5に魅力がないということになってしまうのではないだろうか。PS4より魅力があるなら逆ザヤで,値引きをしなくても,今年度2500万台は売れていないとおかしい。また,Switchは値下げせずに1.3億台も売っている。

 強調しておきたいが,筆者はPS5が発表されたときからPS4を下回ると予想していた。半導体不足やコロナ禍による巣ごもり需要と言った,想定が出来ない事象の発生で実態が見えにくくなっていたが,予測は適切だったと考えている。
 東洋証券は,このような事態を避けるために建設的な意見を一貫して主張し,日本を軽視しているとの批判も行ったが,SIEからは悲しい気持ちにしかならないと意見表明されてしまった。実に残念である。

 話を決算に戻そう。
 ソニーグループの第3四半期決算において,売上高が大きく伸びた理由は以下の通りである。


  • PS5の販売(着荷)台数が820万台と前年同期の710万台から増加した
  • 円安の効果
  • 他社タイトルの販売増

 一方,以下のことなどが原因となって大幅減益となった。

(1)PS5ハードで実施したプロモーションによるコストが大幅に増加した
(2)自社タイトルの販売減による利益減
(3)棚卸資産の評価減(逆ザヤに由来)が響いた



 そしてこの決算を受けて,PS5の販売目標は2500万台から2100万台前後に引き下げられた。以前,筆者はこの連載において,今期の販売目標は達成可能だとするソニーグループの説明はミスリードではないかと指摘した(下表)。
 ソニーグループと議論した際に,期初計画が過大だったと会社側は認めていた。PS5の普及台数はサードパーティがゲームを開発しようとする意欲に関わる部分があるので,無理を承知で11月時点では期初計画を維持したとのだろう。


 そしてこの決算は,値下げをしても,素晴らしいゲームを同梱してもPS5の販売を牽引せず,新型を出してようやく販売が上向いたという,冷酷な事実を示しているのである。

 十時社長はボムコスト(材料費)が下がっていないので大幅値下げ出来ないとコメントしたが,値下げで売れるという認識がそもそも間違いなのである。

 十時氏やソニーグループが価格に拘り続ける理由が,筆者にはよく分からない。新型PS5が旧型と遜色ないレベルでの販売が続いているにも関わらず,である。

 実際,新型PS5は発売前にネットやYouTubeの動画では盛んに高い高い(あるいは安くない)と言われていた。
 しかし,そんなに価格が大事な要素であるなら,Switchは1万5000円程度だったニンテンドーDSを超える実売台数になるのはおかしくないだろうか。発売前にSwitchは2万9800円という価格では,親が子供に買い与えるのは難しい,任天堂の伝統的なゲーム機の価格を上回っているWii Uの二の舞になるとメディアでは騒がれていたし,多くのアナリストも指摘していた。

 現在,任天堂の次世代機においても,円安の進行で4万円を超えたら子供に買い与える人は少ないなどと,SNSやYouTubeで大合唱が続いているが,Switchの発売前と同じことを繰り返しているのは不可思議極まりない。彼らは結果が出たあとで,売れたら「安かったから」,売れなかったら「高かったから」と言うだけなので,参考にはならいだろう。

 仮に7万円で任天堂が次世代機を出て売れなかったとしても,それは価格が原因ではなく,手に取って見たいと思わせるデザインとスタイルを実現できなかったからだと,筆者は考える。

 もう一つ,決算説明会で十時氏は,多くのスタジオがソニー傘下にあり,個別では素晴らしいとしながらも,全体のことが顧みられていない,つまり全体最適がとられていないと指摘していた。これと同じことは過去,カプコンでも起こっていた。かつてカプコンは海外にもスタジオを持っていたが,開発のコントロールが困難として廃止し,現在は国内で集中開発している。

 以前もこの連載で指摘したが,カプコンの辻本会長は相当長期間にわたるビジョンで経営を行っており,その時点では正解かどうか分からないことを正確に見通しているのは驚きである。

 任天堂も京都の開発拠点を強化していて,よりコントロールしやすい集中開発型に注力するようになっている。ソニーグループの分散開発は今の大規模開発に合っているか疑問だ。ソニーグループも同じ問題に気づいていていると思うが,欧米に多くのスタジオを持つSIEのゲーム開発を一つの方向性にまとめるのは,至難の技であろう(校正の段階でSIEが8%の人員削減を行うことを発表した。人員削減は長期経営が重要なゲーム事業では避けるべきものと考える。筆者はPS5の発表時からこのような事態を避けえる未来として提案を行ってきただけに失望している)。

 最後に,十時氏が述べるように,PS5のライフサイクルが後半期に入いるため,そろそろ次世代機のことを考える時期だろう。

 筆者は12月27日に開催したセミナーで小型化を提案した。21世紀に入り,インターネットが普及すると利便性の高い都市部に人口が集中する傾向がより顕著になっている。これは人口密度の上昇を通じて個別スペースが縮小していることを意味しているので,もう大きすぎるゲーム機は時代に合わないのだ。

 十時氏も「PlayStation Portal リモートプレイヤー」は実験的に出したと言っていて,超大型の汎用PCか携帯ゲーム機に需要が移っているという感覚があるのだろう。
 SNS等で声が大きい特定のユーザーに合わせていると,マスを取りこぼすことになるはずだ。

 次回は任天堂の決算について述べたい。