「24Frameの邪道経営哲学」第17回:Unreal Engineでゲームをリリースする時の哲学
Unreal Engine作品のリリース
賢明にて親愛なる本連載のハードコア読者の皆さんは覚えておいででしょうか。かつてこのような記事があったことを。そこで「オーセンティックなプラットフォーマー」として言及されていたこんなゲーム作品(その名もJUMP de PON)のことを。
この記事のあらすじをざっと共有しておくと,「いろいろあった人達がUnreal Engine 5でゲームのプロトタイピングを行うことになった」という感じです。
これは2023年,ちょうど1年前くらいの記事になる訳ですがそこから何があって現在こうなったのか,ということを少しお話しておこうと思います。
Unreal Engine5での制作
上述の記事にもあるように本作はUnreal Engine 5で制作されています。
さらに本作は着手からおよそ1年半が経過していることもあり,状況的を見るに「複雑極まりないUnreal Engine 5が制作を長期化させる要因となったのか?」と見ることもできるような気もしなくもないのですが,実際問題,事実は特段複雑な構造をはらんではいません。
以下にフローチャート的に本作のプロジェクト変遷を振り返ってみましょう。
2022年3〜6月:ブレインストーミング
最初の3か月は,なんとなくの立ち話から始まった企画でもあり,「あーでもない,こーでもない」というブレストが週1回程度続く期間でありました。
この様子も当連載でフォローしております。
まあここは普通に戦闘などもあるゲームを志向していたわけですが,最初から少人数でやるには完成が危ぶまれる,ということもあり,ジャンプするだけなんだけど,ちょい理不尽に難しいプラットフォーマーというやつにしていくか,ということがゆっくりと決まっていきました。
全員がこれにかかりきりというわけではなく,空いた時間に茶飲み話程度に話を詰めていく,たまにはちょっとモックアップしてみる,という期間なので,結構楽しい期間ではありました。
2022年7〜8月:停滞期間
これがこういったプロジェクトのネックであることは間違いありません。
仕事ではない,すなわち儲けるためにやっているわけではない,ということは,皆生活の糧はこれとは別に持っていることを意味します。つまり,これが遅延しても完成しなくても困ることはないわけです。
そうなるとどうなるか。
当然ながらプロジェクトはどんどん放置され,未完成のままそれが作品の結論となります。
インデイゲーム全盛などと実しやかに囁かれる今日この頃ですが,これが小規模ゲームの運命をまず第一に分けるキャズムと言えるのではないでしょうか。
例に漏れず我々のこのプロジェクトもその隙間へとずるずるはまり込んでいったわけですが,そんな時に一つの転機が訪れます。
2022年9月:実装期間
ああ,このままやりかけたはいいものの,何の結論もないままに終わっていくのか,と誰もが感じつつもそれを口に出すのもはばかられ,ついには世間話の茶飲み話の際にも避けられがちな話題となってしまった本プロジェクト。
そんな状況を打開するには何らかのスイッチが必要なはずで,そこまでは間違っていないのですが,みなそれを「やる気スイッチ」であると無意識に思い込み,考え,「やる気を出さねば……」と考えていたのが,今にして思えば間違いだったのかもしれません。
とはいえ,上記写真とキャプションにもあるように,ここで何らかのスイッチが入り現場が動き出したのは間違いないタイミングでした。いったい何が起こったのでしょうか?
まあ結論を言ってしまうと何のことはない,このタイミングでプロジェクトの隙間ができた別のスタッフがいたのです。プロジェクトの隙間というのは営業・経営的には決してうれしくはないものなのですが,ピンチはチャンス,とはよく言ったもので,ここではその隙間により数か月だけ実装で稼働が可能なスタッフが不意に現れた,ということになり,それにより救われたという訳です。
2022年10〜12月:デバッグ期間
そして空きスタッフで実装からデバッグまでを回すこと幾星霜(いくせいそう)。これも後半は隙間が埋まってやっぱりスタッフがいなくなったりと,ラッキー(?)もそうは続かずに,人員は結局雀の涙。最終デバッグは暇を見つけてやる,というトリッキーなことになってしまいます。
どんどん先細りする現場のリソースを目の当たりにしながら,揺れるろうそくの炎のごときこのプロジェクトの運命を見守る,という状態になっていき……。
2023年1〜12月:放置期間
大体リリースの準備が終了したところで,人的リソースは一旦尽きてしまいます。
そしてほかに仕事があるので,ということでついに本プロジェクトは放置期間へと突入してしまったのであります。
とはいえ元々「無理なく隙間で」というのが命題のプロジェクトでありましたから,そのスタンスで行く限り,時には止まってしまうこともあるよね,でも諦めず頑張ろう,という感じで,イレギュラーながらも心の平穏はある程度保ち,状況に流されていく日々が続きました。そう,あの出来事が起こるまでは……。
2023年5月:Only Up 発売
2023年,開発のチャットに不穏なメッセージが流れました。
「Only Upって知ってる?」
もちろん知っています。そしておそらく皆さんもご存じでしょう(そうでなければ検索していただければすぐにわかります)。
同じことを考える人は世に数多いるもので……などと書くと,多少虫がよく聞こえてしまうかもしれませんが,UE5との相性ばっちりなAdvanced Locomotion System Version4を利用してプラットフォーマーを作ってしまえ,というのはまったく珍しい発案ではなく,むしろどこか必然的で,それゆえにその中でもっとも有名なものとなったこの「Only Up」がフォロワー作品も含めて爆発的に増えた事実に関しては,議論を待つまでもありません。
まあ数奇だな,と思うのは1年前にほぼ作業を完了していても,それを放置したせいもあって我々がこの時点で先発の作品のフォロワーであるということです。無念というにもおこがましく,また特に「Only Up」が描いた軌跡は「似た試みの部分は感じられるがやはり我々と改めて別物」であると感じましたし,タイムパラドックスのような特殊な経験と言いたくはなるものの,まあ言うなればただの怠惰でしょう。つまり総じて「よくあること」です。
2024年1月:マスターアップ期間
そんな思いと共に,年が明けて手が空いた時間を見つけてはROMをまとめ,ストアページをまとめていく。一時はリリースさえ危ぶまれた本プロジェクトですが,ようやく日の目を見んがために。
2024年2月:配布開始
そしてついにリリース。価格は無料。
商売というよりも我々の検証の足跡といった風合いが強いものです。お時間のある人は触ってみていただけるとうれしいなと思っております。
我々もかつてUnityをいじり始める前には「Survirus」というワクチンがウイルスを撃破していくシューティングゲームをリリースしておりました。これには安いながらも値段がついていたのですが,今回こちらも同じタイミングで無料となっております。
こんな感じで無料の試みを挟みつつ,傍らでINUMEDAの謎も解いていかねばなりません。楽しいながらも長き道のり,と言ったところでしょうか。
無料のテストプロジェクトに関する我々の思いはこんな所ではあるのですが,そのほかのプロジェクトはどうなっているかという話になるであろう次回を,乞うご期待!